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学校における自殺予防教育のすすめ方──だれにでもこころが苦しいときがあるから

(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)窪田由紀編
窪田由紀・シャルマ直美・長﨑明子・田口寛子 著

定価2,400円(+税)、170頁、A5判、並製 C3011 ISBN978-4-904536-96-4

自殺予防──いま,一番大事な大人の仕事

深刻化する若年層の自殺。仲間や恋人に「死ぬこと」を仄めかされたらどうしたらいいのか? 自殺をとどめるには,この最初の表現を聞いたものが「ゲートキーパー」となる必要があります。
いのちの大切さを声高に叫ぶだけではなく,聴く技術,つなぐことなど,人と人のきずなで自殺を予防しよう
──ある地域の学校では,そんな授業が実践されています。この本は,その自殺予防教育を実践してきた4人の心理臨床家による手引き。明日からでも授業ができる資料集も付録。

本書の特色!
1:重い雰囲気にならず,自殺予防教育ができる
2:わかりやすい手引きつき
3:授業で使える資料・授業案がたっぷり。そのうえ,ダウンロードも可能
4:教員も,心理職も,養護教諭も,だれでも使える。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 理論編

第1章 子どもを直接対象とした自殺予防教育の必要性

第2章 今なぜ,学校における自殺予防か──学校で自殺予防教育を行う必要性と必然性

第3章 児童生徒を対象とした自殺予防教育の実際──国内外の先行研究から

第4章 学校における自殺予防教育の進め方

第2部 実践編──学校における自殺予防教育の進め方:北九州市の実践から

第5章 学校現場に自殺予防教育を導入するために──自殺予防教育の導入課程

第6章 学校における合意形成

第7章 授業プログラムの実際


はじめに

だれにでもこころが苦しいときがある
どんなに苦しくてもかならず終わりがある
だれかに相談できる力をもとう

これは,私たちがこの6年間,北九州市の子どもたちへ伝え続けてきたメッセージです。
そして今,全国の少しでも多くの子どもたちにこのメッセージを届けたいと考え,本書を企画しました。自殺予防教育というと,何だかおどろおどろしいイメージを抱く方も少なからずおられるのではないかと思いますが,私たちが考える自殺予防のメッセージは突き詰めるとこの3つです。この3つを真に心に刻むことができれば,生きていく中で種々の困難に直面したとしても,さまざまな支援を活用して対処していく力が育まれると信じています。

生きていれば,だれにでもこころが苦しいときがある
それは決してこころが弱いからでも,自分が悪いからでもない
一生懸命生きていればこそ,いろいろな悩みや苦しみに出会う
その時はずっとその苦しみが続く気がして,絶望してしまうかもしれない
でも,どんなに苦しくてもかならず終わりがある
苦しい時にだれかに相談できることは,生きていく上での大切な力
相談することは恥ずかしいことでも情けないことでもない
自分で問題に立ち向かう上での勇気ある第一歩

とはいえ,人間は本当に追い詰められると,相談する力を発揮することが難しくなります。
自分を気遣ってくれている人の存在に気づかなかったり,大切な人に迷惑をかけたくないと思ったりして,一人で抱え込んでしまいます。

子どもたちに伝えたいもう一つのメッセージは,苦しんでいる友だちに出会った場合のことです。
友だちの様子がいつもと違ったら「どうしたの?」「良かったら話を聴くよ」と伝えましょう。
すぐには話せなくても,あなたの存在は大きな力になります。

こころが苦しいときには話を聴いてもらうだけで楽になる
うなずきながらゆっくり聴こう
友だちの気持ちになって,あたたかく聴こう
意見やアドバイスより,そのまま聴いてくれることがうれしい

でも,友だちの悩みがとても深くて,死にたいくらい絶望的な気持ちになっていた場合には,信頼できる大人に話しましょう。
そうすることが,大切な友だちを守ることに繋がります。

無限の可能性を持つはずの子どもが自ら命を断つほど,痛ましいことはありません。子どもの自殺は何としても防がなければなりません。そのことに異を唱える人はおられないでしょう。
しかし,一方でどうやって防げばいいのか,皆目見当がつかず,途方に暮れてしまうのも事実です。日々,さまざまな困難を抱える子どもたちに懸命に寄り添い,助けとなっておられる多くの学校関係者の皆さんは「子どもの自殺予防」と聞いたときに,これ以上何をすればよいのかと頭を抱えてしまわれるかもしれません。
本書では,地域の実態に即して全国に先駆けてこの問題に取り組んできた北九州市の実践を例にしながら,学校における自殺予防教育導入に向けての道筋とそのための体制作りやプログラム,実施方法を,資料も含めて具体的に提示します。「生涯を通してのメンタルヘルスの基礎作り」という視点から,子どもの自殺予防を幅広くとらえ,それぞれの日々の営みの延長線上に位置づける形で,今できること,すべきことを考えていきたいと思っています。

