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短期療法実戦のためのヒント47──心理療法のプラグマティズム

若島 孔文 著

2,200円(+税) 四六判 並製 206頁 C3011 ISBN978-4-86616-100-6

これで人を支援していると言えるだろうか
助けられているのはむしろ私自身である

短期療法とは,プラグマティズム(実用主義)に基づく心理社会的支援の方法である。
本書は,ミルトン・H・エリクソンの臨床を研究したグレゴリー・ベイトソンらによって発見された短期療法だけでなく,森田正馬らによる森田療法などの知見をも集約し,クライエントの役に立ち,少しでも支援者自身にとっても負担が少ないセラピーを追求した著者による「短期療法」の実践のための1冊である。
短期療法(ブリーフセラピー)はさまざまな進化を遂げているが,その中核にあるのは「プラグマティズム」だと著者はいう。この本は,その観点から行ってきた臨床を振り返り,実用的な臨床ヒントをまとめた書であり,初学者だけでなく,ベテランたちも含め,多くの示唆を与えるものとなっている。


主な目次

Ⅰ 短期療法の基礎編
1.短期療法の基本モデル──問題‐偽解決モデル/2.例外の活用──二重記述モデル/3.第二義的パラドックス/4.問題をどのように捉えるか/5.リフレーミング/6.奇跡の質問

Ⅱ 短期療法の達成編
7.覚悟 取り組みへの決断/8.払捨──臨機応変に/9.先の先──エビデンス・オリエンテッド/10.ラポール──威力ある言葉/11.欺瞞 純粋性と自己一致/12.注意を向けること/13.意識の向き方を変える/14.介入課題はシンプルに/15.介入課題を創造する思考プロセスの一例/16.ユーモア/17.正常なモデルや完全なモデルを想定しない/18.診断名の拘束力/19.父親を面接に招くことを習慣化すること/20.クレームへの対応/21.光あるところに光を当てる/22.逃げの一手──観察課題

Ⅲ 短期療法の背景編
23.森田療法──短期療法の先駆け/24.システム,自己制御性について/25.システム,その実験的研究について/26.システム,情報回帰測度モデルについて/27.統合情報理論を対人システムに応用する試み/28.社会構成主義の重要性と嘘/29.ポストモダン──多様なあり方を尊重する/30.心理療法に正解はあるのか/31.弘法大師空海──生命システムを描く/32.法華経方便品第二──各心理療法が落としたもの/33.パテンドな解決法

Ⅳ 短期療法のプロジェクト編
34.不登校とひきこもりへの支援/35.家族再統合(犯罪)/36.家族の形/37.家族再統合(虐待)/38.大災害の心理社会支援における理念の重要性/39.PTG──心的外傷後の成長/40.PTSD・悲嘆反応へのスリー・ステップス・モデル/41.被災した子どもたちへの対応/42.自死予防対策──弁護士との連携

Ⅴ 短期療法自己成就編
43.短期療法との出会い/44.ITC家族心理研究センター/45.短期療法は自らを助ける/46.短期療法のトレーニング/47.人間を相手するということに終着点はない


著者
若島孔文(わかしま・こうぶん)
家族心理士,ブリーフセラピスト(シニア),臨床心理士,公認心理師。
2000年,東北大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。その後,立正大学心理学部准教授を経て,2008年より東北大学大学院教育学研究科准教授。
日本家族心理学会理事長,国際家族心理学会副会長,日本ブリーフセラピー協会研究員制度チーフトレーナー,日本心理臨床学会代議員,日本カウンセリング学会「カウンセリング研究」編集委員など。


序にかえて

台風が来襲しはじめている暴風雨のさなかに、この著作の原稿ファイルを手にした。著者渾身の力作を実感し、引き込まれて一気に読みおえた。

ふと、窓の外に目をやると、台風一過の西の空が明るく輝いていて、それはさわやかな読後感に重なった。

柔和で清冽な仙人のような小野直広先生の、自由でユーモアに満ちた名優のような長谷川啓三先生の、この二人の先達のこころを確実に受け継ぎながらも、大胆で繊細な武人のような著者の独自な世界が紡ぎあげられている。

“実戦のため”をめざしながらも、表面的な技法の提起にならないよう、研究者としての裏打ちが事例を通して丁寧になされている。そして何より、理論や技法を超えて、人とこころに焦点があてられている。それがあって、この短編集を読み進むうちに、あるときはひざをたたいて納得し、あるときはこみあげてくる感動にぼう然とする。

