心理療法・カウンセリングにおけるスリー・ステップス・モデル──「自然回復」を中心にした対人援助の方法

心理療法・カウンセリングにおけるスリー・ステップス・モデル
──「自然回復」を中心にした対人援助の方法

(東北大学教授)若島孔文・(山形大学保健管理センター)鴨志田冴子・(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター)二本松直人 編著

定価2,600円(+税),150頁,A5判並製
ISBN978-4-86616-201-0 C3011
2024年8月刊行

 

膝を打った。確かに,心は自然に回復する。つまり,時間が仕事をしてくれる。
この本が教えてくれたのは,時間を助けるためのカラフルな方法たちだ。
東畑開人(臨床心理士・公認心理師)

心理療法の治療要因を突き詰めていくと,「共通要因」と「治療外要因」の存在が7割を占めると言われている。──この本は,そんなさまざまな心理療法に共通する治療要因を拡張させ,その後,治療外要因を増強させる戦略をもった臨床心理アプローチ「改訂スリー・ステップス・モデル」の理論と方法をまとめたものである。
2011年の東日本震災以降,編著者らは,被災者の悲嘆やトラウマ反応にこころを痛め,その中で生まれたのがスリー・ステップス・モデルで,多くの臨床家が実践でき,短期間で効果のあるアプローチであったという。その後,森田正馬の「自然回復」などの考えも取り入れ,トラウマ反応だけではなく,さまざまなこころの問題に対処できるよう磨かれたのが,改訂モデルである。
「改訂スリー・ステップス・モデル」は,アプローチの種類を問わず多くの心理療法家も実践できるものであり,この本に,そのABCがだれでもわかりやすくまとめられている。多くの臨床家にとって必読の一冊である。


主な目次

第1章 心理療法の効果要因
二本松直人
第2章 改訂スリー・ステップス・モデル
若島孔文・鴨志田冴子・二本松直人
第3章 2nd stepに関する研究
小岩広平
第4章 3rd step介入
鴨志田冴子・二本松直人・若島孔文
第5章 実践とディスカッションを通じた接近
小林 智
第6章 シングル・セッション・ソリューション(3S:スリーエス)と改訂スリー・ステップス・モデル
二本松直人・鴨志田冴子・若島孔文
第7章 子どもを対象にした改訂スリー・ステップス・モデルの実践
浅井このみ・浅井継悟
第8章 1st stepを重視した改訂スリー・ステップス・モデルの実践
戸田さやか
第9章 家族療法の実践と改訂スリー・ステップス・モデル
平泉 拓・鴨志田冴子
第10章 改訂スリー・ステップス・モデルに基づき実施した“休息”介入の試みが効果的であった事例
春山蘭乃・内山彩香


