クラスで使える! アサーション授業プログラム

クラスで使える! アサーション授業プログラム
『自分にも相手にもやさしくなれるコミュニケーション力を高めよう』

(鳥取大学大学院)竹田 伸也・(沖縄大学人文学部)松尾 理沙・(兵庫県こころのケアセンター)大塚 美菜子 著

2,600円(+税) A5判 並製 126頁  C0011 ISBN978-4-86616-077-1

アサーションで子どもの生きる力を身につける!

カウンセリングも大事だし,認知を修正するのも大事ですが,それとともに正しい自己主張である「アサーション」を育てることも大事です。本書は,認知療法を応用し開発されたアサーション授業プログラムです。しっかり構造化された授業用プレゼンデータや資料の入った付録のCD‐ROMと,簡単手引きでだれでもアサーション・トレーニングの授業が出来ます。(付録のデータ利用にはPowerPoint®2007以降が必要です)

姉妹本→『クラスで使える!ストレスマネジメント授業プログラム『心のメッセージを変えて気持ちの温度計を上げよう』

耳より情報 上根恵理子先生(米子市立中学校教諭)が「指導案」を作ってくださいました。詳しくは,竹田さんのサイト「ココロの健康のための道具箱」(https://researchmap.jp/mu1rjbrnk-2288141/#_2288141)をご覧ください


はじめに

今から3年ほど前に,学級単位で実施できるストレスマネジメント授業プログラムを開発し,それを世に送り出しました。大変うれしいことに,その時のプログラム『心のメッセージを変えて気持ちの温度計を上げよう』は好評を得て,全国各地の学校で子どもたちと先生方に楽しんでいただいているようです。今回は,その続編です。前回同様,1回で完結する授業プログラムです。
今回お届けするプログラムは,アサーションがテーマです。アサーションとは,お互いを大切にしながらコミュニケーションすることであり,これまで教育現場で数多く実践されてきました。ところが,教育現場の先生たちから「アサーションスキルを身につけたのに,アサーティブなコミュニケーションができない子どもが多い」という話をよく聞きます。その理由を私なりに考えてみると,どうも子どもたちの「考え方のクセ」が影響して,アサーティブな自己主張がうまくできないようなのです。たとえば,「本音を言ったら嫌われるかも」のように考えていると,ハッキリと主張することが難しく曖昧な言い方になってしまうでしょう。「あの子は○○すべきなのに,そうしていない!」と考えると,相手に対して攻撃的な言い方になってしまうかもしれません。
こんなふうに,非主張的表現や攻撃的表現を促す考えが浮かびやすいと,アサーティブな自己主張が阻まれてしまうのも無理はありません。だとすれば,子どもたちにアサーションを教えるときに,アサーティブなコミュニケーションがしやすくなるよう考え方のクセを小さくする術を身につけてもらわなくてはなりません。
そこで,今回もまた,あの「ユガミン」が登場します。考え方のクセ(=認知の歪み)がキャラクターとなったユガミンを通して,ネガティブな考えを柔軟にする力を子どもたちに身につけてもらいます。そして,今回は新たなキャラクターも登場します。「オッシー」「ヒッキー」そして「ハッキリン」です。この3体のキャラクターの大活躍によって,子どもたちは楽しくアサーションを学ぶことができます。
今回のプログラムでは,アサーションの原則である「自他尊重の心」を育むことに力を込めました。そうしたアサーション力を高めることで,子どもたちの人間関係が豊かになり,それによっていじめや不登校といった子どもたちの苦しみが少しでも減ることも,もちろん願っています。けれども,このプログラムはそうした短期的効果ばかりを狙っているわけではありません。
近頃,自分と異なる人を徹底的に糾弾するコメントを,ネットやメディアで見かけませんか? ある人は実名で,ある人は匿名で,社会的弱者の権利を損ねる発言をするのを見かけませんか? 多様性を認めようとしない心理が,私たち人間の心にはあります。「自分と異なる人と気まずい共存をするくらいなら,似た者同士で楽しくやった方がいい」という態度です。
似た者同士で楽しく暮らすのは,悪くないと思う人もいるかもしれません。ですが,そのような暮らし方は,「意思疎通が難しい人間は排除する」という暗黙のルールと隣り合わせによって成り立ちます。これからの時代に必要なのは,自分と価値観が異なる人たちと,互いに尊重しあってコミュニケーションする力です。その力が,この先どのような社会が待ち受けていようと,お互いに理解し助け合いながら生きていくために必要な寛容と相互扶助の基礎となるからです。このプログラムは,そうした力を育てる一助となることを強く狙っています。
私は,誰もが自他尊重の心を持つことができると信じています。なぜなら,私たちはみんな価値観が違うし,誰もが弱さを抱えているからです。価値観が違う人たちが共存するには,自分も他人も大切にするという心の状態がもっとも理に適っています。弱さを抱えているからこそ,他人の弱さに共感がわき,互いに支え合うという行動に向かえるのです。そう考えると,自他尊重の心は,共同体の中に多様性を内包するための大きな力となるのがわかります。その自他尊重の心の育成は,変化することが難しい大人のときではなく,世の中に対する構えが柔軟な子どものときから始めたほうがよいのです。
学校教育は,「対価に見合うサービスを提供する」というビジネスではありません。学校教育の目的は,自分の利益を拡げることにのみ邁進する大人を作り出すのではなく,将来の共同体を担う成熟した大人を育て上げることにあるはずです。そうした長期的視野に立ち,共同体全体を見据えたミッションを達成するために,子どもたちに育むべき心の一つは,間違いなく自他尊重の心だと思います。そうした理由から,プログラム開発にあたって自他尊重の心を育むことに力を注ぎました。
このプログラムの原案を作ってから,私は信頼する仲間にこのプログラムの完成を一緒に手伝ってもらいました。まず,ユガミンの生みの親である沖縄大学の松尾理沙さんと兵庫県こころのケアセンターの大塚美菜子さんに,開発チームに加わってもらいました。松尾さんは,プログラムが子どもたちにとってより良いものとなるように,たくさんの貴重な示唆を届けてくれました。大塚さんは,3体のキャラクターデザインを始め,すべてのイラストを描き上げて,プログラムに親しみやすさと豊かさを加えてくれました。完成したプログラムを実際にクラスで使ってみて,大切なフィードバックをくださった現場の先生もたくさんいらっしゃいます。そして,このプログラムがたくさんの先生方にご活用いただき,それによって子どもたちの成長に資することを願って,遠見書房の山内俊介さんがこのような素敵な教材に仕立て上げてくださいました。たくさんの方々の協力を得て,いろんな人々の想いが形となって,このプログラムができあがりました。ご協力いただいた皆さまに,心からの感謝の気持ちを伝えたいと思います。ありがとうございました。
このプログラムが,手に取っていただいた先生によって楽しく実践され,子どもたちの健やかな成長に役立つことを,心より願っています。

