メンタライジングの視点による臨床的面接―We-モードと認識的信頼による関係的参照

メンタライジングの視点による臨床的面接―We-モードと認識的信頼による関係的参照
編者上地雄一郎 著
出版年月2026年2月
ISBN978-4-86616-236-2
判型A5判並製
ページ数232
定価3,200円(+税)

内容紹介

本書は,現在世界的に注目を浴びているメンタライゼーションに基づく治療(MBT)のエッセンスを日常の臨床に活かす術を説いた一冊です。
日本におけるMBTの実践とトレーニングを牽引してきた著者が,理論の解説に留まらず,臨床的重要性が確かめられた面接者の基本的姿勢や介入法を,具体的な事例を用いて詳解しました。
特定の流派を超えた心理療法の共通要因としてのメンタライジングを学ぶことで,支援の質が高まり,臨床に余裕と柔軟性が生まれるでしょう。MBTを実践に活かしたい,心理支援をステップアップしたい臨床家のためのMBT入門書です。

主な目次

第1章 MBTとメンタライジングの概念
第2章 メンタライジングの諸側面
第3章 特異的治療法としてのMBTの特徴
第4章 MBTの理論的基礎づけ
第5章 MBTにおける面接者の基本的姿勢
第6章 MBTの初期段階とアセスメント
第7章 MBTにおける基本的介入①­——メンタライジング・プロセスの管理
第8章 MBTにおける基本的介入②——関係メンタライジングと感情への取り組み
第9章 非メンタライジング・モードへの対応
第10章 MBTによるトラウマへの対応
第11章 MBTのトレーニング
付 録 母親面接についての覚え書き

まえがき

筆者は,2008年からMBT(メンタライゼーションに基づく治療 Mentalization-Based Treatment)およびメンタライジングの視点を学んできましたが,とくにかなりの時間を割いて学習してきたMBT(成人のパーソナリティ症のためのMBT-PD)について,自分が得た知識と経験を書籍にまとめたいという思いは,以前からありました。しかし,それは,狭義のMBT-PDの「包括的マニュアル」のようなものを書きたかったということではありません。あくまで,さまざまなワークショップやスーパービジョンを通して自分が学んできた内容,とくに実践的な内容を整理してみたかったということです。「包括的マニュアル」を意図するのであれば,(起きる頻度は少なくても)起きうるさまざまな場合を想定して解説を加えなければならないでしょう。しかし,本書は,MBT的な面接を行ううえで最低限注意するべき事項を述べただけに過ぎません。それでも,本書は,僭越ながら読者の方の参考にもなるのではないかと思っています。読者の方がMBTにおいて重要性や有効性が確かめられた面接者の基本的な姿勢や介入法を日常的面接に取り入れるなら,その人たちの日常的面接がメンタライジング化していくことが期待されるからです。
MBT-PDの包括的マニュアルは,英文のものはいくつかあります。しかし,いずれも分厚く,もし翻訳するとしても,現在の日本の出版状況では大部の訳書を扱ってくれる出版社があるかどうかが大きな問題になります。大部の訳書であっても購入してくれる読者の数を増やせばよいのですが,そのためには,また別の書籍が必要になるという堂々巡りが生じます。こうなれば,もう知識と経験のある日本人が(当然,英書も参考にして)日本語の解説書を書くしかありません。それに,かりに大部の訳書が出版されたからといって,それを読むだけで,MBT的面接の要点が容易につかめるかというと,必ずしもそうではないと筆者は思います。日本の臨床/支援の脈絡を念頭におくなら,実際に日本でMBTの実践をしてきた者が,自分の知識と経験に基づいて,MBTのエッセンスについて具体例を用いてわかりやすく解説することが必要だという認識に到達しました。折しも,MBTまたはメンタライジングの視点に関心を抱き,熱心に学習する人たちの数は,年々増えています。そのような人たちに,MBTにおける面接がどのように進むのかについての概要を伝える基礎的な書籍が是非とも必要だと思ったのです。それを書くのに自分が適任だとは思いませんが,これから類書が現れるための布石になればと思い,僭越ながら本書を書くことにしました。
本書は,狭義のMBT-PDの包括的マニュアルではありませんが,かといってMBT-PDの原則に触れないのでは,依拠する基準がないことになります。そこで,MBT-PDの「アドヒアランス・コンピテンス尺度」に記載された面接者の姿勢や介入法について,ひととおり解説することにしました。だから,本書は,「狭義のMBT-PDについて知りたい」という読者のニーズにも応える内容になっています。しかし,あくまで本書の主要な目的は,狭義のMBTに限定せず,メンタライジングの視点による面接法のエッセンスを私たちの日常的面接に活かしていくことです。米国でメンタライジングの視点を啓蒙した臨床家としてジョン・G・アレンJon G. Allenがいますが,彼は,現在では“mentalizing”を「常識心理学」であると主張し,心理療法の「共通要因」であると言い始めています。Allenとのメールのやりとりから示唆されたことは,特異的治療法(specific treatment)としてのMBTと,視点としてのメンタライジングまたは素朴なメンタライジング・アプローチは,区別するべきだということです。
本書の読者のなかには厳密なMBTは必要のない臨床/支援の場に身を置いているけれども,MBTから得られた面接のエッセンスを自分自身の臨床や支援に活かしていきたいと願う人たちもいるでしょう。MBT-CやMBT-Aといった若年者向けのMBTを学ぶために,まず(元祖MBTというべき)MBT-PDの原則をきちんと学んでおきたいというニーズを持った人たちもいるでしょう。精神科領域でトラウマ治療が課題になってきたので,トラウマ治療としてのMBTから自分の臨床への示唆を得たいという専門家の方たちもいるでしょう。こうしたさまざまな領域での幅広いニーズに応えることが本書の目的なのです。

