心理療法の世界1──その学び

心理療法の世界1──その学び

学習院大学人文科学研究科臨床心理学専攻・学習院大学心理相談室 編

1巻
定価1,800円(+税)、208頁、四六判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-77-3

心理臨床初学者はどんな心構えを持てばいいのか。何をどう勉強すればいいのか。大切にしたいこととは何か――。本書は,心理臨床の第一線で活躍されている先生がたによる,心理臨床初学者のための珠玉の教えをまとめた本です。
学習院大学において行われてきた心理療法についての講演やシンポジウム,学習院大学心理相談室紀要に掲載された論文などからピックアップし,広く心理臨床 を志す若い人たちに読んでいただこうと書籍化いたしました。ぜひ先達の深い教えを自分のものとして,心理療法の世界へ歩み出してください。

本書の詳しい内容


おもな目次

心理療法の世界1──その学び

初心心理臨床家に伝えたいこと/滝川一廣

心理療法をどう学ぶか/成田善弘

心理臨床初学者に伝えたい心理査定することの意味/佐藤忠司

日常臨床と行動療法/山上敏子

対談/山上敏子+村瀬嘉代子

臨床の現場に埋もれたい/山田 均・伊藤研一

心理療法における神は細部に宿り給う/川嵜克哲


序文

心理療法の世界1──その学び

序文 「心理療法の世界」へようこそ

学習院大学人文科学研究科 臨床心理学専攻教授 伊藤研一

Nur wer die Sehnsucht kennt, weiß was ich leide!
憧れを知る者のみ、わが悩みを知らめ (ゲーテ)

学習院大学では、心理療法についての講演やシンポジウムを一〇年ほど前から連続して行なってきました。心理療法に関心を持っているひとに「心理療法の本当 の姿」を伝えたいという願いからです。それらを今まで学習院大学心理相談室紀要に掲載してきました。しかし、この相談室紀要は、一般の皆さんに公開されて おりません。
そこで、平成二七年度に学習院大学大学院臨床心理学専攻博士後期課程が開設されるのを節目に、これらを一般の読者の皆さんにも読めるように出版しようという次第になりました。

講師としてお願いした先生方は、臨床心理学専攻の教員が何より「この先生の話をぜひうかがいたい」「この先生はほんものだ」と確信する先生をお招きしまし た。文字になってしまうとどうしても、そのときの雰囲気など大切な部分が薄れてしまいますが、講演や対談、質疑応答がほとんどなので、通常の著作よりはそ れらが伝わることを願っています。皆さんの心の中に息づく「ほんものと出会いたい」という願いが文字にいのちを与えてくれると信じています。
第1章「初心心理臨床家に伝えたいこと」(滝川一廣)では、心理療法の本質について、わたしたちの日常の対人関係のあり方と関係づけて論じられています。 心理療法は特別で時に魔術的なイメージを伴って受け取られることがありますが、そうではなく、それまでのひととの関わり方と密接につながっていることがわ かります。
第2章の質疑応答では、心理療法に携わる人間のほとんどが抱く「自分はこの仕事に向いてないのではないか」という疑問に対する答えから始まり、生育歴をど のように聞いていくか、臨床心理学の教育で何を伝えたいか、などについて真摯でありながらユーモアを含んだやりとりが繰り広げられます。
第3章「心理療法をどう学ぶか」(成田善弘)では、第1章と似たテーマながら、より具体的な心がまえや態度、努力の道筋が語られます。とくに心理療法を習 得する上で、非常に重要な「師に遇う」ということが出てきます。役に立つ心理療法家になるためには、本や論文を読んだり、研修会に出るだけでは不十分で、 「師に遇う」ことが大きな意味を持ちます。
第4章の質疑応答では、臨床実践に伴う危険であるとか、心理療法家のナルシシズムの問題、心理療法の目標は何かなど、きわめて本質的な点について質疑応答 が行なわれました。とくに「私が拠って立っている理論的な背景とかそこから出てくる方法とか、そういうものが治すのであって、私個人が(クライエントを) 治すのではないといつも思っていることが必要です」ということばが印象的です。
第5章「心理臨床初学者に伝えたい心理査定をすることの意味」(佐藤忠司)では、いかにしてアセスメントを臨床的にするかについて、その心構えと具体的な 方法が豊富な経験をもとに説明されます。その冒頭で、日本のロジャース派のパイオニアである故佐治守夫氏との何気ないやりとりを紹介されていますが、そこ で臨床の本質を直感的に把握されているくだりが、とても印象的でした。
第6章「日常臨床と行動療法」(山上敏子)は、長年実践してきた行動療法の要諦について事例をもとに教えてくれます。とくに「どこが困るの」「どこから治 すの」「どうしたらいいの?」と患者さんに聞くことが大切であると強調します。そして山上氏の行動療法実践を聞くと「行動療法は症状を除去するだけ」とい う考えがいかに大きな誤解であるか痛感します。そのひと全体をよく観察し、理解し、可能なところから援助するのが行動療法なのです。
第7章は、村瀬嘉代子氏との対談とフロアとの質疑応答で構成されています。心理療法の達人同士の対談内容については、読んでもらうしかありません。そしてそこで今自分が感じたこと考えたことを覚えておきましょう。数年後には違う感じ方、考え方に気づくはずです。
第8章「臨床の現場に埋もれたい」(山田均・伊藤研一)は、在野でひたすら臨床を続けてきた山田均氏(上尾の森診療所副院長)の経験をインタビュー形式で 聞き取ったものです。山田氏は学習院大学心理学科出身で、臨床心理学の教員がいないころから臨床心理学に興味を持ち続け、臨床現場で手探りで実践してきま した。今のように指定大学院などがなく、いやないからこそ、心理療法において本当に大切なことを自らの経験で学びとってきた経緯が語られています。
第9章「心理療法における神は細部に宿り給う」(川嵜克哲)は、本書で唯一、講演や対談ではなく論文です。心理療法において「微細な部分」を大切にとら え、そこに「全体性」をはらんだ意味を読み取っていくことの重要さが事例をもとに述べられています。また心理療法における重要な概念として「同種性」が事 例や夢、箱庭などを例に解説されます。分析心理学についての深い理解をもとに、その概念を駆使して見事な解釈が展開されます。
ごく簡単に各章について触れましたが、読者の皆さんが、それぞれの意味を感じ、考えてくださり、それが何らかの糧になれば何よりありがたいと存じます。


