ACTマトリックスのエッセンシャルガイド──アクセプタンス＆コミットメント・セラピーを使う

ACTマトリックスのエッセンシャルガイド
──アクセプタンス＆コミットメント・セラピーを使う

ケビン・ポーク／ベンジャミン・シェーンドルフ／マーク・ウェブスター／ファビアン・Ｏ・オラツ著
（立命館大学教授）谷　晋二監訳

4,900円（＋税） A5判　並製　350頁　C3011　ISBN978-4-86616-135-8

アクセプタンス＆コミットメント・セラピーを
よりわかりやすく，より簡単に，
だれでもできるようにした ACTマトリックスの手引き

本書は，理解の難しいアクセプタンス＆コミットメント・セラピー理論を平易に解き明かし，実践に役立てられるACTマトリックスの手引きである。
認知行動療法の１つの技法という範疇を超えて，多くの心理療法アプローチに併用が可能なアクセプタンス＆コミットメント・セラピー。本書では，６つの基本ステップ──「視点を据える」「離れる行動の効果の理解」「フックとコントロールの努力の問題」「言葉の合気道」「セルフ・コンパッションのトレーニング」「視点取得能力を使うこと」をもとに最良の心理療法をどう進めるかを詳しく解説した。
15種類のワークシートつき。プロフェッショナルのための１冊。

主な目次

訳者まえがき
はじめに

第１部　６つの基本ステップ
第１章　ステップ１：視点を据える
ステップ１　チェックリスト

第２章　ステップ２：離れる行動の効果の理解
ステップ２　チェックリスト

第３章　ステップ３：フックとコントロールの努力の問題
ステップ３　チェックリスト

第４章　ステップ４：言葉の合気道
ステップ４　チェックリスト

第５章　ステップ５：セルフ・コンパッションのトレーニング
ステップ５　チェックリスト

第６章　ステップ６：視点取得能力を使うこと
ステップ６　チェックリスト
６つのステップのまとめ

第２部　マトリックスとソーシャルな世界
第７章　マトリックスの中で治療的な関係を使う

第８章　子どもや青少年，親とマトリックス・ワークをする

第９章　カップルとのマトリックス

第10章　ライフ・コーチングのためのマトリックス

第11章　マトリックスを柔軟に使う

著者略歴

Kevin L. Polk, PhD（ケビン・ポーク）
サイコロジストとして26年間活動し，主に退役軍人やトラウマ記憶に悩む人々を支援してきた。過去11年間は，アクセプタンス＆コミットメント・セラピー（ACT）の研究（ACTの背景にある哲学や理論，ACTの介入方法）に専念してきた。ACTのトレーナーとしても活躍しており，ACTマトリックスを使って心理的な柔軟性を高め，価値ある生活を送る方法を人々に伝えることに力を注いでいる。

Benjamin Schoendorff（MA, MSc）（ベンジャミン・ショーエンドルフ）
カナダのモントリオールにあるContextual Psychology Instituteのディレクター。モントリオール大学メンタルヘルス研究所でACTの研究に従事する傍ら，サイコロジストとして，大人，子ども，10代の若者，カップルを対象とした私設クリニックを運営している。ACTをセラピストとクライアントの両方にとってシンプルなものにすることに情熱を注いでいる。また，ACTおよび機能分析的心理療法（FAP）のトレーナーとして，世界中で多くのワークショップを開催している。

Mark Webster（マーク・ウェブスター）
United Kingdom Council for Psychotherapy（UKCP）に登録されたサイコセラピスト。1997年に弁証法的行動療法（DBT）から始まった第三世代の認知行動療法（CBT）に関わり，それがきっかけでACTにも興味を持つ。2005年，British Association for Behavioural and Cognitive Psychotherapies（BABCP）内にACT専門グループを設立。2008年には，ケビン・ポークと共同で，グループでACTを実施するための非常に使いやすい方法であるACTマトリックスを開発した。主な関心は，ACTを従来のメンタルヘルスの現場以外でもより広く利用できるようにする方法を見つけることである。

Fabian O. Olaz, PsyD（ファビアン・オラツ）
アルゼンチンのコルドバ国立大学心理学部の臨床心理学および心理療法の准教授，Interpersonal Behavior Laboratoryの研究者およびディレクター。Integral Center of Contextual Psychotherapy （CIPCO）において，ACTおよび機能分析的心理療法（FAP）のスーパーバイザーおよびサイコセラピストを務めるほか，アルゼンチン，ブラジル，その他の南米諸国で著名なトレーナーとして活躍している。