1.MBTとメンタライジングの視点を学ぶ意義
それでは,特異的治療法としてのMBTを含むメンタライジングの視点による面接を学ぶ意義はどこにあるのでしょうか。筆者は,その意義を以下のような点に見出しています。

①心理療法において,オリエンテーション(立場/流派)が異なっても中心軸は「メンタライジングの促進」であることがわかり,面接に中心軸が生まれる。
②心理療法のどの立場にも通じる重要な面接者の姿勢・介入法がわかる。
③面接の進行を妨げる「非メンタライジング・モード」に気づき,対処することができるようになる。
④くつろいだ姿勢で面接できるので,全体として面接に余裕が生まれ,大事な点に気づきやすくなる。
⑤良い意味での「出たとこ勝負」ができるようになる。事前に考え過ぎるのではなく,そのときの状況に合わせて対応できるようになる。

本書の趣旨は,狭義のMBTの質を下げることのように思えるかもしれません。しかし,本書の本文でも述べたように,厳密なMBT-PDは,面接者のレパートリーの一つに過ぎず,あらゆるケースにMBT-PDが適用できるわけではありません。そうすると,私たちの日常的な面接においては,MBT-PDの原則を尊重しながらも,それを柔軟に適用していくことが求められます。そして,MBTの原則のこうした組み入れ(add-in)や上乗せ(add-on)は,MBTの開発者も認めていることであり,開発者の意志に反することではありません。

2.Hutsebautの見解
特異的治療法としてのMBTにおいて,臨床的重要性が確かめられた姿勢や介入法のいくつかを私たちの日常的な面接の中に組み入れて使用することは,一種の「共通要因アプローチ」(common factors approach)と言ってもよいでしょう。MBTは,他の治療法と(共通点はあっても)異なる独自の治療法であることを認めたうえで,このような共通要因的使用を行うことをどう考えればよいのでしょうか。これは,MBTのまとまりを崩す不適切な試みなのでしょうか。筆者はそうは思いません。ヨースト・フツェバウトJoost Hutsebaut(2024)は,MBTを含む複数の特異的治療法に関する実証研究の結果から,以下の点を指摘しています。

①特異的治療法(MBTを含む)の効果を証明した研究では,その治療法の開発者やそれに精通した臨床家が治療を実施している。後の時代の臨床家がそれと同じ効果をあげることができるかどうかは疑わしい。
②特異的治療法は,それに熟練した臨床家が行えば期待された効果をあげるだろうが,熟練していない臨床家は,その治療法を原形通りに行おうとするために,オーセンティックな(本心からの)面接関係が損なわれ,治療効果が低下する。
③熟練していない面接者または平均的な面接者は,共通要因アプローチの方がより高い効果をあげる。

