夏休みで変わる ADHDをもつ子どものための支援プログラム──くるめサマー・トリートメント・プログラムの実際

『夏休みで変わる ADHDをもつ子どものための支援プログラム』
── くるめサマー・トリートメント・プログラムの実際

山下裕史朗・向笠章子編
くるめSTP書籍プロジェクトチーム著

定価3,600円(+税)、190頁、B5判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-08-7

本書は、夏休みの数週間を用いて、集中的に援助を行うことで、ADHDの子どもたちに、自尊心とやる気、落ち着きを与える包括的援助プログラム「サマー・トリートメント・プログラム(STP)」のすべてがわかる手引きです。
STPは、米国ニューヨーク州立大のぺラム教授らの手により開発され、全米各地で毎夏に行われているADHD児の援助プログラムです。くるめSTPは、この米国のプログラムをもとに、日本の事情に合わせて全面的に改変がなされたものです。
夏休みの数週間を用い、ADHDの子どもたちを一堂に集め、半合宿形式で行うくるめSTPは、行動療法とSST(社会的スキル訓練)を骨子に、他職種の チームアプローチや子どもたち同士のグループの力などを取り入れており、ADHDの子どもたちに欠けがちな、できる喜び、達成感、自尊心の向上などを促す ものです。
志を同じくする医療分野、教育分野、心理分野の3人のメンバーが揃えばはじめられるSTP。日本に導入した久留米チームにより、数年に及ぶ試行錯誤の末、 ようやくSTPのガイド、手引きとして形になりました。これさえあれば、すぐにでもSTPが始められるほど、よくできたマニュアルになっています。特別支 援に関心のある教員、行動療法やSST、発達障害に関心のある児童精神科医、小児科医、心理職、研究者など多くの方に手にとってもらいたい1冊です。

本書の詳しい内容


おもな目次

1部 概   論
1章 くるめSTPの必要性
2章 くるめSTPの理念
3章 くるめSTPの特色
4章 くるめSTPの構成
5章 学生カウンセラー研修
6章 事務局の運営
7章 医療部会の役割
8章 教育部会の役割
9章 保護者会の実施

2部 主要システム
10章 ポイントシステムの概要
11章 ポイントシステムの実施
12章 ポイントシート
13章 タイムアウト
14章 ベンチング
15章 デイリー・レポート・カード(DRC)
16章 デイリーアワード
17章 オナーロールプログラム
18章 個別プログラム
19章 ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)
20章 問題解決の話し合い

3部 実際の一日
21章 登   校
22章 朝の会
23章 移動とトイレ
24章 スポーツの練習と試合
25章 水   泳
26章 学習センター
27章 昼   食
28章 昼休み
29章 自由時間
30章 下   校
31章 子どもマニュアルの説明(初日)
32章 金曜日の活動
33章 表彰式
34章 データ管理

4部 まとめ
35章 保護者の声
36章 今後の展望(おわりに)


