公認心理師の基礎と実践⑪ 社会・集団・家族心理学

公認心理師の基礎と実践⑪ 社会・集団・家族心理学

野島一彦・繁桝算男監修
(早稲田大学)竹村和久 編

2,600円(+税) A5判 並製 200頁 C3011 ISBN978-4-86616-061-0

社会的行動に対する理解を深める
「社会心理学」・「集団心理学」・「家族心理学」3分野の重要トピックを概観する

公認心理師を目指す人が,家族を含めた社会関係における,人の社会的行動,社会的相互作用を深く理解するための基礎知識を解説。


目次

第1章 社会・集団・家族心理学とは何か   (早稲田大学)竹村和久

第2章 対人認知   (明治学院大学)宮本聡介

第3章 態度と行動   (明星大学)林 幹也

第4章 ステレオタイプと偏見   (東京大学)唐沢かおり

第5章 向社会的行動と反社会的行動―援助と攻撃   竹村和久

第6章 社会的促進と社会的抑制   (慶應義塾大学)今井芳昭

第7章 社会的影響   (埼玉県立大学)白岩祐子

第8章 集団過程 (九州大学)山口裕幸

第9章 社会的相互作用   (東京大学)大坪庸介

第10章 対人関係の形成と発展   (追手門学院大学)金政祐司

第11章 家族の人間関係   (文教大学)布柴靖枝

第12章 ソーシャル・サポート   (追手門学院大学)浦 光博

第13章 文化と社会心理   (名古屋大学)石井敬子

第14章 集合行動とマスコミュニケーション   (大阪大学)三浦麻子


はじめに

本書は,公認心理師を目指す人が,社会心理学,集団心理学,家族心理学の3分野を学ぶうえでの重要なトピックについて,わかりやく説明することを目指している。広義の意味では,これらの3分野は,「社会心理学」の領域に入るといえる。すなわち,社会心理学は社会的状況での,集団心理学は集団状況での,家族心理学は家族関係の中での,認知,判断,意思決定,行動,集合現象を扱っている。そのような意味では,社会心理学の対象が一番広く,次に集団心理学,最後に家族心理学という集合としての包含関係があるが,家族心理学が集団心理学や社会心理学に完全に含まれるということではけっしてない。家族心理学は,他の分野に比べてとくに臨床志向が強く,臨床心理学との接点を強くもっており,独自の歴史的経緯をもっている。また,集団心理学もグループ・ダイナミックス(集団力学)の歴史的経緯の中で生まれ,社会心理学は,心理学と社会学との境界領域として発展してきた。
本書で扱う3分野は,それぞれの独自性があるが,本書ではできるだけ統合的な観点から3分野をとりまとめている。一言で述べるなら,本書で取り上げる領域は,心理学の中でもとくに人間同士の関係性を考慮に入れた学問分野であるといえ,そのような点からの共通性がある。これらの分野の第一線で研究と教育を行っている先生方に,3分野で重要であると考えられるトピックについて執筆していただいた。本書は,平成30年版公認心理師試験出題基準で示されるブループリント(公認心理師試験設計表)の「社会及び集団に関する心理学」領域の小項目(キーワード)を網羅するように構成されている。
第1章では,家族心理学,集団心理学,社会心理学についての定義,歴史的経緯や問題設定などについて解説を行い,本書の見通しを立てる。第2章では,人間関係の中で人が他者をどのように認知をしているのかという対人認知の現象や理論について解説する。第3章では,社会的行動の準備状態でもある態度とそれを説明する理論について解説し,態度と社会的行動との関係について述べる。第4章では,差別の原因にもなる人々の偏見や偏った認知の背後にある心理的過程やそれを説明する理論について述べる。第5章では,人助けなどの援助行動と人に危害を与える攻撃行動における心理的過程とそれらの行動を説明する理論について述べる。第6章では,他者がそばにいると勉強がよりいっそうよくできるようになるなど,他者の存在によって行動が促進されるという社会的促進現象について説明し,逆に他者がいると勉強がしにくくなるというような社会的抑制現象を説明し,それらの現象に関する理論について解説を行う。第7章では,他者の意見や行動に同調してしまうような現象や,権威のある者に服従してしまうような現象,さらにはそれらの現象に関する理論について説明を行う。第8章では,同じグループの人にはえこひいきをするような内集団バイアスという傾向などを含む集団の過程と理論について解説する。第9章では,人間同士の相互作用とそれを説明する理論についての解説を行う。第10章では,対人的な好意や非好意,対人関係の形成,発展,崩壊などについての現象や理論についての説明を行う。第11章では,家族心理学の重要なトピックである家族の人間関係とそれを説明する理論について解説をする。第12章では,家族を含む人々の人間関係の支え合いについての現象やそれらを説明する理論について述べる。第13章では,認知や社会的行動の社会・文化依存性など文化と社会心理の問題について論じる。最後の第14章では,社会の中で観察される流行などの集合行動と,新聞やテレビなどのマスメディアやインターネットを媒介とするコミュニケーションの影響について論じる。
公認心理師は,日本でははじめての心理学の国家資格であるが,公認心理師法第二条にもあるように,下記の業務に関わることになる。すなわち,①心理に関する支援を要する者の心理状態の観察,その結果の分析,②心理に関する支援を要する者に対する,その心理に関する相談及び助言,指導その他の援助,③心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言,指導その他の援助,④心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供。このような業務を行ううえでも,上記のトピックを学習することは,たんなる試験対策ということを超えて,公認心理師の業務を行ううえでも豊富な示唆を与えることができると期待できる。
最後になるが,本書を含む「公認心理師の基礎と実践」シリーズの企画者であり監修者の野島一彦・繁桝算男の両先生,本書の構成を企画する段階から編集作業のすべての過程においてご尽力いただいた株式会社ちとせプレス代表の櫻井堂雄氏に,記して謝意を表したい。

2018年10月
竹村和久


編者略歴
竹村和久(たけむらかずひさ)

1960年生まれ。
早稲田大学文学学術院教授。
1989年,同志社大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術),博士(医学)。
主な著書:Behavioral Decision Theory: Psychological and Mathematical Descriptions of Human Choice Behavior(Springer, 2014),『経済心理学―行動経済学の心理的基礎』(培風館,2015),『フロンティア実験社会科学5 選好形成と意思決定』(編著,勁草書房,2018)ほか

 

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