森俊夫ブリーフセラピー文庫②効果的な心理面接のために──サイコセラピーをめぐる対話集

森俊夫ブリーフセラピー文庫②
効果的な心理面接のために──サイコセラピーをめぐる対話集

森 俊夫ほか著

定価2,600円(+税)、300頁、四六判、並製
C3011 ISBN978-4-86616-017-7

万年 東大医学部助教にして元役者,ブリーフセラピー系心理士にして,東京・吉祥寺に日本全国から人が集まるKIDSカウンセリングシステムを立ち上げた森俊夫は,2015年3月に57歳で永眠した。

本書は,森の死の直前に行われた名臨床家たちとの対談集。「効果的に,早く治す」ことを志し,新しい心理療法の世界を切り開いてきた仲間たち──吉川悟,山田秀世,遠山宜哉,西川公平,田中ひな子,児島達美らが登場し,黒沢幸子もまじえて,セラピストの成長や心理療法,対人援助に関する叡智について存分に語った。この本は,その刺激に満ちた対話を余すことなくまとめたものである。心理面接のエッセンスを語る,ユーモアと真剣さに満ちた一冊。「森俊夫ブリーフセラピー文庫」第2弾。

関連本,
『DVDでわかる 家族面接のコツ(3)P循環・N循環編』(東 豊 著・出演 解説 黒沢幸子・森 俊夫)
『森俊夫ブリーフセラピー文庫①心理療法の本質を語る──ミルトン・エリクソンにはなれないけれど』(森 俊夫・黒沢幸子著)

◆ 本書の詳しい内容


おもな目次

はじめに
(目白大学・黒沢幸子)

第1章 枠──演劇と心理療法
(龍谷大学教授)吉川 悟×森 俊夫×黒沢幸子

第2章 コミュニティ・メンタルヘルスのススメ
(岩手県立大学教授)遠山宜哉×森 俊夫×黒沢幸子

第3章 森と詩を語る刹那のカタルシス
(デイケアクリニックほっとステーション)山田秀世×森 俊夫×黒沢幸子

第4章 CBTとソリューション
(CBTセンター)西川公平×森 俊夫×黒沢幸子

第5章 ペーシング
(原宿カウンセリングセンター)田中ひな子×森 俊夫×黒沢幸子

第6章 ブリーフの広がりと森気質論の話
(長崎純心大学教授)児島達美×森 俊夫

あとがき──「職業 森俊夫」を生きる
(帝京大学教授・元永拓郎)

 

ほか


はじめに

二〇一五年三月十七日、森先生は五十七歳で亡くなられました。病気の発見から半年足らず。食道がんでした。

森先生から、桜を見るのは厳しいかもしれないとの告知内容を打ち明けられたとき、私は「で、どうしたい?   何ができる?」と尋ねました。本当に根っからの解決志向です。森先生は、心理療法について、その本質や今の到達点など、私を含む「同志」と語り合い、それを本にしたいと希望されました。ふむ、面白そうじゃない!? 森先生はそれを自ら「森俊夫・生前追悼対談集」と銘打ちました。まったく、森先生らしいノリです。私は早速、遠見書房の編集部に企画のご相談をしました。
そこでまずできたのが、この本の第1巻にあたる『森俊夫ブリーフセラピー文庫①心理療法の本質を語る─ミルトン・エリクソンにはなれないけれど』でした。二〇一五年九月十五日の発行です。この本は、森先生への心理臨床や心理療法などに関するインタビューを黒沢らが行うという体裁になっています。森先生が飾らない言葉で率直に自身の心理療法についての考えや実践が語られているとても〝らしい〟いい本になりました。
一方、本書(第2巻)や本書の後に刊行される予定の第3巻は、どちらかといえば、森先生自身がインタビュアーとなり、自らが信じる心理療法をともに創ってきた「同志たち」との対談や鼎談が中心となっています。インタビュアーとしての森先生は、じっと頷きながらにこやかに微笑んでいる……わけもなく、煙に巻いたり、丁々発止のやりとりを繰り広げたり、突っ込みを入れまくったり。当然、ボケもありです。二〇一五年の一月から二月までのかなり短い時間に、北は北海道から南は九州・熊本まで、皆さんに手弁当でご足労いただきました。集まっていただいたのは、児島達美、白木孝二、田中ひな子、津川秀夫、遠山宜哉、中島央、西川公平、東豊、山田秀世、吉川悟といったこの道を代表する面々です。それと、東京大学医学部保健学科の森先生の教え子たちがたくさん集まってくれました。また見舞いにきた関係者も同席していたりします。これに時間がある限り黒沢と編集者も参加しました。
本書の対話が行われたのは、森先生が入院されていた杏林大学附属病院(東京・三鷹)や、一時退院した折のKIDSカウンセリング・システムのオフィス、あるいは森先生のご自宅でした。最初のころは入院中で大変具合が悪いことも多かったのですが、このインタビューを始めてからだんだんと良くなりました。もちろん各種医学的治療の成果でもあるのですが、やはり人薬、心理療法は効果があるんだなあ、などと思ったりもしました。もちろん限界もありますが。

