心理療法の世界2──その拡がり

心理療法の世界2──その拡がり

学習院大学人文科学研究科臨床心理学専攻・学習院大学心理相談室 編

2巻
定価1,400円(+税)、160頁、四六判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-78-0

心理臨床初学者はどんな心構えを持てばいいのか。何をどう勉強すればいいのか。大切にしたいこととは何か――。本書は,心理臨床の第一線で活躍されている先生がたによる,心理臨床初学者のための珠玉の教えをまとめた本です。
学習院大学において行われてきた心理療法についての講演やシンポジウム,学習院大学心理相談室紀要に掲載された論文などからピックアップし,広く心理臨床 を志す若い人たちに読んでいただこうと書籍化いたしました。ぜひ先達の深い教えを自分のものとして,心理療法の世界へ歩み出してください。

本書の詳しい内容


おもな目次

心理療法の世界2──その拡がり

自閉症児のこころの世界と遊戯療法/滝川一廣

「発達障害」の心理療法とイメージ/伊藤良子

《シンポジウム》こころの発達を考える/小倉清・滝川一廣・伊藤良子

こころと身体のケアを考える/皆藤 章

《シンポジウム》こころと身体のケアを考える/皆藤 章・滝川一廣・伊藤研一

C.G.ユングの『赤の書』に語られた困難の中の個性化過程/マレイ・スタイン

個性化に向かう心理療法/吉川眞理


序文

心理療法の世界2──その拡がり
学習院大学人文科学研究科 臨床心理学専攻教授 川嵜克哲

この本に掲載されているシンポジウムの記録や論文は、二〇〇五年に創刊され、それ以降毎年発行されている『学習院大学大学院 臨床心理学研究』に載ってい たものが元になっている。本年度の二〇一四年にはめでたく第一〇号が発行される予定であり、その記念として、今までのシンポジウム記録や論文をピックアッ プして書籍の形にまとめ、広く皆様に読んでいただきたいと願い、この書籍を出版する次第である。もっとも、本書を出版する理由は単に紀要の一〇周年祝いと いうだけではなく、そこに再現されているシンポジウムの内容や掲載されている論文の質が高いものであると自負しており、世に広く知っていただくことが心理 臨床の世界にとっても有意義であると信じるからでもある。

冒頭に述べたように一〇周年ということもあり、本書に掲載されているシンポジウム記録や論文の内容と絡めて当臨床心理学専攻の歴史を少々振り返っておきた い。『学習院大学大学院 臨床心理学研究』第三号が発行された二〇〇七年に、長らく念願であった相談室を開設することとなった。このことは、もちろん、本 学の大学院生がしっかりと守られた枠の中で来談者の方に添っていきつつ、心理臨床の実践と研究に錬磨していく重要な基盤ができたこと、また、それによって 地域への貢献をより充実させていくことが可能になったことを意味しており、非常に感慨深いものであった。
さらには、翌二〇〇八年には、本大学院人文科学研究科に臨床心理学専攻博士前期課程が設置され、新たに、伊藤良子教授、滝川一廣教授を専攻に迎えることとなった。これによって、カリキュラムも大きく変わり、さらに充実した教育・訓練を提供できる体制が整ったわけである。
この前年である二〇〇七年の秋に、本学の臨床心理学専攻設置の認可を記念して、伊藤、滝川両氏をお招きしてのシンポジウムを行った。テーマは発達障害であ り、伊藤教授、滝川教授それぞれの講演に加え、小倉清先生を話題提供者としてお招きした。心理臨床に携わる方々ならば、このメンバーが集うシンポジウムが いかに贅沢なものであるかがおわかりいただけると思う。本巻の第1章「自閉症児のこころの世界と遊戯療法」はそのときの滝川教授の講演を、第2章の「『発 達障害』の心理療法とイメージ」は伊藤教授の講演を再録したものである。小倉先生が加わったシンポジウムの記録が第3章の「《シンポジウム》こころの発達 を考える」である。滝川教授は精神科医としての視点から、伊藤教授は臨床心理士としての視点から発達障害を論じられたが、そこにはイメージや遊戯療法を通 しての発達障害の治療可能性が論じられており、昨今、教育訓練に重きが置かれがちな発達障害に関して重要な意義を提出しているものとなっている。シンポジ ウムの記録も、軽妙なやりとりの中にも重要な論点がいくつも議論された当日の様子がよく再現されていると思われる。