執筆者を代表して
竹田伸也



主な目次

第1部 『ハッキリンで自分の気持ちを伝えよう』プログラム……って何?
ステップ1 プログラムの概要
ステップ2 プログラムのねらい

第2部 『ハッキリンで自分の気持ちを伝えよう』プログラム説明書
説明書諸注意

ほか


著者略歴

竹田 伸也
鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻准教授。博士(医学)。香川県丸亀市生まれ。鳥取大学大学院医学系研究科医学専攻博士課程修了。鳥取生協病院臨床心理士,広島国際大学心理科学部講師,鳥取大学大学院医学系研究科講師を経て現職。日本老年精神医学会評議員,日本認知症予防学会評議員等を務める

松尾 理沙
沖縄大学人文学部こども文化学科准教授。博士(医学)。沖縄県豊見城市出身。鳥取大学大学院医学系研究科医学専攻博士課程修了。北九州市立八幡特別支援学校,松江市発達・教育相談支援センター「エスコ」,沖縄大学人文学部こども文化学科講師を経て現職。久米島町親子支援事業に携わる

大塚 美菜子
兵庫県こころのケアセンター主任研究員。京都府長岡京市出身。鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻修士課程修了。臨床心理士,EMDR認定コンサルタント・ファシリテーター。CPT(認知処理療法)やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などを用いたトラウマ回復支援を専門に臨床研究活動を行っている

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