序   文

おそらく時代の流れであるが,ひどい自傷や暴力などの問題から,近年では発達障害や慢性的な精神疾患など,生涯にわたり付き合い続ける問題に,私たちカウンセラーやセラピストが取り組むことが多くなってきた。また,東日本大震災,能登半島地震など,大規模災害による中長期的な心理社会支援も重要となっている。
そのような中で,この〈改訂スリー・ステップス・モデル〉の特に1st stepや2nd stepはより活かせるであろうと,筆者は願っている。改訂スリー・ステップス・モデルの1st step,2nd stepはすべてのカウンセリングや心理療法で用いることができるであろう。3rd stepではさまざまな心理療法の技法を用いることができるはずである。改訂スリー・ステップス・モデルとは,自然回復を重要視し,1st stepから3rd stepまでの3つのステップから構成されるアプローチである。詳細は,第2章の8で説明される。
そもそものはじまりは次のようなことである。2011年3月11日東日本大震災──東北大地震──が発生した。自らのライフラインなどの生活の基盤が整わない中,東北大学大学院教育学研究科では,5月21・22日にInternational Medical Corpsを招き『災害支援ワークショップ』を開催した。約100名の援助者が参加した。このワークショップに基づき,私たちの支援グループは心理社会支援に関する理念を作成し,共有した。6月17日には,石巻市職員のストレス・ケア(第1回~第11回7月20日)が開始された。7月14日には東北大学大学院教育学研究科臨床心理相談室(現,東北大学大学院教育学研究科心理支援センター・臨床心理相談室)にて,被災者,仙台市職員(消防局含む)および消防団に対する臨床心理相談の無料化を決定した。7月31日に,佐藤克彦医師による「PTSDの理解と対応」ワークショップ(日本ブリーフセラピー協会後援)が開催された。この佐藤克彦先生の講義を受けて,私たちは,被災者に対する心理療法の型を明確化していき,個人面接における実践を続けた。この実践が最初のスリー・ステップス・モデルの誕生である。スリー・ステップス・モデルは被災者の悲嘆やトラウマ反応に対して,たいへん威力のあるアプローチであった(若島・野口・狐塚・吉田,2012)。
それから約10年の時を経て,私は森田正馬先生に関わる本や論文をたいへん個人的な形で研究していた。2020年から森田正馬研究会(旧 東北森田学習研究会)会長として研究会も行うようになった。森田正馬先生や井上円了先生に関わる個人的な研究の中で,「自然回復」に着目するようになり,「自然回復」を邪魔せず,尊重する心理療法に頭を巡らせた。最初に思い浮かんだのは,Carl R. Rogersである。しかしながら,直接的に「自然回復」に関するものではない。他にも頭を巡らせ,調べている中で,「はっ」とした。2012年に私たち自身が報告したスリー・ステップス・モデルである。
スリー・ステップス・モデルの1st stepや2nd Stepがもっとも「自然回復」を邪魔せず,尊重し,また,有意義な利用をしているのではないかと気づいた。燈台下暗しであった。「自然回復」の観点から見直しをはかったのが,本書の主題である「改訂スリー・ステップス・モデル(TSM-R)」(Wakashima, Kamoshida & Nihonmatsu, 2023)である。被災者の悲嘆やトラウマ反応だけではなく,広く適用できる心理療法の,また,カウンセリングのモデルとしてまとめられた。
本書は,〈改訂スリー・ステップス・モデル〉をさらに詳細にし,また,必要な修正を行ったものである(なお,本書の読み方として,第2章の8を最初に読んで,全体を読むという方法も一つである)。〈改訂スリー・ステップス・モデル〉は「自然回復」を強調するが,単に「自然回復」を述べるものではない。「自然回復」に着目することが,症状・病気,問題への執着を外し,解決努力を止める結果を導くという,いわば,「自然回復」への注目は「変化」への手段である,というものである。そういう意味で,ポスト森田療法であると言う人たちもいる。
また,短期療法の考え方に多くの基礎を置くが,会話による社会構成,質問法の重視という技法的な観点を最低限として,むしろセラピストの態度モデルに近づくことを目指したものでもある。
読者の皆様には,ぜひ〈改訂スリー・ステップス・モデル〉の特に1st stepや2nd stepを利用していただきたい。たぶん驚きの経験をするであろう。そして,「変化」に対して,肩の力を抜いた心理療法やカウンセリングが展開されるであろう。クライエントにも,セラピストにも,優しいカウンセリングや心理療法が展開されることを期待する。
2024年1月20日  若島孔文


 

編著者・執筆者一覧
編著者
若島孔文(わかしま・こうぶん)
ブリーフセラピスト(シニア),家族心理士,臨床心理士,公認心理師
2000年,東北大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。その後,立正大学心理学部准教授を経て,2008年より東北大学大学院教育学研究科准教授,現在,同教授・心理支援センターセンター長。
国際ブリーフセラピー協会研究員制度チーフトレーナー,International Academy of Family Psychology(国際家族心理学会)会長,日本心理臨床学会代議員,日本カウンセリング学会「カウンセリング研究」編集委員など。
主な著書・論文
『新版 よくわかる! 短期療法ガイドブック』(2018,金剛出版,共著)
Revision of the three steps model. International Journal of Brief Therapy and Family Science, 13(1), 1-5.(2023,共著)

鴨志田冴子(かもしだ・さえこ)
臨床心理士
2023年,東北大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。現在,山形大学保健管理センター助教。
主な著書・論文
The relationship between family variables and family social problems during the COVID-19 pandemic. PLOS ONE, 17(6), e0270210.(2022,共著)
子どものうつ病ラベルが親の責任帰属過程に与える影響.心理臨床学研究,40(6), 526-532.(2023,共著)
リフレーミングと対処行動の変容により頭痛と自己臭恐怖が軽減した症例.慢性疼痛,42(1), 136-140.(2023,共著)

二本松直人(にほんまつ・なおと)
公認心理師,臨床心理士,ブリーフコーチ・エグゼクティブ,ブリーフセラピスト(シニア)
2023年,東北大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。2020年より,日本学術振興会特別研究員。その後2022年より,福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター助手。現在,同センター助教。医療創生大学非常勤講師,仙台医療センター附属仙台医療看護助産学校非常勤講師。
主な著書・論文
攻撃的な笑いへの反応尺度による反応タイプの分類―現代の若者のコミュニケーション支援を目指して.笑い学研究,25, 72-89.(2018,共著)
Brief coaching for supporting transitions in employment. Interactional Journal of Brief Therapy and Family Science, 10(2), 14-21.(2020,共著)
子どもに対するブリーフセラピー1 学校内システムにおける支援─ゲーム障害.Interactional Mind, 15, 30-36.(2023,共著)

