呪医とPTSDと幻覚キノコの医療人類学——マヤの伝統医療とトラウマケア

宮西照夫 著(医療人類学者・精神科医・和歌山大学名誉教授)

2,300円(+税) 四六判 並製 240頁+口絵8頁 ISBN978-4-86616-182-2 C0011
2023年11月15日刊行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書は,若くしてマヤ文明に魅せられた医療人類学者・精神科医である著者が,50年の間に約50回メキシコやグアテマラを訪れ,マヤ人の文化や社会,呪医による伝統医療や儀式をつぶさに観察し体験した記録をまとめたものである。
伝説的シャーマンであるマリア・サビナの教え,伝統的な呪医による病いやPTSDの治療,子どもたちの幻覚キノコの集会——そこには,文化や風土に根差したケアの知恵が息づいていた。さらには内戦被害者の支援,数々の古代マヤ遺跡の探索,宗教の起源をもとめる調査と,現地のアミーゴを巻き込んだ著者のさまざまな活動が生き生きと語られる。
マヤの地における呪医とキノコとトラウマケアをめぐるフィールドワークの集大成,著者渾身の一書。

〈遠見こころライブラリー〉


目  次
第1章 マリア・サビナと旅に出る
1.月明かりの下でマリア・サビナを語る─夏の夜の夢
2.夢から醒めて
第2章 統合失調症の治療─犠牲者と共に呪いと闘う呪医
1.犠牲者と共に呪いと闘う呪医
2.変わりゆく伝統治療
第3章 子どもたちのキノコの集会
1.パハリート(小鳥)
2.仲間セラピスト
3.バーチャル・リアリティーとヴィジョン、そして陶酔
第4章 マヤの地で見た夢
1.アティトラン、花咲き乱れるマヤの地へ
2.トウモロコシの花―チャワハイ家の人たちと
第5章 悪  夢
1.内戦
2.トラウマの後遺症で苦しむ女性たち
3.もう一つの悪夢
第6章 あの世への入り口で
1.湖底の夢
2.生と死の儀式
3.洞窟での幻想
第7章 古代マヤの祈りのかたち─宗教の起源をもとめて
1.ピラミッド─異空間へと誘う陶酔
2.8の猿の儀式
3.シェラの儀式


著者紹介
宮西照夫(みやにし てるお)
1948年和歌山県生まれ。
1973年和歌山県立医科大学卒業。精神医学専攻。博士(医学)。
和歌山大学保健管理センター所長・教授,評議員を経て名誉教授。現在,NPOヴィダ・リブレ理事長,和歌山県立医科大学及び,和歌山リハビリテーション専門職大学非常勤講師,他。
1982年に和歌山大学でスチューデント・アパシーや社会的ひきこもりの研究を開始,2002年にひきこもり回復支援プログラムを完成し実践を続けている。2012年から2020年まで紀の川病院でひきこもり専門外来やショートケアを実施。
主な著書に,『ひきこもり,自由に生きる―社会的成熟を育む仲間作りと支援』(単著・遠見書房),『マヤ人の精神世界への旅』(単著・大阪書籍),『ひきこもりと大学生―和歌山大学ひきこもり回復支援プログラムの実践』(単著・学苑社),『実践 ひきこもり回復支援プログラム―アウトリーチ型支援と集団精神療法』(単著・岩崎学術出版社),『一精神科医の異文化圏漂流記―マヤ篇』(単著・文芸社),『文化精神医学序説―病い・物語・民族誌』(編著・金剛出版),他。


はじめに

生きる意味って何だろう、自分に何ができるのだろうか、おくてであった私は高校3年時に、そんな想いが脳裏から離れなくなった。そして、受験勉強が手につかなくなり小説を読み耽るようになった。その時に、D・H・ローレンスがマヤ文明に魅せられ、メキシコで何冊かの小説を書いていることを知った。自己確立に悩む私はマヤの伝統文化に興味を持った。とりわけ宗教観や時の刻み方に興味を持った。高度成長期を経て低成長期に入り、西欧文化、つまり西欧科学技術社会がバラ色の未来を約束するとの思い込みに疑問を感じ始めた頃だった。
西欧文化とは異質な文化圏があり、しかも、異質な文化を創造したマヤ文明すらも、スペインの到来以前に同じ時期に衰退していったことを知った。
結局は人間が創造したものには限界がある。一つの文明、人間の一生、すべてが夢、幻にすぎない、それなら自分なりの夢、幻の世界を創造して生きよう。1971年、20代初めに私は、マヤ文明の滅亡原因を解明するのだと、思春期の幻想を抱いてマヤの地へと旅立った。
こうしてメキシコへの旅を開始したのだが、私はこの頃特に公的資金を提供されていたわけではなく、文化人類学や精神医学の研究に興味を持ったわけでもなかった。メキシコを訪問して禅宗の僧侶に出会ったが、その方のように高尚な宗教的目的を持ったのでもなかった。あえて言うなら、日本での生活から脱出したい、日本社会からの逃亡者といった気持が強かった。
そして今、私は人生の終盤を迎えようとしている。40数年間の旅の記憶を今回もう一度見直そうと思い、本書をまとめることにした。
なぜ、マヤ学と若者のひきこもり、つまり相異なる分野に興味を持ったのですか、とよく訊かれる。いつも答えに窮して、異質な2つの文化、マヤ文化と現代の若者のひきこもり文化、に興味を持ったのだと答えながら、“なぜなんだろう”、と再度自分に問いかけ続ける日々を過ごしてきた。歴史と精神医学になぜ興味を持ったのか。そもそも精神医学に関しても医科大学に入学してから、クルト・シュナイダーやオイゲン・ブロイラーなどの手にあまる本を教養時代に読んだりしたが、特別学問としての精神医学に興味を持ったというのではなく、精神科の講義の出席も2、3度に終わってしまった。それかといって、再受験してマヤの歴史や考古学を学ぶ情熱もなかった。アパシー・ドクターと自嘲しながら40年以上が経過した。
考えてみると、青年期に入った私は、その時に初めて“死”、私たちが抱える根源的不安、死への不安を意識したのでなかったかと思う。生/この世と死/あの世、伝統文化/医学と西欧文化/医学、そして、中心と辺縁、などのテーマを抱えながら旅は40年以上続いた。
これまでも、マヤの地で教わった宗教、死生観、そして、伝統医/呪医の癒しの技術について、機会があるたびに書いてきた。
大学時代には、政治意識に乏しい、信念の無い、そして、優柔不断などうしようもない男、と学生活動家に罵倒された。しかし、老齢期に達した今、ますます強くなる精神科医としての非科学的態度や、すべてに対するこの曖昧さが、ようやく文化とこころの病を学ぶのにいくらかは役立っていると思えるようになってきた。もう一度調査記録を紐解いてみると、善し悪しは別にして異なった光景がみえてきた。
そして、まとめたのが本書である。


宮西照夫の本

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