著者 若島孔文の心理療法が人を引きつける魔力は、一体どこに源があるのであろうか。持って生まれた天性なのかもしれない。決して語らない若き日々の苦渋の体験を経て獲得されたものかもしれない。あるいは、研究者・実践家としての研鑽を重ねて修得したものかもしれない。
いずれにしても、巧むことなく惜しむことなくあらわされているその秘法をこの本は提供してくれる。そしてそれは、研究者や実践者たちに、短期療法のバイブルとして活用され伝承されていくことだろう。

二〇一九年九月一〇日
短期療法を学ぶ会創設期メンバー/短期療法を学ぶ会仙台事務局長 西渕 嗣郎

はじめに

本書で言う短期療法とはプラグマティズム(実用主義)に基づく心理社会的支援の方法である。プラグマティズムと言っても、哲学者であるパース(Charles Sanders Peirce, 1839-1914)やデューイ(John Dewey, 1859-1952)の概念を意味しているわけではない。

佐藤克彦先生は私たちの仕事を一つの図(図1)により、視覚的に描写した(佐藤、2017)。
補足すると、この横の軸は、常識、理論や科学(エビデンス)、経験に関する軸である。こうした常識、理論や科学(エビデンス)、経験に沿って、「良い‐悪い」、あるいは「正しい‐間違い」という評価がある。縦の軸はプラグマティズムに関する軸である。それはそのクライエント固有の「有効‐無効‐逆効果」という評価である。

短期療法における支援法は問題へのその対処が「有効」ならばdo more(もっとせよ、あるいは続けよ)である。その対処が「逆効果」であればそれは悪循環ということになり、stopする。Stopするためには行動理論に従い、do something different(何か違ったことをせよ)である。無効であれば、やはり今の行動を変更するために、do something different(何か違ったことをせよ)である。

短期療法は過去のトラウマ体験や過去の親との関係やイメージを原因として扱うのではなく、今ここで生じている行動、そしてそのパターンに焦点を当てて心理療法を進める。ミルトン・エリクソン(Milton Erickson)をその起源とする、と言われている。しかしながら、エリクソンにはシステム理論が導入されていない、あるいは不確かであり、短期療法であるかもしれないが、私たちが行うシステミックな短期療法ではない。すなわち、短期療法は個人を超えていなくてはならない。仮に個人療法が短期療法であるとするならば、明治に我が国で生まれた森田正馬先生(1874-1939)こそが短期療法の創始者であると、私は考える。エリクソンよりもずいぶん早くにその理論体系と解決事例を示している。

森田先生の臨床研究(参考として、森田、2004)は、今現在においても、最先端と言ってもよい程の知見にあふれており、認知行動療法で最も効果のエビデンスの高い方法である暴露法や、近年流行りのマインドフルネスをその時代に実現しており、また、問題を何とかしようと執着することが問題であるという、米国の短期療法に通じる考え方をすでに述べている。

加えて、目的本位という考え方は解決志向短期療法(Solution Focused Brief Therapy; SFBT)に通じる点を持っている。さらに、神経症の患者に症状について家族と話をしないように説いた。これは一般的な心理教育的サポートのあり方とは違い、家族療法に通じている部分でもある。一般的な心理教育的家族サポートは家族成員の凝集性(結びつき)を高めることが普通だが、森田先生は症状に対する家族との話し合いを禁じたのである。これは執着を家族が強化することを避けることが狙いである。一般的な心理教育的家族サポートのあり方を超えたところに家族療法はあるが、森田先生は家族の対応が逆効果であることを説いた。良かれとして実行しているその思考・感情・行動こそが問題を維持したり、エスカレートさせたりしている、つまり、無効であったり、逆効果であるという視点である。

しかし、先も述べたように、エリクソンと同様、森田療法では、米国の短期療法が背景としたコミュニケーション理論、システム理論、構成主義のような観点は持ち合わせていない。もう一つは介入方法、例えば、絶対臥辱のような介入方法が今の時代に即していないということだ。森田療法の見立ては神経症を超えて有効であれども、介入がそのような方法では現代人には即していない。森田療法は私たち短期療法を実践するものこそが、現代に即した形で発展させられる。私の短期療法の半分はある意味、森田療法と言える。ただし介入法は多様である。

