そもそも心理支援は,精神科治療とどう違うのか──対話が拓く心理職の豊かな専門性

そもそも心理支援は,精神科治療とどう違うのか──対話が拓く心理職の豊かな専門性

(跡見学園女子大学/東京大学名誉教授)下山晴彦 編著
定価2,200円(+税),220頁,四六判並製
ISBN978-4-86616-192-1 C3011
2024年5月刊行

 

国家資格「公認心理師」ができたことで,心理支援のあり方が法的に決まり,精神科治療の枠組みに収められています。しかし本来,心理支援と精神科における医療による支援は別物のはず。心理支援とは何なのか? 心理職の専門性とは何なのか?
この本は,そんな疑問を解き明かそうとしてきた下山晴彦さんと,同じような疑問をもったものたちによる対談集です。信田さよ子さん,茂木健一郎さん,石原孝二さん,東畑開人さん,黒木俊秀さんなど超豪華な顔ぶれです。


目 次

第1部 精神医療の最新動向と心理支援の未来
第1章 日本の精神医療の中で心理職はどうするか?
黒木俊秀 下山晴彦
第2章 心理職の未来に向けて期待すること
黒木俊秀 下山晴彦

第2部 医療中心主義の限界を超えて
第3章 何とかしようよ! 日本の精神科医療
下山晴彦 北原祐理
第4章 精神医療の影響が強すぎないか?
茂木健一郎 下山晴彦 北原祐理
第5章 クライアントさんに役立つことを考えよう!
茂木健一郎 下山晴彦 北原祐理

第3部 診断から対話,そして心理支援の専門性へ
第6章 医学モデルの限界を知る
石原孝二 下山晴彦
第7章 診断から対話へ
石原孝二 下山晴彦
第8章 ケース・フォーミュレーションで医学モデルを超える
下山晴彦

第4部 分断から対話,そして豊かな実践へ
第9章 心理職の未来のための設計図を語る
東畑開人 下山晴彦
第10章 認知行動療法と精神分析の対話は可能か?
山崎孝明 下山晴彦
第11章 公認心理師の時代だからこそ対話が求められる!
糸井岳史 岡野憲一郎 下山晴彦

第5部 学派を超えた心理支援の豊かな実践
第12章 エクスポージャーと,家族との協働
宍倉久里江 野中舞子 下山晴彦
第13章 マリアージュ「認知行動療法×遊戯療法」
小倉加奈子 下山晴彦
第14章 ケース・フォーミュレーションの活用
小倉加奈子 下山晴彦

第6部 心理支援の専門性の発展1
第15章 時代はブリーフセラピーを求めている
田中ひな子 下山晴彦
第16章 レジリエンスを引き出す心理支援
平野真理 下山晴彦

第7部 心理支援の専門性の発展2
第17章 メンタライゼーションを学ぶ
下山晴彦 北原祐理
第18章 心理支援の基本とは何か
池田暁史 北原祐理 下山晴彦

第8部 心理支援の専門性の発展3
第19章 コンパッション・フォーカスト・セラピーを学ぶ
有光興記 下山晴彦
第20章 普通の相談におけるコンパッションの意味
有光興記 下山晴彦 中野美奈

第9部 心理職の未来に向けて
第21章 協働を妨げる医学モデルを越えて
信田さよ子 下山晴彦
第22章 心理職の存在の根拠を問う
信田さよ子 下山晴彦
第23章 日本の権力構造と心理職の未来
信田さよ子 下山晴彦


編著者略歴
下山晴彦(しもやま・はるひこ):跡見学園女子大学心理学部教授。東京大学名誉教授。東京大学教育学研究科修了。博士(教育学),東京大学学生相談所,東京工業大学保健管理センター,東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コースを経て,現職。跡見学園女子大学心理教育相談所長を併任。

