金平糖――自閉症納言のデコボコ人生論

金平糖――自閉症納言のデコボコ人生論

森口奈緒美著

定価1,700円(+税) 272頁 四六判 並製
ISBN978-4-86616-039-9 C0011
2017年11月20日発行

発達障害のことはベテラン当事者に訊け!

本書は,高機能自閉症として生きる悩みや想いを存分に描き各界に衝撃を与えた自伝『変光星』『平行線』(ともに遠見書房で復刊)で知られる森口奈緒美さんの最新エッセイ集です。
発達障害者がどんなことで悩み,困っているのか。どんな支援があったら助かるのか。
当事者として長く発信を続けてきた著者ならではの考察は,若い発達障害者やその家族,支援者たちへの良きヒントとなるでしょう。
鋭い視点とユーモアたっぷりに定型発達社会に物申す,当事者エッセイの真骨頂!


目次
1 自閉症者が本を出版するということ
2 診断、そして適切な支援と進路について
3 “性格を直す”ということ
4 努力するということ
5 私の受けたカウンセリングに関する考察
6 “迷惑”と「社会参加」
7 走るコンペイトウ
8 健常者の“ホンネ”
9 関わり方がわからない
10 言葉を話すということ
11 悪者を捜せ!
12 「相談」という名の戦い
13 “苦い”経験
14 友達というもの
15 他と違っているということ
16 自分の力でやっていくということ
17 いじめられる側から見えるもの
18 「みんなと仲良くする」ということ
19 アスペルガーの光と影
20 できること・できないこと
21 働けるということ
22 追い詰められるということ
23 学校というもの
24 再び“性格を直す”ということ
25 ブラックな支援者たち
26 高齢引きこもりについて考える
27 トラブルが起きたとき
28 相談の場を探すということ
29 親亡き後を考える
30 電話に出るということ
31 疲れるということ
32 「n次障害」を防ぐには
33 仲良し地獄
34 日常のトラブルに対処するということ
35 成長するということ


・・著者紹介・・
森口奈緒美(もりぐち なおみ)
自閉症当事者・作家。
1963年,福岡県生まれ。
幼少期より転勤族の父親についていき,全国各地をわたりあるく。
1996年に日本で初めての自閉症当事者による手記『変光星』を発表。
以降、自閉症の当事者としてさまざまな提言を続けている。
主な著作にロングセラーの上記の他,その続編である『平行線』などがある。

・・森口奈緒美の本・・
『変光星』 →こちらをチェック!
『平行線』 →こちらをチェック!
孤独を愛する少女を待っていたのは,協調性を求め,画一化を進める学校という世界だった。自閉症当事者による衝撃の半生記。
(文庫版・各1,300円+税)


解説  中年期を生きる自閉症者が書き続けること

辻井正次(NPO法人アスペ・エルデの会統括ディレクター・中京大学現代社会学部教授)

 本書は、『変光星』『平行線』の著者である森口奈緒美さんが、NPO法人アスペ・エルデの会の専門情報誌『アスペ・ハート』に連載している原稿をまとめたものである。同時代を生きる臨床家として、森口さんの連載にはいつも教えられることばかりであり、自閉症当事者の目線を伝えてくれている。
『変光星』の初版刊行は一九九六年。森口さんの『変光星』は、衝撃的だった。アスペ・エルデの会が一九九二年から始まり、多くの高機能自閉症の子どもたちや青年たちと一緒に過ごすことが多くなっていた中、実際に出会う自閉症の子どもたちから断片的に垣間見られていた彼ら特有の世界を―特有の認知の仕方をもって、とても生き生きと、論理的に、手記の中で描いていたことに驚きを感じたものであった。森口さんの後、多くの自閉症者が手記を発表し、いろいろなタイプの人たちの姿が、自閉症臨床のあり様を変えていった。『変光星』は、今なお輝きを放っている傑作である。
その後、思春期の姿を描いた『平行線』もまた、森口さんから見た思春期の難しさ、調子を崩していく体験、当事者から見たカウンセリングがどういうものであるかなど、わが国で初めて当事者自身の言葉で語られたものであった。自閉症における成人期以降の二次的な精神疾患の合併の多さは、世界中のどのデータを見ても共通で、森口さんもまた気分調節や不安の調節の大きな課題があり、それゆえに、思い描いた生活を送ることが難しい時代を過ごしていた。
『アスペ・ハート』の刊行当初から、森口さんに連載をお願いし、連載記事が森口さんの発信の主要な場所となっていった。本書では、エッセイという形で、今までの体験をさらにクリアに言葉にしてくれている。三五個のエッセイからなる本書は、二〇〇二年からの連載であるので、現在は発達障害者支援法の施行や、障害者の権利条約の批准、障害者差別禁止法の施行などもあって、状況が改善しているものもあるが、当事者の視点から見ていくと、変わらない現実を、客観的に見つめたものを示している。ご両親が逝去され、「親亡き後」を生きる中、現実を生きていく不安もわかりやすく教えてくれている。
自閉症は、遅くとも胎生期から始まる脳機能の非定型発達の中で生じる発達障害であり、社会性の障害とイマジネーションの障害を中核とする。他者との関係を自然に築き、他者の意図を読むようなことは非常に難しく、また、慣れ親しんだありかたを柔軟に変更することが苦手だったり、特異な感覚過敏性を有するなどの症状が知られている。森口さんは、詳しくは『変光星』に記されているが、幼児期、児童期と非常に特徴的な自閉症症状を持ち、社会の暗黙裡のルールや他者の意図の読めなさゆえに、主に人間関係などでさまざまな困難に直面してきた。年齢を経て、大人になった森口さんは過去のいろいろな体験を客観的に把握することができるようになっている。彼女の発信する言葉は、後輩たちやそのご家族、支援者の胸に響くものであり、当事者目線に立った支援の重要性を教えてくれるものでもある。
アスペ・エルデの会も二五年を過ぎ、当時の小中学生も三十代を迎え、「親亡き後」の課題を考えるようになっている。森口さんの語ってくれている不安はとても共感され、自分たちなりの「自立」をどう実現していくのか、考える機会を与えてくれている。障害者自立支援法の施行以降、障害のある人たちの支援は義務的経費として、国家が責任を持ってやっていく仕組みになったとはいえ、保護者たちは将来を悲観的に感じる場合が少なくない。でも、本書で示されているように、森口さんが(思い描いた形ではないかもしれないけど)自分の中年期を、老年期を見据えてしっかりと生きておられる姿は、現実的な勇気を与えるものでもある。これから先、森口さんがどのように中年期を総括し、老年期を描いていくのか、楽しみに感じるところである。
遠見書房の山内さんの英断で、『変光星』『平行線』が復刻され、本書『金平糖』が刊行されることは、自閉症理解の新しい一歩になると信じている。今後の森口さんの連載を愛読者として、友人として楽しみにしている。

変光星
平行線
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