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41Tsugawatoei

『投映法研究の基礎講座』

津川律子編

定価2,300円(+税)、232頁、四六版、並製
C0047 ISBN978-4-904536-41-4

臨床に生きる──だからこそできる研究がある

投映法研究の質をあげるためのノウハウと,代表的検査法であるロールシャッハ,描画法,TAT,P-Fスタディ,SCTの各研究の歴史・現状・知見を網羅した一冊。

こ の本は,投映法研究の質をあげるために編まれた「座右の書」です。研究計画の立て方や統計処理のコツ,代表的投映法検査であるロールシャッハ,描画 法,TAT,P-Fスタディ,SCTの各研究のの歴史・現状・知見をまとめており,計画から執筆までのよきガイドとなるよう企画されました。すべての章が わが国を代表する研究者によって書かれ,多くの心理学を学ぶ学生,研鑽を積む臨床家にとって必読のものになりました。

※本書カバーにて間違いがありました。カバーには,津川律子著となっておりますが,実際には,津川律子編でございます。
読者の皆様および,関係者の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。謹んでお詫び申し上げます。
謹んで訂正させていただきます。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 序   論

第1章 研究計画の立て方――投映法を意識して……岡 隆・津川律子
コラム 具体的な研究計画の立て方――架空研究例を用いて……岡 隆・津川律子

第2部 個々の投映法

第2章 ロールシャッハ法……津川律子・森田美弥子
第3章 描画法……高橋依子・中島ナオミ
第4章 TAT……小山充道
第5章 P-Fスタディ……秦 一士・安井知己
第6章 SCT……黒田浩司

第3部 論文執筆のための基本

第7章 心理統計処理のコツ……羽生和紀・津川律子
コラム 練習のための架空臨床研究――調査研究の超初心者のために……羽生和紀・津川律子
第8章 論文執筆のコツ――査読に通るには?……津川律子


はじめに――本書の趣旨と利用方法

〈本書の企画趣旨〉
いつの間にか,論文の査読を依頼されることが多くなり,結構な数の投稿論文を読み続ける日々が続いてきた。自分で創刊を手がけた学術誌 だけでなく,臨床心理学や精神保健学など関係学会の編集委員を務める経験も増えた。投稿論文を読み,名前も所属も分からない投稿者のことを「臨床家として は良い人なんだろうなぁ」と思う。それが自分の動機となって,学術論文として,どこをどう改善したらよいかに関して,投稿者に的確に伝わる査読文を書ける よう,せっせと精進する日々である。こういった経験を積み重ねた結果,臨床実践そのものは素晴らしいと思われるのに,残念ながら採択されない数多くの論文 に含まれる共通の課題が,自分のなかで少し輪郭を帯びてきた。
臨床心理学を学んで,実際に臨床領域に就職する学生は,毎年かなりの数に上る。臨床に携わり,そこで研究のアイデアとなる臨床知見を得ることも少なくない だろう。しかし,そのアイデアを学術研究としてまとめようとすると,上述のように,なかなか厳しい現実があるように感じている。臨床心理学分野における事 例研究や事例報告の書き方に関する指南書は既存のものがあり,質問紙の作り方や心理統計学の入門書といったものは数多く刊行されているが,?@臨床現場か ら得たアイデアをもとにした研究を対象とし,?A特に投映法に焦点をあて,?B事例研究も含むが調査研究を主として,?C研究計画の立て方や査読に通る学 術論文のノウハウなどを伝授する入門書というものは,あまり見受けない。そこで,本書を企画した。

