家族理解のためのジェノグラム・ワークブック──私と家族を知る最良のツールを学ぶ

家族理解のためのジェノグラム・ワークブック──私と家族を知る最良のツールを学ぶ

イスラエル・ガリンド/エレイン・ブーマー/ドン・レーガン 著
(秋田大学教授)柴田 健 監訳/大沼吹雪 訳

定価2,500円(+税),120頁,A5判並製
ISBN978-4-86616-207-2 C3011
2024年10月刊行

 

ジェノグラムとは,家系図・家族樹とも訳される数世代にわたる家族関係を描いた図です。
家族療法の世界で数多くの研究と実践が積み重ねられ,臨床の場において家族の課題を知るためにも,家族や自らのアイデンティティを知るためにも有用な方法とされています。
この本は,ジェノグラムを作り,活用するためのワークブック。個人の方でも使いやすいようステップ・バイ・ステップで学ぶことができます。家族支援サービスの支援者だけではなく,家族を知りたい多くの方に使っていただきたい1冊です。


主な目次

はじめに
第1章 ジェノグラムの書き方
第2章 ジェノグラムを使った家族理解
第3章 家族に尋ねるべき「20の質問」
第4章 ジェノグラムを活かす

付録A 三角関係の7つの法則
付録B 家族のジェノグラムのタイムライン
付録C 家族に尋ねるべき「20の質問」


監訳のことば

本書は,A Family Genogram Workbookの全訳です。この本はとても薄い(なんと63ページ!)パンフレットのような本ですが,ジェノグラムに関する情報が豊富で,初めて学ぶ人にとっては最適な一冊です。私自身,この本に出会えたことをとても嬉しく思っています。
私がジェノグラムの魅力を知ったのは,児童相談所に勤務していた頃でした。当時,『ジェノグラムのはなし』(マクゴールドリックほか著,石川元・渋沢田鶴子訳,東京書籍)という本を見つけ,夢中になって読んだ記憶があります。丸や三角を線でつないでいるだけのジェノグラムが,家族の歴史や現状を表すさまざまな情報に溢れていることに驚きました。当時個人のアセスメントしか知らなかった私はこのような世界があるのかと感嘆したものです。そして,自分もこのようなジェノグラムを作り,臨床で活かしてみたいという思いから,ジェノグラムを扱ったワークショップや研修会に参加するようになりました。徹底的にジェノグラム・インタビューを行ったり,提示されたジェノグラムからどのように面接を展開するかロールプレイを交えて考えたり,ワークによっては自分がクライエント家族のロールプレイをすることもありました。こうした経験を通じて,ジェノグラムが教えてくれる豊かな世界にさらに魅了されていきました。その後もジェノグラムに関する文献を読み,臨床の中でジェノグラムを作り読み解くことを繰り返すうちに,ほんの少しですが支援の技術も向上したと感じています。
何年か前から,児童虐待対応の法定研修を依頼されるようになりましたが,その中では必ずジェノグラムに関する講義と演習を行うようにしています。支援を必要とする当事者やその家族を理解するためにジェノグラムを作り読み解くことは,児童福祉の支援者にとって必須であると考えてのことです。
本書の訳者である大沼吹雪さんは,私が講師を務めたジェノグラムに関する研修に参加され,関心を持ったとのことでした。大沼さんから本書の監訳を依頼されたとき,この研修を続け,ジェノグラムを作り読み解く重要性を伝えてきて良かったと感じました。
この本は自身の家族のジェノグラムを作り上げることを目標としていますが,それにとどまらず,書き方だけでなく読み方や支援者が目を向けるポイントまで詳しく説明されています。ジェノグラムに関する本の一冊として本書の刊行に関われたことをとても光栄に思います。
この本を通じて,多くの支援者がジェノグラムを活用できるようになることを願ってやみません。

柴田 健

 


 
はじめに

このワークブックは,ジェノグラムの入門書です。ジェノグラムは,家族について,そして,家族の中での自分の立ち位置と役割を理解するための刺激的で楽しいツールです。このワークブックでは,ジェノグラムの作り方と読み解き方を学ぶことができます。また,それを学ぶ中で,家族システム論の基本的な原理も学べます。

