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『心理療法のためのリラクセイション入門』
──主動型リラクセイション療法《サート》への招待

大野博之(福岡女学院大学教授,九州大学名誉教授)著

定価2,400円(+税)、210頁、四六版、並製
C3011 ISBN978-4-904536-22-3

心理療法のなかでのリラクセイションとして手軽に使えるワザ!

「動作法」のセラピストとして名高い著者が多くの臨床経験の後にたどりつき,開発したリラクセイション法「主動型リラクセイション療法(サート:SART)」を詳解した1冊。
クライエントひとりでも施行可能で,こころとからだをつなぐワザが,それらの動作課題のイラストと丁寧に解説した文章で,だれでもわかる! だれでもできる!

本書の詳しい内容


おもな目次

はじめに――新しいリラクセイションで世界が変わる

第 I 部 からだとこころの心理療法

第1章 心身複合体としての人間
1.からだと性格
2.からだと感情
3.からだと知覚
4.からだとコミュニケーション
5.緊張と心身の不適応

第2章 従来の心理療法におけるリラクセイション
1.催眠療法とリラクセイション
2.行動療法とリラクセイション
3.自律訓練法とリラクセイション
4.漸進的弛緩法とリラクセイション
5.自己コントロール法とリラクセイション
6.動作法とリラクセイション

第 II 部 サートを学ぶ

第3章 主動型リラクセイション療法:サート――その基本理論
1.サート・スピリッツ─サートにおける人間理解
2.サートの主要概念
3.自分感
4.サートの主要概念の関連性

第4章 サートの基本技法
1.サート面接の特徴と効用
2.サートの基本技法とその進め方
3.プレ・アセスメント
4.サートの基本姿勢:側臥位姿勢
5.課題の実施
6.系統 I (上体のリラクセイション)
7.系統 II (下体のリラクセイション)
8.系統 III (全体のリラクセイション)
9.ポスト・アセスメント
10.心理治療としてのサート面接の実際
11.課題実施全般における留意点

第5章 ひとりサート
1.ひとりサートの心得
2.進め方
3.ひとりサートの実際

第 III 部 サートの実践

第6章 事例から理解するサート
1.アルコール依存・うつ症状の画家の事例
2.急性リンパ性白血病を患ったSさんの事例
3.0歳の脳に損傷のある肢体不自由児(A児:#1時に月齢10カ月)
4.サートを用いて過敏性腸症候群の症状が改善した男子高校生の事例
5.受験不安を抱える吃音症の青年の事例
6.子育て支援事業におけるサートの活用


