公認心理師の基礎と実践⑮――心理学的支援法

公認心理師の基礎と実践⑮――心理学的支援法

野島一彦・繁桝算男監修
(放送大学)大山泰宏 編

2,600円(+税) A5判 並製 224頁 C3011 ISBN978-4-86616-065-8



心理療法,カウンセリングなどの臨床心理的支援アプローチの核心と実際をまとめた1冊

心理学的支援は,単に決まり切った知識を現場へ応用するようなものではありません。現場での実践を通して探究され模索されていくという一面をもっています。常に,クライエント・対象者が,その先にいるからです。心理学的支援についてたしかに座学で学ぶことはできますが,それが実際にできるようになり熟達していくには,支援をおこなうという実践が不可欠です。本書は,その実践への入口の道標となる事柄を包括的に解説することを意図して編まれました。(本書「はじめに」より抜粋)


目次

序章 心理学的支援とは何か
大山泰宏

第1部 心理療法
第1章 心理療法とカウンセリングの発想と歴史
大山泰宏
第2章 心理療法の特徴と適用範囲
松下姫歌
第3章 力動的理解にもとづく心理療法
妙木浩之
第4章 関係性の理解にもとづく心理療法
八巻 秀
第5章 状況と行動の理解にもとづく心理療法
越川房子

第2部 コミュニティの中での心理的支援
第6章 コミュニティでの心理学的支援の概観
高畠克子
第7章 福祉の中での心理学的支援
村松健司
第8章 教育の中での心理学的支援──学校教育の資源を生かす教師との協働
伊藤亜矢子
第9章 コンサルテーション
箕口雅博
第10章 心の健康教育と予防教育
葛西真記子

第3部 心理学的支援の実際
第11章 心理学的支援におけるコミュニケーション
杉原保史
第12章 個人支援とコミュニティ支援の橋渡し
香川 克
第13章 危機への心理学的支援
窪田由紀
第14章 災害後のこころの変化とその支援
髙橋 哲
第15章 心理学的支援とスーパービジョン
平木典子


編者略歴
大山泰宏(おおやまやすひろ)
1965年,宮崎県生まれ。放送大学教養学部・大学院臨床心理学プログラム教授,京都大学博士(教育学),臨床心理士。
1997年,京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻博士課程研究指導認定退学。同年,京都大学高等教育教授システム開発センター助手を経て99年に助教授。2008年に京都大学大学院教育学研究科准教授,2017年から現職。
主な著書:『心理療法と因果的思考』(共著,岩波書店,2001),『人格心理学』(単著,放送大学教育振興会,2015),『思春期・青年期の心理臨床』(単著,放送大学教育振興会,2019),『生徒指導・進路指導』(編著,協同出版,2018),『日常性の心理療法』(単著,日本評論社,2020)他。

 

執筆者一覧

大山泰宏(おおやまやすひろ:放送大学大学院臨床心理学プログラム)=編者

伊藤亜矢子(いとうあやこ:名古屋市立大学人間文化研究科)
香川 克(かがわまさる:京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科)
葛西真記子(かさいまきこ:鳴門教育大学大学院人間教育専攻)
越川房子(こしかわふさこ:早稲田大学文学学術院)
杉原保史(すぎはらやすし:京都大学学生総合支援センター)
高畠克子(たかばたけかつこ:元東京女子大学教授)
高橋 哲(たかはしさとし:芦屋生活心理学研究所)
窪田由紀(くぼたゆき:九州産業大学人間科学部臨床心理学科)
松下姫歌(まつしたひめか:京都大学大学院教育学研究科)
箕口雅博(みぐちまさひろ:立教大学名誉教授)
村松健司(むらまつけんじ:東京都立大学大学院人文科学研究科)
妙木浩之(みょうきひろゆき:東京国際大学大学院臨床心理学研究科)
平木典子(ひらきのりこ:IPI統合的心理療法研究所顧問)
八巻 秀(やまきしゅう:駒澤大学文学部心理学科)