はじめに

発 達障害をもつ子どもたちを思う親の心は,国を問わず変わらない。遠くの村から半日かかって障害のあるわが子をリハビリに連れてきたパキスタンの保 護者,レット症候群親の会(さくらんぼ会)に20年間ほとんど毎年参加している日本の家族,アメリカの夏期治療プログラム(STP)ペアレントトレーニン グに参加しているADHDをもつ子どもの保護者。悩みの内容は,それぞれ異なるが,決してつきることはない。最初は不安でいっぱい,自分一人では何もでき ないと感じてしまうかもしれない。そんな中で,発達障害をもつ子どもたちをサポートしたいという強い志をもつ仲間や専門家に出会うと,家族は救われていく。「また明日もがんばろう」という気持ちになる。
私は,アメリカのニューヨーク州バッファローでADHDの子どもたちにすばらしい包括的治療を実践されているウィリアム・ぺラム教授に偶然出会い,ぺラム 教授の仲間に出会った。そして,彼らの「ADHDをもつ子どもたちを思う心」が,私の仲間にも伝わり,久留米でのSTPにつながった。原動力は,困ってい るADHDの子どもたちを何とかしたいという強い情熱であった。
久留米でSTPをスタートして,まだ5年である。バッファローのSTPをベースにしているとはいえ,日本の子ども,保護者,スタッフ,学校で行うといった 違いがあるため,アレンジが必要であり,そのたびにバッファローのSTP専門家に相談しながら細かな修正を行った。その意味で,本書は,あくまでくるめ STPの本であって,バッファローのSTPマニュアルの翻訳ではないことを最初にお断りしておく。
本書は,第1回STPから精力的にかかわったSTPスタッフ(医師,臨床心理士,教師)が分担執筆したが,参加してくれた子どもたち,保護者,学生スタッ フの力なくしては,STPの実施,そして本書の完成はなかった。STPに興味がある,STPを始めてみたい,STPの技法を特別支援教育に生かしたいと 思っていらっしゃる方々に読んでいただければ幸いである。ぺラム教授から私に贈られた「志を同じくする医師,心理士,教師が少なくとも1人ずついて,ADHDの子どもたちが数名いたら,STPはどこででもできるよ」というおことばを読者の皆様にお送りしたい。
ぺラム教授および2005年,2006年と2年続けて来日されてご指導いただいたエリザベス・ナギー先生とアンドリュー・グライナー先生,STPの場を快 く提供していただいいる久留米市立金丸小学校の校長先生はじめ教職員の皆様に厚く御礼を申し上げたい。また,小児科外来が最も忙しい夏休み中にSTPに専 念することをお許しいただいている松石豊次郎久留米大医学部小児科主任教授および神経グループの同僚に感謝致します。
なお,STPは,文部科学省科学研究費基盤研究 (C)「注意欠陥多動性障害児への夏期治療プログラムの効果に関する脳科学的検討」,厚生労働科学研究費「発達障害者の新しい診断・治療法の開発に関する 研究H19-こころ-一般-006」研究費および,ジョンソン・エンド・ジョンソン社会貢献委員会による支援を一部受けた。

山下裕史朗


おわりに

2009 年に5回目のくるめSTPが終了した。「くるめSTP」に参加したADHD児らの経過を追える程度に時間が経っている。明らかに期間中の ADHD児の行動は,すばらしい変化を遂げるのだが,1年経過した彼らの中には参加した始まりに戻っている子がいる。短期的な効果は認められるが,効果の 維持は難しいのである。
久留米市は,独自に小学校スクールカウンセラー事業を立ち上げているが,この小学校スクールカウンセラーを引き受けている臨床心理士のなかには,STPの スタッフが含まれている。私たちは,スタッフ経験者が実際に小学校の場面で参加したADHD児のサポートを行うことで長期的な効果の維持が可能になってい くであろうと考えている。4年を経た今,小学校スクールカウンセラーが「くるめSTP」の後を引き受けて学校でフォローをしている。STPで行ったことを 現場の担任と工夫をこらしながら児は教室に適応し始めた。このような形をシステムとして作り上げたいと思っている。学校と家庭でもADHD児の問題行動を 対処できるようになってもらうことである。特別支援教育の充実や親訓練の必要性を今あらたに痛感している。幸いに2009年に親訓練を立ち上げることがで きそうである。
くるめSTPは,基本をバッファロー方式に置いているがアメリカとは日本の学校事情が異なるために,新たに久留米版として構成されている。毎回さまざまな工夫をしながらもっとも効果的な方法を模索している段階でもあり,進化の途中でもある。
2005年の夏から毎年本当に暑い夏がやってくる。真夏の校庭は,気温が36度から38度くらいになるので児らの熱中症を心配し,水分摂取に神経を尖らせていたら倒れたのはスタッフだった。スタッフは,プログラムのスケジュールに沿って動いている間は,児に目が行ってしまい自分の水分を取るのを忘れてしまっていたのだ(2回目から医療部会に看護師スタッフが加わったことで「くるめSTP」参加者全員の健康管理が細かく行われるようになった)。このような 過酷なSTPを乗り切った原動力は,日々の児らが話す自分の変化である。日常生活で自分自身の中の混乱が少なく暮らすということがいかにADHD児らに とって大変なことか,大人の我々が教えてもらう時間であった。悪戦苦闘した内容は終わってしまうと良く乗り切ったものだという感慨になり,参加した大人の方にも変化と自信を与えてもらった。感傷などにふける暇などなくまた次の夏の準備が動き出している。

向笠章子


編者略歴

山下裕史朗(やました・ゆうしろう)
久留米大学医学部准教授。小児科医。発達障害児童のケアを専門とする小児神経科医。NY州立バッファロー校のぺラム教授にSTPを学ぶ。

向笠章子(むかさ・あきこ)
聖マリア病院臨床心理士。山上敏子先生のもとで行動療法を学ぶ。臨床心理士の緊急支援活動などでも先駆的な活躍をしている。

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