みんなの認知行動療法──ケース・フォーミュレーションを使いこなす

みんなの認知行動療法──ケース・フォーミュレーションを使いこなす
著者下山晴彦
出版年月2025年8月
ISBN978-4-86616-231-7
判型A5判並製
ページ数176
定価2,800円(+税)
内容紹介

本書は,認知行動療法(CBT)を本当に使いこなすためのコツとポイントをじっくりと講義した臨床心理学の第一人者によるわかりやすい実践的入門書です。
CBTだけではなく,心理支援が不首尾に終わる多くの理由は,支援計画の鍵となる「ケース・フォーミュレーション」がうまく行っていない現実があるからです。この本では,どう面接場面でケース・フォーミュレーションのために情報を収集し,その情報をどう利用し,心理面接を展開をしていくか,をじっくり講義しました。
あたらしい心理支援のあり方を模索し続ける著者によるこの一冊によって,マニュアルに頼り切った認知行動療法からの脱却が可能になるだけではなく,他アプローチとの併用もスムーズになりますので,ユーザーのニーズに合わせたオーダーメイドの認知行動療法を実現できるようになるでしょう。多くの臨床家にとって共有すべき本が生まれました。

主な目次

第1部 全ての心理療法の基礎には「物語」がある
講義1 認知行動療法を学ぶ意味
講義2 認知行動療法の基礎とは何か
講義3 認知行動療法の物語プロセスを学ぶ

第2部 「物語」に関わる認知行動療法のコツを知る
講義4 コツ1 視点の転換
講義5 コツ2 現実への直面を目指す
講義6 コツ3 問題の外在化
講義7 コツ4 クライエントと並ぶ関係
講義8 コツ5 複雑な現実に介入する

第3部 ケース・フォーミュレーションは「物語」の筋を可視化する
講義9 ケース・フォーミュレーションとは何か
講義10 ケース・フォーミュレーションの使い方
講義11 現在の問題状況のケース・フォーミュレーションを作る
講義12 問題の発展経過のケース・フォーミュレーションを作る

第4部 認知行動療法の枠組みでケース・フォーミュレーションを作ってみる
講義13 認知療法のケース・フォーミュレーションを作る
講義14 行動療法のケース・フォーミュレーションを作る
講義15 カスタマイズ認知行動療法に向けて

第5部 ケース・フォーミュレーションで「物語」の筋を読み変えていく
講義16 ケース・フォーミュレーションの臨床活用
講義17 「ケース・フォーミュレーションを作る」段階での臨床活用
講義18 「ケース・フォーミュレーションを共有する」段階での臨床活用
講義19 「ケース・フォーミュレーションを使う」段階での臨床活用

おわりに

はじめに

本書は,「物語」をキーワードとして,カウンセリングや心理療法の基本から,高度な認知行動療法とケース・フォーミュレーションの技法までを体系的に学び,習得できるガイドブックです。図や表,事例をふんだんに提示して具体的に解説してあります。気分転換にイラストも随所に挿入しました。楽しく読み進んでいくと,いつの間にか複雑な問題を理解し,問題解決に向けての介入方針を見立たてるケース・フォーミュレーションのスキルが身に付く仕組みになっています。クライエント中心療法や精神分析を学んできた人も,本書を読むことで認知行動療法やケースフォーミュレーションを使いこなすことができるようになります。ケース・フォーミュレーションを活用できるようになると,本当の意味で利用者に役立つ心理支援を組み立てることができるようになります。
カウンセリングや力動的心理療法を中心に学んできた中堅以上の心理職では「認知行動療法は,自分たちのやり方と違うよね」と考えがちです。若手の心理職は「認知行動療法をやってみたいけど,難しいね。どこで学べば良いのかわからない」と言って敬遠している人も少なからずいます。つまり,日本では,認知行動療法について食わず嫌いになっている人が多いのです。これは,とても残念です。
というのは,認知行動療法とカウンセリングや力動的心理療法は両立可能だからです。むしろ,私の経験では,カウンセリングや力動的心理療法の素養があることが,認知行動療法を柔軟に,そして豊かに使いこなすのに役立つのです。ですので,カウンセリングや力動的心理療法を学んできた人には,ぜひ自らの実践を柔軟なものにするために認知行動療法を学んでほしいと思います。逆に認知行動療法だけを学んできた人は,自らの実践を豊かなものにするために,ぜひカウンセリングや力動的心理療法を学んでほしいと思います。
さらに言えば,難しいケースに適切に対応するためには,カウンセリングや力動的心理療法と認知行動療法を組み合わせることが必要になります。すでに認知行動療法を実践している人でも「複雑なケースになるとうまくいかないなあ」と感じることがあるのではないでしょうか。もちろん認知行動療法のスキルを,マニュアルに従ってそのまま適用できるケースもあります。本書では,このような「お決まりの認知行動療法スキルの適用」をする場合,“パッケージ認知行動療法”あるいは“既製品(ready-made)認知行動療法”と呼びます。スーパーマーケットでハンガーに吊るしてある服のようなもので,購入してそのまま着ることができるものです。
それに対して複雑なケースでは,そのケースの具体的状況に即して支援を柔軟に作り上げていかなければいけなせん。その場合に必要となるのが,本書のテーマであるケース・フォーミュレーションです。そのような「状況に即して作り上げる認知行動療法」は,“カスタマイズ認知行動療法”あるいは“仕立て(custom made)認知行動療法”となります。このカスタマイズ認知行動療法を実践するためには,認知行動療法の知識やスキルだけでは対応できません。カウンセリングや力動的心理療法,さらには家族療法やコミュニティ心理学の知識やスキルが必要となります。

