いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?──つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点
いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?──つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点
| 著者 | 長行司研太・笹倉尚子・植田峰悠・大島崇徳・髙井彩名・德山朋恵 |
| 出版年月 | 2025年9月 |
| ISBN | 978-4-86616-229-4 |
| 図書コード | C3011 |
| 判型 | 四六判・並製 |
| ページ数 | 240 |
| 定価 | 2,600円(+税) |
内容紹介
本書は,ゲームをやめられない,生活が乱れているなど,子どもや若者と電子機器のゲームの問題に悩む支援者や大人向けに,心理カウンセラーがゲームとの向き合い方を解説したものです。
ゲーム依存やゲームの悪影響が注目されるなか,ゲームを制限するだけで問題は解決するのでしょうか。子どもたちがなぜゲームに夢中になり,ゲームを通してどんな体験をしているのか,大人たちは知る必要があるかもしれません。
本書は心理臨床の視点から,ゲームのポジティブな面にも目を向け,彼らの心理をひも解きます。ゲームへの理解を深め,子どもとのより良い関係を築くための指針となる一冊です。
ゲーム禁止,ちょっと待った!
主な目次
序 章 ゲームの進化とコミュニケーション
第一章 想像と創造の世界を生きる
第二章 遊び場がもたらす原体験
第三章 ともに歩む成長の物語
第四章 追求の先で出会う自分
第五章 心の影とスリルと駆け引き
第六章 心と身体を整えるために
はじめに
デジタルゲーム(本書では、電子機器を用いてプレイするゲームを指す。以下、ゲーム)はこの現代社会において、私たちの生活の中に当たり前に存在するものとなっている。家庭用ゲーム機やスマートフォンを使って一人で気ままに遊ぶ、友達や家族とワイワイ楽しむ、顔も知らないネット上の誰かや、そこでできた友人(フレンド)と一緒にプレイする……。その楽しみ方は実にさまざまであり、技術の進歩・進化により、今では時と場所と相手を選ばす、誰でも自由に楽しむことが可能となっている。
では、ここでひとつ、考えてみてもらいたいことがある。
「ゲームとは、〇〇である」。
そう聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。ゲームに対して持っているイメージは人それぞれである。日頃からゲームに慣れ親しんでいる人だと、息抜き、癒し、ただのヒマ潰し、娯楽、コミュニケーションツール、学び、人生……など、さまざまな言葉がそこに当てはまるだろう。一方で、ゲームにあまり良いイメージを持っていない人はもしかしたら、厄介なもの、子どもに与えたくないもの、有害、悪と答えるかもしれない。〇〇の中に入る言葉は人によってまったく異なるはずである。
これらはもちろん、どれが正解というものではなく、実際ゲームには良い面と悪い面の両方が存在する。誰かとゲームで対戦をすることは楽しく、ストレス発散にもなるが、その対戦に負けた場合や自分の思うようにいかなかった場合にはストレスが溜まり、イライラすることも起こる。
その影響を受けるのは本人だけではない。「子どもがゲームをやめる時間を守れない」「ゲームの影響で言葉遣いが悪くなっている」「ネットでつながった知らない人と毎日一緒にやっていて心配」「子どもは楽しんでいるが、ゲームの何が面白いのか理解できない」。カウンセリングで出会う保護者の中には、こういった悩みを多く抱え、ゲームに対してネガティブな思いを持っている人も少なくない。ゲームをしている本人にとってゲームは「良いもの」でも、周囲にとっては「悪いもの」になっていることもあり得るのである。
ただ、本書では、単純にゲームが「良いもの」か「悪いもの」かを論じることはしない。良いも悪いもひっくるめて、ゲームが持つ力について、そしてその力によって人の心はどのように動くのかについて、多様な角度から考えていきたい。そうしてゲームで動く心について考えることは、ゲームをプレイする人自身を深く理解することにつながっていく。ゲームが我々の生活にこれだけ溶け込んだ「いま」だからこそ、ゲーム自体と、そしてそれをプレイする人たちとの向き合い方について考える意味と必要があるだろう。
『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?── つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』というタイトルの通り、本書がゲームに夢中になっている子ども、および若者とどう向き合うかを考えるきっかけになればと思う。それからその人たちとの対話や理解、そして支援に活かすための手がかりとして役立てば幸いである。
ここで、本書の内容について説明しておこう。本書は主に、次の2つの軸で構成されている。
①各ゲームジャンルおよびそのジャンルを代表するゲームタイトルについて扱う。そのゲームジャンルが持つ要素や特徴を挙げ、時には実際のカウンセリング場面で語られる様子を事例として示すことで、そこに現れ出てくる「人の心」について考察する。
②ゲームに関連するさまざまなトピックについて扱う。ゲームがこの現代社会でどういった意味を持ち、人々にどういった影響を与えているかを探求し、そこで動いている「人の心」について考察する。
本書の読み進め方として、まずはページに沿って、序章《ゲームの進化とコミュニケーション》を読み、ゲームがたどってきた歴史の全体像や本書で扱うゲームジャンルの位置づけを把握することをオススメしたい。その上で、その後に続く各章を読むと、特に普段ゲームにあまり馴染みのない人にとって、内容をより理解しやすくなることだろう。
