法律家必携!イライラ多めの依頼者・相談者とのコミュニケーション術──「プラスに転じる」高葛藤のお客様への対応マニュアル
法律家必携!
イライラ多めの依頼者・相談者とのコミュニケーション術
──「プラスに転じる」高葛藤のお客様への対応マニュアル
(弁護士)土井浩之・大久保さやか編著/(東北大学教授)若島孔文 心理監修
本体1,800円(+税) ISBN978-4-86616-126-6 C0032 A5判並製 152頁
法律家のもとにやってくる依頼者・相談者は,だれもが大きなストレス下にあります。事件や災害に巻き込まれていたり,不安や憎しみ,怒りといった感情にとらわれたり。また,精神疾患を既往している方が来所することもあります。そんな「高葛藤」の依頼者・相談者とどう向き合えばいいのでしょうか?
この本は,ケースファイルとQ&A,精神科医・心理学者のコメントなどから,法律家の相談スキルをアップさせるノウハウをわかりやすくまとめたものです。依頼者・相談者も法律家も,楽になる,一歩が進める,解決志向のコミュニケーション・スキルを紹介します。
主な目次
第1部 高葛藤者へのタイプ別対処方法
1.ワンチームになれない相談者,依頼者
2.「その揚げ足取りのような指摘は私に対する攻撃ですか」
3.「今さらどうでもよくなった」と言われても
4.気持ちは痛いほどわかるが,事情が伝わらない
5.あなたの望みは叶えられないと,どのように説明するか
6.電話でちゃぶ台返し
7.「あなたは悪くない」って言って本当に大丈夫ですか
8.私はこう言われたと同じことを大声で言われても
9.深刻な悩みの原因は案外気が付かないことが多い
10.期限を守らない依頼者
11.大変だ大変だというけれどなんか変だ
12.どうしても受けられないあの人の電話
13.この陳述書を見せないわけにはいかないし
14.「死にたいんです」と言われたら
15.激昂を行動に移そうとする当事者
第2部 弁護士のコミュニケーション・スキル
1.相談者の苦しみを言い当てる
2.共感,肯定を先行させる技法
3.当事者を非当事者化する
4.悲嘆反応と攻撃性
5.二者択一的思考から抜け出す
6.統合失調症の相談者の方に対して
第3部 弁護士が出会う精神疾患・向精神薬
1.はじめに
2.疾患編
3.薬物編
4.外部機関への紹介
編著者紹介
土井浩之(どい・ひろゆき):弁護士(司法修習46期)
2000年より,土井法律事務所。仙台弁護士会自死対策特別委員会委員,日本弁護士連合会自殺対策PT
大久保さやか(おおくぼ・さやか):弁護士(司法修習61期)
2012年より,スズラン法律事務所。仙台弁護士会自死対策特別委員会委員
心理監修
若島孔文(わかしま・こうぶん):臨床心理士,公認心理師
2020年より東北大学大学院教育学研究科教授。東北大学大学院教育学研究科・心理支援センターセンター長・災害心理支援室室長
第2部,第3部の専門家の説明
佐藤克彦(さとう・かつひこ):精神科医。三楽病院精神神経科科長
平泉 拓(ひらいずみ・たく):臨床心理士,公認心理師。宮城大学看護学群准教授
高木 源(たかぎ・げん):臨床心理士,公認心理師。東北福祉大学総合福祉学部助教
はじめに
2011年4月,東日本大震災の直後,仙台弁護士会は『自殺対策マニュアル』を作成しました。これまで,社会政策学において,完全失業率と完全自殺率は連動するとされていましたが,この他にも,離婚,破産申立件数,犯罪認知件数についても有意な関連があるとマニュアルの中で指摘しました。すべて一般の弁護士が取り扱う業務分野です。弁護士の業務は,自死と何らかの関連がある方々と接する業務であり,弁護士が自死対策をすることは意味があることだと述べています。
2018年に,日本弁護士連合会と東北大学大学院教育学研究科の若島孔文先生の研究グループと合同で,弁護士が業務上出会う自死リスクのアンケート調査を行いました。その結果,弁護士が出会う相談者,依頼者の多くが,高い葛藤を持ち(以下,「高葛藤」とする),高度の自死リスクを有している方が多いということが明らかになりました。疾患の有無にかかわらずどんな人であっても,自分をめぐる人間関係の紛争を抱えているということによって葛藤が高くなって自死リスクが生まれるという,多くの弁護士が実感していることが実証的に示されました。
葛藤が高くなりすぎてしまうと,冷静に必要な情報を伝達するというような弁護士と十分なコミュニケーションをとって訴訟などの解決に向けた合理的な活動が困難になります。この点に理解の無い弁護士が担当してしまうと,コミュニケーションが取れないどころか,弁護士との会話自体が苦痛になる等,より葛藤が高まる要因にもなります。また,必要な情報を伝えることができないために弁護士からの援助が十分受けられなくなってしまったりすることも起きてしまいます。これでは,法的サービスが,実質的には十分に保証されていないことになってしまうでしょう。
逆に葛藤についての理解がある弁護士がかかわることによって,コミュニケーションが十分に取れ,当事者から必要な情報の伝達を漏らさず受けることが可能となり,よりよい解決が可能となるはずです。また,当事者が自分が尊重されているという意識が持てるようになり,法的サービスを受けることが自己実現となることも期待できます。
葛藤についての理解やかかわり方については,これまであまり弁護士は意識してきませんでした。この問題の理解を深め解決に向かう技術とノウハウがなかったと思います。弁護士それぞれの人柄の問題とされてしまっていたのではないでしょうか。当事者の方々だけでなく,弁護士も,高葛藤の方々とのかかわりという重い負担に無防備にさらされていたのかもしれません。
また,自死予防は多分野の連携が必要だと言われております。本書は,弁護士から依頼者の葛藤についての事情を説明して問題提起を行い,心理の専門家の方々からその後回答をいただき,弁護士が高葛藤の方々をどのように理解し,どのように接するべきなのかということを一緒に考えていただきました。弁護士がかかわることによって,自死リスクが軽減するという自死予防の道筋も見えてくると思います。弁護士と心理士の連携による新しい自死予防の地平を切り開く一つの形を提示したものと自負しています。
本書は3部構成となっています。第1部は,弁護士がすぐに実践に活用できるためのマニュアル的な構成になっています。第2部,第3部は,さまざまな場面で応用が利くように,より深い理解をするための理論を記載しています。本来の弁護士業務だけでなく,社会的に求められている役割を果たすための公的活動,ボランティア活動,その他の活動などでも活用していただけると思います。
また,弁護士業務に限らず,士業をはじめとした対人関係のサービス業務に関わる全ての人にご活用いただければ幸いです。
※本書で使っている「葛藤」という言葉は,人間関係において自分が不合理な扱いを受けていると感じ,そのために,緊張感,イライラ,些細な刺激に対する過剰な怒りや警戒感を持っていたり,悲観的な思考傾向になっていたりするという心理的防御反応が起きている状態という意味で使っています。この反応が強い状態を「高葛藤」という言葉で表現しました。
土井浩之
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