〈本書の各章の解説〉
どのような研究も,研究計画を立てずに実施すると失敗する。ごぼうとニンジンがありさえすれば,“きんぴらゴボウ”は……できない。何 となく,切って,炒めれば,美味しい“きんぴらゴボウ”は……できない。ロールシャッハ法と描画法のデータがあって,何となく,表計算ソフトに入力して, 心理統計処理にかければ臨床心理学研究には……ならない。つまり,研究計画は,目的をもった研究の基本設計図であり,本書の「第1部」第1章では,調査研 究で研究計画を立てる際の“基本概念”について述べた。“実験”という単語を見ただけで嫌な感じがする読者には,この章はとても不快かもしれない。しか し,自分が実験をしなくても,調査研究を行う際に知っておかなければいけない基本概念が存在するのである。
この章では,まず,?@研究の対象が「変数」であることを確認し,各種の変数の性質を知ることが必要であることを示した。そして,?A変数の関係につい て,特に相関関係と因果関係の違い,2つの変数の関係に影響する第3の変数の性質と扱い方について紹介した。ここで書かれていることを知っているか否かが 調査研究にとって重要なので冒頭でふれたのだが,研究の初心者にとっては,この章が一番難しく感じると思う。そのため,編者がみずから「はじめに」で書く のは不謹慎かもしれないが,研究の超初心者は第1部から強迫的に読もうとせずに「第2部」を先に読んでみてほしい。そして具体的に研究をはじめようと決断 したとき,あるいは研究の構想が進んで明確になった研究課題を狙い通りに調査できるかを検討したくなったときなどに,この章を読んでみてほしい。また,査 読者が研究の方法論に関して問題点を指摘してきたときに,本章はきっと有益な情報や手助けを与えてくれるはずである。
「第2部」は,ロールシャッハ法,描画法,TAT,P-Fスタディ,SCTという,臨床現場に馴染んでいる各種投映法に関して2000年以降の研究動向を まとめることで,現場の臨床家が研究に取りかかりやすいように配慮した部である。天才研究者でない限り,これまでの研究とまったくかけ離れた研究をするの は益が少ない。どんなにアイデアがよい研究であっても,これまでの研究の流れのなかにおかれなければ,その意味や意義は評価されにくい。また,1人の研究 者が,あるいは1つの研究で検討できる内容は,研究法がしっかりすればするほど逆に限られてゆく。臨床心理学・心理学あるいは人文社会科学全般における科 学的研究とは,研究者がお互いの研究を知り,必要な研究をつけくわえ,みんなで少しずつ知見を積み重ねていく共同的な営みである。
また,先行研究を調べていくうちに,計画していた研究のテーマがすでに行われていることが分かることも多い。それを知らずに研究を進め,同じ結果を得て も,新しい知見の乏しいその研究の価値を査読者も積極的に評価できない。仮に違う結果がでた場合でも,先行研究の結果を知らなければ,なぜ違う結果になっ たかを検討することができない。そして,そのテーマの専門家である査読者は大概そうした先行研究を知っており,なぜその比較・検討をしないのかと査読者に 指摘されることも確実となる。
このような点から,先行研究を調べることは研究者にとって必須のことなのだが,その第一歩となるべく各々の投映法の第一人者から最近の研究の動向を紹介した。本来は研究者自身で進めて行く作業であり,かなりおせっかいの感もあるが,入門書として必要と考えた。
「第3部」の第7章では心理統計が得意ではない読者のために,なるべく数式を使わずに心理統計処理の基本概念とコツをまとめた。まず,?@投映法研究にお ける統計の必要性と意義について述べ,?A変数・データの種類やもつ性質について説明した。そして,?B心理臨床研究で用いられることが多い統計的な分析 法として,相関・回帰分析と各種の検定法に関して実施する際の諸注意を解説した。誤解されることが多い,有意差と結果の重要性の違いと,因果関係と相関関 係の考え方についても強調したつもりである。最後に,?C実際の統計の進め方のコツを述べ,統計の参考書やソフトについて紹介した。
7章のあとのコラムには「練習のための架空臨床研究―調査研究の超初心者のために」という統計分析の架空の実例をつけた。“統計”と聞いただけで不得手 感,あるいは不快感をもつ読者は,本文よりも先に,このおまけを読んでみるのもいいかもしれない。統計とは怖いものでも,怪しい魔法でもなく,意外に簡単 なことが伝わるであろうか。
第8章はズバリ,査読に通る学術論文に関する章である。投稿しては採用されず,不愉快な気分でいる読者は,一番先にこの章を読まれた方がいいかもしれな い。学術論文を書くということは,特別な技術なのだということを知ってもらいたい。日本人だから日本語の論文は書けるはずだというのは錯覚であり,論文執 筆には特有の作法・ノウハウが必要である。また,いい調査研究であれば,必ずいい学術論文になるということも間違いである。調査研究と論文は深く関係して いるものの,研究の質はそのまま論文の質を保証しない。優れた研究を計画し,データを的確に分析しても,論文の書き方次第では,査読者が納得する学術論文 にはならない。
また,自然科学や工学の研究とは違い,臨床心理学・心理学あるいは人文社会科学の研究では,結果は何かを証明する・発明するというような誰もが無条件に納 得するような形にはなりにくい。むしろ,無条件に明確な結果が得られることは少なく,「こうした場合(や対象)にはこうだが,そうならないこともある」 「仮説の多くは支持されたが,されなかった部分もある」というような結果になる。こうした,いわば多少あいまいな結果から,解釈できることだけを解釈し, できないことは解釈しない,主張しないことが必要である。さらに,結果のなかにある矛盾や仮説に反する部分をいかに納得できるように,論理的にかつ説得力 のある説明をするかということも必要である。自分の研究はかわいいものであり,自分の研究結果は多くのことを明らかにした画期的なものであると,ほとんど の研究者は思いたがる。しかし,そうした思いは脇におき,論文では誰もが確実に了解・納得できることだけを書く。1つの論文で明らかにし,主張することは 極力,少なくていい。多くのことを主張したければ,複数の論文を積み重ねることである。
一方で,人によっては完璧な結果がでるまで研究を学術論文にしないという人がいるが,これもあまりいい判断ではないということも知ってほしい。研究計画と 分析がしっかりしていれば,論文化はできる。多くの場合,論文が採用されないのは結果が完璧ではないからではなく,解釈や説明に問題があるからである。論 文力や論文のノウハウを身につけて,せっかく時間をかけて行った研究はぜひどんどん投稿していってほしい。