つまり,効果が証明された治療法なら,後に誰がやっても同じ効果をあげるとはいえないということです。その特異的治療法に熟練していない,あるいは平均的な面接者が実施するなら,むしろその特異的治療法の中の共通要因的介入法を自己の日常的面接に組み込むほうが,治療効果は低下しないということです。もしこのHutsebaut(2024)の見解が正しいなら,本書で筆者が行おうとすることは,決して不適切ではないということになります。
そうはいうものの,本書における「狭義のMBT」の解説については,筆者が理解した限りではありますが,できるだけMBTの開発者たち(Fonagy & Bateman)の考えに忠実であろうと努めました。幸い,筆者は,MBT開発者の一人であるアンソニー・ベイトマンAnthony Batemanと密に連絡を取りながら,トレーニングを進めてきました。Batemanからは,他のメンバーと一緒にスーパービジョンも受けました。また,筆者は,MBTの正式のトレーニングを受けたいという他の臨床家のニーズにも応えるべく,仲間と協力して,「アンナ・フロイト」主催の“MBT Basic Training”の開催を代行してきました。第1回の“MBT Basic Training”は,2019年3月に東京で開催されましたが,筆者は,これをBatemanとピーター・フォナギーPeter Fonagyに依頼するために,米国・ロサンゼルスで開催された“MBT Basic Training”に赴きました(2017年10月)。
これまでに“MBT Basic Training”は合計4回を数えています。最初の2回までは「日本メンタライゼーション研究会」が代行開催しました。しかし,日本メンタライゼーション研究会が「会員制」となり,年1回の「学術集会」を開催するに及んで,筆者は,「アンナ・フロイト」主催の“MBT Basic Training”は別組織で運営するほうがよいと判断し,Batemanとも協議のうえ,新たに「MBTトレーニング実行委員会」を立ち上げました。2023年には,このMBTトレーニング委員会が主体となって“MBT Practitioner Course”も代行開催することができました。これにより,すでに「アンナ・フロイト」所属の認定スーパーバイザーからスーパービジョンを受けていた複数の臨床家が,「公認MBT Practitioner」の資格を得ることができました。こうして狭義のMBT-PDが(有資格者の増加を伴って)発展していくことは,筆者の願いとするところです。
しかし,同時に,筆者の脳裏を離れないのは,さまざまな臨床/支援の場にあって,メンタライジングの視点を自分の臨床/支援に取り入れたいと願っている人たちのことです。そして,筆者は,そのような人たちのために,MBTトレーニング実行委員会主催の「メンタライジング・アプローチワークショップ」という連続講座を開催してきました。このワークショップのためのパワーポイント資料には,MBTおよびメンタライジングの視点について,筆者が獲得してきた知識や経験をほとんど書き込みました。だから,この資料を書籍化することを思い立ったのです。
実際の執筆の過程では,このパワーポイント資料をそのまま原稿にするのではなく,これを参考にしながら各章の構成を再考しました。その結果,各章を下記のように構成することにしました。

