動機づけ面接入門
動機づけ面接入門
| 編者 | 佐藤洋輔・沢宮容子編 |
| 出版年月 | 2026年1月 |
| ISBN | 978-4-86616-240-9 |
| 判型 | 四六判並製 |
| ページ数 | 192 |
| 定価 | 2,400円(+税) |
内容紹介
動機づけ面接とは,クライエントの「変わりたい」と「今のままでいたい」の間で揺れ動く気持ちに寄り添い,クライエントの動機づけを高め,行動変容を促す技法です。
本書は,動機づけ面接のエッセンスを実践に直結する言葉で伝える入門書。基礎知識を簡潔に学ぶ基礎編と,医療・精神保健,学生支援,司法面接などの現場で実際に動機づけ面接がどう活用されているかを,各領域の第一人者が紹介する実践編の二部構成となっています。
さまざまな現場やアプローチにもよく馴染む動機づけ面接を学ぶ最適の一冊です。
主な目次
第1部 基礎編
第1章 動機づけ面接とは
|沢宮容子・佐藤洋輔
第2章 スピリットとタスク
|沢宮容子・佐藤洋輔
第3章 チェンジトークと維持トーク
|沢宮容子・佐藤洋輔
第4章 MIのコアスキル
|沢宮容子・佐藤洋輔
第5章 動機づけ面接の学習プロセス
|佐藤洋輔
第2部 実践編
第6章 私と強迫症そして動機づけ面接
|原井宏明
第7章 依存症専門外来における動機づけ面接
|加濃正人
第8章 クライエントの尊重と変化の促進
|岩壁 茂
第9章 学生支援に活かす動機づけ面接
|瀬在 泉
第10章 司法領域における動機づけ面接の活用
|山田英治
第11章 メンタルクリニック受付業務と動機づけ面接
|松浦文香
第12章 動機づけ面接の限界,それとも?──電子スクリーン症候群について
|磯村 毅
第13章 オープンダイアローグからみた動機づけ面接
|斎藤 環
まえがき
「やらなきゃいけないのは分かってるんです。でも,手が動かない」。そう言って,学生はソファの端で視線を落としました。レポートの締切の話から始まった面接は,しだいに「失敗が怖い」という気持ちや,「夜だけが自分の時間だ」というささやかな自由の話へと移っていきます。やるべき理由は最初から知っている。それでも今のままでいたい理由も,同じだけ確かにある。人はその真ん中で揺れます。
この揺れに,説教でも放任でもなく,相手と並んで歩く方法で関わる―動機づけ面接(Motivational Interviewing: MI)は,そんな対話のスタイルです。相手の中にある価値や強み,変化の理由を,その人自身の言葉で確かめていく。「このままではいけない」「正しいやり方を伝えたい」と胸がざわつくときこそ,いったん息を整え,相手の歩幅に合わせる。開かれた質問で考えを深め,努力や価値を肯定し,言い換えと要約で輪郭を整える―その一つ一つの小さな応答の違いが,関係と結果を変えていきます。
なぜ,いまMIなのでしょうか。ポスト・コロナの揺れが残るなか,「分かっているのに動けない」場面は日常になりました。復学や復職のタイミングを決めかねる,SNSやゲームで夜更かしが続き生活が崩れる,慢性疾患の通院や服薬が途切れがちになる,家族のケアと学業・仕事のはざまで立ち尽くす―こうした場面は決して珍しくありません。孤独や孤立が社会課題として可視化され,現場の人手不足や疲弊も重なるなか,指示や注意だけでは前に進みにくい局面が増えています。国際的にもMIは行動変容支援の標準的な対話スキルとされ,世界保健機関(WHO)の一次医療向け教材や国連薬物犯罪事務所(UNODC)の訓練資料にも位置づけられています。MIは,情報を積み増すだけでは届かない時代の実務を支える土台だと,私たちは考えます。
本書は,MIのエッセンスを実践に直結する言葉で伝える入門書です。助言を求められたとき,抵抗に出会ったとき,目標が曖昧なとき,合意に至らないときなど,現場で迷いやすい局面に焦点を当て,短いやりとりの例と解説,明日から試せる言い回しを中心にまとめました。情報は最小限に,手触りは具体的に。紙面の外での試行錯誤を前提にしています。構成は二部仕立てです。第1部では,MIの基本姿勢と会話の進め方,チェンジトークの見立て,コアスキル(開かれた質問・是認・聞き返し・サマライズ)の使いどころを概観し,学びの地図を示します。第2部では,依存症や強迫症といった医療・精神保健,学生支援,司法面接など多様な現場から,対話と介入の流れを取り上げ,意思決定の岐路で何を手がかりにするかを具体的に解説します。
この本を読まれるにあたって,お願いが一つだけあります。「分かった」で終わらせず,ぜひ日常での短い練習を繰り返してください。録音のふり返りやロールプレイ,同僚や仲間とのピア・フィードバックは,MIの上達を加速させます。うまくいかなかった面接ほど学びが多いこと,そして合意できないときにも合意できる部分が必ずあること。そんな気づきを,現場で確かめてください。面接者の小さな変化が,相手の中の“変化に賛成する声”を少しずつ大きくします。
最後に,執筆と事例提供に尽力くださった著者の皆さま,刊行を支えてくださった編集・制作の方々に感謝を申し上げます。本書が,皆さまの日々の対話を半歩前に進め,小さな変化の芽をともに育てる一助となれば幸いです。
佐藤洋輔
執筆者一覧(五十音順)
磯村 毅(いそむら・たけし)
スマホ依存防止学会(PISA),寛容と連携の日本動機づけ面接学会(JaSMINe)。医師。
岩壁 茂(いわかべ・しげる)
立命館大学総合心理学部教授。博士(心理学)。臨床心理士。
加濃正人(かのう・まさと)
大石クリニック,昭和大学横浜市北部病院。博士(医学),医師,公認心理師,臨床心理士,論理情動行動療法(REBT)インストラクター,動機づけ面接トレーナーネットワークメンバー。
斎藤 環(さいとう・たまき)
つくばダイアローグハウス院長。医学博士,精神保健指定医,精神科専門医。
佐藤洋輔(さとう・ようすけ)=編者
立命館大学人間科学研究科準教授。博士(心理学),臨床心理士,公認心理師。
沢宮容子(さわみや・ようこ)=編者
東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科教授。筑波大学名誉教授。 博士(心理学),臨床心理士,動機づけ面接トレーナーネットワークメンバー。
瀬在 泉(せざい・いずみ)
防衛医科大学校医学教育部看護学科地域看護学講座准教授。保健師,看護師,公認心理師,動機づけ面接トレーナーネットワークメンバー。
原井宏明(はらい・ひろあき)
原井クリニック,(株)原井コンサルティング&トレーニング。精神保健指定医,精神科専門医・指導医,日本認知・行動療法学会専門行動療法士,MINT認定動機づけ面接トレーナー。
松浦文香(まつうら・あやか)
原井クリニック,(株)原井コンサルティング&トレーニング。精神保健福祉士,日本認知・行動療法学会認定行動療法士,日本動機づけ面接協会技能検定1級取得,MINT認定動機づけ面接トレーナー。
山田英治(やまだ・えいじ)
静岡家庭裁判所。公認心理師,MINT認定動機づけ面接トレーナー。
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