執筆者一覧(執筆順)
黒木俊秀(くろき・としひで:中村学園大学,九州大学名誉教授)
北原祐理(きたはら・ゆうり:筑波大学学生相談)
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう:ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員,東京大学大学院特任教授(共創研究室,Collective Intelligence Research Laboratory),東京大学大学院客員教授(広域科学専攻))
石原孝二(いしはら・こうじ:東京大学)
東畑開人(とうはた・かいと:白金高輪カウンセリングルーム)
山崎孝明(やまざき・たかあき:こども・思春期メンタルクリニック)
糸井岳史(いとい・たけし:路地裏発達支援オフィス)
岡野憲一郎(おかの・けんいちろう:本郷の森診療所,京都大学名誉教授)
宍倉久里江(ししくら・くりえ:東洋英和女学院大学)
野中舞子(のなか・まいこ:帝京大学)
小倉加奈子(おぐら・かなこ:成仁病院こころの発達支援室)
田中ひな子(たなか・ひなこ:原宿カウンセリングセンター)
平野真理(ひらの・まり:お茶の水女子大学)
池田暁史(いけだ・あきふみ:大正大学)
有光興記(ありみつ・こうき:関西学院大学)
中野美奈(なかの・みな:福山大学)
信田さよ子(のぶた・さよこ:原宿カウンセリングセンター)


はじめに

   臨床心理iNEXT代表 下山晴彦

本書は,「心理支援の専門性とは何か」をテーマとした対談集です。

我が国における従来の心理支援は,その心理職が信奉する学派の心理療法を来談者に実施する「プライベート・プラクティス」が理想モデルでした。しかし,心理職の国家資格である公認心理師ができたことで,心理支援を,広く国民が利用できる「パブリック・サービス」として提供するモデルへと,パラダイム変換が進んでいます。
ただし,公認心理師制度は,到達目標からも分かるように医学モデルの影響が強くなっており,単純に心理職のための制度とは言えません。このような状況変化の中で「心理支援の専門性」をどのように位置付けるのが良いでしょうか。医学モデルに従うのが良いのでしょうか。あるいは,心理支援の独自の専門性を発展させることが必要でしょうか。

これは,「心理職の主体性」と関わるテーマでもあります。

本書の記事は,オンライン広報誌「臨床心理マガジンiNEXT」に掲載された対談に,新たに実施した対談を加えて編集した選りすぐりのコレクションです。さまざまな年代の心理職や精神科医に加えて脳科学者の茂木健一郎氏など,多彩なゲストを迎えての対談となっています。読者は,精神科医療との比較を通して,さらには現代の社会変化との関連で「心理支援の専門性」と「心理職の主体性」の最新動向を知ることができます。
多くの皆様が,本書をきっかけとして日本のメンタルケアの改善と,心理職の発展に関心を持っていただけると幸いです。


おわりに

本書は,「心理職」および「心理職を目指す学生」の会員組織「臨床心理iNEXT」のオンライン広報誌の記事に基づいて作成されました。2017年の公認心理師制度のスタートを受けて,当時私が在職していた東京大学の産学協創フォーラムとして「臨床心理iNEXT」を創設したのが2019年の春でした。同じ時期に遠見書房の山内俊介社長にオンライン広報誌の発行について相談をし,同社と「臨床心理iNEXT」が協力して「臨床心理マガジンiNEXT」を2020年4月より発行することとなりました。
ところが,2020年の初頭に始まったコロナ禍は急激に勢いを増して,緊急事態宣言が出されました。そのため,テーマを急遽「緊急特集:新型コロナ・ウィルスを乗り越えるために」に変更し,創刊号を同年の4月16日に発行しました。それから2年間は,コロナ禍の中での心理職の活動の発展を模索することが課題となりました。
そのような時期にスタッフとしてマガジン編集に協力いただいたのが当時の東京大学の私の研究室の特任助教であった北原祐理さんと,特任研究員であった原田優さんでした。2022年春に私が東京大学を退職し,跡見学園女子大学に異動した後には,マガジン発行は臨床心理iNEXTのみが担当することとなりました。編集は,引き続き原田優さんと,臨床心理iNEXT研究員の田嶋志保さんに全面的に協力をいただいています。原田さんには,主にマガジンのデザインをお願いしています。田嶋さんには,主に校正作業をお願いしています。
本書を発行するにあたり,対談にご協力をいただいた皆様,そして「臨床心理マガジンiNEXT」の編集・発行にご協力をいただいた皆様に,心より感謝申し上げます。

東京大学下山研究室の同窓会を1カ月後に控えた春宵に
下山晴彦

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