ジェノグラムは,家族を表した模式図です。ジェノグラムには,名前や生年月日,死亡年月日など,複数の世代に渡る家系図によく見られる情報が含まれています。その上,性格,職業,健康など,個人の重要な特性がわかるようにもなっています。しかし,ジェノグラムが家系図などと著しく異なる点は家族間の関係を表現していることです。家系図は,婚姻関係と子孫に関する基本的な情報しかありませんが,ジェノグラムでは特定の記号や線を使って,個人の感情的な関係や家族システムでの感情的な関係のパターンも描かれます。例えば,「結婚生活が幸せだったのか,問題があったのか」や「子どもが母親とは親密だが,父親とは距離を置いていた」といったことも,ジェノグラムであればわかります。また,これまでの家族の歴史や価値観によって多世代にわたり繰り返された家族の行動パターンの結果,あるいは危機によって生み出された不安の結果,家族関係がどのようになったかを示すこともできます。これこそがジェノグラムの真の力であり,家族や自分自身について,より深く理解できるように導いてくれます。

ジェノグラムを作ることは,他の家族をよりよく理解するのに役立ちます。しかし,最も重要な目的は,自分自身についての理解を深めることです。人生に一番大きな影響を与えるのは,自分を育てたあなたの家族です。家族は,私たちが意識していないところで私たちの行動パターンに影響を与え,これを形作らせています。しかし,こうした行動パターンが,実は世代から世代へと受け継がれていることに気づくことは滅多にありません。私たちは,社会の中でどのように行動し,どのような役割を果たすか,どのように人と付き合うかを家族から学びます。そして,友人,恋人,配偶者,親,労働者としてのあり方も学び,精神性,信仰,宗教への取り組み方,問題解決の方法,ポジティブ,あるいはネガティブな態度を取りやすいかなども身に付けます。生まれ育った家族は,言葉からマナーに至るまで,あらゆるものに影響を与えます。それは,人との関わり方が家族によって全く異なることからも明らかです。ほぼ会話がなくても対立しない家族がいる一方で,その近所に非常に騒々しく,挑発的な関係性の家族がいるかもしれません。人との関わり方のパターンが異なるこうした家族が出会えば,ひどく悪い関係にならないとしても,気まずい雰囲気になる可能性は高いでしょう。家族からのこうした影響は,どのような人間になるかを決定づけるものではありませんが,人生を生きるうえで必要なほぼすべてのものは,家族から受け取っています。そして,たいていの場合,こうした家族からの影響を受けて,無意識のうちに行動したり,反応しているのです。ジェノグラムを調べていけば,こうした影響の源泉を特定できるだけではなく,普段は無意識のうちに行っている行動パターンをはっきりと浮かび上がらせ,家族の機能の強みと弱みを明らかにできます。

こうしたことがわかれば,無意識に繰り返し選択していたネガティブな行動や思考,あるいは態度のパターンから抜け出して,自分の強みを活かした選択ができるようになります。また,月日を重ねるうちに,新しいポジティブな行動パターンや考え方を確立できるようになるかもしれません。私たちを形作ってきた家族の影響力を考えると,ある状況に対して今までと違う行動を選択することは非常に難しいものです。しかし,ある状況になると反応してしまって,いつもの行動パターンに陥ってしまうのではなく,いつもとは違う行動を選択できるようになるなら,たとえそれがたまにしかできないとしても,家族に大きな心の安らぎをもたらすことでしょう。

ジェノグラムは,家族が「互いに密接に影響し合う関係」であることを明確に教えてくれます。家族が「他の家族から独立して機能する個人の集団」ではなく,「互いに密接に影響し合う関係」であると認識することは,家族システム論の中核をなすものです。(家族システム論の概念は,職場のシステムや集会参加者など,家族と同じような機能を持つ他のシステムにも適用できます。)ジェノグラムの作成と分析を行えば,「ある家族の行動が,他の家族の行動にどのように影響しているか」をクリアに理解できるようになることでしょう。また,驚くことに,しばしばこの影響は,世代を超えてくり返されるものなのです。

ジェノグラムをどのように描き,どのように解釈するかは,ジェノグラムを作成する人によって違ってきます。ジェノグラムは,「一つの家族に一つだけ」というものではありません。「テーマ」によって異なるジェノグラムを作成することも可能です。家族関係については,それぞれの家族で違った見方をすることができますし,実際,おそらく違った見方をするはずです。しかし,これは全く問題がないことですし,あなたが自分のジェノグラムを作成したり,家族と共有したりすることをためらう必要もありません。ジェノグラムは,あなたに価値をもたらしてくれる,自分自身をより深く理解するためのツールです。
ワークブックの使い方
このワークブックは,すぐにでもジェノグラムの作成が始められるように構成されています。第1章では,ジェノグラムで使う一般的な記号や線,作成するためのルールを紹介しています。第1章にあるワークシート(34頁)を使って,あなたのジェノグラムを作ってみましょう。すぐに始めるのが一番です。ジェノグラムを作成していくうちに,おそらく今まで気づかなかった家族のパターンや重要な出来事が見えてくることでしょう。ジェノグラムを作成する前に,第1章を最初から最後までしっかりと読んでください。

