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催眠トランス空間論と心理療法
――セラピストの職人技を学ぶ

(鹿児島大学大学院教授)松木 繁 編著

3,200円(+税) A5判 並製 256頁  C0011 ISBN978-4-86616-038-2

トランスを活用するセラピストたちの職人芸を取り入れよう!

トランスという奥深い現象は,特別な場合にのみ起こるわけではなく,日常のなかにも現われている。そうしたトランスをうまく活用するセラピーは,催眠療法ばかりではなく,自律訓練法や臨床動作法,イメージ療法,フォーカシングなど数多く存在する。本書は,そうした催眠療法とその関係するアプローチを貫く「催眠トランス空間論」を通して,心理療法の職人技に迫る1冊である。
多くのセラピーがマニュアルやガイドラインに沿って行われる中,微妙なクライエントの反応を感受し,治癒につなげる職人芸がある。本書には,催眠療法とその関連領域でプロフェッショナル中のプロフェッショナルとして活躍をする10人のセラピストに,その真髄を思う存分に描いてもらった。本書は,本物のプロフェッショナルを目指す臨床家に読んでもらいたいものである。。


あとがき

「ご縁」という言葉を使ってもおかしくない年齢になったのだなあというのが,本書を書き終えた今の素直な気持ちである。スーパービジョンでは,「布置」とか「共時性」などの言葉で事例を見たりしているのに,自分のこととなると,こころのあり様は,若い頃のままで何ら成長をした実感がなくて,「今ここに自分がいる」ことへの不思議さに,まだ,“からだの感じ”や“思い”がついてきておらず,それゆえに,さまざまな出会いへの感謝の念がうまく持てていなかったことを恥ずかしながら感じている。
私の敬愛する師の一人である奈倉道隆先生は,講演される前に必ず演壇で合掌されてから話し始められる。講演に招いて頂いた方々への感謝だけでなく,眼前におられるフロアの方々との出会いにも感謝の気持ちを表しておられるのではないかとこの頃になってようやく気付けるようになった。私も最終講義くらいにはやれるようになっているだろうか?
未だにスーパーバイジーや若い学生達とも一生懸命に臨床談義を闘わせたりして,まだまだ走り続けようとする自分がいるので,合掌した途端に会場から笑いが起きそうである。
本書の執筆に協力頂いた先生方おいては,私からの無茶なお願いにも関わらず全員の先生方に快諾頂き,しかも,熱のこもった中身の濃い玉稿を頂き本当に感謝している。本文にも書いたことであるが,田嶌誠一先生をはじめとして,執筆の先生方とは本当に不思議な「ご縁つながり」があって,普段はほとんど会うこともないのに,会えばいつも臨床談義が花盛りになりその都度ごとに大きな学びを頂くのである。本書でも私自身,新たな学びにつながるいろいろな視点を頂いた。これは,退職にあたっての私への「はなむけの言葉」として受け止めて,ここを起点にさらに精進しろとエールを送って下さったのだと思い感謝の気持ちでいっぱいである。自分軸をしっかりと定め直して,さらなる発展を遂げていきたいと思う。全ての先生方に改めて謝意を表したい。
§1では,「催眠トランス空間論」と称して,初めて自分の催眠療法論を展開させてもらった。私は長い間,催眠の治癒機制に関しては催眠独自の理論の中で議論すべきだと考えてきた。それゆえに,催眠に対する「状態論」と「非状態論」の考えを何とか早く融合させて,催眠療法の治癒規制に関する独自の新たなパラダイム構築が必要だと考えてきた。私にとっては,その達成が私の長年の夢であったので,本書が先ずその第一歩になればとの願いも込めて執筆も行ってきた。しかし,本書だけでは,まだまだ,書き足りないことも多い。特に,最近,脳画像研究との関連で非常に興味を持っている催眠誘導過程で生じる自発的なカタレプシー状態の発生のメカニズムとその意義に対する研究,また,「催眠トランス空間」で生じている“多重”で“多層”なコミュニケーションスタイルに関する研究,さらには,まだ非科学的な側面が強いため公的な場で表明することがためらわれているが,催眠療法中における“気”の流れや滞りと東洋医学・思想との関連に関する研究,等々,まだまだ私の興味は尽きそうにない。この辺りは,日本的感覚を持ち合わせないと理解し辛いことも多いように思う。