本書は理論編(第1章~第4章)と実践編(第5章~第7章)から構成されています。
理論編の第1章では,改めて子どもを直接対象とした自殺予防教育はなぜ必要なのか,重要なのかについて述べます。わが国の自殺の深刻な実態を踏まえた上で,子どもを対象とした自殺予防教育は,現在自殺のリスクを抱えている子どものみならず,すべての子どもたちに対しても,将来のメンタルヘルスの基礎作りとして,また危機に陥っている友人のゲートキーパーとしての役割を果たせるようになるためにも重要な意味を持っていることを確認しています。
第2章では,子どもを直接対象とした自殺予防教育を学校教育の中で行う意味について検討しています。学校が地域コミュニティの拠点であって,学校における自殺予防教育が地域のあらゆる人々の自殺予防に寄与する可能性があることや,学校においては自殺予防に特化した授業に限らず教育課程内外のさまざまな教育活動を通して自殺予防のメッセージが伝えられること,学校や児童生徒の実態に即した展開が可能であることなどから,学校において自殺予防教育を行うことの積極的な意味を再確認しています。
第3章では国内外の文献レビューから,これまでの子どもを対象にした国内外の実践と研究についてまとめています。
理論編の最後となる第4章では,学校における自殺予防教育の進め方について,学校現場の認識を踏まえた一般的な留意点を述べ,実践編への繋ぎとしました。
実践編では北九州市の実践を例に自殺予防教育の導入・実践過程を具体的に示しました。実践編の冒頭にも述べているように,私たちの実践は一例にすぎず,それぞれの地域の実態に即しての展開が望ましいことは言うまでもありません。その上で,現在問題意識を持ちながらも導入・実践の手がかりが得られず苦慮されている方々にとって必ずヒントになる部分があると信じての提示です。
第5章では,地域の合意形成から教材開発,人材育成の過程,すなわち導入過程について述べています。既存の関係を生かして無理のない形で進めてきた経緯は,実態は異なる他地域でも参考になるものと思われます。
第6章では,学校における合意形成について,主として教職員研修の準備と内容について具体的に述べています。心の専門家として学校に配置されているスクールカウンセラー(以下SC)が学校における自殺予防において十分な役割を果たせるための研修内容にも触れています。
第7章には児童生徒対象の授業プログラムのねらいおよび実際に展開している数種類のプログラムについて具体的にその内容と進め方を示しました。付録として指導案,教材プリント等も掲載していますので参考にしていただけるものと思います。

本書は,学校における自殺予防教育導入・実施に関心を持つ現場の教職員,SCの皆さんはもちろん,当該地区で学校における自殺予防教育の推進に責任を負う教育行政の担当者の方々にも読んでいただけたらと思っています。理論編~実践編と順に目を通していただければ良いのですが,それぞれのご関心と課題に応じて必要だと思われるところから開いていただければ結構です。自殺予防教育といってもイメージがわかないとお考えの方は,第7章と付録をまずご覧ください。そのような授業が実施できるためには,第6章で示している学校における合意形成過程が,さらに地域での組織的展開を考えれば第5章が役に立つと思います。一方で,そのような教育を,それでなくても負担の多い学校現場に導入することへの合意形成の根拠については,理論編の第1章~第4章で押さえていただければと思います。

本書が,子どもを対象とした自殺予防教育の必要性・重要性は強く感じながら,具体的な手がかりを求めておられる,全国の志を同じくする学校関係者の皆さんの間で実践が広がる一助となればと願っています。

平成27年6月
著者を代表して 窪田由紀


執筆者略歴

窪田由紀(くぼたゆき:名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
第1章,第2章,第4章(編者)
シャルマ直美(しゃるまなおみ:北九州市SC)
第6章,第7章
長﨑明子(ながさきあきこ:北九州市子ども総合センター主査)
第5章
田口寛子(たぐちのりこ:子どもグリーフ・サポート福岡)
第3章
コラム  岩田美保(いわたみほ:北九州市SC)
国政あや(くにまさあや:北九州市SC)
肘井千佳(ひじいちか:北九州市中学校教諭)