3.各章の紹介
【第1章】「MBTとメンタライジングの概念」と題して,まず本書のねらいは,特異的治療法(他の治療法と区別される独自の治療法)としてのMBTについて解説することだけでなく,MBTの中で臨床的重要性が確認された姿勢や介入法を私たちの日常的な面接に取り入れることでもあるということを宣言する。それに続いて,MBTの本質的要素であるメンタライジングの定義および関連する概念や類似する概念との相違について述べる。
【第2章】「メンタライジングの諸側面」として,まず自己についてのメンタライジング(I-モード),他者についてのメンタライジング(Me-モード),関係メンタライジング(We-モード)について解説する。そして,クライエントの個人ナラティブ(自己・他者・世界についてのクライエント特有の捉え方)を面接者が共有することから生まれるWe-モードが,クライエントの認識的信頼を引き出し,それを介して面接者からの社会的学習および関係的参照を促進するのであるが,これがMBTの目的であることを述べる。次に,最近メンタライジングのアセスメントにおいて必ず使用されるようになったメンタライジングの4つの次元(自動的-制御的;内的-外的;認知的-感情自覚的;自己焦点-他者焦点)について概要を紹介し,同じくアセスメントにおいても介入においても重要な非メンタライジング・モードについて解説する。
【第3章】「特異的治療法としてのMBTの特徴」を説明する。MBTは,認知行動論的視点や精神力動的視点を含む様々な視点を統合した「統合的モデル」であり,起源は精神力動的セラピーであるとはいえ,現在では,治療の焦点,プロセス,介入法において精神分析的心理療法とは明確に異なることを指摘する。
【第4章】MBTの土台となっている理論,すなわち「表象理論」,「ナラティブ論」,「愛着理論」について基本的事項を解説する。また,メンタライジングの発達と関して,有標的ミラリング,三項関係(共同注意),社会的参照の意義,およびメンタライジングの発達における3つの段階について紹介する。
【第5章】「MBTにおける面接者の基本的姿勢」という標題で,古典的精神分析における面接者の姿勢のような中立的・匿名的姿勢は好ましくないことを指摘し,クライエントの体験に応じた表情,声のトーン,感情をなだめる言葉などを伴わせた「有標的ミラリング」が重要であることを強調する。そして,先入観や事前の想定を持たずに虚心坦懐に聞くという「不知の姿勢」を推奨する。あわせて,いま・ここでの交流の重要さをMBTの特徴として強調する。加えて,面接者からクライエントに伝えるべきこと,およびクライエントの語りを聞くときの基本的な傾聴・質問のあり方について説明する。
【第6章】「MBTの初期段階とアセスメント」に焦点を合わせる。最近強調されるようになった3段階のコミュニケーション・システムを紹介する。それから,メンタライジングの4つの次元や優勢な非メンタライジング・モードについてのアセスメントの必要性を指摘する。普段の行動や対人関係を愛着パターンの観点から査定し,「関係パスポート」に記載し,治療の期間中このパスポートを携行するのだということを述べる。治療の開始前に十分な心理教育を行う必要があることを強調する。アセスメントの例として,境界性パーソナリティ症と回避性パーソナリティ症の場合を紹介する。
【第7章】「MBTにおける基本的介入1:メンタライジング・プロセスの管理」と題して,MBTにおける中核的な介入法を,(1)プロセス(脈略)への注目,(2)ポジティブなメンタライジングの確認,(3)覚醒の管理,(4)共感的承認,(5)ありうる別の見方の探索に分けて解説する。
【第8章】「MBTにおける基本的介入2:関係メンタライジングと感情への取り組み」と題して,まず関係メンタライジングおよび逆関係メンタライジングについて解説する。次に,感情を伴うナラティブのメンタライジングという領域に属する介入法をいくつか紹介する。加えて,最近注目されている顕在的個人ナラティブと潜在的個人ナラティブへの注目と介入についても述べる。
【第9章】非メンタライジング・モード,具体的には「心的等価モード」,「プリテンド・モード」,「目的論的モード」に対する対応法について,実例や事例挿話を用いて解説する。
【第10章】MBTにおけるトラウマへの対応について基本事項を解説する。トラウマをメンタライジングの視点から位置づけ,トラウマへの対応の一般原則と特殊原則を述べたうえで,事例を2つ紹介する。
【第11章】MBTのトレーニングについて,理論学習,事例検討,ロールプレイ,スーパービジョンと,段階を追って,筆者の経験も交えて概要を述べる。
【付録 母親面接についての覚え書き】子どもの相談の脈絡での母親面接について,母親のメンタライジング促進という視点から重要事項を解説する。

なお,本書のタイトル:『メンタライジングの視点による面接:We-モードと認識的信頼による関係的参照』に少し触れておきます。サブタイトルとして付け加えた「We-モードと認識的信頼による関係的参照」は,現在のMBTが目指す最も重要な目標でもあります。そして,サブタイトルを含めて,このタイトルには,MBT/メンタライジング・アプローチにおけるキーワードを網羅したことになります。
最後になりますが,本書に記載した事例のうちのいくつかは,金剛出版刊『精神療法』誌に寄稿した以下の2つの論文に記載されているものと同一です。転載を許可してくださった金剛出版に感謝いたします。

上地雄一郎(2021)メンタライゼーションに基づく治療(MBT)と複雑性PTSD.精神療法,47(5); 569-573.
上地雄一郎(2022)パーソナリティ症へのメンタライジング・アプローチ.精神療法,48(6); 734-739.

上地雄一郎

 

著者略歴
上地雄一郎(かみじ・ゆういちろう)
1955年高知県に生まれる。広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了・博士(心理学)。1983年より広島大学保健管理センター,1989年より岡山県立短期大学(後に岡山県立大学短大部),2000年より甲南女子大学(心理学専攻,後に心理学科)を経て,2008年より岡山大学教授(教育学研究科,後に社会文化科学研究科)。2021年3月定年退職(岡山大学名誉教授)。MBTトレーニング実行委員会委員。臨床心理士,アンナ・フロイト認定MBT Practitioner。

〔主な著書・訳書〕『メンタライジング・アプローチ入門』(2015,北大路書房),『愛着とメンタライジングによるトラウマ治療―素朴で古い療法のすすめ』(共訳,2017,北大路書房)。『メンタライジングによる子どもと親への支援―時間制限式MBT-Cのガイド』(共訳,北大路書房)。

 


 


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