推薦の辞

大野博之さんは私が九州大学へ助教授で赴任した1962年に教養部から教育学部へ進学してきて,私が指導することになった最初の学生です。その後の学部か ら大学院の修士,博士,助手の後,福井大学の数年を経て,再び九大に戻り,新設された我が国唯一の障害児童学講座担当の教授となってからも,さらには定年 退官後の現在に到るまで,ズーッと私にとっては掛け替えのない貴重な共同研究の仲間であり動作訓練展開の同士であり続けてきました。
思えば,私達が1970年から脳性マヒで肢体不自由に悩む人たちのための訓練法を研究・開発し始めた当時の医学と教育の分野では,決して治癒することのな い脳の障害のため,それに関わる肢体も同様に決してよくならないとされていました。その考えが全く誤りであって,こころとからだの間の調整を適切に訓練し さえすれば,健常者に劣らぬほど肢体が自由になり得ることを実験的にも臨床の現場でも確証してきました。この研究は国内数多くの大学,研究機関,全都道府 県の肢体不自由養護学校・施設からの参加・協力を得て,文化系としては珍しく大規模かつ長期間に亘る継続プロジェクトになりましたが,お陰で今日では,医 療の分野でも教育のそれでも,あるいは福祉の領域でも広く認められ,国際的にも英米を始め,ことに東南アジアでは国により国家的な事業として広く行われる までになってきました。その間,まさにそのプロジェクトの中枢に位置し,最長老者として訓練集団を統括し,後輩を指導し,グループをまとめながら,しかも この子たちの不自由の本質を自らの独自な研究で解明するなど,はっきり言えば,大野さんの存在がなければこの世界独自のプロジェクトはとても成り立たな かったといっても過言ではありません。
その後,このこころとからだの調整という動作訓練からさらに発展して,心理的な不安や適応上の問題に悩む人のための動作療法として展開され,さらには心理 的な生活上の諸問題のための臨床動作法から,その基礎にあるこころとからだの関係解明を目指す動作学として新たな研究段階に入ってきました。大野さんのこ の本はそんな研究発展の途中で,根幹的に重要な役割を果たすリラクセイションの問題を取り上げ,その具体的な技法について,永年に亘って育んできた貴重な 奥義・秘伝を大野流リラクセイション・SARTと銘打って公開・披露したものです。
その中で大野さんの最も重視してきたのは主動ということでした。それに対することばは他動です。大野さんの心理援助ではクライエントが自らの力と努力でリ ラックスするのでなければ本当の援助効果は得られないから,他者すなわち援助者が動きや自己弛緩を手助けせず,いかに自分でリラックスできるように援助で きるかが中心課題です。リラクセイションが重要なことは巷間に広く流布され周知のことですが,実際に援助をはじめてみるとそれがいかに難しいかは,実地の 経験者なら誰でもが熟知しています。大野さんが有効な方法として微に入り細に亘って記述したのをみれば,この難行にいかに腐心したかが推測できます。それ を全くの手助けなしで進めるための方法に仕上げるのが大野さんの自らに課した課題だったからでしょう。
実際に臨床現場で心理的な援助を必要とするクライエントに接していて,本当に確実なリラクセイションができやすいのは,ことばや知識・理解に拠るよりも, 何と言っても動作を通してこころをもリラックスするという現象に拠ることになるし,また動作をするという体験過程が即,心理援助そのものになっているとい う点で,私の臨床経験からも大野さんの立場へ全く同意しています。現在この分野で研究の進んでいる動作療法や臨床動作法などで取り組んでいる動作という現 象は,リラックスすなわち「弛める」に加えて「力を入れる」,「動かす」,「体軸」,「立位」など,主体による多様な努力活動から成り立っています。その うちのリラクセイションを基本的な要件として取り上げ,そのための有効な方法を披露して,心理援助の分野に具体的な途を開こうとした点で大野さんの貢献に は少なからぬものがあります。
主動でない動作はありえないのですが,その援助の方法には他動と主動があって,そのいずれから始めるかが技法の分かれ目でしょう。大野さんの目指すリラク セイションでも,実際には動かさずには弛められないようだし,どうしても他動の援助は必要なようですから,両者を画然と区別せず,いかに他動から主動へと 適切に移行できるかの方法・理論が聞きたかった。また,目指すからだの部位に意図通りの力を入れる,課題のコースに沿って動かす,重力に対応して真っ直ぐ かつ柔軟な体軸を立てるなどのためのリラクセイションヘも考察が進むとさらに利用・活用が拡がったでしょう。なお,からだの外的な動きだけでなく,それに 伴う内的なこころの体験の仕方・様式と体験過程が深められると,動作がいかに心理療法や心理臨床に役立つかがもう少し理解し易くなったでしょう。
新進の書肆による本書の刊行を機に大野流リラクセイションの公開を祝福し,若干のコメントを加えながら,今後にそのいっそうの展開を切に期待して,50年来の畏友大野さんのための推薦の辞といたします。

