精神の情報工学――心理学×ITでどんな未来を創造できるか

精神の情報工学――心理学×ITでどんな未来を創造できるか

(徳島大学大学院創成科学研究科臨床心理学専攻・准教授) 横谷謙次 著

本体1,800円(+税) ISBN978-4-86616-133-4 C3011 四六判並製 168頁
2021年11月発行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心理学と情報工学には長い相互交流の歴史がある。心理学が解析法や質的モデルで情報工学に寄与してきた一方で,情報工学は良質なデータや体験装置で心理学に寄与してきた。機械学習により研究データの解析スピードと精度が飛躍的に上昇したことで,心理学の研究も大きく変わり,臨床への様々な応用も可能になっている。
本書は,心理学の分野で情報工学の技術がどのように用いられ,それが研究や臨床をどう変えてきたかを辿り,新しい心理学分野を切り開く端緒になるものである。画像処理・音声処理・自然言語処理技術の活用,ヴァーチャルリアリティによる音声対話システム,ネットいじめの社会ネットワーク分析など,最先端の知見を学ぶ心理情報学入門。

心理学×ITで未来を拓く


目 次
第1章 心理学と情報工学との歴史的関係
第2章 治療同盟の画像処理
第3章 不適応の音声処理
第4章 自助グループの治療過程の自然言語処理
第5章 音声対話システムによる精神疾患の測定
第6章 ネットいじめの社会ネットワーク分析
第7章 精神保健サービスのデジタルトランスフォーメーション
コラム1 機械学習の倫理
コラム2 技術が社会実装されるまでのタイムラグ


著者略歴
横谷謙次(よこたに けんじ)
徳島大学大学院創成科学研究科臨床心理学専攻・准教授。公認心理師・臨床心理士。
2001年に東北大学教育学部に入学,2011年に東北大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(心理学博士・総長賞受賞)。チューリッヒ大学大学院心理学科客員研究員などを経て,2019年より現職。日本ブリーフセラピー協会より,薬物依存症者及び性犯罪加害者に関する治療についてそれぞれ論文賞受賞(2014年,2020年)。情報処理技術と人間行動に関する国際的な学術雑誌(Computers in human behavior)などに論文多数。最近は,計算社会科学者と共同で,ヴァーチャルコミュニティ上での精神疾患の予防を研究している。また,ロボット工学者や神経科学者と協働して,精神疾患に対するロボットを介した治療を行い,その効果を検証すると共に治療効果の背景となる神経基盤の解明にも挑んでいる。


はじめにより
本書は,大学1,2年生を対象に心理学と情報工学の融合領域について説明した内容です。目次を見ていただけると分かる通り,治療同盟(2章),不適応(3章),自助グループ(4章),精神疾患(5章),ネットいじめ(6章)と,臨床で扱われる心理現象を主に扱っています。これらの心理現象に興味を持っている方なら,どなたでも気軽に読めるように書かれています。
また,方法論は,画像処理(2章),音声処理(3章),自然言語処理(4章),音声対話システム(5章),社会ネットワーク分析(6章)という情報工学の技術を用いて書いています。これらの技術を心理現象にどのように当てはめているのか,という観点で読んでいただくことも可能です。
そのため,方法論という観点では,心理学の専門家でも興味深く読んでいただけると思います。というのも,2章から6章まで一貫して,「1節 先行研究のレビュー」「2節 従来の測定手法とその課題」を述べた後に,「3節 新たな測定手法」と「4節 その成果」を書いていますので,従来の心理学的な手法の限界を情報工学の手法を用いてどのように解決しようとしているのか,という観点で読んでいただけるからです。
さらに,情報工学の専門家でも,心理学者が臨床の現場に落とし込むために,どのように情報処理技術を使っているかといった社会実装の観点からも読むことが出来ます。この場合は,各章の最初の「0節 要約」を読んだ後に,最後の「5節 臨床への応用」を読んでいただければ,臨床領域への社会実装の一部が把握出来ると思います。
ただし,本書は情報工学の方法をほとんど含んでおりませんので,詳細な方法が知りたいという方は,2章[1],3章[2],4章[3],5章[4],6章[5]の元論文をそれぞれ読んでいただければ幸いです。なお,分析に用いたコードについても本書では全く書いておりませんので,興味のある方は,OpenCV,Dlib(2章),LibROSA(3章),MeCab(4章),Julius(5章),NetworkX(6章)といったライブラリやモジュールをご確認いただければ幸いです。
さて,本書の読み方ですが,1章の「心理学と情報工学との歴史的関係」で総論を書いていますので,そこを読んでいただいたあとに,後は興味のある内容を2章から6章で拾い読みしていただければ幸いです。なお,7章では,新しい精神保健サービスを活かすためのデジタルトランスフォーメーションについても書いていますので,この章は最後に読んでいただけると,より分かりやすいと思います。また,コラム1と2では章立てするほどの分量ではないですが,この領域の重要なテーマを取り上げています。

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