学校コンサルテーションのすすめ方──アドラー心理学にもとづく子ども・親・教職員のための支援

学校コンサルテーションのすすめ方
──アドラー心理学にもとづく子ども・親・教職員のための支援

ドン・ディンクマイヤー・ジュニア,ジョン・カールソン,レベッカ・ミシェル著
浅井健史・箕口雅博訳

定価3,000円(+税) 四六判 288頁 並製

ISBN978-4-86616-086-3 C3011
2019年6月発行

類書→『コミュニティ・アプローチの実践―連携と協働とアドラー心理学』(箕口雅博編)

本書は,アメリカの学校臨床心理学とアドラー心理学を牽引するドン・ディンクマイヤー・ジュニアらによる学校コンサルテーションの実践入門の1冊です。
スクールカウンセリングは,児童生徒や保護者などへの直接的な支援(心理面接)と,児童生徒らと頻繁にかかわる教職員らをサポートするコンサルテーションとに,大きく2つの方向性があります。わが国においても,1995年のスクールカウンセラー事業のスタート時点から,コンサルテーションの重要性が掲げられていますが,コンサルテーション業務は,モデルも少なく,個々の経験に頼ることが多いのが現状です。
しかし,本書は,チームやコミュニティへの支援に有効な知見が多いアドラー心理学をベースにしたコンサルテーション理論を展開し,具体的な介入にまで詳細に解説した手引書となっており,経験やスキルの不足を大いに補うものになっています。米国で1973年に初版を刊行し,現在は4版まで出ているロングセラーがコミュティ心理学とアドラー心理学の2人の訳者によって刊行されました。

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目 次

第1章 序論

第2章 コンサルタントの役割

第3章 コンサルテーションの理論

第4章 個人コンサルテーション

第5章 教師への支援

第6章 成長促進的な学級コンサルテーション

第7章 平和的,マインドフル,ポジティブなアドレリアン・クラスルーム

第8章 親・家族へのコンサルテーション

第9章 コンサルテーション事例集

第10章 コンサルテーションの評価


著者紹介

ドン・ディンクマイヤー・ジュニア(Don Dinkmeyer Jr.)
博士は,米国認定カウンセラー(NCC)であり,STEPプログラムの共同開発者でもある。ウエスタン・ケンタッキー大学の教授としてカウンセリングと生徒指導を教え,現在は退職している。35年以上にわたって専門的な著作を発表してきた。

ジョン・カールソン(Jon Carlson)
博士は,シカゴ・アドラー大学の特別招聘教授で,ウィスコンシン州レイク・ジェニバにあるウエルネス・クリニックの心理士である。これまで60冊の書籍,175本の論文,300本以上の訓練ビデオを発表した。35年にわたりスクールカウンセラー,スクールサイコロジストも務めてきた。2017年2月に逝去。

レベッカ・ミシェル(Rebecca E. Michel)
博士は,ガバナーズ州立大学の准教授である。カウンセラー教育とスーパービジョンで学位を得るまでは,義務教育学校と地域機関でカウンセラーを務めていた。

訳者
浅井健史(あさい・たけし)
明治大学文学部心理社会学科 兼任講師,国際交流基金日本語国際センター カウンセラー,臨床心理士,専修大学文学研究科心理学専攻博士後期課程 単位取得退学。専攻:アドラー心理学,コミュニティ心理学,グループアプローチ。
主な著書:『思春期・青年期支援のためのアドラー心理学入門』[共著](アルテ),『コミュニティ・アプローチの実践─連携と協働とアドラー心理学』[共著](遠見書房),『よくわかるコミュニティ心理学』[共著](ミネルヴァ書房),『ワードマップコミュニティ心理学─実践研究のための方法論』[共著](新曜社),『ありがとう療法─総合編』[共著](愛育社),『新臨床心理学』[共著](八千代出版)など。
座右の銘:心をこめるのは人の仕事,勇気づけるのは神様の仕事

箕口雅博(みぐち・まさひろ)
立教大学名誉教授,元同大現代心理学部/現代心理学研究科教授,臨床心理士,慶應義塾大学社会学研究科教育心理学専攻修士課程修了。専攻:コミュニティ心理学,臨床心理学,多文化間心理学。
主な著書:『コミュニティ・アプローチの実践―連携と協働とアドラー心理学』[編著](遠見書房),『改訂版 臨床心理地域援助特論』[編著](放送大学教育振興会),『よくわかるコミュニティ心理学』[共編](ミネルヴァ書房),『コミュニティ心理学ハンドブック』[共著](東京大学出版会),『臨床心理学的地域援助の展開―コミュニティ心理学の実践と今日的課題』[共著](培風館),『臨床・コミュニティ心理学―臨床心理学的地域援助の基礎知識』[共編](ミネルヴァ書房)など多数。
座右の銘:軽快なフットワーク,綿密なネットワーク,そして少々のヘッドワーク


