老いのこころと寄り添うこころ 第3版──介護職・対人援助職のための心理学

老いのこころと寄り添うこころ 第3版──介護職・対人援助職のための心理学
編者山口 智子 編
出版年月2025年2月
ISBN978-4-86616-213-3
判型A5判並製
ページ数200
定価2,600円(+税)
内容紹介

「高齢者心理学」最良の入門書

本書は,老年期の本人と,取り巻く家族,援助職などの人々の問題や葛藤など「こころ」を中心に切り取った最良の高齢者心 理学の入門書です。「こころ」の問題の中核的なテーマである老年期の認知症だけでなく,生涯にわたる人間としての成長や喪失,生と死の問題にまで広く「心理学」の視点で解説をし,高齢者に寄り添ったケア実践に役立つようになっています。
心理学を専攻する学生,臨床心理士をめざす大学院生,社会福祉士や介護福祉士など対人援助職をめざす学生,介護職など高齢者のケアに関わっている人に最適な1冊です。
好評につき,最新情報にアップデートした第3版を刊行しました。

 

主な目次
まえがき

あなたにとって,歳をとる,老いるとはどのような経験でしょうか。50年後の自分自身の姿を想像することはできますか。

老年期は,体力や健康の喪失,配偶者や友人などの死,社会的役割の喪失など多くの喪失を経験します。高齢者はこのような喪失をどのように経験しているのでしょうか。私たちは物事がなかなか思うように進まなかったとき,「四苦八苦した」と言います。この四苦八苦はもともと仏教のことばで,四苦は「生老病死」です。生まれること,老いること,病気になること,死ぬことは思いのままにはなりません。老年期はこの四苦の中の「老病死」に向き合うときとも言えます。若いときに比べて,できないこと,思いのままにならないことばかりが増えていくのでしょうか。それとも,順風満帆な人生や安穏とした生活よりも,人生の苦や喪失に向き合うこと,折り合いをつけることが成熟につながるのでしょうか。歳を重ねるとはどのようなことなのかは興味深い問いです。そこで,本書では「老い」「病い」「死と看取り」を軸に,高齢者のこころの有り様を見つめてみたいと思います。
本書は老年心理学,高齢者心理学の教科書ですが,高齢者の心理学全般を網羅しているわけではありません。高齢者に寄り添うこと,ケア実践に役立つように,認知症や死について丁寧に論じ,ナラティヴ(語り)を重視しています。これが本書の特徴です。心理学を専攻する学生,公認心理師・臨床心理士をめざす大学院生,社会福祉士や介護福祉士など対人援助職をめざす学生,介護職など高齢者のケアに関わっている人を読者として想定しています。
また,老年期の心理臨床では,高齢者とのかかわりから,高齢者一人ひとりの生きざまを伝えていただいていると感じることもあります。そのような臨床の息づかいも伝えたいと思い,心理臨床実践と研究に取り組んでいる方に執筆をお願いしました。トピックスのうち「フレイルとサルコペニア:健康寿命に重要な2つの概念」は理学療法の立場から,「介護過程」「高齢者を看取る家族のグリーフケア」は介護の立場から執筆をお願いしました。

