AIはどこまで脳になれるのか──心の治療者のための脳科学
AIはどこまで脳になれるのか──心の治療者のための脳科学
岡野憲一郎 著
2,200円(+税) 四六判 並製 184頁 C3011 ISBN978-4-86616-211-9
「意識はどのようにして生まれるのか」,「AIに心はあるのか」,「そもそも心とは何なのか」──
この本は,これらの難問に,精神分析と脳科学の分野を自在に横断する稀代の臨床家,岡野憲一郎(京都大学名誉教授)が挑んだものである。
本書は,現代において目覚ましい進化を遂げているAIと人間の脳の類似性を紐解きながら,人間の意識の謎にかかわる幽体離脱体験,多重人格,トラウマ,依存症など,最新の脳科学研究や自身の臨床経験から,人間存在の根源に迫る刺激的な思索・知見がまとめられている。専門家のみならず,これから心理学を学ぶ方や,心の問題に関心がある方にも開かれた一冊となった。
主な目次
まえがき
第1章 私には脳科学はうさん臭かった
第2章 ニューラルネットワークとは?
第3章 ニューラルネットワークとディープラーニング
第4章 脳の表面では神経ダーウィニズムが支配する
第5章 意識とクオリア
第6章 解離性障害の脳科学 その1
第7章 解離性障害の脳科学 その2
第8章 左右脳の問題
第9章 快感と脳科学
第10章 嗜癖の成立
第11章 脳科学とトラウマ
第12章 心理療法家にとっての脳科学
あとがきのかわりの妄言
まえがき
本書は精神科の臨床医である著者が、脳科学から見た心の問題についてエッセイ風にまとめたものだ。
最初にお断りしなくてはならないが、私は決して「脳科学者」ではない。毎日何十名の患者さんと対面し、臨床を行う老境の精神科医だ。そして精神療法家、精神分析家、いわゆる「カウンセラー」でもある。精神科医や精神療法家は毎日患者さんの訴えを聞くことが仕事である。仕事のメインの部分はその訴えに応じて一緒に考えたり新たな考え方を示したりすることであり、また患者さんの訴える症状に応じた薬を処方することだ。つまり一日の業務の中に、脳について勉強したり、研究を行ったりという時間は特別設けられてはいない。
しかし精神科医やカウンセラーは特別心の仕組みについてあれこれ思いめぐらすことが多い。「どうして薬は有効なのだろうか」とか「どうして偽薬効果が発揮されるのだろうか」とか、「どうして幻聴が聞こえるのだろうか」、あるいは「どうしてこの患者さんは一つの考えから抜け出すことができないのだろうか」……。などなどである。ときには「私の仕事は最後はAIでも行うことができるのだろうか」、「やがて私の仕事はコンピューターに取って代わられるのだろうか」、などについても考える。そしてこれらの考えを深める上で、脳についての知見は明らかに重要なのである。
もちろん精神科医の中には脳についての研究をしている方もいらっしゃるだろうし、彼らは脳科学についての専門的な知識を持っていることになる。私自身も脳の研究に専念したいと思うこともある。しかし脳科学の道は遠く、また途轍もなく深い。その世界に飛び込んで何らかの発見をするには人生はあまりに短く、また一度飛び込んだ精神科医の世界では毎日の患者さんとの対応で精いっぱいなのである。
しかし精神科医が専門外の脳科学の知見に耳を傾けることのメリットは大きい。新たな知見が次々と発表され、それらの知識を縦横無尽に用いて心の問題を幅広く考えることができる。
本書はそのような立場にある私が脳科学の知識を用いつつ、心の問題について問い直す試みである。繰り返すが脳の世界、心の世界は途方もなく奥が深い。その理解の仕方にもさまざまなアプローチがありうる。私が以下の12章で示すのはそのほんの一例であるにすぎないが、何か読者のお役に立てることを願っている。
岡野憲一郎
著者略歴
岡野憲一郎(おかの・けんいちろう)
1956年,千葉県生まれ。1982年,東京大学医学部卒。1986年,フランス政府給費留学生としてパリのネッケル病院精神科で研修。1987年,渡米,メニンガークリニック精神科レジデント。1990年~2004年,シャウニー郡精神衛生センター医長。2004年,帰国,聖路加国際病院 精神科勤務。2005年,国際医療福祉大学精神科教授。2014年,京都大学教育学部教授。2022年,京大を退官,現在本郷の森診療所院長,京都大学名誉教授,精神分析家。
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