こうした日本的感覚がうまく通じるか甚だ自信は無いが,来年早々に,Mark P. Jensen Ph. D が編集する本,“The Handbook of Hypnotic Techniques Book”に,The Matsuki method: Therapists and clients working to together to build a therapeutic “place” in tranceというタイトルで,また,“The Book on Chronic Pain”には,Optimizing the efficacy of hypnosis for chronic pain treatment: How to deal with the limitations of structured hypnotic strategiesというタイトルで拙稿が上梓予定である。身の丈を超えた挑戦になるかわからないが頑張ってみようと考えている。
先日,たまたま,催眠合宿のメンバーと高野山へ参詣した際,昔,福来友吉も修業をしたという金堂にお参りをした。私は決して千里眼実験や研究をしようとは思わないが,福来がそうした世界に足を踏み入れようとした好奇心は私も同じように持っている。なので,心情的にはそうした研究に走りたくなる気持ちも理解できる。それは,催眠という現象には,まだまだ現代の英知では及ばない未知の世界が数多く含まれているように私は感じ続けているからである。それは単なる興味本位のことではなく,催眠療法の臨床実践で得られる事実の中にはまだまだ不思議な現象としか思えないことも数多くある。こうした臨床実践の積み重ねから得られる知恵とエビデンスに基づく科学的な催眠研究とが協働できる日が来ることを私は願っている。「催眠は心理療法の打出の小槌」であることは間違いないので,次はどのようなものが出てくるのかが楽しみである。
たまたま高野山への参詣の日は台風一過で,“三鈷の松”の下で3つの福を叶える3本松葉を合宿に参加した皆が大量に(?)手に入れることができたので,きっとこの夢は叶うものと期待している。
開業心理臨床(私設心理相談)の立場から,専任の大学教員として鹿児島大学へ赴任してから早いもので12年にもなる。これまでストレスマネジメント教育関連の本は京都にて出版してきたが,催眠療法に関する本の出版は,その思いの強さに反比例して,なかなか機会がなく思いを果たせていなかった。しかし,これも「ご縁つながり」で,たまたま日本催眠医学心理学会の会場で田嶌先生と話している折に,遠見書房の山内俊介社長にお声かけしてもらったのがきっかけで本書を出す機会を得ることができた。
「満を持して」ではないが,長年の思いの第一歩になる本が出版できることは,私にとっては催眠療法への熱い思いを語る絶好の機会であり,また,鹿児島の地で私とともに鹿児島臨床催眠研究会を支えてきてくれた世話人会の人達,さらに,ゼミの卒業生やゼミ生達への感謝の気持ちを表すことにもつながり本当に良い機会を得たと思う。この機会を与えてくれて,かつ,辛抱強く執筆の後押しをしてくれた遠見書房の山内俊介社長,鹿催研の活動を支えてくれている皆さま,さらには,今年で7回目になった催眠合宿のメンバーの人達,催眠トレーニングの人達,そして,私の家族,全てに感謝の気持ちを伝えたい。
また,日本臨床催眠学会の初代理事長であった高石昇先生がこの春に他界された。ご冥福を祈ると同時にこの本の出版をご報告したい。
さらには,本書で初めて私の催眠療法の師匠である故 安本和行先生のことを書かせてもらった。私の時代の心理職養成は今の時代とは異なり,丁稚奉公のような鍛えられ方をされたものだ。自分の父親以上に近い距離で,師弟関係でのさまざまな確執も抱えながら,まるで「職人」の弟子がその師匠の技を盗むようにして修行(?)を積んできたように思う。しかし,今になってその教えの深い意味が実感できるようになった。それは少しでも本書に書き記せたのではないかと思う。故 安本和行先生のご冥福をお祈りするとともに,先生との深い「ご縁」に熱い感謝の気持ちをお伝えして稿を閉じたい。

平成29年10月8日
鹿児島大学役職員宿舎にて
松木 繁

 

 



