ドクトルきよしのこころ診療日誌──笑いと感謝と希望を紡ぐ

ドクトルきよしのこころ診療日誌
――笑いと感謝と希望を紡ぐ

(長田クリニック院長,精神科医)長田 清 著

1,800円(+税) 四六判 並製 216頁 C0011 ISBN978-4-86616-136-5

薬は適度に。あとは,
解決志向ブリーフセラピーと内観でじっくり話を聞けば
患者さんの人生が変わっていく
ケースとヒントが満載の臨床エッセイ

医者の権威を出すと診療面接がうまく行かず,無知の姿勢を通すと患者さんの方がイライラ。希望通りに薬を出したり,生活習慣上の注意もしないでいると,みるみる健康状態が悪化する。医療上のコメントははっきり言おうと舵を切ると,そのうち医師の権威が表に出て,患者さんを従わせたくなる……。心理療法を学び,悪戦苦闘・右往左往の結果,理想の診療に近づいた心療内科クリニックのドクターと,そこに集まった患者さんたちの人生の物語。

患者さんとの触れあいを中心とした,日々の診療を振り返ってみたいと思います。この本はタイトルにもあるように私の日常診療の記録です。対話の記録は毎日作られ,考察は後から考えてまとめます。この本では22のストーリーを紹介します。私は相談に来られた方が少しでも元気になるように言葉かけをします。それがどのように働くのか,専門家以外の方にもわかるように,私の心の動きを見せながら解説します。対話録の中に,それを私の独白として挿入しました。どうしてそんな質問をしたのか,私の意図を明らかにしています。何が大切で何を無視していいのか,この本が人と関わり,人を理解する上で皆さんの参考になれば幸いです。(本書「はじめに」より)


主な目次

第1部 泣き笑い人生 夫婦編
1.「許せない」
2.「涙が止まらない」
3.「お前馬鹿か」
4.「そんなことするもんですか」
5.「後悔しています」

第2部 自分を取り戻す 職場編
6.「支離滅裂です」
7.「私、正しいのに」
8.「自分を変えたい」
9.「孤独なランナー」
10.「引いてばかりです」
11.「学校行きたくない」

第3部 なんてったって 親子編
12.「認めてほしい」
13.「娘に手を焼いて」
14.「どうしてこんな子に」
15.「鬼さんどちら」
16.「枢要徳」

第4部 旅ゆけば 老年期編
17.「愛しているのは夫だけ」
18.「呆けてます」
19.「浮気許して」

第5部 まだまだだけど 死の不安編
20.「次は自分の番」
21.「何で生きないといけないのか?」
22.「頑張ります」

第6部 私の物語
23.「きよしのストーリー」


著者略歴

長田 清(ながた・きよし)
 
精神科医,医学博士,長田クリニック院長。
 徳島大学医学部大学院卒。林道倫精神科神経科病院,東京都立松沢病院,沖縄県立精和病院勤務を経て,2001年クリニック開院。内観療法,催眠療法,心理教育,認知行動療法,心理劇,EMDR,ブリーフセラピー,解決志向アプローチ,ポジティヴ心理学他の心理技法を治療に使う。NPO法人おきなわCAPセンター(児童虐待防止活動)の代表を務め,子育てやいじめ,教育の問題に積極的に関わる。県内の児童養護施設で職員へのスーパーバイズ,企業のメンタルヘルスケアも行う。沖縄いのちの電話理事長,沖縄精神科診療所協会副会長,沖縄エッセイスト・クラブ事務局長。
著書:分担執筆「心理療法プリマーズ内観療法」2007,ミネルヴァ書房/分担執筆「今日の治療指針2011」2011,医学書院/分担執筆「外来精神科診療シリーズ 精神療法の技と工夫」2017,中山書店/共訳「EMDR外傷記憶を処理する心理療法」2002,二弊社/共訳「学校で活かすいじめへの解決志向プログラム(Solution-Focused Scools Anti-Bullying and Beyond)」2012,金子書房/「ウクレレきよしの歌謡医学エッセイ」2018,幻冬舎