残りの章では,ジェノグラムを使い,家族をより深く理解するための方法をご紹介します。第2章では,さまざまな家族の状況や関係性のパターンを理解するための基本的な解説をしています。そして,過去の世代のパターンが現在の世代に及ぼす力に触れ,さらに,性別と出生順位が家族の機能に及ぼす影響について特に注目をしています。第3章では,第2章で紹介した概念を,自分の状況に当てはめて考えるための質問を用意しています。これらの質問は,あなたのジェノグラムをより深く,詳細に理解する手助けをしてくれることでしょう。第4章では,第2章と第3章の基本知識を土台に,家族システム論の概念についてより詳しく説明しています。さらに,この章では,ジェノグラムの作成に必要な情報を収集する際に使うべきアイデアや戦略,家族への「インタビュー」テクニックを紹介しています。なお,このワークブックで紹介された概念についてより深く学びたい方のために,この分野に関する良書や家族システム論の観点から書かれた本の参考文献リストも用意しています。



 

著者紹介
[著者]
イスラエル・ガリンド(Israel Galindo)
  ガリンド博士は教育者であり,The Hidden Lives of Congregations(アルバン社)などの著書があり,Academy of Parish Clergy(教区聖職者アカデミー)の「2005年のベスト10ブック」に選ばれています。また,コロンビア神学校の副学部長兼オンライン教育部長であり,大学院の聖職者リーダーシップ研修プログラム「Leadership in Ministry Workshops」(www.leadershipinministry.org)を担当しています。数多くの講演やセミナーを行っており,神学大学院や組織のコンサルタントとしても活躍しています。

エレイン・ブーマー(Elaine Boomer)
  ワシントンD. C. エリアで個人開業している公認臨床ソーシャルワーカー。1989年から1991年にかけて,Generation to Generationの著者であるエドウィン・フリードマンの個人コーチングを受けたことが,家族システム論に触れるきっかけとなりました。
  1994年にバージニア・コモンウェルス大学でソーシャルワークの修士号を取得した後,1996年にフリードマンが亡くなるまで彼のもとで学びました。現在は,“Leadership In Ministry Workshops”の講師を務めるほか,地域のさまざまな団体でシステム思考に関するセミナーやワークショップを開催しています。

ドン・レーガン(Don Reagan)
  ボーエン家族システム論の創始者であるマレー・ボーエン博士が設立したワシントンD. C. のボーエン・センター(旧ジョージタウン・ファミリー・センター)で家族システム論を学びました。
  現在は,ジョージ・ワシントン大学のプロジェクトマネージャーとして家族システムの知識を活かして組織構造やプロセスの変革をリードし,管理しています。

[監訳]
柴田 健(しばた・けん)
  秋田大学教育文化学部地域文化学科地域社会・心理実践講座教授。1963年,秋田県秋田市生まれ。同志社大学大学院文学研究科博士課程前期修了。法務省東京少年鑑別所法務技官,秋田県の児童相談所等の心理判定員,弘前大学教育学部准教授を経て,現職。
  「ゆるいソリューション・フォーカスト・アプローチ研究会(通称,ゆるソリ研)」を地元秋田で運営。本会は何回かの名称変更をしながらも細々と続けられ,開催回数は100回を超えている。現在は,大学臨床心理相談室の臨床相談員,スクールカウンセラー,児童養護施設や矯正機関のスーパーバイザー等で活動するかたわら,教育領域や児童福祉領域での対話実践の可能性を探り共同研究中。
  著書に,「不登校・ひきこもりに効くブリーフセラピー」(日本評論社),「実践『教育相談』:個人と集団を伸ばす最強のクラス作り」(川島書店)など(いずれも共著)。

[訳者]
大沼吹雪(おおぬま・ふぶき)
  秋田県横手市役所健康推進課主査。1974年,秋田県横手市生まれ。厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業「児童虐待対応におけるアセスメントの在り方に関する調査研究」検討委員(2019年~2021年)。横手市要保護児童対策地域協議会調整担当職員(2017年~2023年)。児童福祉司等及び要保護児童対策調整機関調整担当者秋田県研修講師(2023年~)。

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