平行線──ある自閉症者の青年期の回想
平行線
ある自閉症者の青年期の回想
森口奈緒美著
定価1,300円(+税)、318頁、文庫、並製
C3011 ISBN978-4-904536-74-2
“私は、居場所という自分の領地を勝ち取らなければならない――”自閉症の女性が歩んだ青春の日々
高校に進学したものの、いじめはますます凄惨さを増してゆく。他者の思惑に振り回されながらも、必死に自分の居場所を求めてさまよう女性の魂の遍歴をつ づった、自閉症当事者による手記『変光星』の続篇。自殺企図、うつ、精神錯乱など重篤な二次障害が彼女の心を蝕んでいく。大幅な改稿を経て待望の復刊。
姉妹編(上巻にあたります)『変光星:ある自閉症者の少女期の回想』も同時刊行!
おもな目次
Ⅰ 高校生時代
高校入学
不登校
Ⅱ 通信高校生時代とその後
転 校
極 小
Ⅲ 専門学校生時代
再出発
破 綻
夢のあとで
Ⅳ 新しい始まり
音楽活動
扉を探し求めて
おわりに
文庫版あとがき
本書は拙著『変光星―ある自閉症者の少女期の回想』(飛鳥新社刊、一九九六年)の続編として、二〇〇二年に『平行線―ある自閉症者の青年期の回想』という タイトルで、旧ブレーン出版から発行されたものの復刊である。今回の復刊で、前作とともに、一連の両作が同じ出版社から発行される運びとなった。
本書の発刊から10年以上が経つが、さすがに表記が古くなるので、今回の版においてはじゃっかん表記などを見直した。また当時の筆者の信条と現在とでズレ が生じた部分があるため、ごく一部についてはやむなく削除したが、他はなるべく執筆当時の作品をそのまま残すように努めた。
また、本書では紙数の関係で再掲できなかったものの、旧ブレーン出版の版では辻井正次先生にまえがきを、杉山登志郎先生、内山登紀夫先生(掲載順)にあとがきを書いていただいた。お三方には心から御礼を申し上げたい。
今回の本書の刊行にあたっては、辻井正次先生の働きかけに負うところが大きい。辻井先生には今回あらたに本書の解説も書いていただいた。また本書の細かい ところにも目を配ってくださった、遠見書房の山内俊介氏にはとてもお世話になった。あらためて両氏に感謝と御礼を申し上げる。また、この本の制作に携わっ たすべての人たちにも感謝申し上げたい。
そしてなによりも読者の支えがあってこそ、お陰様で本書は10年ものあいだ読み継がれる本になった。あらためて、支えてくださったかたがたに御礼を申し上げたいと思う。
二〇一三年十二月 著者記す
『平行線』復刊に寄せて(辻井正次)
本書、『平行線』は、著者である森口奈緒美さんの名作『変光星』の続編となる作品である。『変光星』は本邦で初めての自閉症者のみで書かれた手記であり、 その刊行は、私たち自閉症に関わる支援者たちにとって、とても衝撃的な体験であった。『変光星』と『平行線』の二作品は、その後の日本の自閉症臨床を変え た歴史的書籍である。すでに、ドナ・ウィリアムズの『自閉症だったわたしへ』の邦訳が刊行されていたものの、ドナの本が翻訳によって読みやすくなっていた のか、文学作品のような感じで読んでいたのに比べ、森口さんの本は彼女ならではの語り口のなか、リアルに私たちの胸を貫き、自閉症の人たちの生きる世界へ と導いてくれたのを今でも覚えている。
その後、個人的にも交流するようになり、友人として何かあると連絡を取りあっていた。『変光星』の続編を書いていることを知って楽しみにしていたのだが、 なかなか出版社に恵まれず、ご縁のあったところで刊行してもらったのが、この『平行線』である。タイトルも“へんこうせい”のアナグラムで、ユーモアある 彼女らしいものであった。本書の内容は衝撃的である。二次障害というが、精神状態を崩す経過、周囲のいじめや迫害体験が及ぼすこと、そして、旧来のカウン セリング技法がいかに自閉症の人たちにとって有害かなど、生々しく描いている。彼女の思春期の時代にはまだ自閉症の人の理解者が少なく、教育の中での合理 的配慮があれば、もう少し、彼女の思春期が生きやすいものになったかなと感じさせられる。本書の再度の刊行が自閉症理解だけでなく、教育や心理においても 大きな貢献をもたらすことは間違いなく、多くの若い臨床家たちに読んでいただきたい。
森口さんの近況は、アスペ・エルデの会の機関誌「アスペ・ハート」に毎号、連載を寄稿してもらっているので、そこで知ることができる。ご両親を亡くし、親 亡き後や自身の老いについて正面から考えている姿が見られる。自閉症の人がこの世界を生きていくうえで、どのように感じ、世界にどう向き合っているのかを 知るためにも、彼女には書き続けてほしいと願っている。
(つじい・まさつぐ 中京大学現代社会学部教授・
NPO法人アスペ・エルデの会CEO統括ディレクター)
著者略歴
森口奈緒美(もりぐち・なおみ)
自閉症当事者・作家
1963年、福岡県生まれ。
幼少期より転勤族の父親についていき、全国各地をわたりあるく。
1996年に日本で初めての自閉症当事者による手記『変光星』を発表。
以降、自閉症の当事者としてさまざまな提言を続けている。
おもな著作に上記の他、その続編である『平行線』などがある。
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