また、各章冒頭では、まえがきとしてその章で扱っている内容について簡単に紹介している。それを読んで、興味を惹かれたところから好きなように読み進めるのも、もちろん自由である。
各章の最後には、コラム「私とゲーム」を掲載している。そこでは著者六人それぞれのゲームにまつわる個人的な体験とともに、各々の「ゲームとは〇〇である」が綴られている。また、ゲームと心の接点に関して、各々が普段の心理臨床の中で感じていることや経験していることを座談会形式で語り合っている。そのどちらも、ゲームに対してのイメージを広げるきっかけにしてもらえることと思う。
ゲームに対するもともとの知識や経験、および理解には当然個人差があるが、本書を全て読み終えたとき、誰しもがゲームについて以前より詳しくなり、ゲームとそこで動く人の心についての理解が深まることを本書は目指している。また、子どもとのコミュニケーションの中でゲームの話題は今や欠かせない共通言語となっている。そのため、子どもとの関わりや子どもが生きている世界の理解にもきっと役立つだろう。
本書の対象として、タイトルでは「カウンセラーは」としているが、カウンセラー(心理職)のみならず、教師、その他すべての子どもに関わる対人援助職に就いている人、またそういった道を志している学生諸氏、子どもを持つ保護者を想定している。さらに、ゲームを好きな人、ゲームについてもっと理解したいと思っている人、ゲームに詳しくはないが興味がある人にも読んでいただきたい。上記の人々に加えて、「人の心」に興味関心がある人にもぜひ手に取っていただければと思う。
「ゲームなんていったい何の役に立つのか」と否定的な思いを抱いている人にこそ、本書を通して、ゲームが持つ多様な側面やその可能性にふれてみてもらいたい。もちろん、「ゲームは素晴らしいものだから、ゲームのことをもっと理解し受け入れましょう」と一方的な要求を押しつけるつもりは毛頭ない。ゲームは楽しく、魅力的であるがゆえに、のめりこみ没頭するあまり自制が利かなくなったり、親子間や友人間でトラブルに発展したりすることが多くある。先に述べた「良い」「悪い」の二元論ではない次元でゲームを捉え、理解しようと試みることが、そうした状況に陥った際にもゲームと、そして目の前にいる相手とうまく付き合っていくことにつながっていくだろう。
もし、あなたが普段関わる人や近しい人が、ゲームを日々プレイし、没頭しているとしたら、その人にとっての「ゲームとは、〇〇である」に入る言葉が何なのかを、本書を読み進めながら考えてみてほしい。本書の中で、何かしっくりくる言葉が見つかるかもしれないし、うまく見つからなくてもそうやって考えること自体が、その人への理解を深めることにつながるにちがいない。同時に、あなた自身のゲームに対する理解が深まり、ゲームに対して抱いているイメージが変化する可能性もある。そういった変化に、ぜひ身を委ねてみてほしい。
現在は二〇二五年であり、五年後一〇年後には本書で扱うゲームタイトルは時代の流れとともにまったく馴染みのないものになっている可能性はある。しかしきっと、ゲームジャンル自体は消滅することなく、形を変え、新たな要素を取り入れながら変化し、進化し続けるはずである。本書で扱うゲームジャンルやゲームタイトル、そしてトピックに含まれる要素やそれらを通して得られる体験は、これから先、まったく新しいゲームの遊び方やゲームにまつわるトピックが生まれたとしても、本質的には変わらないものだと考えられる。本書を読み進めながら、各々がゲームの「これから」を想像してみるのも面白いだろう。
最後に、本書で扱う事例はいずれも、個人が特定できないように複数の事例からそのエッセンスを抽出しつつ、事例の核となる部分は損なわないように再構成している。著者六人を代表し、関わらせていただいた全てのクライエントの方々に心より感謝申し上げます。
もともと、この本の仮タイトルは『ゲームと心の話をしよう』であった。そういったコンセプトを掲げて、この本の執筆は進められてきたのである。
それではこれから、本書を通して、ゲームと心の話をしよう。
長行司研太
執筆者紹介
長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
佛教大学教育学部臨床心理学科 非常勤講師、京都府/市スクールカウンセラー
公認心理師、臨床心理士、修士(教育学)
笹倉尚子(ささくら・しょうこ)
十文字学園女子大学 教育人文学部心理学科 准教授
公認心理師、臨床心理士、博士(教育学)
植田峰悠(うえだ・みねひさ)
北陸学院大学社会学部 准教授
公認心理師、臨床心理士、博士(心理学)
大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭こころのケア・センター 相談員
公認心理師、臨床心理士、修士(心理学)
髙井彩名(たかい・あやな)
日本女子大学カウンセリングセンター 専任研究員
公認心理師、臨床心理士、修士(臨床心理学)
德山朋恵(とくやま・ともえ)
SNS相談員、専門学校講師
公認心理師、臨床心理士、SNSカウンセラー、修士(臨床心理学)
*執筆者は全員、サブカルチャーを愛するカウンセラーによる研究会である「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」に所属。研究会では、サブカルチャーと心理臨床・臨床心理学に関する理論や実践、セルフケアなどについて、自由で活発な交流と研究活動を行っている。主な著書として『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(木立の文庫、2023)がある。
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