発達支援につながる臨床心理アセスメント──ロールシャッハ・テストと発達障害の理解

発達支援につながる臨床心理アセスメント──ロールシャッハ・テストと発達障害の理解

明翫光宜 著

2,800円(+税) A5判 並製 208頁 C3011 ISBN978-4-86616-186-0

 

アセスメントの結果を,発達障害特性のあるクライエントの多様な状態像とニーズの理解,そしてさらにその先の支援につなげるために──

本書は,発達障害特性のあるクライエントを理解し,さらにその支援につなげるための心理アセスメント,発達検査,ロールシャッハ・テストについて詳しく解説し尽くした論文集です。
著者は,25年以上にわたり,投映法,中でもロールシャッハ・テストをはじめとするアセスメントと,発達障害の支援を両軸に研究・実践を積み重ねてきました。しかし,発達障害特性に関するアセスメントツールが次々に開発される一方で,必ずしも支援者教育が十分に浸透しているわけではないと著者は述べます。
臨床心理検査を発達障害領域で有効活用するためのヒントが散りばめられた一冊となりました。

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目  次


第I部 支援とアセスメント
第1章 発達障害理解のための心理アセスメント
第2章 発達検査
第3章 発達障害に関する検査
第4章 養育者の評価
第5章 生活困窮者支援におけるアセスメントの現状と課題
第II部 投映法を発達障害支援に活用するために
第6章 自閉症の体験世界と描画との関係
第7章 広汎性発達障害児の人物画研究 DAM項目による身体部位表現の分析
第8章 発達障害のロールシャッハ法(1)基礎研究の知見の紹介
第9章 発達障害のロールシャッハ法(2)反応特性から支援の方向性へ
第10章 発達障害領域の心理アセスメントとロールシャッハ・テスト
第11章 高機能広汎性発達障害と統合失調症におけるロールシャッハ反応の特徴(1)数量的分析
第12章 高機能広汎性発達障害と統合失調症におけるロールシャッハ反応の特徴(2)反応様式の質的検討
第13章 Basic Rorschach Scoreにおけるパーソナリティ理論
第14章 事例K. H. のロールシャッハ解釈 包括システムからの理解


著者略歴


明翫光宜(みょうがん みつのり)
中京大学大学院心理学研究科博士後期課程中途退学。博士(心理学)。2005年中京大学心理学部助手。東海学院大学人間関係学部,東海学園大学人文学部の勤務を経て,2012年中京大学心理学部・心理学研究科講師。2020年より中京大学心理学部・心理学研究科教授。専攻:発達臨床心理学,心理アセスメント。
主な著書:『発達障害の子の気持のコントロール』(共編著,合同出版,2018年),『発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン』(共編著,金子書房,2014年),『臨床心理学の実践:アセスメント・支援・研究』(共編著,金子書房,2013年),翻訳『子どもと親のためのフレンドシップ・プログラム』(共訳,遠見書房,2023年)ほか。


はじめに

 

本書は,主に発達障害に関するアセスメントを臨床心理学の視点から述べたものである。発達障害のアセスメントの専門書が多くある中で,本書は伝統的なアセスメント技法である投映法についても詳しく取り上げている点が特徴であろう。本書のキーワードは発達障害とアセスメントとなるため,この2つのキーワードについて触れておきたい。

1つめは発達障害である。筆者が臨床心理学を本格的に学び始め,心理臨床の実践を行ってきた約20年を振り返ると,臨床心理学そのものが大きな変化の渦中にあったといえる。それは,発達障害概念の急速な普及である。2000年あたりから,発達障害概念が急速にかつ広く臨床現場に浸透していき,かなり身近な存在となった。同時に臨床現場で出会うクライエントの背景に発達障害特性を抱えている方が増えてきた。臨床心理学では,この変化に対応するために,アセスメントツールや技法や解釈法の修正が求められるようになった。

 

