思いこみ・勘ちがい・錯誤の心理学――なぜ犠牲者のほうが非難され,完璧な計画ほどうまくいかないのか

思いこみ・勘ちがい・錯誤の心理学
――なぜ犠牲者のほうが非難され,完璧な計画ほどうまくいかないのか

杉本 崇 著
1,800円(+税) 四六判 並製 184頁
C0011 ISBN978-4-86616-170-9
2023年6月発行

 

 

 

 

 

 

 

 

マンガのセリフから始める心理学入門!

自分自身や他人の思いこみや勘違いに気づき,なんでそんな間違いをしたのかと不思議に思うことはありませんか? 実はそれには人間心理の深いわけが潜んでいるのです。本書では,そうしたどこにでもある思いこみや勘違いを取り上げ,それがどのように研究を通して心理学の理論や知見へと確立されていくのかを,初学者にもわかりやすく解説しています。マンガの1コマの何気ないセリフを話のマクラに,「公正世界信念」「後知恵バイアス」「賭博者の錯誤」「ホットハンドの誤謬」「制御幻想」「反実思考」「計画の錯誤」といった心理学の知見を楽しく学べる心理学の入門書です。
人間のこころの不思議に魅せられた者たちが競いながら研究を深めていくさまはとてもドラマティック。心理学に興味を持っているという人から今まさに心理学を学んでいる人まで最適な本です。ぜひ心理学の面白さに出会ってください。


目次
序 章 心理学研究とはどういうものか―公正世界信念の研究から
第1章 後知恵バイアスの話―本当に「最初から分かっていた」のか
第2章 賭博者の錯誤の話―ギャンブラーだけじゃない「ギャンブラーの誤り」
第3章 ホットハンドの誤謬の話―「流れ」「勢い」の心理学
第4章 制御幻想の話―「コントロールできる」という幻想
第5章 反実思考の話―「あの時ああしていれば」の心理学
第6章 計画の錯誤の話―「完璧な計画」ほど不可能になる理由


著者略歴
杉本 崇(すぎもと たかし)
神奈川大学人間科学部非常勤講師。
1999年,成蹊大学工学部計測数理工学科卒業。2008年,東京大学人文社会系研究科文学部心理学研究室博士課程単位取得退学。
日本認知心理学会所属。研究テーマは「アンカリング効果」「リスク認知」。


まえがき

この本は心理系のコースに進学を考えている人,または心理学を学び始めの人を読者として想定した「心理学入門書」として書かれた本ですが,「心理学の面白さを知ってもらうこと」「心理学とはどのように行われるのかを知ってもらうこと」に重点を置いています。
そのために,一般の入門書・概論書のように,広い範囲の心理学の話題をまんべんなく取り上げるのではなく,我々の日常生活で誰もが直面し,多くの人が身近に感じるであろう「思い込み」「勘違い」に関した心理学研究に範囲を絞りました。さらにこの本の独自のコンセプトとして,心理学に興味を持ってもらうこと,学び始めの人に親しみを感じてもらうことを目的として,心理学のトピックそれぞれについて漫画の1コマを「話の枕」として使う,という方法を使いました。しかし,漫画の1コマを導入に使っているとはいっても,中身は心理学の論文の紹介を中心とした至って真面目な心理学の本であり,「入門書」としてはむしろ高度な内容です。漫画の1コマを導入に使っているのは,その高度な内容の「とっつきにくさ」を多少なりとも和らげ,話に入りやすくすることが目的であって,「漫画で面白おかしく気楽に心理学を学べる」というようなコンセプトの本ではありませんので,そこはご注意ください。
漫画の1コマを「話の枕」に用いるのは,話の「つかみ」という意味合いだけではありません。心理学の魅力の一つは,人を対象にする学問であるため,人間に関することならば何でも対象になるという点です。心理学は「どこにでもある」ものであり,「漫画の中」でさえも例外ではないのです。その「どこにでもある」心理学の面白さを伝えるため,というのが漫画に絡めて心理学の話をするもう一つの目的です。
初学者に向けた心理学の入門書,概論書は数多く出版されていますが,私は以前から,多くの概論書には不満を持っていました。どう不満かと言いますと,端的に言えば,「退屈」なのです。心理学は非常に魅力的な学問なのですが,多くの概論書はその魅力を全く伝えられていないのです。「なぜ,多くの概論書はこれほど退屈なのか」を考えてみたところ,以下のような理由が思い当たりました。

・ 「このような理論・知見がある」という説明で終わっており,「どのような研究でその知見が確立されたのか」という記述が乏しい
・ 各分野における最初期の研究のみが紹介されており,研究のその後の展開についてほとんど記述されない
・ 理論のみの紹介にとどまり,「その理論が,人間のどのような側面を表しているのか」という説明がない

「概論書」というのは広い範囲の心理学の知見に「広く浅く」 触れる必要があるため,一つひとつの理論・知見に割ける説明は限られたものになってしまうので,これらの点はやむを得ない「欠点」ではあるのですが,そのために心理学を学び始めの人が最初に読む本としては退屈で,知的な刺激の乏しいものになってしまっているのです。そのため,この本では扱う範囲を人間の思い込みや勘違いに関連した7つのトピックに絞り,「どのような研究でその分野が始まったのか」「どのような実験でその分野の研究が発展していったのか」を詳細に述べることで,「心理学がどのように知見を発展させていくのか」ということに重点を置いて解説しました。そうすることで,一般の入門書のように心理学の知識を「広く浅く」伝えるのではなく,「心理学とはどういうものなのか」という正確な認識を伝えること,心理学の理論の発展を追体験するような知的興奮を味わっていただくこと,それによって心理学の本当の面白さを伝えることを目的としてこの本を執筆しました。
著者である私自身は大学ではもともと工学部に属していたのですが,学部時代に,あるゲームに関して普段から持っていた「疑問」の答えが心理学の中で見つかった,という経験をし,その時の知的興奮に誘われるような形で心理学の道に進むことになりました(この話は第3章で触れています)。私をそうさせた心理学の魅力や面白さがこの本で伝われば幸いです。
杉本 崇

「遠見書房」の書籍は,こちらでも購入可能です。

最寄りの書店がご不便、あるいはネット書店で在庫がない場合、小社の直販サービスのサイト「遠見書房⭐︎書店」からご購入ください(store.jpというECサービスを利用しています)。商品は在庫のあるものはほとんど掲載しています。