執筆者一覧(アルファベット名前順)
浅井継悟(あさい・けいご)
北海道教育大学大学院教育学研究科准教授,臨床心理士・公認心理師,ブリーフセラピスト(シニア),博士(教育学,東北大学)
『テキスト家族心理学』(2021,金剛出版,分担執筆)
『感情制御ハンドブック』(2022,北大路書房,分担執筆)
Reliability and validity of the Japanese version of the Active-Emphatic Listening Scale. BMC Psychology, 8, 1-11.(2020,共著)

浅井このみ(あさい・このみ)
市立釧路総合病院,臨床心理士・公認心理師,ブリーフセラピスト(ベーシック),SETMプラクティショナー,修士(教育学,東北大学)
『テキスト家族心理学』(2021,金剛出版,分担執筆)
A pilot study to assess positive and negative post-divorce parental disclosures. International Journal of Brief Therapy and Family Science, 11(1), 14-25.(2021,共著)
Therapeutic assessment with brief therapy: A single case study of an elementary student’s school refusal. International Journal of Brief Therapy and Family Science, 13(1), 43-49.(2023,共著)

春山蘭乃(はるやま・らんの)
東北大学大学院教育学研究科博士課程後期,臨床心理士,修士(教育学,東北大学)
境界性パーソナリティ特性と見捨てられスキーマおよび被受容感との関連性.東北大学大学院教育学研究科心理支援センター研究紀要,1, 267-273.(2022,共著)
スリー・ステップス・モデルに基づく“休息”の介入の試み―夫婦関係や育児不安に悩む女性の事例.東北大学大学院教育学研究科心理支援センター研究紀要,2, 91-100.(2023,共著)

平泉 拓(ひらいずみ・たく)
宮城大学看護学群准教授,臨床心理士・公認心理師,博士(教育学,東北大学)
『臨床心理学概論』(2023,サイエンス社,共著)
『テキスト家族心理学』(2021,金子書房,分担執筆)
『家族心理学ハンドブック』(2019,金剛出版,分担執筆)

小岩広平(こいわ・こうへい)
北海道教育大学大学院教育学研究科准教授,臨床心理士・公認心理師,博士(教育学,東北大学)
現代青年の友人集団における「空気」を読めない言動への対処行動.心理学研究,91(5), 312-322.(2020,共著)
我が国における看護師の新型コロナウイルス感染症への感染恐怖の規定要因.心理学研究,92(5), 442-451.(2021,共著)
Fear of COVID-19 infection and related factors in Japan: A comparison of college students, pregnant women, hospital nurses and the general public. PLOS ONE, 17(7), e0271176.(2022,共著)

小林 智(こばやし・たく)
新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科准教授,臨床心理士・公認心理師・ブリーフセラピスト(シニア),修士(教育学,東北大学)
『解決の物語から学ぶブリーフセラピーのエッセンス』(2016,遠見書房,分担執筆)
高等教育段階における不登校研究の課題と展望.新潟青陵大学大学院臨床心理学研究.11, 45-52.(2022)
Development of Scale on Symmetry and Complementarity in Conversation. International Journal of Brief Therapy and Family Science, 2(1), 16-22.(2012)

戸田さやか(とだ・さやか)
株式会社ファミワン,臨床心理士・公認心理師,ブリーフセラピスト(シニア),生殖心理カウンセラー,がん・生殖医療専門心理士,修士(心理学,東京成徳大学)
『テキスト家族心理学』(2021,金剛出版,分担執筆)
引きこもり女性への家族面接の一事例.Interactional Mind, III, 135-138. (2010,共著)
息子の家庭内暴力を主訴とする母親へのブリーフセラピー面接の一事例.Interactional Mind, III, 131-134.(2010,共著)

内山彩香(うちやま・あやか)
東北大学大学院教育学研究科博士課程後期,臨床心理士,修士(教育学,東北大学)
家族療法に基づく相互作用の変容と共行動課題を取り入れた事例.東北大学心理支援センター研究紀要,2, 61-71.(2023,共著)
ヤングケアラーにおけるケア経験と家族機能がベネフィットファインディングに及ぼす影響の検討.家族心理学研究,37(2), 131-143.(2024,共著)

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