まえがき

本書は学校で教師,生徒,親,管理職を支援する人々のために書かれた。スクールカウンセラーとスクールサイコロジストは,その役割に該当する。教師,生徒,親,管理職はサービスを求めており,コンサルテーションは彼らのニーズに応える有効な方法である。今ではコンサルテーション関係は,選択肢の1つとなっている。
長きにわたりコンサルテーションは,スクールカウンセラーとスクールサイコロジストに「必須の」機能とされてきた。アメリカ・スクールカウンセラー協会(ASCA)とアメリカ・スクールサイコロジスト協会(NASP)は,各々の主要な機能としてコンサルテーションを位置づけている。近年ASCAはスクールカウンセラーの役割を再定義し,コンサルテーション・スキルをいっそう重視するようになった。とはいえ今日でも,コンサルタントはこの重要な仕事に役立つアイデアを探し求めている。
本書はメンタルヘルス専門家に,教師,生徒,親,管理職を支援するためのコンサルテーション・スキルを提供する。私たちの考え方に馴染みのない読書を想定し,各章で1つのスキルを取り上げる。私たちの考え方はアドラー心理学(個人心理学)を基盤にしており,先人たちの仕事に感謝している。アドラー心理学には学校や親を支援してきた豊かな伝統がある。本書では教師,生徒,親,管理職を支援するためのアイデアを新たに統合した。
私たちはドン・ディンクマイヤー・シニアに深く感謝したい。彼は本書の第1版『コンサルティング:潜在能力と変化の促進』(Dinkmeyer & Carlson, 1973)(未邦訳)の第1著者,および第2版『コンサルテーション:学校メンタルヘルス専門家としてのコンサルタント』(Dinkmeyer, Carlson, & Dinkmeyer, 1994)(未邦訳)の共著者であり,第3版を執筆する際にも示唆を与えてくれた。
私たちは本書の執筆に当たり,100年以上にわたる経験の集積として,全米50州,カナダなどの文献を渉猟した。教育実践の場所を問わず,学校で達成すべきニーズの重さと類似性は増しつつあると私たちは感じている。学校は社会の困難なニーズに応えることをいっそう求められている。とはいえ各世代が力を合わせて取り組んでいく上で,学校は中心的な役割を果たすと私たちは信じている。
本書では,教師・親への個人面接と集団面接をオンラインで視聴できる。次のアドレスにアクセスしてほしい。
https://www.routledge.com/9781138910256

ドン・ディンクマイヤー・ジュニア
ジョン・カールソン
レベッカ・E・ミシェル

訳者あとがき

本書はDon Dinkmeyer, Jr.,Jon CarlsonとRebecca E. Michelによる2016年刊行Consultation: Creating School-Based Interventions Fourth Edition(Routledge刊)の全訳である。1973年の初版より改訂を重ねた,定評ある学校コンサルテーションの手引書である。
著者のドン・ディンクマイヤー・ジュニアとジョン・カールソンは,アメリカにおけるアドラー心理学の重鎮的存在である。ディンクマイヤー・ジュニアは,父親のドン・ディンクマイヤーらが開発した,アドラー心理学に基づく親教育プログラム(STEP)と教師教育プログラム(STET)を発展させてきた。カールソンはアドレリアン・セラピーの研究と実践を先導し,数多くの書籍や訓練ビデオを編纂してきたが,2017年2月に逝去された。改めてカールソン博士の学恩に感謝し,ご冥福をお祈りしたい。また,この版より気鋭の臨床心理学者であるレベッカ・E・ミシェルが執筆に加わっている。
本書では学校でスクールカウンセラーが行う教師,管理職,親へのコンサルテーションの理論的背景と具体的な実践方法を解説するとともに,心理教育,クラス運営,グループワーク,プログラム評価の方法など,コンサルテーションと関連が深い諸活動についても広く論じている。
スクールカウンセラーが学校現場で行う支援には,大きく2つの方向性があると訳者らは考える。第1の方向性は,スクールカウンセラーが子どもたちに直接働きかけ,彼らが学校・家庭などのコミュニティに自分らしく所属し,他者との温かいつながりを感じられるよう支援することである。そうした介入方法として,子どもへの個人カウンセリング,心理教育,勇気づけ的なコミュニケーションなどがある。第2の方向性は,スクールカウンセラーが教師,管理職,親らと協働し,子どもたちが健全に成長し,安心して生きられる社会環境を創出していくことである。学校コンサルテーションは,こうしたコミュニティへの働きかけを通して子どもを間接的に支援する方法として位置づけられ,スクールカウンセラーの中核的な活動の1つである。本書で取り上げられたコンサルテーション以外の実践方法も,このアプローチに含められよう。
スクールカウンセラーはこれら2つの方向性からの支援により,子どもとコミュニティ(学校,クラス,家庭)それぞれの健康性を高めるとともに,両者が調和した状態を実現していく必要がある。
学校コンサルテーションについて,アドラー心理学に依拠したアプローチを解説していることが本書の大きな特色である。

