システムズアプローチのものの見方──「人間関係」を変える心理療法

システムズアプローチのものの見方──「人間関係」を変える心理療法

(龍谷大学教授・家族療法家)吉川 悟 著

4,600円(+税) A5判 並製 344頁 C3011 ISBN978-4-86616-180-8

 

家族療法だけでなく,多くの心理療法や社会的支援の基本理念となっているシステムズアプローチ。本書は,システムズアプローチの歴史,理論から実践までのすべてを緻密に書いた一冊である。
多彩な家族療法の事例も多く掲載され,同時並行的なセラピストの心中の吐露や,細かなシステムの見立てなど,さまざまな試みがなされ,長大ながら読みやすい。本書にあるシステムズアプローチのものの見方を学ぶだけでも,セラピストを一定水準以上の臨床家に引き上げることだろう。
この本は,30年前にまとめた若き臨床家の冒険的な思索を,熟練のセラピストとなった今,自身の手で大きく改稿したものであり,明日からの臨床や支援のためにすべての支援者にとって必読の本となっている。


主な目次

序章
第1部 システムズアプローチの〈ものの見方〉
第1章 システムズアプローチまでの軌跡
第2章 システムズアプローチの基本的な〈ものの見方〉
第3章 治療としてのシステムズアプローチの概略
第2部 システムズアプローチの実践での〈ものの見方〉とのつながり
第4章 システムズアプローチの実際
第5章 治療者の呟きとともに
第6章 治療システムと〈ものの見方〉
第3部 システムズアプローチに不可欠な〈ものの見方〉と発展可能性
第7章 システムズアプローチの本質──面接場面で起こっていることそのものを使いこなす
第8章 ある仮面舞踏会


著者略歴

吉川 悟(よしかわ・さとる)