残念なことに、この対談の原稿を森先生が生きているうちに目を通すことができませんでした。校正に関しては、対談相手となる各先生方にじっくり吟味をしていただき、編集部に目を通してもらった後、私、黒沢にチェックが委ねられました。多くの赤字を入れたわけではありませんが、よくわからない表現を改めたり、間違いを正したりしました。また、この巻の「解説」を書いていただいた元永拓郎先生(帝京大学)には、森先生の一番近しい同門としてこの校正を読んでもらい、いくつかの示唆をいただきました。インタビューや座談会に協力してくださった先生方に、森先生の分も含め、深くお礼申し上げます。
さらに、この場を借りて、このような大変な状況のなかを支え続けてくれたKIDSのスタッフ、ならびに関係者にも心より感謝申し上げます。
最後に、森先生の限りある貴重な時間を分けてくださった奥様と、二人のお子さまにも感謝の念でいっぱいです。誠にありがとうございました。

二〇一六年霜月 黒沢幸子


あとがき──「職業 森俊夫」を生きる
元永拓郎(帝京大学)

生前追悼という舞台が跳ねて、私の頭に浮かんだことは、森俊夫先生は、心理臨床家という職業や大学教員という人生の役を演じたのではなく、森俊夫という職業を演じきったという思いでした。(森先生、寺山修司のパクリですみません。)
この世のあらゆる職業は、森先生にとってはいくばくか物足りなかったのかもしれません。ただ演劇と精神的病を持つ人の語りは、理屈抜きで魅力的だったのでしょう。ユニークなそして稀有な感性と独特の存在感によって、サイコセラピー界に大きな刺激をもたらした、「森俊夫」を生き抜いた先生に、改めてありがとう、そしておつかれさまと語りかけたいと思います。サイコセラピーの世界に後に続いて足を突っ込んだものとして、よい舞台を垣間見ました。というよりこの世の現実が舞台であることに遅ればせながら気づかされて、あっけにとられているところです。
森先生が、神田橋條治先生の型破りなアプローチに魅せられ、J・ヘイリーの戦略的心理療法の本に出会い、米国はアリゾナ州のエリクソン財団の自由さにひかれ、ブリーフサイコセラピー研究会(当時)に参加し、黒沢幸子先生とKIDSを立ち上げる、その目まぐるしいダイナミックな動きに、既存の価値にとらわれず、変化のタイミングを逃さず、本物をめざして躍動する、何かを追及して生きる醍醐味のお手本を感じました。あのワクワク感を、私は今でもなつかしく思い出します。私の人生においても、おもしろい変化に富んだ大切な時期のひとつです。
サイコセラピーには、先人たちが見出してきたさまざまな知恵を学びながらも、さまざまな形があってよいと思います。森先生は、いろんな人生があるからおもしろいんだというのが口癖でしたが、サイコセラピーにもいさまざまな形があってよいことを姿勢の中心に据え、きちんと治すこと、それもなるべくクライエントの時間的に経済的にも負担が少ない形でよい状態になるようかかわることを、追求し続けました。同じ時代に、同じく効果的なサイコセラピーを大胆に目指すブリーフサイコセラピー学会の諸先生、後進の先生達にも恵まれ、大きな舞台を担いました。
サイコセラピーの本質とは何かという難問に関して、いくつかのキーワードを対談の中で語っています。ジョイニング、コンフュージョン、ユーティライゼイション、外在化、これらの言葉は「森俊夫」から分離させてしまうとその輝きが減るような感じもするのだけれど、これらのカタカナの多い題がついた芝居の第1幕、第2幕……があるような錯覚にもなります。これらのキーワードも含めた「効果的なかかわり」については、諸先生がふれられていると思うので、私は「森俊夫」の舞台の中の、サイコセラピー以外のいくつかについて簡単にふれたいと思います。それはコミュニティと健康、そして評価についてです。
八丈島や駿台予備学校での実践活動について語られている通り、森先生の臨床は、コミュニティ全体を常に意識するものでした。一対一の間で生じるトランスといった細かな視点から、地域社会や学校コミュニティを大きく見渡す視点に、一気に展開する。この視点の焦点化と拡大化のダイナミックさが、森臨床の醍醐味であると私は思います。