したがって,カウンセリングや力動的心理療法を学び,そして認知行動療法を学ぶことは,とても意味があることであり,必要なことなのです。現在の日本の心理職の置かれた現状は,カウンセリング,力動的心理療法,認知行動療法,家族療法,コミュニティ心理学,ブリーフセラピー,ナラティヴ・セラピー等々の学派が並立し,“分断”状態ともいえます。しかし,それは,さまざまな支援法を学ぶチャンスがあるということです。認知行動療法は,そのような多様な支援法をまとめて統合して活用する核になる視点を提供できるものです。その点からも,ぜひ狭量な認知行動療法ではなく,カウンセリングや力動的心理療法と協働できる柔軟で豊かな認知行動療法を学んでほしいと願っています。
本書では,そのような認知行動療法の学び方と使い方をみなさんと一緒に学んでいく書籍です。もちろん,認知行動療法活用の基本ポイントを習得する必要があります。それは複雑なケースに対しても認知行動療法を臨床活用できるコツでもあります。ですからカウンセリングや力動的心理療法から入ってくる方,あるいは認知行動療法を学んでいる方でもそのコツを知っておかないとうまくいきません。この本では,具体的な事例に即してそのコツとポイントをお話したいと思っています。

本書の要点
・ 日本の多くの心理職は,公認心理師制度が導入される以前はクライエント中心療法のカウンセリングや力動的な心理療法を学んでいます。
・ そのために「自分は認知行動療法(CBT)とは考え方が違う」といって「食わず嫌い」になっている人がいます。
・ また,CBTを実践している人でも,複雑なケースになると上手くいかない場合もあります。
・ 実は,CBTを使いこなすためにカウンセリングや力動療法の経験はとても役立つのです。
・ マニュアルに従うだけのCBTを学んでいる人は,複雑な問題を含む事例には適切に対処できません。そのような場合は,CBT以外の心理支援の技法を幅広く学び,CBTを柔軟に活用できるようになる必要があります。
・ ただし,CBT活用の基本ポイントを習得する必要があります。それは,複雑なケースに対してCBTを臨床活用するコツでもあります。本書では,具体的事例に即して,そのコツとポイントを解説します。

 

 

著者略歴

下山晴彦(しもやまはるひこ)
跡見学園女子大学心理学部教授(心理教育相談所長併任)。東京大学名誉教授。東京認知行動療法センター/東京発達・家族センター代表心理職。臨床心理iNEXT主宰。
東京大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。公認心理師・臨床心理士。東京大学学生相談所,東京工業大学保健管理センター,東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コースを経て,現職。

主な著書・訳書
単著:『心理職は「ときめき」を取り戻せるか』(東京大学出版会,2024),『臨床心理学をまなぶ2 実践の基本』(東京大学出版会,2014),『臨床心理学をまなぶ1 これからの臨床心理学』(東京大学出版会,2010)など,編著:『そもそも心理職は,何を目指してスキルアップすれば良いのか?』(遠見書房,2025),『そもそも心理支援は,精神科治療とどう違うか』(遠見書房,2024),『公認心理師技法ガイド』(文光堂,2019),『誠信 心理学辞典 新版』(誠信書房,2014)など,シリーズ責任編集:『現代の臨床心理学 全5巻』(東京大学出版会,2021-2023)など多数。


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