主な目次

主な目次
§1 催眠トランス空間論
1. 序   論  ◆  松木 繁
2. 「催眠トランス空間論」構築への道筋  ◆  松木 繁
3. 「催眠トランス空間論」に至るまで─古典的・伝統的な催眠療法実践からの発展的展開  ◆  松木 繁
4. 古典的・伝統的催眠療法の臨床適用の失敗事例からの学び─催眠療法の治癒機制に関する新たな視点  ◆  松木 繁
5. 「壺中の天地」と「催眠トランス空間」─壺イメージ療法との出会い  ◆  松木 繁
6. 催眠トランス空間論─“治療の場”としてのトランス空間(「催眠トランス空間」)の構築とコミュニケーション・ツールとしての催眠現象の理解  ◆  松木 繁

§2 催眠とその関連心理療法の職人技─時空を超えた職人の技を実感する
7. 催眠療法と壺イメージ療法─催眠から離れること,留まること  ◆  田嶌誠一
8. それは「『悩み方』の解決」から始まった  ◆  児島達美
9. トランス療法と現代催眠─自然なトランスの活用と催眠トランス空間についての考察  ◆  中島 央
10. NLPの立場より  ◆  西健太郎
11. 自律訓練法の匙加減  ◆  笠井 仁
12. トランス空間を作り,その中で主体的に振る舞う─私が心理臨床をしていく上で大切にしている8つのこと  ◆  八巻 秀
13. 「浸食される」ということ─フォーカシングを通して学んできたこと  ◆  伊藤研一
14. 臨床動作法による心理援助  ◆  清水良三
15. タッピングタッチをとおして知るホリスティック(全体的)ケア  ◆  中川一郎
16. トラウマ治療における臨床催眠の役割  ◆  仁木啓介

 


編者略歴・執筆者一覧

松木 繁(まつき・しげる)

1952年,熊本県生まれ京都育ち。
鹿児島大学大学院臨床心理学研究科臨床心理学専攻教授,臨床心理士。
鹿児島県教育委員会スクールカウンセラー,国立病院機構鹿児島医療センター嘱託心理士(診療援助),(仁木会)ニキハーティホスピタルスーパーバイザー(熊本市),鹿児島少年鑑別所視察委員会委員,鹿児島県発達障害者支援体制整備検討委員会委員,京都市教育委員会・地域女性会主催「温もりの電話相談」スーパーバイザー(京都市),松木心理学研究所顧問(京都市),日本臨床催眠学会認定臨床催眠指導者資格,日本催眠医学心理学会認定指導催眠士。

1976年,立命館大学産業社会学部卒業。同年より安本音楽学園臨床心理研究所専任カウンセラー。1996年に松木心理学研究所を開設,所長。同年より,京都市教育委員会スクールカウンセラー。立命館大学非常勤講師。2006年より鹿児島大学人文社会科学研究科臨床心理学専攻教授を経て,2007年より現職。

日本臨床催眠学会理事長,日本催眠医学心理学会常任理事,日本ストレスマネジメント学会理事。
主な著書に,「教師とスクールカウンセラーでつくるストレスマネジメント教育」(共編著,あいり出版,2004),「親子で楽しむストレスマネジメント─子育て支援の新しい工夫」(編著,あいり出版,2008),「催眠療法における工夫―“治療の場”としてのトランス空間を生かす工夫」(乾吉佑・宮田敬一編『心理療法がうまくいくための工夫』金剛出版,2009),「治療の場としてのトランス空間とコミュニケーションツールとしての催眠現象」(衣斐哲臣編『心理臨床を見直す“介在”療法─対人援助の新しい視点』明石書店,2012)ほか


執筆者一覧

松木 繁(鹿児島大学大学院臨床心理学研究科)=編者

田嶌誠一(九州大学名誉教授)
児島達美(KPCL;Kojima Psycho-Consultation Labo)
中島 央(医療法人横田会向陽台病院)
西健太郎(平生クリニックセンター)
笠井 仁(静岡大学人文社会科学部社会学科)
八巻 秀(駒澤大学文学部心理学科・やまき心理臨床オフィス)
伊藤研一(学習院大学大学院人文科学研究科)
清水良三(明治学院大学心理学部心理学科)
中川一郎(ホリスティック心理教育研究所)
仁木啓介(ニキハーティーホスピタル)