公認心理師の基礎と実践⑥ ――心理学実験

公認心理師の基礎と実践⑥
――心理学実験

野島一彦・繁桝算男監修
(中央大学)山口真美・(日本女子大学)金沢 創・(北海道大学)河原純一郎 編

2,600円(+税) A5判 並製 240頁 C3011 ISBN978-4-86616-056-6

心に迫る実験の知識と技法

心を探究する科学的なアプローチの中で,基礎的でかつ最も重要な方法である心理学実験について,知識と技法をしっかりと理解するための最良のテキスト。総論,実験計画,論文・レポートの作成のほか,12のテーマを通して実験の具体例を学ぶ。


目 次

第1章 心理学実験とは
(日本女子大学)金沢 創・(中央大学)山口真美・(北海道大学)河原純一郎
第2章 実験計画
(東京大学)鈴木敦命
第3章 論文・レポートの作成
(大学改革支援・学位授与機構)渋井 進
第4章 心理量と物理量―錯覚の定量的な測定
(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)丸谷和史
第5章 閾値
(高知工科大学)繁桝博昭
第6章 反応時間
(広島大学)宮谷真人
第7章 正答率と信号検出理論
(立命館大学)永井聖剛
第8章 感覚運動学習
(東京大学)今水 寛
第9章 動物実験
(関西学院大学)中島定彦
第10章 ワーキングメモリ
(島根大学)源 健宏・(富山大学)坪見博之
第11章 注意
河原純一郎
第12章 生理的指標
(産業技術総合研究所)藤村友美
第13章 脳活動の測定
(神戸大学)野口泰基
第14章 潜在的態度
(帝京大学)大江朋子
第15章 発達の実験
(新潟大学)白井 述・山口真美

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はじめに

2018年,新しい国家資格である公認心理師のカリキュラムが発表された。これは従来からあった民間資格である臨床心理士のカリキュラムも参考にされたものではあるが,学部の25科目を必要とする点においてまったく新しいカリキュラムである。学部にもプログラムが展開されたことにより,心理学の学部教育は変わりつつある。従来は学部において基礎的な心理学を学んでいなくても「心理士」を名乗ることができたのに対し,今後「心理師」を名乗る者は基礎的な心理学についての学部教育を受けていることが前提となったのである。この点は,基礎的な心理学の教育に関わるものとして率直に喜びたい。
「心理学実験」は公認心理師カリキュラムにおいて学部指定された25科目の1つであるが,他の科目と異なる特徴もある。それは,「心理学科」あるいは「心理学専攻」を掲げるすべての大学カリキュラムにおいて,本書が担当する「心理学実験」と「心理学統計法」は,何らかの形で必修化されているという点である。少なくとも,伝統的な大学においては,心理学のdisciplineを構成するものとして,「実験方法」の教育こそがその中心にあることは強調しておきたい。
世界の心理学の歴史から見ても,心理学という領域の確立には,ヴントWundt, W. に始まりティチナーTitchener,E. B. へと心理学の根幹が形作られる過程の中で,実験室の確保と実験方法の整備が挙げられるだろう。事実,編者らも世界中のさまざまな国の心理学者と交流してきたなかで,それぞれの国のさまざまな言語で心理学が教えられていたとしても,「錯視量の測定」や「反応時間の計測」といった手法については,あたかも心理学という1つの共通の文化圏を構成するように共有できるという実感があった。学問分野とは,師から弟子へ,教師から学生へと伝達できる技術の集積のことであり,心理学とは,心理学の研究方法の技術集にほかならない。その意味では本書も,1901年と1905年のティチナーによるExperimental Psychology: A Manual of Laboratory Practiceに始まる流れの中に位置づけられるといえるだろう。ティチナーの教科書は,「教師版」と「学生版」,および「量的」と「質的」の,計4冊に分かれており,「質的」版が,現代における知覚/認知実験集に位置づけられる。つまり本書の正確な系譜は,ティチナーの教科書の「質的」の「学生版」に起源があるといえるだろう。
多くの大学の心理学科/専攻では,「心理学実験」が科目として必ず設置されていると書いたが,伝統ある大学では,実習科目となっている点も重要である。現状の公認心理師のカリキュラムにおいては,残念ながら,「心理学実験」は実習科目であることが必須ではなく座学でもかまわないことになっているが,心理学科/心理学専攻/心理学部に所属している読者におかれては,ぜひ自分の手を動かす実験を実際に実践することを通して,心理学実験の理解を進めてほしい。
本書は,15の章立てを通して,実際に実行可能な心理学実験の解説が行われている。伝統的な知覚・認知実験と,生理的指標,あるいはヒト以外の動物や赤ちゃんを対象とした実験も,(被験者や実験装置の入手可能性はおいておくとして)実行可能な手続きとして書かれている。錯視量の測定などは,自作で装置を作ることも可能である。かりに読者の所属する大学・専門学校に実験実習科目がないのであれば,ぜひ本書を手に,1つでもよいので実際に実験を行ってみてほしい。その上で本書を読み直せば,心理学における実験の意味が身をもって理解されるだろう。

2019年9月
金沢 創・山口真美・河原純一郎


編者紹介

山口真美(やまぐちまさみ)
中央大学文学部教授。1995年,お茶の水女子大学人間文化研究科単位取得退学。
主な著書:『自分の顔が好きですか?―「顔」の心理学』(岩波書店,2016),『発達障害の素顔―脳の発達と視覚形成からのアプローチ』(講談社,2016),『赤ちゃんの視覚と心の発達 補訂版』(共著,東京大学出版会,2019)ほか

金沢 創(かなざわそう)
日本女子大学人間社会学部教授。1996年,京都大学理学研究科霊長類学専攻単位取得退学
主な著書:『他者の心は存在するか―「他者」から「私」への進化論』(金子書房,1999),『ゼロからはじめる心理学・入門―人の心を知る科学』(共著,有斐閣,2015),『赤ちゃんの視覚と心の発達 補訂改訂版』(共著,東京大学出版会,2019)ほか

河原純一郎(かわはらじゅんいちろう)
北海道大学大学院文学研究院准教授。1997年,広島大学大学院教育学研究科博士課程後期実験心理学専攻修了。博士(心理学)。
主な著書:『心理学の実験倫理―「被験者」実験の現状と展望』(共編著,勁草書房,2010),『注意―選択と統合』(共著,勁草書房,2015),『美しさと魅力の心理』(共編著,ミネルヴァ書房,2019)ほか


実験用プログラムについて

(1)以下のサイトの実験用プログラムは,山口真美・金沢 創・河原純一郎編(2019)心理学実験.遠見書房.に掲載されている実験例を,読者の皆さんがご自身で実施できるように用意したものです。

第4章 心理量と物理量 (執筆:丸谷和史)
心理量と物理量 実験デモ

第8章 感覚運動学習 (執筆:今水寛)
「視覚運動回転における干渉」実験プログラム

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