監訳者略歴

谷　晋二（たに・しんじ）
立命館大学総合心理学部教授，博士（心身障害学）筑波大学

大阪人間科学大学教授を経て2010年より立命館大学教授，2020 Association of Contextual Behavioral Science（ACBS）のFellows
著書・翻訳書
『言語と行動の心理学』（編著，金剛出版），『はじめはみんな話せない』（著，金剛出版），『アクセプタンス＆コミットメント・セラピー実践ガイド』（監訳，明石書店），『やさしいみんなのペアレント・トレーニング入門』（監訳，金剛出版）他

訳者一覧

坂野朝子（第１章）
同志社大学実証に基づく心理・社会的トリートメント研究センター嘱託研究員
同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程修了（博士〔心理学〕）

茂本由紀（第２，３章）
京都文教大学臨床心理学部講師
同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程修了（博士〔心理学〕）

石井遼介（第10章）
株式会社ZENTech取締役／慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員
シンガポール国立大経営学修士（MBA）

北村琴美（第４，５，６章）
CBSコンサルティング代表／立命館大学非常勤講師
お茶の水女子大学人間文化研究科博士後期課程修了（博士〔人文科学〕）

訳者まえがき

本書はThe Essential Guide to the ACT Matrixの全訳書である。ACTマトリックスはACTを実践するツールとして世界各地で頻繁に用いられている。残念なことに，これまで日本には紹介されることがほとんどなかったが，2018年の日本認知・行動療法学会で，著者の一人であるベンジャミン・ショーエンドルフ先生Benjamin Schoendorffにワークショップを開催していただき，2019年には京都と東京で２日間のワークショップを開催していただいた。ショーエンドルフ先生は，モントリオール（カナダ）でContextual Psychology Instituteをマネージメントしている。2018年に新しいオフィス兼セラピールームをオープンさせ，その記念パーティーには我々も招待され，個人的にも，学術的にも交流が続いている。我々の研究グループのスーパーバイズも引き受けてくれている。
すでにACTを学んでいる人にとっては，ACTマトリックスは使いやすいツールとなるだろう。現在，私はほとんどのACTセラピーでACTマトリックスを使っている。はじめてACTを学ぶ人にとっては，取り組みやすく学んでいけるだろう。ACTには独特の専門用語（脱フュージョンや体験の回避など）がある。それを使うことには，これまでクライエントが学習している言語的な関係づけの影響を受けにくくなるという利点がある。ACTマトリックスではそれを直観的により理解しやすくし，ACTの見方や考え方（機能的で文脈的な見方）を学習することができる。
本書の第１部は，ACTマトリックスの６つのステップを解説している。それぞれのステップは，すぐに使うことができるように，実践的に書かれている。ACTマトリックスの特徴の１つは，多くのワークシートや視覚的な教材（マトリックスカード）を使うことにあるが，各ステップで使用されるワークシートやマトリックスカードの使い方が説明されている。また，「言葉の合気道」「テレポーテーション」や「母猫のエクササイズ」などのACTマトリックスを代表するエクササイズの実施方法が詳細に書かれている。実際に使ってみるとこれらのエクササイズは，とてもうまくいく。視点取得のスキルや不快な感情や考えと距離を置いて自分自身の一部としてそれらを認めていくスキル，これらのスキルを臨床場面でトレーニングしていくことは，セラピストに十分な経験とスキルが求められるが，ACTマトリックスは，これらの高度なスキルをクライエントにトレーニングしていく方法をシンプルにしている。
第２部は，ACTマトリックスの応用編として，治療関係，カップルや青少年への適用，企業の中での応用，他の心理療法との統合（機能分析心理療法，弁証法的行動療法や行動活性化など）について，ダイナミックな使い方が紹介されている。
本書の翻訳は，我々の研究グループのメンバーが行った。それぞれの訳者はACTの実践者としてのキャリアを持ち，ACTのコミュニティであるACBS（Association for Contextual Behavioral Science）のメンバーである。丁寧に訳文を作成していただいた。全体の見直し，最終的なチェックは谷が行ったので，誤訳や表現の不十分さは，谷に責任がある。本書の企画段階から，出版を引き受けていただき，丁寧な校正をしていただいた遠見書房の山内俊介氏には，多大な尽力をしていただいたことを記して感謝する。本書を通して，多くの人がACTマトリックスを学んでいただけると幸いである。

谷　晋二