はじめに

私は長い間、精神病院で精神科医をしていました。そして平成十三(二〇〇一)年に精神病院を出て、心療内科クリニックを開業しました。精神病院では重い精神障害を抱えた人たちのケアが中心でしたが、クリニックでは心と体が結びついた症状の方を多く診ることになりました。朝吐き気がして学校に行けない、めまいやふらつきで職場に行けない、ドキドキが止まらない、喉が詰まって息苦しい、体がだるくて何もやる気が起きない、などの身体症状が中心の人たちです。そんな患者さんたちは、多くの医療機関を回り検査や治療を受けても良くならず「どこも異常がない」「精神的なもの」と言われて途方に暮れます。そして病気や症状の背後には「心の問題がある」との疑いが出て、私どものクリニックに来ることになります。
ありがたいことに、身体に異常がないことがわかっているので、ご本人のストーリー(物語)をゆっくり聞かせてもらいます。最初はストーリーがなく、症状しかない人も多いのですが、話を聴きながら、その「心」や「感情」を引き出していって、その人の「価値観」「信念」に沿ったストーリーが見えてくると、治療が進んでいきます。
人は皆、多くの苦悩を抱えながら生きています。それを上手にやり過ごし、対処して、気持ちを切り替えながら暮らしています。それがある日突然、うまく回らなくなりますが、理由がわかりません。「心」は見えず、症状しかありません。その時、抑えている「感情」に気づくと「心」が見えてくることが多いものです。しかし私は深く掘り下げません。単純な「心」や「感情」の動きに気づいて、その場を対処することができればいいと思っています。後はまた自分のやり方に戻って、生きていけばいいのです。
診察室の中ではそういう「心」の動きを診る毎日ですが、同時に「相手の心」に反応する「私の心」もあります。知性、理性で反応する部分もありますが、より相手を理解するためには情緒的に共感する部分を拡げるように心がけています。
そんな患者さんとの触れあいを中心とした、日々の診療を振り返ってみたいと思います。この本はタイトルにもあるように私の日常診療の記録です。対話の記録は毎日作られ、考察は後から考えてまとめます。この本では二十二のストーリーを紹介します。私は相談に来られた方が少しでも元気になるように言葉かけをします。それがどのように働くのか、専門家以外の方にもわかるように、私の心の動きを見せながら解説します。対話録の中に、それを私の独白として挿入しました。どうしてそんな質問をしたのか、私の意図を明らかにしています。何が大切で何を無視していいのか、この本が人と関わり、人を理解する上で皆さんの参考になれば幸いです。最後に私自身のストーリーも載せています。

ドクトルきよし誕生
私は若い頃にある学会で、私の発表に対して心理学の大家から「お医者さんのカウンセリングだね」と言われました。私はカウンセリングを勉強していて、患者さんの言うことを受容・傾聴して、患者さんファーストでカウンセリングを進めようと思ってはいました。しかしどこか医者としての権威が出て、患者さんの後からついていってないことを見抜かれたのです。それから葛藤が始まりました。
できるだけ無知の姿勢で、教える気持ちは捨てて教わる心で接するようにしました。それでしばらくうまくいきます。しかし、患者さんから何を聞かれても「そうですね……」「……あなたはどう思いますか」と答えを出さないようにしていると、患者さんの方がイライラしてきます。そしてその希望通りに薬を出したり、生活習慣上の注意もしないでいると、みるみる健康状態が悪化します。そこでまた、医療上のコメントはハッキリ言うべきだと舵を切り、心理教育で分かりやすく説明し、こちらの治療方針に理解を得るようにしました。それでまたうまくいくようになりました。
それがいろんな場面で広がると、また医師の権威が表に出て、患者さんを従わせるようになります。それで反省してまた舵を切り返します。このように、やさしい羊になったり追い回す牧羊犬になったり、右往左往です。しかし、心理療法をいろいろ勉強してきたおかげで、患者さんの笑顔は増えて、私の理想とする診療に近づいていきます。診療ではストレスなく対話が進みます。ただ「お医者さんのカウンセリング」という呪縛があるため、私の治療は人に話せるものではありませんでした。
それが最近、解決志向アプローチをしている友人から「長田先生の治療は、お医者さんというリソース(資源)を上手に使っていて、それは強みじゃないですか。ドクトルきよしの治療ですよ」とコンプリメント(称賛)して貰いました。その言葉で長年のコンプレックスが払拭され、解決志向のパワーを自身でも体感。友人が私の良いところを見つけて、的確に褒めてくれる言葉にエンパワメントされ、自信を取り戻したのです。
そこで恥ずかしながら、「ドクトルきよし」と大層な名前を名乗って治療のやり方を発表することにしました。決して私が偉大なドクターという意味ではなく、医師としての権威を消すことができない、中途半端なカウンセラーであることを開き直って、リフレーミング(肯定的に言い換え)した結果ということです。
それでは、ドクトルきよしワールドをお楽しみください。
(尚、患者さんの個人情報保護のため、事例データの年齢や職業、家族構成など対話の要点が変わらぬ程度に変更を加えていることをお断りしておきます。)

 

 

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