さて、上記の両氏が新たな教員として加わり、大学院生への実践的な教育もさらに充実したものとなる中、二〇一〇年には当臨床心理学専攻は臨床心理士指定大 学院第一種指定校として認定されることとなる。認定された三年後に日本臨床心理士資格認定協会が中間評価をするために本学を訪問されて、細かな聞き取りを されたのだが、結果、非常に高い評価をいただくことになった。評価されたことはいろいろとあったのだが、その中でもとくに「他大学の相談室に比べて成人か らの相談申し込みがとても多い」ことが挙げられた。これは、当大学院生が子どもの遊戯療法だけではなく、その親面接も担当し、またさまざまな症状、悩み、 問題を抱える成人来談者の面接も数多く経験している事実をよく反映していると考えられる。このようなことが成立している背景として、大学院生の質の高さに 加えて、彼らをバックアップする教育体制やスーパービジョン体制が整っていることを自負している。
教育に関しては非常に幅広い領域に渡る実践的理論を学ぶ機会が院生には準備されている。二〇一二年に、海外からマレイ・スタイン先生をお招きして、「C・ G・ユングの『赤の書』に語られた困難の中の個性化過程―十牛図を手がかりにした理解の試み」というタイトルで講演とシンポジウムを企画したのもその一環 である。一見非常にマニアックな内容を感じさせるタイトルではあるが、本書に載せたその再録をお読みいただければ、『赤の書』や「十牛図」から読み取れる ことがらが心理臨床の具体的な実践や人間が生きていくということに直結していることがよく理解できると思われる。足立正道先生に通訳をお願いし、本学から は伊藤良子教授と吉川眞理教授が講演の後のディスカッションに参加している。このディスカッションも意義深いものとなっているのでぜひお読みいただきたい と願うものである。また、本書の最後に収められている、吉川眞理教授の論文「個性化に向かう心理療法―集合性とゆらぎの中で」もユングの個性化という概念 をベースに考察がなされている論考である。ここでは、漱石の例などがとりあげられ、日本における個性化とはどのようなものか、個人性と集合性との対比を通 して考えられる臨床心理士のアイデンティティという問題にまで意欲的に思索が重ね上げられている内容が提示されている。
時系列に話を戻すと、マレイ・スタイン先生をお呼びした講演の翌年、二〇一三年一一月には京都大学の皆藤章教授をお招きして、「こころと身体のケアを考え る」というテーマでシンポジウムが開催された。心理臨床において身体というものは、たとえばフロイトの精神分析がヒステリーという身体によって心理的なも のが表現される症状を扱うことで始まったことをみても非常に重要で深い関連があるし、さらには、心身症などの身体化した症状も実践的に関わるものとして重 視されるものである。皆藤教授は幅広い視野で心理臨床をされている方であるが、本シンポジウムではその中でも糖尿病患者への心理療法的な援助を中心にご講 演をいただいた。本学から参加したシンポジストは滝川一廣教授と伊藤研一教授である。それぞれ、精神医学とフォーカシングの立場から身体に関して発言がな され、意義深いディスカッションがやりとりされた。本書でのその再録をお読みいただけると、これらの身体をめぐる議論が単に心理療法の一分野の話ではな く、すぐれて現代的な意味を帯びていることも了解されるであろう。

以上、目次的に本書の内容を概観してきたが、読者の皆様にはご関心をもたれたところからお読みいただければ幸いである。どこから読まれても、その背景には 本学専攻の臨床実践に関する姿勢が垣間見えることと思われ、また一見全く異なるようなテーマである別の章をお読みいただいても、その姿勢が底流となって各 章に共通して流れているのがお感じになられるであろう。今後もこの流れを大切にして、ますます、実践・研究を深めていきたいと願う次第である。


執筆者一覧

2巻 執筆者略歴

滝川一廣(タキカワ・カズヒロ) 1947年名古屋市生まれ。1975年名古屋市立大学医学部卒業。児童精神科医,臨床心理学者。現在,学習院大学文学部心理学科教授。

伊藤良子(イトウ・ヨシコ) 1968年神戸女学院大学卒業,神戸市民生局奉職後,京都大学大学院教育学研究科博士課程修了,京都大学教育学博士,専門は 臨床心理学,臨床心理士。神戸女学院大学教授,京都大学大学院教育学研究科教授を経て,2009年より学習院大学文学部教授。京都大学名誉教授。

小倉 清(オグラ・キヨシ) 1932年和歌山県新宮市に生まれる。前日本精神分析協会会長。1958年慶應義塾大学医学部卒業。1959~1967年米 国,エール大学およびメニンガークリニックへ留学。1967~1995年関東中央病院精神科勤務。1996年クリニックおぐら開設。

皆藤 章(カイトウ・アキラ) 1957年福井県に生まれる。京都大学工学部に入学後,1979年に教育学部に転じる。1986年,京都大学大学院教育学 研究科博士課程単位取得退学。大阪市立大学助教授等を経て,現在,京都大学大学院教育学研究科教授。文学博士。臨床心理士。

Murray Stein(マレイ・スタイン) イエール大学で神学を学び,シカゴ大学でPh.Dを取得。1973年,チューリッヒのユング研究所において分析家の資格を取得後,シカゴのユング研究所でtraining analystとして活動。現在は,international school of analytical psychology(ISAP)にて,世界各国から集まったユング派分析家候補生の育成に尽力している。

吉川眞理(ヨシカワ・マリ) 1990年京都大学大学院博士課程単位取得退学。2001年京都大学教育学博士取得。臨床心理士。山梨大学教育(人間科)学部助教授を経て,現在,学習院大学文学部教授。
(掲載順)

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