はじめに

心理学的支援法は,公認心理師の職能の中でも,もっとも統合的で応用的なものではないでしょうか。そこには,心理学や精神医学の基礎知識,法や制度,アセスメント,各職域に関する理解など,学んできたことのすべてが集約されるといっても過言ではないでしょう。講義科目で学んできたことが,演習と実習,さらには今後の心理職としての実践につながっていく入口に,つまり基礎学習の出口に位置するものであります。
心理学的支援は,単に決まり切った知識を現場へ応用するようなものではありません。現場での実践を通して探究され模索されていくという一面をもっています。常に,クライエント・対象者が,その先にいるからです。心理学的支援についてたしかに座学で学ぶことはできますが,それが実際にできるようになり熟達していくには,支援をおこなうという実践が不可欠です。本書は,その実践への入口の道標となる事柄を包括的に解説することを意図して編まれました。

心理学的支援の発想,方法論,それが展開される領域は,実に多様です。今後さらに,新たな支援法が模索され生まれてくるかもしれません。本書では,そうした多様な支援をできる限り整理しつつ包括的に説明することを試みます。
まず第1部では,心理学的支援に共通する,対象者を中心に据えた探究ということを明らかにしたうえで,心理療法の各オリエンテーションの発想と方法について解説します。いずれも「心理学的モデル」に立脚しながらも,心理学の学派の多様性や人間観の多様性に対応する形で,バリエーションに富んだものとなっています。読者のみなさんは,そのいずれもが,心理学的支援の実践の中で探究され生まれてきたものであることに,気づくことでしょう。
第2部では,心理学的支援の新たな展開として,コミュニティの中での支援について心理職の職域と対応させつつ解説します。心理療法やカウンセリングといえば,個室の中でセラピストとクライエントとが出会っていくというイメージがあるかと思います。そうした面接室での個人療法は心理学的支援の中核に位置する非常に大切なものです。しかし心理学的支援はそこには留まりません。何らかの心理学的支援を必要としている人で,個人療法につながることができる人は,ごく一部です。時間的・経済的理由のため,あるいは本人が自分の心理的問題を軽視したり,周囲が専門的支援にかかることを拒否したりするため,支援が届かないことが多くあるのも現状です。そこで,対象者が日常に生活する場所に出かけていって,本人ばかりでなく,本人をとりまく社会的資源や制度にも働きかける支援が,とりわけ公認心理師の職能として重視されていますが,第2部ではその具体的実践を交えつつ解説しています。
第3部は,まさに心理学的支援の多様性をつなぐこと,そしてその核とでもいえるものを解説します。いかなる心理学的支援であれ,そこには対象者の話を聴きコミュニケーションをおこなうというカウンセリングの要素が中核に存在しています。そして,災害時の支援や緊急支援,スクールカウンセリングの現場などでは,個人療法とコミュニティ支援の双方が必要であり,刻々と変化する現場での高度な判断力が求められます。また心理職は,その専門性の深化や職能集団の中での位置の変化,さらにはライフサイクル上のテーマと関連して,常に新たに成長し続けていかねばなりません。そうした継続的な自己研鑽ばかりでなく,後進を教え導いていくということも必要となってくるかもしれず,そこにスーパービジョンという専門性が生まれます。第3部では,このように多様な心理学的支援を基礎・応用の両面から統合することを目指しています。

心理学的支援は,専門家としての共通のスタンダードがありつつも,それをおこなう個人の個性とでもいったものが,どうしても関わってこざるをえない職能です。特に心理療法といった,長期にわたる深い関係性が展開される場合に,その傾向は強くなります。また,支援を受ける対象者の側の個別性や唯一性といったものも浮かびあがってきます。個別性を捨象したありきたりの支援を展開するのではなく,それぞれの個を活かした支援をおこなうことができてこそ,対象者の「わたし」が生きてきます。そのためには,支援者の「わたし」も生きなければなりません。しかし,そのためには実はとても厳しい訓練と学びが必要です。個性をぎりぎりまで研ぎ落としても,それでもなおかつ残るものにこそ,かけがえのない個が生きてきます。心理学的支援法を実践的に学ぶ過程において,迷ったり行き詰まったりしたときにこそ,基礎に立ち返ってください。本書ばかりでなく,本シリーズの基礎を学び直すことで,ほんとうの意味で「わたし」を活かした心理学的支援が陶冶されていくことでしょう。

2021年3月 大山泰宏

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