九州大学名誉教授 成瀬悟策


はじめに

心理療法とは,人が幸せに生きる力を獲得できるように援助する具体的な方法である。
幸せに生きること,それが人間の行う活動の全ての目標である。ただし,幸せは主観的なものである。生まれてきてよかった,生きるということはなんとすばら しい,毎日が充実している,未知の明日に対して期待や意欲が不安に勝るなどの「実感」を持ちながら日々を過ごせたら,おおよそ幸せといえるであろう。「当 人」の実感が肝心だから,幸せとは誰もが客観的に認められる形あるものではなく,その人が主観的に捉えるものである。たとえば,充実感を得るのに,苦痛と 苦悩に満ちた感じが伴っていなければ物足りない人もいるであろう。普通なら誰でも求める経済的余裕や人からの称賛,人並みの生活の安定をもっていても,自 分は不幸と思う人もいるであろう。
このように考えると,日々を生きて活動しているその人,すなわち,「当人」が日々の生きる活動における体験やそれによって湧きおこる自分の実感に的確に気づき,自己選択に基づいて自分の人生をコントロールしている,または,コントロールできるという確信をもつことが幸せの根本的な条件であるといえよう。なぜなら,このような自己存在に対する確信または自己信頼こそが,幸せの主体である自分自身を否定することや,自尊心が阻害されることから自分を守る唯一の 力になるからである。この力さえあれば,生きる日々や時間の流れの中で変化する自分や自分を取り巻くどんな環境に直面しても,積極的に対応することができ るし,ありのままの自分の力を存分に発揮することができるのである。この力に歪みがあれば,問題を引き起こすことになりかねない。
筆者は約40年間にわたり心理臨床実践に携わり,神経症,心身症,心理的不適応等さまざまな心理療法の対象から障害児者の心理的リハビリテイションに至る まで,数え切れないくらいの人々とつきあい,その改善を見届けてきた。このような実践の中で,今に述べたような「力」を身につけ,人が主体的に自分の幸せ を創造し,獲得する心理療法の可能性を確信するに至った。
その可能性を実現する具体的な技法として,筆者は「リラクセイション」に着目し,新しいリラクセイション技法である「主動型リラクセイション療法 (Self-Active Relaxation Therapy ; SART)」(以下,サートと称す)を提唱した(大野,2004,)。筆者の心理臨床実践は催眠療法から始まり,自律訓練法,動作法といった変遷を辿って いるが,これらの技法に共通する「リラクセイション」を一貫して探求し,独自の工夫を加え実践してきた。その中で,リラクセイションは通常心理療法で補助 的手段として見過ごされがちであるが,「当人」の主体的な自己コントロールを最も活かす心理療法の確立のための有用な手がかりがリラクセイションにあると いう確信を得ることができた。このような確信から,これまでにリラクセイションに対する筆者の新たな捉え方を理論的に構築し,一般的に用いられるように具 体的な技法を体系的にまとめたものがサートである。
従来のリラクセイションは“力を抜く”,“沈静する”,“休止(静止)する”ことを重視し,「緊張」から「弛緩」の方向へ進めることを基本として捉えてい た。それに対し,サートは,「緊張」と「弛緩」をコインの表と裏のように対を成すものとして捉え,「適度緊張-適度弛緩」のバランスのよい状態および動き のコントロールを重視し,自己活性化や積極的な自己変革を目指すリラクセイション療法である。その手続きにおいて最も重要な手がかりとなるのは,リラクセ イションに取り組む「当人」の「主動」である。
「主動」とは,「自分が動かす」,「自分が主体として動く」,さらにいえば「自分が主体として生きる」ことを意味する。すなわち,今・ここに存在する「当 人」の生きる活動全てを指すものである。このような「主動」に基づいた人間理解をすれば,「主動」は生きとし生けるものすべてに存在し,「当人」のあるが ままの存在を表現するものである。「主動」で表現される「自分が主体として動く」,「自分が主体として生きる」ということは,目標とするものを積極的に達 成できる,または,成長した自我に基づいて積極的に自己選択して生きるといった一般的な意味合いに留まるものではない。一瞬一瞬今・ここを生きる「当人」 が自分のあり方や活動を実現する当事者であること,それゆえに,変化・成長の手がかりや可能性も今・ここに生きる「当人」の,今・ここでのあり方や活動に あることを含めて,誰しも「主動」のもとで生きていることを意味している。したがって,「主動」には,あるがままのその人の“素”の姿があり,本来の力や 可能性を引き出し,展開する手掛かりがあるといえる。
サートは,従来の心理療法においてあくまでも補助的な役割に位置づけられてきたリラクセイションを,「主動」の視点から捉え直し,障害者であろうと健常者 であろうと,乳児であろうと高齢者であろうと,どんな問題を抱えている人であろうと,生きて,生活している限り,呼吸もし,どんな形であろうと「当人」が からだを動かしている事実があることに着目している。よって,サートは,間違った動きであろうが,あるまいが,その人の「主動」を読み取り,それを活かし たリラクセイションが,自分の力や可能性に気づくとともにそれらを自ら引き出し,さらに主体的に変化・成長させていく手助けとなることを実証する心理療法 である。能動的な自己調整力と「当人」の主体性を取り戻すことがさまざまな心身の問題を解決する基本的な力であることを考慮すると,「主動型リラクセイ ション」は心理療法の新しい地平を開く画期的な方法を提示しているといっても過言ではない。
サートは2004年に提唱されて以来,0歳児から高齢者に至るまで,心身症,神経症,難病後遺症,肢体不自由,発達障害,ダウン症,不登校,引きこもりな ど多くの事例に適用,その効用とさまざまな領域での利用価値が確かめられてきた。さらに,現在では心理療法として心身諸機能の改善に留まらず,子育てや高 齢者の健康維持,学校生活の意欲向上など,日常生活の改善にも役立っている。
サートの有用性のうち,心理療法におけるセラピスト側のメリットとして特記すべきことは,まず,その適用において安全性が保証されている,害が少ないこと である。セラピストの目標や手助けに重心が置かれるのではなく,課題解決へのクライエントの主体的関わり,すなわち,「当人」の「今・ここ」での主動的動 きに焦点を置くことによって,課題遂行に無理がなく,かつ,クライエントの実感に基づいてリラクセイションを進めることができる。したがって,セラピスト もクライエントもリラクセイションにおいて同じ体験を共有することができ,それがさらに,クライエント自身の自分への気づきを深め,セラピストのクライエ ントへの理解を深める。このようにして,クライエント自身が自ら解決していく実感を得るとともに,セラピストはクライエントのあるがままの“素”の状態に接し,彼が必要とする援助を実践することができることから,セラピストは確実な手応えとともに,早期にクライエントの問題解決に有効に作用する変化を得る ことができる。次に,サート技法の習得および実施における簡易さが挙げられる。「今・ここ」における「あるがまま」のクライエントに人間本来の生きる力が 備わっており,その人が表現する全てが生きようとする意欲や努力の現れとしての「当人」の主体的活動であると捉える主動的見方,構えさえあれば,サート技 法は定型に沿って実施することで十分である。
本書では,まず,心理学のさまざまな理論や視点から心身が統合された全体的存在としての人間理解がなされていることを概観することによって,からだにアプ ローチする心理療法の意義を考える。さらに,心理療法において十分に取り上げられることがなかった従来のリラクセイションに関する理論と技法の特徴をまとめる。その上で,サートの具体的な事例を通して,すぐに役立つ心理援助技法としての具体的手続きや進め方を提示し,リラクセイションの新しい見方や理解を 深めることをねらいとする。