〈学歴・学位〉
和光大学人文学部人間関係学科 1983.3.20. 文学士
龍谷大学文学研究科 2023.3.18. 博士(臨床心理)
〈職  歴〉
1985.8.1. – 1987.10.1. 湖南クリニック 研修生(楢林理一郎,三輪健一の元での陪診)
1986.9.1. – 1987. 3.31. 大手前ファミリールーム 職員(東豊所長の下に,弟子入り)
1987.4.1. – 2006.3.31. 大手前ファミリールーム 所長(東から所長業務を交代し,閉鎖するまで)
1988.5.1. – 1995.3.31. 医療法人周行会 湖南病院 臨床心理士(非常勤)(湖南病院家族療法プロジェクトメンバーとして参加/指導)
1989.1.1. – 2006. 3.31. システムズアプローチ研究所 所長(大手前/神戸/湖南という3つのFRを含む臨床と研究・研修の組織体の代表)
1992.4.1.  湖南クリニック 思春期外来担当セラピスト(非常勤)(楢林所長のクリニックでの非常勤心理士)
1993.9.1. – 1995.3.31. 香川大学教育学部 非常勤講師(初めての大学の学部の非常勤講師)
1996.7.1. – 現在に至る スミレ学園 滋賀女子短期大学付属高等学校 スクールカウンセラー(非常勤)
1997.9.1. – 2004.3.31. コミュニケーション・ケアセンター 所長(関西医大心療内科の中井教授の肝いりでの開業)
1997.12.1. – 2021.3.31. 関西医科大学 心療内科学教室 研究生(同時期に心療内科学教室に入局)
2001.4.1. – 2021.3.31. 京都教育大学大学院 非常勤講師(大学院での非常勤講師。担当は「家族心理学特殊講義」)
2004.4.1. – 2005. 3.31. 龍谷大学文学部哲学科教育学専攻 非常勤講師(翌年からの専任職のための非常勤勤務)
2005.4.1. – 2007.3.31. 龍谷大学文学部哲学科教育学専攻 特別任用教員
2007.4.1. – 2012.3.31. 龍谷大学文学部哲学科教育学専攻 専任教員(2009年から教育学専攻教務主任,大学院文学研究科付属臨床心理相談室長)
2012.4.1. – 2023.3.31. 龍谷大学文学部臨床心理学科 専任教員(この間,臨床心理学専攻主任の兼務)
2023.4.1. – 現在に至る 龍谷大学心理学部 専任教員(4月より心理学部長)
〈学会活動〉
1998. 4.1. – 2008.3.31. 日本家族心理学会 理事
1998.5.23 – 2007.5.25. 日本家族研究・家族療法学会 副会長
2000.4.1. – 2021.3.31. 日本思春期青年期精神医学会 編集委員
2001.4.1. – 2005.3.31. 日本ブリーフサイコセラピー学会 学会長
2003.11.3. – 2006.10.30. 日本心理臨床学会 監事
2004.7.1. – 現在に至る 日本心身医学会 代議員
〈賞  罰〉
1997.7.26. 日本ブリーフサイコセラピー学会 研究奨励賞
1998.5.30. 日本家族心理学会 研究奨励賞
2006.7.25. 日本ブリーフサイコセラピー学会 学会賞
〈著  作〉
『開業心理臨床』(共著/星和書店/1990)
『家族療法─システムズアプローチのものの見方』(単著/ミネルヴァ書房/1993)
『ドラマとしての心理療法─心理療法家は詐欺師か』(単著/創森出版/1995)
『喪失と家族のきずな』(共著/金剛出版/1998)
『学校におけるブリーフセラピー』(共著/金剛出版/1998)
『システム論から見た学校臨床』(編著/金剛出版/1999)
『青年のひきこもり─心理社会的背景・病理・治療援助』(共著/岩崎学術出版社/2000)
『家族問題─危機と存続』(共著/ミネルヴァ書房/2000)
『システムズアプローチによる家族療法のすすめ方』(共著/ミネルヴァ書房/2001)
『ひきこもりケースの家族援助─相談・治療・予防』(共著/金剛出版/2001)
『産業臨床におけるブリーフセラピー』(共著/金剛出版/2001)
『暴力と思春期─思春期青年期ケース研究9』(共著/岩崎学術出版社/2001)
『システム論から見た思春期・青年期の困難事例』(編著/金剛出版/2001)
『ナラティヴ・セラピー入門』(共著/金剛出版/2001)
『看護のための最新医学講座第12巻・精神疾患』(共著/中山書店/2002)
『家族療法リソースブック』(共著/金剛出版/2002)
『家族はこんな風に変わる新日本家族十景』(編著/昭和堂/2002)
『より効果的な心理療法を目指して』(共著/金剛出版/2004)
『セラピーをスリムにする─ブリーフセラピー入門』(単著/金剛出版/2004)
『カウンセリングプロセスハンドブック』(共著/金子書房/2004)
『心因性難聴』(共著/中山書店/2005)
『心理療法ハンドブック』(共著/創元社/2005)
『臨床心身医学入門テキスト』(共著/三輪書店/2005)
『家族療法のヒント』(共著/家族療法のヒント/2006)
『意識と無意識』(共著/人文書院/2006)
『学校臨床のヒントとキーワード─こころの問題編』(共著/金剛出版/2007)
『医療における心理行動科学的アプローチ』(共著/新曜社/2009)
『システム論からみた援助組織の協働─組織のメタアセスメント』(共著/金剛出版/2009)
『心理療法がうまくいくための工夫』(共著/金剛出版/2009)
『ナラティヴ・アプローチ』(共著/勁草書房/2009)
『子どもの心の診療シリーズ7─子どもの攻撃性と破壊的行動障害』(共著/中山書店/2009)
『心理臨床を見直す介在療法─対人援助の新しい視点』(共著/金剛出版/2012)
『家族療法テキストブック』(共著/金剛出版/2013)
『対人援助における臨床心理学入門』(編著/ミネルヴァ書房/2014)
『対人援助をめぐる実践と考察』(編著/ナカニシヤ出版/2014)
『システムズアプローチ入門─人間関係を扱うアプローチのコミュニケーションの読み解き方』(共著/ナカニシヤ出版/2017)
『システムズアプローチによるスクールカウンセリング─システム論から見た学校臨床[第二版]』(編著/金剛出版/2019)
『ブリーフセラピー入門─柔軟で効果的なアプローチに向けて』(共著/遠見書房/2020)
『現代の臨床心理学第3巻─臨床心理介入法』(共著/東京大学出版会/2021)