執筆者一覧

1巻 執筆者略歴

滝川一廣(タキカワ・カズヒロ) 1947年名古屋市生まれ。1975年名古屋市立大学医学部卒業。児童精神科医,臨床心理学者。現在,学習院大学文学部心理学科教授。

成田善弘(ナリタ・ヨシヒロ) 1941年生まれ。精神科医。臨床心理士。名古屋大学医学部卒。名古屋大学医学部精神医学教室助手,社会保険中京病院精神 科部長,椙山女学園大学人間関係学部教授,大阪市立大学大学院生活科学研究科教授,桜クリニック嘱託医などを経て,現在,成田心理療法研究室。

佐藤忠司(サトウ・チュウジ) 1932年新潟市に生まれる。1955年新潟大学人文学部心理学専攻卒業。1960年新潟県立療養所悠久荘勤務,参事・臨 床心理業務担当。1991年新潟心理相談システム開設,主宰。2006年~2011年新潟青陵大学大学院教授。現在,公財・日本臨床心理士資格認定協会常 務理事。

山上敏子(ヤマガミ・トシコ) 1937年福岡県に生まれる。1962年九州大学医学部卒業。1963年九州大学医学部神経精神医学教室入局。1969 年~1970年米国テンプル大学留学。1974年~1984年九州大学医学部講師。1985年~2001年国立肥前療養所臨床研究部長。2001 年~2007年久留米大学文学部教授。

村瀬嘉代子(ムラセ・カヨコ) 1959年奈良女子大学文学部心理学科卒業。1959~1965年家庭裁判所調査官(補),この間カリフォルニア大学大学 院バークレイ校留学,1965年大正大学カウンセリング研究所講師,1984年より同助教授を経て,1987年同教授。1993年同大学同大学院臨床心理 学専攻教授。退官後,2008年より北翔大学大学院客員教授,大正大学客員教授(名誉教授)。日本臨床心理士会会長。

山田 均(ヤマダ・ヒトシ) 1961年埼玉県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士前期卒業。医療法人社団順風会上尾の森診療所副院長。心理士。

伊藤研一(イトウ・ケンイチ) 1954年東京都生まれ。1986年東京大学大学院博士課程単位取得修了。1986年大正大学カウンセリング研究所専任講師,1997年文教大学人間科学部教授を経て,現在,学習院大学文学部心理学科教授。

川嵜克哲(カワサキ・ヨシアキ) 1959年大阪府に生まれる。1989年京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。臨床心理学者。現在,学習院大学文学部心理学科教授。
(掲載順)

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