あとがき

本書は“リラクセイション”として知られる心理現象を動作法の主要概念である“主動”の考え方を軸として開発した心理療法“サート”について心理臨 床実践に役立つように紹介したものです。サートは「当人=動作の主体者」の意図を重視したアプローチであり,当人が直接関与した意図が心理諸活動の源泉と なっているという考え方に立脚したものであります。
本文に述べたように,脳性まひ者の不自由な行動を特徴づける過緊張の状態が自らの意図を封じ込めるほどの大きな力を有していることや,彼らの心や身体の活 動が大きく制約され,課題遂行に必要な緊張をはるかに上回る心的努力と実行のための筋・骨格の活動を必要としていることを示唆しています。意図の存在とそ れを実現するための努力の仕方を改善すれば,不自由な動作や行動が改善することがわかりました。そればかりでなく,当面の課題を達成できるだけでなく,彼 らの心や行動を活性化し,生き生きした豊かな生活に結びつくことがわかってきました。これらの事実に力を得て,人の身体の動き,すなわち動作自体に大きな 価値があることを見出し,動作を活かしたアプローチが成瀬悟策先生を中心とする研究者や実践家の集団によって精力的に展開されることになりました。その結 果,“動作訓練”や“動作法”,“臨床動作法”,さらには“動作療法”の理論・技法の開発と普及に繋がったと考えています。
本書で紹介した“サート”も動作法の発展形態の1つであります。このアプローチは,当人にとって可能なこととそうでないことを見極めながら,当人の“意 図”を最大限に活かすことによって実生活を豊かにしていくことを目標にしています。サートは,当人の意図を直接具現化する主動に焦点を当て,その働きに よって“リラクセイション”を実現する心理メカニズムを実践可能な形で表しています。
サートを公にしてからまだ10年に満たない短い期間ではありますが,動作法の文脈に繋がる理論と技法であり,検討すべき課題は多くあります。その一方,本 書で示した事例も含め,障害を持つ人たちを含め,これまでに多くの人たちにサートを適用してきましが,クライエントや利用者の多くの方がその成果を肯定的 に受け止め,それぞれの日常生活や活動において想像以上の成果をあげています。
実践にあたって心理臨床や教育,福祉などの現場において多くの方々からの熱意を込めたご協力,ご支援をいただいていますが,副作用がなく効果を確実に期待 でき,実践に利用しやすいとの報告も数多く受けています。私自身も積極的に実践に取り組んできましたが,クライエントの皆さんから学ぶことが多く,経験の 蓄積とともにサートの着実な成長を実感することができ,確実な手ごたえを感じています。
本書のために福岡女学院大学准教授の奇 恵英氏(第6章6節)および聖マリア病院臨床心理士の木村佐規子氏(第6章4節)の両氏にはそれぞれぞれの立場から資料提供だけでなく,日常の実践活動の あり方などについて積極的提言をいただいてきました。福岡女学院大学大学院生や研究生にも資料の収集や整理を手伝っていただきました。とりわけ,本書の企 画から刊行に至る間,遠見書房社主山内俊介氏から理解あるご協力のもと,格別なご尽力をいただきました。お世話になった皆さんに心から感謝の意を表したい と思います。


著者略歴

大野博之(おおの・ひろゆき)

臨床心理士,教育学博士,九州大学名誉教授,福岡女学院大学大学院人文科学研究科教授,日本リハビリテイション心理学会理事長