あとがき

まず,この書籍の出自を述べておきたい。
1989年,某出版社からの依頼を受けた師匠から,「代わりに書いて」と頼まれ,1990年に一旦書き上げた。本書の約4割程度であった。
1991年,原稿をお送りしたが,お返事がないまま。仕方なく催促してみたところ,「これは出せません」とのこと。理由が知りたかったが,怖くて聞けなかった。
1992年,別の某出版社からの別の原稿の依頼が私にあり,あれこれ話しているうちに「原稿があるのですが……」というと,出版したいから追加で3割程度書き足すべきとのこと。3カ月で600枚追加して,1993年に出版された。
1997年,改訂版か新たな書籍をとのことで,類似する書籍を上梓することとしたが,遅々として進まず,2001年にやっと上梓。全く別ものになってしまった感が拭えない。以後2019年まで,いろいろな人から「あの本,手に入らないのか?」「再版の話はどうなった?」「いつになったら改訂版を出すのか?」「改訂しなくても,とにかく再版しろ」など,雑音の嵐が吹き荒れていた。
その間,改訂版の構想目次を作ること十数回,それに準じてあれこれ書き貯めた原稿が山のようにある。でも,どうしても決断できない。腰を据えて,あれこれ考えてみたらはっきりとわかったことがあった。「大事な部分は,今も新鮮なのだ。大事なポイントを書き尽くしてしまっているから,書き直しようがないのだ」と。
改めて,本書を書き上げても,まだ大事だと考えている部分があれこれあって,足りない部分がまだまだ手元の原稿に残っている。でも,一旦ここで区切りにしておきたい。それは,その当時から勝手に名付けた「システムズアプローチ」という臨床的心理支援の一分野が,ずいぶんと広がったようである。しかし一方では,30年を経過してもまだ「この視点は新しい」と思われてしまうほど,大事なことが伝わらないまま。つまり,本当の意味でのしっかりとした理解がされておらず,普遍的なものにはなっていないのだと気がついたからである。

家族療法やシステムズアプローチという特殊なオリエンテーションを基本とした臨床的活動をはじめて,すでに30年以上が経過している。半分は開業臨床の世界で,半分は大学教育に身を置いているのだが,開業の時代から臨床教育を実質的に行っていたし,大学教育の中でも臨床実践のケースを常に100前後に対応している。どちらが主なのか,なんともいえない比重である。
最近になってやっと気がついたこと,それは「臨床ができること」と「教育ができること」が相容れないものだと考えるべきだということ。自分がこのどちらもを常に並行してやってきたという経緯があるから,余計にわからなかったのかもしれない。でも,実際の臨床的対応は素晴らしいのに,いざ教育的指導では一線が引かれていたりするような光景もよく見る。また,多くの指導を受けている後進が潰れてしまったり,臨床から離れてしまったりしていることもよく耳にする。一方,臨床的なセンスはあまりないものの,指導的・教育的な対応に関しては,鋭いなあと舌を巻くような場面にも遭遇する。でも,多くは両雄並び立たずということが,最近になってはっきりとした気がする。
これは,他のオリエンテーションの心理療法の場合でも同様であるように思う。特にシステムズアプローチや家族療法に限ったことではない気がする。それが理由かもしれないが,一部を断片的に使っているという意識の人は,これからも折衷的方法論の一つのツールとして,「システムズアプローチ」を切り刻んで使っていただければ良いと考える。しかし,「我こそは,システムズアプローチの実践者である」との声を大にする以上は,適切に可能な限り正しく「システムズアプローチ」を使い,説明し,論理立てて,認識論とのつながりを明確に示すべきだと考える。それができずに,認識論的誤謬に無自覚なままで指導するのでは,やはり間違って教えることになってしまう。指導された側にとってみれば,遠回りをしながらの学習をすることになってしまうので,不適切な負荷を与えてしまっていることになる。これが不適切なのは治療者としての臨床倫理と同様ではないだろうか。
こんなことを考えていると,師匠はそんな私に苦言を呈することが多くなった。「吉川のシステムズアプローチの考え方や,その可否の評価がシビアなのは,『本家本元』だという自負があるからだ」と宣わる。「もう少し柔らかくてもいいと思うんだけど」とも呟く。それに対して,「本当のことがわかっているならば,多少のいい加減や曖昧なままでもいいかもしれませんが,わかっていない奴がいい加減な説明しているのは,やはりダメだと思います」と反論してみたりもする。しかしそれでも,「まあ,そこまで厳密なこといわんでも良いんじゃないのかなあ。確かに『本家本元』に近い連中が,いい加減なことを言っているのは,俺もアカンと思うけど」と曖昧模糊としたコメントで締め括りとなる。