アドラー心理学とコンサルテーションの関わりは古い。第一次世界大戦から帰還し,1920年代のオーストリア・ウイーンで児童相談クリニックを設立したアルフレッド・アドラーは,親や教師への心理教育的なコンサルテーションによって子どもを支援しようとした。アドラーの没後も,アドレリアンたちはコンサルテーションを用いた子どもへの支援を理論・実践の両面から発展させてきた。本書には,アドレリアンが洗練を重ねてきたコンサルテーションの到達点が示されている。
こうした歴史的経緯から,アドラー心理学は精神分析,応用行動分析,ブリーフセラピーなどと並ぶ主要なコンサルテーション理論の1つとして,アメリカのコンサルテーションの教科書にも取り上げられている。
それに対して日本におけるアドラー心理学は,1980年代より育児,教育,ビジネス,自己啓発の領域を中心に導入が図られてきた。そのため一般の人々にアドラー心理学はよく知られているが,アカデミックな心理学研究者やスクールカウンセラーを含むメンタルヘルス専門家にはまだ馴染みが少ない。加えて臨床実践の参考となる専門書がほとんど出版されていないことも,日本の専門家にアドラー心理学が浸透していない一因と思われる。学校現場でコンサルテーションを核とした支援活動をどう展開していくかについて,アドラー心理学に基づく発想,人間観,アセスメント,介入方法などを分かりやすく提供してくれる点に本書の意義があろう。本書が日々の臨床実践に役立つリソースとなるとともに,専門家コミュニティにおけるアドラー心理学の受容に寄与することを願っている。
ところでアドラー心理学は単なる理論や技法の体系に留まらず,健全な社会の理想像を持ち,実践を通してそれを具現しようとする「思想」を内包している。アドラー心理学が追求するのは,人々が共同体感覚(社会的関心)を十分に発達させ,互いを思いやり尊重しながら,さまざまな困難な課題の解決に向けてすすんで協働する社会である。本書ではそれを「民主的」な社会と表現している。コンサルテーションを含む全てのアドラー心理学の実践は,クラス,学校,家庭などのコミュニティを健全な方向に変革していく試みであることを忘れてはならない。
なお本書に述べられたスクールカウンセラーの活動モデルは,日本のものとかなりの相違がある。すなわち本書のモデルでは,問題への事後的対応よりも予防を強調し,コンサルテーションを含むさまざまな心理教育的アプローチを用いて個人やコミュニティの健康性を高めようとする。そして子どものメンタルヘルスに留まらず,学業面やキャリア形成の支援にも積極的に取り組む。
こうした発想や方法は,日本の学校現場にそのまま導入可能な部分も,アレンジや工夫が必要な部分もあると思われる。またスクールカウンセリングを取り巻く環境も,時代とともに変遷していく。本書のアプローチを参考にしつつ,私たちは彼我の社会情勢,文化的風土,教育制度,スクールカウンセリングへのニーズの違いを十分に考慮し,日本の学校現場の実情に適したアプローチを模索していく必要があろう。

最後に,本書を翻訳するに至った経緯を述べておきたい。訳者らはアドラー心理学とともに,コミュニティ心理学(コミュニティ・アプローチ)の研究と実践に携わってきた。その過程で,アドラー心理学とコミュニティ心理学には別々の体系と思えないほど共通性が多いことに気づかされた。そして,現代社会が直面する多くの困難な課題を解決していくために,両者を統合した実践モデルを開発することが有効ではないかと考えるようになった。そうした探求の途上で,アドラー心理学を基盤にコミュニティ・アプローチの中核的方法であるコンサルテーションを解説した本書と出会った。読み進めるうちに,学校現場で実践に携わる専門家に資する内容であると実感し,訳出を思い立った次第である。
浅井が1,4,5,6,7,8,9章と付録資料,箕口が2,3,10章の翻訳を担当し,最終的な訳文の統一を浅井が行った。また,本書の趣旨を表現した含蓄に富むカバーイラストは,私たちと学びを共にしてきた小林美寿々さんに描いていただいた。
遠見書房の山内俊介社長は,本書の出版を快諾され,遅れがちな翻訳作業に粘り強く寄り添ってくださった。改めて,深く感謝を申し上げる。

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