このような状況の流れの中で,ほぼ全ての支援者に,(以前なら発達障害の専門家に依頼していたであろう)発達障害特性のアセスメントの活用が求められてきている。一方で臨床心理学の進歩もあった。発達障害特性およびその関連因子に関する客観的なアセスメントツールがここ10年で次々に開発されていった点である。この変化は,心理臨床家になっていく訓練課程で,よりさまざまなアセスメントツールの技法的な習得が求められるわけであるが,同時に丁寧に学んでいけば心理臨床家の守備範囲(対応可能範囲)をずいぶん広げることになったと言える。ただ,心理臨床家の訓練課程において発達障害特性のアセスメントの教育が浸透しているわけでもない。したがって本書の第1部では,心理臨床家の発達障害特性のアセスメントの守備範囲(対応可能範囲)を広げていくために,発達障害ではどのようなアセスメントツールが必要とされ,学習が望まれるかについて触れている。

 

もう1つは,アセスメントについてである。現在の臨床現場では,心理臨床家に限らず対人援助職ならば,誰もがアセスメントという言葉とその意味については理解しており,そしてアセスメントをより多く活用する時代になってきた。面接によるアセスメントはさまざまな対人援助職の方が行っている中,心理検査(アセスメントツール)については,心理臨床家が心理検査を実施し,心理検査レポートを作成している。この心理検査によるアセスメントは,心理臨床家が得意とする業務であり,その結果からクライエントの状態像や能力的側面,そしてニーズを推測し,全体像を描いていくプロセスそのものは心理臨床家のアイデンティティであるともいえないだろうか。しかし,心理検査の結果からクライエントの状態像や多様なニーズを推測するスキルを身につけることはなかなか難しい。それはなぜだろうか? おそらくは心理検査の解釈仮説を信じてしまうがゆえに,なぜこのような反応が生じたかについて考えることが難しいからであろう。その人の反応がどのように生じたのかというプロセスは,反応産出過程と呼ばれ,本書では重要視している。ぜひ注目していただきたい。さらに次のような疑問が浮かぶかもしれない。なぜ,心理検査を用いたアセスメントはこれほど手間をかけないといけないだろうか? この問いに答えるために,自問自答になるが,あえてこのアイデンティティともいえるアセスメント業務について問いを立ててみたい。「なぜ我々はアセスメントを行う必要があるのだろうか?」

 

筆者は以下のように考えている。「アセスメントを行うことで,クライエントの背景にあるさまざまな事情を私たち対人援助職は理解することができ,ひいては支援の方向性が合っているか,あるいはどのように働きかければよいかについて示唆を得ることができるためである」。つまり,アセスメントの結果はその後の支援へとつながっていないとクライエントの利益につながらない。基本中の基本と言われそうであるが,本書の論考ではこの点を常に意識している。例えば,投映法という技法について,「発達障害領域に使えない」,「主観的すぎる」といった批判が聞かれたりする。しかし,投映法は80~100年の歴史があり,現代まで生き残ってきた強みがある。発達障害臨床で投映法がなかなか役立てられなかったのは,心理臨床家が発達障害領域において投映法を有効活用できなかっただけにすぎない。具体例をあげると,投映法で使われるオーソドックスな解釈仮説が発達障害の認知特性を想定していないため,そのまま使うと批判通り「使えない解釈」に陥ってしまうという点である。筆者は大学院時代から投映法,特にロールシャッハ・テストの魅力に取りつかれ,研究に打ち込んできた。研究が進むに従って,投映法の刺激に特殊性があり,その刺激から引き出される反応に発達障害特性がうまく反映されているに違いないと強く思うようになった。その一連の研究からの筆者なりの答えが本書の第2部の論文に収録されている。

 

対人援助職の世界で,アセスメント業務は浸透し,進歩した。そのこと自体は大変喜ばしいことである。ただ,アセスメントの使い方で危惧されるのは,アセスメントを実施した結果,クライエントに発達障害特性があることが示唆されるという所見で終わってしまうケースである。そこからは支援のヒントは何も得られない。この問題を防ぐためにも「発達障害特性が示唆されるということはどういうことなのか?」,「この反応からは何が理解できるのか?」とさらに問いを立て「心理検査に示されるような反応特性や示唆された発達障害特性がある結果,クライエントの生活にどのような困難さがあり,そこから一歩前進・成長するための支援の手掛かりとして何があるだろうか?」と考え続けることにこだわってほしい。心理検査は,投映法も含めてその刺激特性にそれぞれの個性があり,その刺激から引き出される反応は実に多くのヒントを我々に提供していると思う。

 

本書が心理臨床家の心理アセスメントに役立ち,さらに発達障害特性のあるクライエントに必要とされるアセスメントと支援が届くことを願っている。

 

明翫光宜

 

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