臨床における教育や後進の指導はどうあるべきか,これまで多くの実践的演習やタスク,ワークなどを生み出し,実際の現場に応用できるように試行錯誤してきた経緯がある。それでもその多くの人たちには,決定的な過不足があるように思えてならない。それは,通常の臨床実践の初期段階で身につけた「面接での関係作り」や「クライエントとの応答」など,治療関係の在り方に関しての癖をそのままにした上で,新たにシステムズアプローチの実践を重ねたとしても,基本的な臨床能力の向上は期待できないという事実である。
ある程度の治療関係作りができてしまえば,そこにシステムズアプローチならではの対応を実施すれば,普通以上に効果的な面接が行えるようにはなるが,所詮,そこまで止まりである。いわば,自分のやりやすい治療関係の距離や操作の方法に準じてしか対応できなくなっていて,自分では永遠に気がつかない。そして,スーパービジョンなどの機会にそれを指摘された場合,本気で治そうとしない限り,いくらシステムズアプローチの勉強をしたとしても,悲しいことに全く伸びないままとなる。
これまでに数名,臨床的対応を根本的に見直す決断をし,認識論を突き詰めて考え,それを実践の中に取り入れる必要性を考えた人たちがいた。彼らの素晴らしい臨床実践の共通性は,その応対の柔軟性である。しかし,同様にそうした指摘を理解しておきながら,その修正に手を染めきれなかった人たちは,やはりある種の折衷的対応に留まってしまい,それでもなおシステムズアプローチの有効性を謳っていることが圧倒的である。
システムズアプローチという方法論の実践対象は,個人から社会の組織体まで,これまでのような単純な「個人」という存在だけではない。それでいながらも,実際的に社会的場面における相互影響過程を作り出す存在の最小単位は,「個人」であるという,一見矛盾した結論に至りそうである。しかし,ここにこそ認識論的誤謬があるのだ。人は教科書の中に書いてあるような他からの影響を受けない純粋無垢の存在ではなく,常に他からの影響に基づく反応として相互影響過程そのものを作り出している。そのつながりの一部を区切って考えること自体が認識論的に間違っているのだと気がつくべきであろう。そして,臨床的にシステムズアプローチというこれまでの一般的な精神医学や心理学の世界とは異なる立場で物事を考えるのであれば,やはりそれなりにこれまでとは異なる視点を自らの中にちゃんと作り上げておくべきだと考える。

本書の出自からの経緯を示し,〈ものの見方〉という用語で徹底して認識論の獲得の重要性を意識できるようにするため,徹底したつもりである。そして,本書のような〈ものの見方〉を習得することの方が,テクニカルな方法や対応などを学ぶことよりも優先すべきであるという考えは30年たっても同じである。
過去とは違って,新たな本書の第3部の「システムズアプローチにとって不可欠な〈ものの見方〉と発展可能性」では,徹底してこれまでに先鋭化させてきた〈ものの見方〉を新たに提案している。そこには,システムズアプローチの実践を強く指向し,今後の臨床実践での取り組みのきっかけとなる新たな材料をいくつも提示したつもりである。実践から得られた応用例を元に,それぞれにとってシステムズアプローチの実践がより先鋭化し,効果的な影響を生み出しやすくなるための指標を示した。いわば,これまでは臨床的に「部外秘」として語らなかったところを,できる限りわかりやすく示したつもりである。ただ,言語学の高度な用語説明のままで示しているためにわかりづらかったり,実際の臨床的雰囲気がわかりづらいままの逐語形式であったりなど,補足的な理解が必要な場合も少なくない。しかし,それ以上に説明するための形式がない以上,できる限り今回示したデータの内容を咀嚼し,システムズアプローチの認識論で考えてみていただければ,新たな展開の可能性までが垣間見えると考える。

最後に,やはり私にとって最初のチャンスを与えてもらえた師匠には,今もって頭が上がらない。同様に,可能な限り多くの人にチャンスを与えてあげられる存在でありたいと考え,その末に大学教員という立場に着く決断をしたつもりである。そして,本格的な「本家本元のシステムズアプローチを実践したい」と考える後進が増えればいいと,夢のようなことを考えながら,同時に「すごくそれを目指すことは辛いから,システムズアプローチはやらないほうがいいよ」と,今も多くの場面で話している。たまにため息とともに考えが漏れてしまう。「どこまで続くのだろう,この矛盾したコメントをすることが……」と。

2023年7月末 多様な仕事に忙殺されている隙間に 吉川 悟

「遠見書房」の書籍は,こちらでも購入可能です。

最寄りの書店がご不便、あるいはネット書店で在庫がない場合、小社の直販サービスのサイト「遠見書房⭐︎書店」からご購入ください(store.jpというECサービスを利用しています)。商品は在庫のあるものはほとんど掲載しています。