電話相談活用のすすめ 心の危機と向き合う[オンデマンド版]
電話相談活用のすすめ
心の危機と向き合う[オンデマンド版]
吉川武彦・高塚雄介 編
定価2,650円(+税)、164頁、A5判、並製
C3047 ISBN978-4-86616-023-8
電話相談へのいざない
本書は,電話相談のベテランたちによる電話相談をよりよいものにするための読本です。社会世相の変容から,子どもから大人まで潜在的な電話相談のニーズは増えていますが,しかし,声だけを頼りに電話で人の悩みに対応することは難しいものがあります。
相談員としては,世の中に起きているさまざまな現象の背景に何が起きているかを認識するとともに,電話相談によりそれに対してどこまで対処できるかということを常に検証していくことも求められています。
この本ではそうしたことを踏まえつつ電話相談に関して基本的に認識してほしいことを盛り込んでみたつもりです。
多くの電話相談に関わっている方,これから電話相談に関わりたいと思っている方にとって,最良の1冊となりました。
序章 電話相談へのいざない──序論に変えて ■ 高塚雄介
第1章 電話相談……,この悩ましいもの──精神医学と精神保健福祉の視点から── ■ 吉川武彦
第2章 子ども虐待相談の現状 ■ 山本恒雄
第3章 学校の問題と電話相談 ■ 長岡利貞
第4章 生きづらさを抱える若者たち──なぜ増える若者たちのひきこもりと自殺── ■ 高塚雄介
第5章 増える若者の自殺をどう見るか ■ 清水康之
第6章 働く人の健康と精神的サポート ■ 福島眞澄
第7章 電話相談とコミュニティとの関係 ■ 影山隆之
第8章 電話相談の研修の目指すところ ■ 古川 幸
第9章 電話相談のこれから ■ 林 幹男
第10章 座談会:ネット社会における電話相談を考える ■ 今村泰洋・片岡玲子・小林正幸・高塚雄介
ほか
東京多摩地区を母体として設立された「東京多摩いのちの電話」が,設立30周年を迎えることになりました。設立に関わった多くの方々はすでに第一線を退き,相談員を務められた方を含めてお亡くなりになられた方も少なくありません。
この本はこの30年間を振り返るとともに,これまで関わっていただいた多くの方々の支援に報いるために,相談に寄せられた数々の内容から,わが国の今日的 な社会問題を秘めていると思われる事柄について,それぞれの第一人者に執筆をしていただき,私たち「東京多摩いのちの電話」関係者のみならず,広く似たよ うな相談を受けておられるさまざまな電話相談機関の関係者や一般市民の方々にも役立ててもらおうという意図のもとに企画されました。
この本に執筆していただいた方の半数は,何らかの形で「いのちの電話」に関っておられる方たちです。他の執筆者の方たちも「いのちの電話」以外の電話相談に関っておられる臨床家の人たちです。
非専門家の人たちによってボランティア活動として始められたのが「いのちの電話」ですが,今日では,医療・福祉,教育・心理・法律などの分野で,いわゆる 臨床・対人支援活動を行う専門家の人たちが電話相談に関わるのがごく当たり前のことになっています。しかし,30年前の時代はそうではありませんでした。 「いのちの電話」の相談員の多くは非専門家であるとはいえ,2年間にわたる長期の研修を課せられ,人の話を聴くことの難しさを体得した者のみが相談に応じ ることが認められています。専門家の訓練に劣らないハードな試練が課せられました。その厳しさに,いわゆる臨床の専門家たちは驚かされるとともに,電話に よる相談活動の意義や役割に次第に関心を持つようになっていきました。
そして,公的な相談機関を中心としていろいろな電話相談が生まれるようになってきたのですが,次第に相談対応の仕方にも違いが目立つようになってきました。
例えば「いのちの電話」には創始期の頃から持っている原則がいくつかあります。それは,
①一回性の原則
②匿名性の原則
③助言,アドバイスのようなことはしない原則
というものです。その意図するところというのは,この本の執筆者によって詳しく説明されていますが,さまざまな専門家や専門機関が取り組むようになった電 話相談においては,その原則が必ずしも絶対視されなくなってきました。専門家や専門機関が対応してくれる電話相談に対しては,コーラーの側からすると適切 な助言やアドバイスをして欲しいから電話をしているというものが少なくないからです。専門性に対する期待がそこにはあります。電話相談とはどうあるべきか ということについて,もはやすべて一律ではなく差別化が求められるようになってきたと言えるでしょう。
しかし,声だけを頼りに電話により人の悩みに対応することの難しさというのはどのような電話相談でも変わりありません。世の中に起きているさまざまな現象 の背景に何が起きているかを認識するとともに,電話相談によりそれに対してどこまで対処できるかということを常に検証していくことも求められていると言え るでしょう。この本ではそうしたことを踏まえつつ電話相談に関して基本的に認識してほしいことを盛り込んでみたつもりです。
この本の編集段階の最後に悲しい報が届きました。編著者として名を連ねている吉川武彦先生が急逝されたのです。先生のご略歴は巻末に記載されています が,2014年度の日本電話相談学会の大会長を務められるなど電話相談に対しての強い関心を抱いておられました。大会の直後に体調を崩され,案じていたの ですが,4月より清泉女学院大学学長に復職されると伺っていた矢先の訃報でした。この本に執筆されているのが,先生のご遺稿ということになります。ご冥福 をお祈りいたします。
平成27年4月1日
編者を代表して 高塚雄介
編者略歴
吉川武彦(きっかわ・たけひこ;1935年~2015年)
金沢市出身,精神科医,千葉大学医学部卒,医学博士
長野県立駒ヶ根病院医長,琉球大学教育学部教授,東京都中部総合精神保健福祉センター部長,国立精神神経センター精神保健研究所長,中部学院大学教授を歴任。国立精神神経センター精神保健研究所名誉所長・清泉女学院大学学長。
日本精神衛生学会元理事長,日本電話相談学会常任理事,東京多摩いのちの電話理事等。
高塚雄介(たかつか・ゆうすけ;1945年~)
中国・大連市出身,臨床心理士,中央大学文学部卒
中央大学学生相談室,早稲田大学学生相談センター,東京学芸大学保健管理センター,新大塚クリニック精神科等の心理相談員,常磐大学教授を経て,現在,明星大学教授。東京都,内閣府,日野市等でひきこもり・自殺問題等の調査・対策委員として参画。
日本精神衛生学会前理事長,公益財団法人日本精神衛生会理事,日本電話相談学会副理事長,元東京多摩いのちの電話理事等。
執筆者一覧(執筆順)
高塚雄介(明星大学)
吉川武彦(清泉女学院大学学長)
山本恒雄(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会愛育研究所 客員研究員)
長岡利貞(椙山女学園大学)
清水康之(NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク)
福島眞澄(リカバリーデスクofメンタルヘルス)
影山隆之(大分県立看護科学大看護学部看護学科)
古川 幸(臨床心理士・東京多摩いのちの電話研修委員長)
林 幹男(福岡大学人文学部教育・臨床心理学科)
今村泰洋(東京都教育相談センター)
片岡玲子(立正大学心理臨床センター顧問・日本臨床心理士会副会長)
小林正幸(東京学芸大学)
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