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その場で関わる心理臨床──多面的体験支援アプローチ

(九州大学大学院人間環境学研究院教授(臨床心理学))田嶌誠一著

定価3,800円(+税)、328頁、A5判、並製 C3011 ISBN978-4-86616-003-0

問題は面接室の中で起きてるんじゃない!! 生活の中で起きてるんだ!!

何がしかの問題を抱える人に対し,心理療法は密室の中で相談をし解決を探るという方向に発展をしてきた。しかし,面接室の構造がどうであろうと,セラピストが共感的な態度を示そうと,問題は面接室のなかで起きているのではない。問題は生活のなかで起こっている。解決する方法のカギも生活のなかにある。
本書に描かれている心理的援助は,従来の心理的なとらえ方だけではなく,より多方向の解決を模索するものである。密室から脱し,コミュニティやネットワークづくり,そして,「その場」での心理的支援,それを支えるシステムの形成──それが著者の言う,多面的体験支援アプローチである。
教える,ほめる,叱る,止める,遊ぶ,守る,言語化を促す,やってみせる,喜んでみせる,他者とつなぐ,場とつなぐ,仲間づくり,集団づくり……。本書には,著者が長年にわたって実践してきた「その場で関わる心理臨床」の実践と理論のすべてが網羅されており,すべてのセラピストが目指すべき極点の一つと言っていいだろう。この本は明日を生きる臨床家にとって必読のものである。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1章
「その場で関わる心理臨床」と「体験支援的アプローチ」

第2章
暴力を伴う深刻な事例との「つきあい方」

第3章
不登校の理解と対応――1.家庭訪問の実際と留意点

第4章
不登校の理解と対応――2.当事者の体験発表

第5章
不登校の理解と対応――3.「希望を引き出し応援する」

第6章
発達障害とその周辺

第7章
学校・学級での問題行動――暴力と離席,学級崩壊,反抗性集団化

第8章
学校のいじめ,施設の暴力――それがつきつけているもの

第9章
いじめの事例――現実に介入しつつ心に関わる

第10章
学校・施設等における人間環境臨床心理学的アプローチ

第11章
対人援助のための連携の臨床心理学的視点――ネットワーク活用型援助にあたって心得ておくと役立つこと

第12章
多少の理論的考察――臨床心理行為の現状と課題

第13章
その場で関わる心理臨床を超えて――その1.安全委員会方式の実践

第14章
その場で関わる心理臨床を超えて――2.児童福祉法改正と施設内虐待の行方~このままでは覆い隠されてしまう危惧をめぐって~

第15章
その場で関わる心理臨床を超えて――3.NPO法人九州大学こころとそだちの相談室「こだち」の取り組み

終章
くりかえし,くりかえし,その先に


まえがき

心理臨床はこのままで大丈夫だろうかという危機感が,本書を刊行する最も大きな動機である。私は2016年3月に定年退職である。そういう年齢の者がこういうことを書くのは天につばするようなものであるが,それでもそう書かずにはいられない。定年退職を迎えるにあたって,本来ならこれまでの自分の仕事の集大成か,包括的なものを出すのが普通なのではないかとも考えた。しかし,私は現在の心理臨床に最も強調しておきたいことをハイライトにしたものを書くことにした。それが本書である。
本書のタイトルにあるように「その場で関わる心理臨床」という視点がもっともっと重視されるべきだというのが本書での私の主張である。
私の仕事については,この数年ですでにまとめたので,その点では思い残すことはない―はずであった。ところが,2016年3月の定年退職を前にして,後に続く人たちに理解してもらう努力を果たして十分にしてきただろうかと自問することとなった。やはりもう少し自分の仕事を理解してもらいやすいように努力してみようと考えた。そのために,出版を計画したのが本書である。
前著でも書いたように,私の心理臨床の仕事は,便宜上おおよそ3つに分けることができる。イメージ療法を中心としたもの(内面探求型アプローチ),ネットワークを活用した多面的アプローチ(ネットワーク活用型アプローチ)に関するもの,そして児童養護施設等における暴力問題への対応のためのシステム形成型アプローチである。
本書では,それらを包括するものとして,「多面的体験支援アプローチ」と呼ぶことにして,そのうち生活場面における体験支援的アプローチについて主に述べることにした。その中心にあるのが「その場で関わる心理臨床」で,私が現在最も力を注いでいる児童養護施設等での暴力問題へのシステム形成型アプローチについては少しの紹介に留めた。
「その場で関わる心理臨床」を取り上げたのは,ひとつには密室型の個人心理療法やカウンセリングの不十分さを理解してもらうのに最もわかりやすいし,また最も日々の臨床に役立つものであるように思うからである。いまひとつには,この理解なくしてシステム形成型アプローチへの理解はとてもおぼつかないからでもある。その意味で,私が展開してきたアプローチのいわば要をなすものであると言えるかもしれない。
とはいえ,書き下ろしというわけにはいかず,具体的には,これまで書いたものや講演録などを編集することとした。ただし,単なる寄せ集めにならないように,本書のテーマに沿って,全体として一貫したものになるように構成し,さらに必要に応じて新たに書き下ろし,加筆・修正を行った。本書で私がこれまで述べてきたアプローチの臨床の実際がこれまでになく具体的に理解していただけるだろうし,これまでになくはっきりとした主張を展開していることがおわかりいただけるものと思う。また,章の合間にこれまで書いたエッセイや書評等の短文を入れた。それらも短文ながら本書に生彩をもたらすものとなると思う。
本書の出版は,現在の心理臨床の動向への不満が背景にあるが,それは同時に今後の心理臨床への私の期待があるからだとも言えよう。なお,本書とは別に退職にあたって,私の仕事に影響を受けた人たちの仕事を紹介するために,私の編著でもう1冊別の出版社から2016年2月に出版する予定である(『現実に介入しつつ心に関わる―展開編』金剛出版)。私の仕事の展開とさらなる可能性に関心のある方は,本書と併せてお読みいただければと思う。
本書の出版は,遠見書房社長山内俊介氏の存在がなければあり得なかった。山内氏には氏が金剛出版にお勤めの頃から大変お世話になったが,本書の構想は山内氏と話しているうちに浮かんだものである。記して,深く感謝申し上げる次第である。

台南の「はむ家」にて 2015年末
田嶌 誠一


著者略歴
田嶌誠一(たじま・せいいち)

九州大学大学院人間環境学研究院教授(臨床心理学)。博士(教育心理学)。臨床心理士。全国児童福祉安全委員会連絡協議会顧問。日本ファミリーホーム協議会顧問。NPO法人九州大学こころとそだちの相談室「こだち」顧問。こども教育支援財団ディレクター。1951年生まれ。九州大学教育学部(心理学専攻)で心理学を学び,広島修道大学,京都教育大学等を経て,現職。
専門は臨床心理学(心理療法・カウンセリング)で,「現場のニーズ汲み取る,引き出す,応える」を目標として,さまざまな臨床活動を展開している。「壺イメージ法」と称するユニークなイメージ療法を考案し,さらには不登校やいじめをはじめ青少年のさまざまな心の問題の相談活動や居場所づくりとネットワークを活用した心理的援助を行っている。また,児童養護施設にも関わっており,施設内暴力を解決する取り組みとして,児童福祉施設版安全委員会方式を考案・実践し,全国の児童養護施設やファミリーホームで導入されている。