チーム学校で子どもとコミュニティを支える―教師とSCのための学校臨床のリアルと対応

チーム学校で子どもとコミュニティを支える―教師とSCのための学校臨床のリアルと対応

(九州大学大学院人間環境学研究院教授)増田健太郎 著

定価2,800円(+税),176頁,A5判並製
ISBN978-4-86616-190-7 C3011

学校現場には,光と影がある。光は教師たちの絶え間ない努力と教育実践の成果としての子どもたちの成長である。一方,影は不登校やいじめなど学校臨床が対象とする事象である。本書は,不登校・いじめ・学級崩壊・保護者のクレームなど,学校現場が今悩んでいることを,データと事例によってリアルに描き出し,教師や養護教諭,スクールカウンセラーらのスタッフが,それぞれの専門能力を用い,どのようにチーム学校で子どもとコミュニティを支えるのかを考えた本である。
この本は,小学校教諭から臨床心理学研究者へと転じ,学校や地域と連携しながら臨床に携わってきた著者による前向きな学校臨床の手引き。学校関係者必読の一書。


目 次

第1部 学校臨床の現状
第1章 学校臨床とは何か
第2章 教育相談機能とは何か
第3章 スクールカウンセラーの実際
第2部 学校臨床の実際と対応
第4章 不登校の現状と対応
第5章 いじめの問題とその対応
第6章 気になる子どもへの対応
第7章 学級崩壊の現実と対応
第8章 保護者のクレームとその対応
第9章 効果的な授業・研修会の方法


著者略歴
増田健太郎(ますだ・けんたろう)
九州大学大学院人間環境学研究院教授。博士(教育学)。臨床心理士,公認心理師。
九州大学大学院人間環境学研究院博士後期課程単位取得満期退学。公立小学校教諭,九州共立大学経済学部助教授,九州大学大学院人間環境学研究院助教授を経て現職。
専門は教育経営学・臨床心理学。
主な著書
『教師・SCのための心理教育素材集―生きる知恵を育むトレーニング』(監修・著,遠見書房),『学校の先生・SCにも知ってほしい:不登校の子どもに何が必要か』(編著,慶応義塾大学出版会),「不妊治療と不妊カウンセリングの臨床心理学的研究」(月刊 精神医学)ほか多数。


はじめに

学校現場には,光と影がある。光は教師たちの絶え間ない努力と教育実践の成果としての子どもたちの成長である。一方,影は不登校やいじめなど学校臨床が対象とする事象である。本書では,不登校・いじめ・学級崩壊・保護者のクレームなど,学校現場が今悩んでいることを,データと事例によって,学校現場のリアルを描き出し,学校やスクールカウンセラー(以下,SCと略記)等がどのように,チーム学校で子どもとコミュニティを支えるのかを考えるための本である。チーム学校で教師や子どもたちを支援するためには,コミュニケーションのあり方が課題となる。支え合うコミュニケーションとは何かを考えるために,コミュニケーションの種類や本質にも言及している。また,カリキュラムや授業をどのように展開すれは,子どもたちにとっての有意義なものになるのかも取り入れている。
コラム欄には,「ほめる文化に転換するために」や「仕事の優先順位のつけ方」等,筆者がこれまでの取り組みを通して感じたり考えたりしていることを紹介している。
子どもたちの明るい声がこだまする学校は素敵である。学校での研修や調査等で,幼稚園から高校まで行く機会が多いが,どんなに疲れていても,子どもたちの「澄んだ瞳」と「明るい笑顔」に接すると元気になる。それは,日本だけでなく海外でも同じである。フィンランドのオウル市で,小学校・中学校・高校の先生の家にホームステイをしながら,1カ月間,総合学校(小・中一貫校)で授業観察や授業をさせてもらったとき,子どもたちの澄んだ瞳と笑顔に何度も救われた。アメリカやオーストラリアの小学校に調査に行ったときも,子どもたちと一緒に遊ぶだけで海外調査の疲れを癒してくれた。調査訪問を受け入れてくれる学校には,日本も海外も5つの共通の要因がある。1つ目は校長先生の理解がある,2つ目は先生同士の協働性がある,3つ目に先生たちが自然体である(よいところもわるいところもオープン),4つ目は先生たちも子どもたちも気持ちのよい挨拶が返ってくる,5つ目は学校がきれいである。逆に考えると,調査や学校訪問を断る学校は,前述の5つの要因のどれかが,足りないのかもしれない。教職員の関係性のよさ,専門機関とすぐにつながる関係性,ウチとソトに開かれた学校である。
最近,「教員不足」「学校現場のブラック化」等学校の危機的な状況を伝える教育関係のニュースが多い。実際に学校を訪問して,研修会を行ったり,校長たちと話をしたりしても,新任の教師が増えたが,中堅層の教職員が少ないこと,業務多忙で今まで長年蓄積されてきた教師のスキルが伝承されずに,学級経営力や授業力の低下を心配する声もある。業務が多忙の中,不登校やいじめの問題,発達障害児童生徒への対応など「学校臨床問題」にどのように対応したらよいのか悩んでいる学校も多い。近年は公的に調査がされていないために実数はわからないが,いわゆる学級崩壊も増えてきている印象である。学級崩壊は,児童生徒の不登校やいじめ,保護者のクレーム,教師の精神疾患による休職・離職などあらゆる学校臨床問題が集約的に現れる事象である。教員不足で次の担任が補充できずに,教頭や教務主任が兼任で担任を持っている事例も多い。そうなると学校経営にも支障が出てくる。また,保護者のクレームの問題が課題となっている学校も多い。学級崩壊や保護者のクレームにどのように対応するのか苦悩しているのが現状であろう。
派遣されたSCやスクールソーシャルワーカー(以下,SSWと略記)を上手に活用している学校もあれば,活用できずにいる学校もある。上手に活用されていない学校は,それぞれの専門職が持っている背景や個人的力量が違うことに加え,SCは不登校や発達障害児童生徒の対応のみ,SSWは虐待や貧困家庭の対応のみと,SCやSSWの役割を決めつけていることもひとつの要因である。先述したように学級崩壊は,多様な学校臨床問題が発生する現象である。また,保護者のクレームも教師のメンタル面に大きな影響を及ぼすとともに,学級経営や学校経営にも大きな影響を与えている。チーム学校で対応するとき,その中に,いかにSCやSSWに参画してもらい,学校臨床問題全体に一緒に取り組んでもらえるかが,学校臨床問題解決のための一つの鍵である。
そこで,本書では,学校臨床問題とは何かの全体像を示し,各事象に対して学校臨床問題を解決するためのヒントを多くの事例をもとに考える構成としている。また,授業の方法についても筆者の授業実践をもとに解説している。学校臨床問題はそれぞれに対処すべきことであるが,学校の教師の本来の業務の中心は授業である。児童生徒の学校生活の中心は授業時間である。授業が楽しければ,不登校やいじめなどにも間接的にポジティブな影響を与えることができる。
本書を一人でも多くの教職員やSC・SSWなど専門能力スタッフに読んでいただき,学校臨床に対応するために活用していただければ幸いである。
なお,本書では,実際の学校現場での臨床問題を理解してもらうために事例を掲載している。掲載している事例は全て許可をもらっているか,事例の本質を損なわない程度に改変しているものである。

増田健太郎

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