学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの心理支援──効果的な学内研修のために2

学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの心理支援
──効果的な学内研修のために2

全国学生相談研究会議編
編集代表 太田裕一
2,800円(+税) 四六判 並製 200頁
C3011 ISBN978-4-86616-171-6
2023年5月発行

 

本書は,「大学生の不登校」「発達障害の学生の支援」「留学生への支援」などなど,日常的に学生相談のカウンセラーが対応するケースをベースに,その心理支援の情報・知識を集約した,教職員向け/学生向けの資料集です。
現場で多くの困難や課題に向き合い,対応してきた経験豊富な学生相談カウンセラーたちが,学生生活のさまざまな心理的・社会的問題について解説し,対処法や予防法などの対応策をきめ細かにわかりやすく説明しました。
教職員・学生向け学内研修に使える14本のダウンロード可能なプレゼンテーション・データ(Microsoft Power Point(R))付き。

姉妹編→「学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの危機管理――効果的な学内研修のために」

 

おもな目次
第1章 学生を学生相談室に紹介するとき★杉原保史
第2章 教職員にできる予防的な関わり方(居場所作り・仲間作り)★江上奈美子
第3章 メンタルヘルスに問題を抱えた学生の対応★舩津文香
第4章 発達障害の傾向がある学生,コミュニケーションが難しい学生への対応★斉藤美香
第5章 障害のある学生の支援★堀田 亮・奥田綾子
第6章 留学生のメンタルヘルス★小島奈々恵
第7章 学生に見られるアディクションの理解★加野章子
第8章 LGBTQの学生への理解と対応の第一歩★酒井 渉
第9章 不登校・ひきこもり学生への対応★太田裕一
第10章 家庭の諸問題★吉村麻奈美
第11章 学生相談室の紹介★山川裕樹
第12章 ストレスマネジメント★中島道子
第13章 キャリア選択・就活★宇賀田栄次
第14章 大学生の対人関係★今江秀和
ほか


筆者

全国学生相談研究会議 編
全国の大学等の高等教育機関において学生相談に携わるカウンセラーの団体。学生相談カウンセラーの自主的な相互研鑽と,学生相談の研究を目的として設立された。昭和43(1968)年以来,50年以上にわたって,年1回,シンポジウムを開催し,実践経験を共有し,議論を重ねてきた。2023年現在,会員数は150名ほどで,事務局は名古屋大学学生相談センター内に置かれている。

執筆者一覧(執筆順)
杉原 保史(すぎはら・やすし:京都大学学生総合支援機構)
江上奈美子(えがみ・なみこ:東京農工大学保健管理センター)
舩津 文香(ふなつ・ふみか:九州大学キャンパスライフ・健康支援センター学生相談室)
斉藤 美香(さいとう・みか:札幌学院大学心理学部臨床心理学科)
堀田  亮(ほりた・りょう:岐阜大学保健管理センター)
奥田 綾子(おくだ・あやこ:日本赤十字九州国際看護大学学生相談室)
小島奈々恵(こじま・ななえ:東北大学高度教養教育・学生支援機構学生相談・特別支援センター)
加野 章子(かの・あきこ:愛知工科大学/愛知工科大学自動車短期大学・学生相談室)
酒井  渉(さかい・わたる:函館工業高等専門学校ヘルスアソシエイトオフィス)
太田 裕一(おおた・ゆういち:静岡大学保健センター・学生支援センター)
吉村麻奈美(よしむら・まなみ:津田塾大学ウェルネス・センター)
山川 裕樹(やまかわ・ひろき:成安造形大学共通教育センター)
中島 道子(なかじま・みちこ:関西学院大学文学部・心理科学実践センター)
宇賀田栄次(うがた・えいじ:静岡大学学生支援センター)
今江 秀和(いまえ・ひでかず:広島市立大学国際学部・心と身体の相談センター)


 

まえがき

本書は国学生相談研究会議によって編集された。2022年に刊行された「学生相談カウンセラーと考えるキャンパスの危機管理──効果的な学内研修のために」の続刊である。
前作が危機介入に焦点があたったいわば学生相談の応用編であったのに対して,本書は学生相談の基本を押さえたものになっている。応用編が先立つことになったのは,前書がコロナ禍という危機のさなかに書かれたことも影響していると思われる。コロナ禍がようやく過ぎて徐々に日常が戻りつつある年に改めて学生相談の入門的な本書を出版できることは感慨深いものがある。
本書は研修を想定したパワーポイントの資料を付すことによって,教職員に対しては学生相談とはどういうものであり,どう学生をつないだらよいのか,学生の心理的・環境的な実情がどのようなものであり,そこにどう対応したら良いのかを示している。また学生に対しては学生相談機関の利用を促し,対人関係,キャリア選択を考えるきっかけを与えるものである。
本会はもともと1968年に,8つの国立大学の学生相談関係者が広島大学で「留年」をテーマにした研究会を持ったことに始まる。「留年」は1990年代のひきこもりと同じように当時の大きな社会問題となっていて,最先端の現場での実践と研究を共有し合う場であった。1990年に河合隼雄が会長となると,雑誌「現代のエスプリ」で3冊の特集号を出版するなど心理臨床の最前線のひとつである学生相談の活動を大きくアピールしていた。
筆者が初めて参加したのは1999年であった。数人ずつ同部屋で寝食を共にする2泊3日の合宿形式で,密度の濃い事例検討,シンポジウム,深夜に渡る飲み会が行われ,新人カウンセラーにとってはベテランの先輩に試されるイニシエーション的な意味合いをもっていた場であった。
当初は国立大学の学生相談関係者のみを対象にしていたが,徐々に公立・私立大学のカウンセラーにも門戸を開き,現在では高等教育の常勤カウンセラーを主な会員とし現在は会員約150名で,コロナ禍以降はオンラインで開催されている。
コロナ禍の始まる直前の有馬で行われた(2023年現在のところ最後に行われた対面で開催された)会議の際に,代表であった杉原からの出版企画の提案によって,今江秀和,太田裕一,小島奈々恵,杉原保史,堀田亮,山川裕樹,吉村麻奈美の7名からなる出版のためのワーキンググループが組織された。
全国学生相談研究会議の歴史を振り返ってみれば,国立大学から公立・私立大学に会員が広がり,1990年代の出版がどちらかといえば同業の心理職を読者として想定していたのに対して,今回の出版が教職員・学生への研修を対象にしているというのは象徴的な変化であると言えるだろう。
コロナ禍後の全国学生相談研究会議がどのような形をとるのかはまだわからないが,かつてのような濃密な仲間同士の研鑽と交流の場を維持することは現在のカウンセラーの多忙な生活を考えると困難なのかもしれない。しかしカウンセラーの3日間の「異界」的な体験の場がその特権を失い,教職員や学生に近い所に立ち位置を変えてきたことには肯定的な意味付けもできるのではないか。
本書はこうした会議の歴史を踏まえて記されている。学生相談カウンセラーの知見をぜひ,身近な研修で活かしてもらえればと思う。

ワーキンググループを代表して 
太田裕一

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