第1部は「老い」です。第1部の目的は,加齢によって,さまざまな心理機能がどのように変化するのか,「老い」の様相を理解することであり,発達心理学をベースにしています。第1章では,私たちが高齢者にどのようなイメージをもっているのかを問い,高齢者の心理を理解する視点として,生涯発達心理学とナラティヴ・アプローチを紹介します。第2章は,認知加齢です。知能や知性の捉え方の変遷をたどることで,第1章の生涯発達心理学の視点がどのように展開してきたのかを具体的に理解することができます。第3章はパーソナリティです。Eriksonの第9段階やTornstamの老年的超越など新しい知見を紹介します。第4章と第5章では,社会とのつながりや対人関係が高齢者の主観的幸福感や健康寿命とどのように関連するのかを検討しています。第1部では,従来,考えられていた「歳をとること=衰退」ではなく,加齢により衰退する機能がある中で,高齢者がいかに衰退する機能を補償しているのかを示しています。
第2部は「病い」です。老年期には,がんや高血圧や心臓病などの身体疾患をかかえることも多く,その心理的影響も重要な事柄ですが,第2部では,精神疾患について,特に,認知症をとりあげています。第6章は,認知症,うつ病,せん妄について,診断基準や原因疾患による症状や経過の相違など医学的な知見を紹介します。第7章は,認知機能のアセスメントについて,代表的な検査を紹介するとともに,アセスメントを行う上での留意点を述べます。第8章は,認知症をかかえる高齢者の主観的な体験とその家族の思いについてです。第6章の認知症の診断基準,すなわち,認知症であるか否かの真偽を問うことと,第8章の家族のことが分からなくなってしまうという不安や,「なぜ,私(または大切な家族)が認知症になったのか?」と問わずにはいられない戸惑いや嘆きには大きな違いがあります。ケアでは,認知症とはどのような疾患であるのかを理解することと,認知症をかかえる高齢者やその家族の体験としての病いを理解すること,そのどちらもが重要です。第9章では,高齢者と家族に対する心理的援助について,理論と技法を紹介します。第10章は,施設の利用と支援者の心理です。高齢者は病いの進行によって,自宅での生活が難しくなって,施設を利用することが多いのですが,高齢者が住み慣れた環境を離れて,施設に入所するとき,どのような困難があり,どのように適応していくのでしょうか。支援者の関わりやメンタルヘルスも質の高いケアの重要な論点です。
第3部は「死と看取り」です。学部の講義では,青年期のさまざまな悩みをかかえ,死を意識している学生には「死」の講義は負担ではないかと思い,講義の予告をするなど配慮しています。一方,学生からは「もう少し詳しく死のことをとりあげてほしい」という要望もあります。そこで,本書では,死について,3つの視点から考えます。第11章は,発達心理学の視点から,高齢者が死をどのように意味づけているかなど,高齢者の死生観について検討します。第12章は,臨床心理学の視点から,がんをかかえる高齢者に対する臨床実践について,理論と実践を紹介し,死を前にした高齢者やその家族にかかわる支援の意味を考えます。さらに,終末期にかかわる対人援助職にとって,死について考えておくことはケアの質を高め,自身を守るためにも重要なことです。そこで,第13章では,教育心理学の視点から,デス・エデュケーションをとりあげます。
それぞれの章やトピックスから,高齢者のこころの理解を深めて,高齢者との温かい交流につながることを期待しています。また,第2部,第3部では,それぞれの執筆者が配慮や留意点を書いています。配慮,留意点や行間にこめられた思いから,寄り添うことについて考えていただきたいと思います。

なお,本書は,独立行政法人日本学術振興会平成20~24年度科学研究費補助金(基盤研究C)「過酷な体験の語りが支援者/研究者に与える心理的影響」(研究代表:山口智子,課題番号:20530647)の助成を受けました。
最後に,出版にあたり,執筆を快諾してくださった皆様と企画から出版にいたるまで支えてくださった遠見書房の山内俊介氏に感謝します。

2024年11月 山口智子

編著者紹介・執筆者一覧

編者略歴
山口智子(やまぐち・さとこ)
広島県尾道市生まれ。名古屋大学大学院教育学研究科発達臨床学専攻博士課程単位取得満期退学。日本福祉大学名誉教授。博士(教育学)。臨床心理士,公認心理師。

主な著書
『人生の語りの発達臨床心理』(単著,ナカニシヤ出版,2004年)
『喪失のこころと支援』(編著,遠見書房,2023年)
『問いからはじめる発達心理学─生涯にわたる育ちの科学 改訂版』(共著,有斐閣,2024年)

 

執筆者一覧
尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科(精神疾患・病態解明学))
河野 直子(大阪公立大学大学院 現代システム科学研究科)
久世 淳子(日本福祉大学健康科学部)
鈴木 亮子(椙山女学園大学人間関係学部心理学科)
武田 啓子(元日本福祉大学健康科学部)
中原 睦美(鹿児島大学大学院臨床心理学研究科)
林  尊弘(愛知医療学院大学リハビリテーション学部)
牧野多恵子(名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学)
間瀬 敬子(元日本福祉大学健康科学部)
茂木 七香(大垣女子短期大学幼児教育学科)
山口 智子(日本福祉大学名誉教授)
山本さやこ(日本福祉大学社会福祉学部/教育・心理学部)


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