短期療法は、グレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)の貢献により、相互作用やシステミックな理論をベースとしている(参考として、Bateson, G., 1972)。システム理論、とりわけ、サイバネティクスが強調したシステムの性質としての自己制御機能を理解し、個人療法を超えたシステミックな心理療法であることを自覚しなくてはならない。

私は二〇代の頃、『よくわかる! 短期療法ガイドブック』(若島・長谷川、2000; 2018)という本を書いた(二〇一八年に新版が出版された)が、あれから十九年を経て、短期療法を二十五年間続けた成果をサバティカル(長期研究休暇)である今、ここにまとめたいと思い、本書を執筆することにした。二十五年を経て、私は短期療法をたいへんシンプルに考えるようになった。その成果の一部は『ブリーフセラピー講義』(若島、2011)に紹介している。

さて、これまでの道程ではその都度、さまざまな先生たちの教えを請うた。東京時代では井上隆二先生、名古屋時代には社会心理学の早川昌範先生、田中國夫先生、臨床心理学の田畑 治先生、そして、長谷川啓三先生はもちろんのことITC家族心理研究センターの児玉真澄先生、牛田洋一先生、仙台の小野直広先生、京都の東 豊先生、そして、近年では精神科医の佐藤克彦先生に教えを請いこの二十五年を過ごしてきた。そして何より私の原家族から学んだことは基礎体力を与えてくれ、また、クライエントの皆様から多くを学ばせていただいた。

本書は二十五年を経た今、シンプルに考えるようになった短期療法をまとめ、心理療法やカウンセリングを行う専門家に向けた、短期療法を実戦する上でのテキストである。その前提、見立て、考え方など、さまざまな事例を交えながら解説していく。

文献
・Bateson, G. 1972 Steps to an ecology of mind. New York: Brockman.(佐藤良明訳 2000 精神の生態学 新思索社)
・森田正馬 2004 新版 神経質の本能と療法─森田療法を理解する必読の原典 白揚社
・佐藤克彦(2017)ワークショップ 行き詰ったときのブリーフセラピー指定討論 日本ブリーフセラピー協会第9回学術会議プログラム抄録集、p.7
・若島孔文 2011 ブリーフセラピー講義─太陽の法則が照らすクライアントの「輝く側面」 金剛出版
・若島孔文・長谷川啓三 2000 よくわかる! 短期療法ガイドブック 金剛出版
・若島孔文・長谷川啓三 2018 新版 よくわかる! 短期療法ガイドブック 金剛出版

あとがき

私は二十二歳の頃から短期療法を学び二十五年が経過した。短期療法に関する本もいくつも書いたが、短期療法に関する最後の本を書くつもりでこの本を書いた。なぜ、47という中途半端なヒント集なのか、その理由は私が現在47歳であるということだけである。

心理療法は人あってである。人の存在を抜きにして、心理療法は成しえない。そのことは短期療法の訓練をする立場となったとき、痛感した。私は日本ブリーフセラピー協会のチーフトレーナーとして短期療法の指導をし、また、東北大学大学院にて公認心理師と臨床心理士の育成のための指導をしている。今、一番の悩みはどのように訓練すれば短期療法ができるようになるのかということである。難しい。答えが出ない。上手くなる人は最初から上手く、上手くならない人はなかなか上達しない。今、分かっていることの一つは、教えてもらうという受け身では駄目だということである。自ら盗み、そして工夫するということである。

読者の方々にも、それを希望する。本書は未熟ではあるが、私ができる限り、精一杯に、短期療法の実戦のために重要なことを欺瞞なく書いたつもりである。しかしながら、本書を読むだけでは短期療法はできない。本書からヒントを得て、盗み、工夫して欲しい。それが私からのお願いである。本書が書けたことで、いつでも死ねる。そんな本書に満足している。執筆協力をして下さった高野光拡先生(日蓮宗久繁山本立寺住職)、江川和哉先生(杉並区役所次世代支援相談員)、野口修司先生(香川大学医学部准教授)、小林智先生(新潟青陵大学助教)、小林大介君(東北大学大学院教育学研究科博士課程)、二本松直人君(東北大学大学院教育学研究科博士課程)にこころから感謝いたします。無理をお願いし、編集してくださいました遠見書房の山内俊介社長にこころから深く感謝申し上げます。

若島 孔文