〈本書の利用方法〉
以上のような章の順番で本書は構成されている。しかし,第1部の説明の際にも書いたが,本書は好きな章から好きな順番で読んでいただく のが一番よい。必要に応じて必要な章を読むのでよいし,面白そうな章あるいは簡単そうな章から読んでいくので結構である。各章の内容には関連はあるもの の,記述自体は独立しているので順序どおりに読まなくとも理解に問題はないはずである。また,初読時に理解できない箇所があっても,気にしないで読み進め てほしい。入門書ではあるものの,どうしても伝えたい内容のなかにはやはり初学者には難しく感じることも含まれている。初めはそうした点は“よく分からな い”ということに気づいてもらえることだけで充分である。分からないことさえ分かっていれば,理解できる日はそのうち必ずおとずれる。
一番,残念なことは,第1章から完全に理解しようとして読むことを止めてしまうことである。そしてこの本を投げ出し,同時に研究を投げ出すことだけはしないでいただきたいと願っている。

〈本書の願い〉
本書は,企画立案の段階から私が1人で行い,最初に遠見書房の山内社長にご相談した。あまり売れそうにない企画にもかかわらず,すぐに 出版を快諾してくださり,本当にありがたかった。山内社長とご相談のうえ,執筆者への依頼を行ったが,どの執筆者も本書の意義を汲んでくださり,すぐに快 諾してくださったことも素朴に嬉しかった。
大学や大学院を出たばかりの臨床家だけでなく,臨床は十分にやってきたけれど,研究に関しては,いまひとつ自信がもてないというベテランの臨床家にとっても,本書のどの章のどの部分であれ,投映法研究の入門書として役立つことを祈っている。
臨床実践に裏打ちされた投映法研究論文が,1つでも多く生まれ,それが他の臨床現場に還元されることで,臨床心理学に基づいた心理支援がますます質的に向上するよう,未来にこの本を託したい。

2012年3月12日 夫の誕生日に
津川 律子


編者略歴

津川律子(つがわ・りつこ)
専攻:臨床心理学,精神保健学
現在:日本大学文理学部心理学科教授,日本大学文理学部心理臨床センター長
学会:心理アセスメント関係では,包括システムによる日本ロールシャッハ学会副会長,一般社団法人日本心理臨床学会常任理事,日本ロールシャッハ学会理事
主著書:心理アセスメント関係では,
シナリオで学ぶ医療現場の臨床心理検査』(誠信書房,2010/共著)
精神科臨床における心理アセスメント入門』(金剛出版,2009/単著)など。

執筆者一覧(50音順)

岡 隆(おか・たかし)
日本大学大学院文学研究科心理学専攻

黒田浩司(くろだ・ひろし)
山梨英和大学大学院人間文化研究科臨床心理学専攻

小山充道(こやま・みつと)
藤女子大学人間生活学部保育学科

高橋依子(たかはし・よりこ)
大阪樟蔭女子大学大学院人間科学研究科臨床心理学専攻

津川律子(つがわ・りつこ)
日本大学大学院文学研究科心理学専攻

中島ナオミ(なかしま・なおみ)
関西福祉科学大学大学院社会福祉学研究科心理臨床学専攻

秦 一士(はた・かずひこ)
甲南女子大学名誉教授,甲南女子大学心理相談研究センター顧問

羽生和紀(はにゅう・かずのり)
日本大学大学院文学研究科心理学専攻

森田美弥子(もりた・みやこ)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻

安井知己(やすい・ともき)
甲南女子大学人間科学部心理学科