つまり、コミュニティにまかせられることはまかせ、サイコセラピーの関与は最小限にし、まかせることのできるコミュニティを耕し、コミュニティの力を最大限に発揮していけるようなサイコセラピーをめざしたということです。効果的なサイコセラピーとコミュニティアプローチとは、どちらも主役でありわき役であり、お互いが並び立つことで効果が最大となると言えるでしょう。
また森先生のコミュニティ臨床をささえる基本的思想に、先ほども少しふれましたが、「いろんな人がいるからおもろい」ということがありました。つまり徹底した多様性(ダイバーシティ)への寄り添いです。個性的な人への好奇心も人一倍で、個性あふれる人が現れるととても喜んでいました。どんなに難しいクライエントに対しても、愛情や親しみを持ってかかわる、それは森臨床の根幹だったと思います。これがあるからこそ、やや冒険的なひやひやするようなアプローチであっても、その効果を発揮したのだと感じます。
対談の中でモノローグとダイアローグという話もありましたが、森先生は距離が遠いようにみえて、一方でとても人懐こかったり、時としてドキリとする鋭い問いを投げてきたり、そのうちにぐっと引き込まれてしまったり。まあ自分に正直な人でしたし、コミュニティの中での啓発活動(講演)も、とにかく上手だった。自らの中にある多様性を、鋭く刺激的にわかりやすく周囲の人々に見せました。それは外在化とも表現できるし、演劇でもあったのでしょうが、講演も森先生の手にかかれば、先生自らの多様性の表出の場でした。
多様性への愛情と言えば、精神疾患や気質など「健康でないこと」についても、よく考えていました。生物学的基盤がある事柄への信頼は厚く、既存のサイコセラピーのあいまいさや現実離れした思考への異議をよく語っていました。サイコセラピーの効果をどうわかりやすく記述し検証するかについて、強い問題意識を持っていました。数字で明確に効果が評価されることへの大きな関心があり、数字ではっきりさせることが好きだったと思います。
効果の明確化の追求も、数字での表現も、自らの中で起きていることを徹底して外部に取り出す、その営みと同質だったようにも思います。ですから、森先生の中では、数字、効果的、外在化、演劇、生物学、精神疾患、コミュニティという概念が、みごとに一直線上に並び一貫していると感じます。これらは文化や学問の概念の枠を超えた、森先生独自の発想でした。
一方でサイコセラピーの評価について、単なるスケールや印象評価などで行われることの限界にも森先生は気づいていました。そして、面接の録画などを用いすべてのかかわりをオープンにすることで、評価のあり方を深めていこうと挑戦していました。これは、人と人とのかかわりの多様性についての深い理解があるからこそであると同時に、自らを徹底して外部にさらしていく、演劇的とも徹底した外在化とも言える姿勢であり、多様性を愛し、コミュニティにまかせるその思いの表出でもあったのでしょう。この三部作も、まさにこの表出のひとつの結晶にほかなりません。
精神健康、コミュニティ、サイコセラピー、効果評価といった学問そして臨床の舞台を駆け抜け、「森俊夫」を職業として生きぬいた先生に、重ねて心からの感謝の拍手を送りたいと思います。森俊夫の人生の舞台は、確かに私たちの心の中で続いています。

 


著者略歴

森 俊夫(もり・としお)
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野助教。KIDSカウンセリング・システム スーパーバイザー。1981年 東京大学医学部保健学科卒業。1988年 東京大学大学院医学系研究科保健学専攻(精神衛生学)博士課程修了後,現職。博士(保健学),臨床心理士。専門はコミュニティ・メンタルヘルス,ブリーフセラピー,発達障害への対応。2015年逝去

黒沢幸子(くろさわ・さちこ)
目白大学人間学部心理カウンセリング学科/同大学院心理学研究科臨床心理学専攻教授。KIDSカウンセリング・システム チーフコンサルタント。1983年 上智大学大学院文学研究科教育学専攻心理学コース博士前期課程修了。臨床心理士。専門はスクールカウンセリング,思春期青年期への心理臨床,保護者支援,解決志向ブリーフセラピー


 

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