心理臨床の広がりと深まり

『心理臨床の広がりと深まり』

山中康裕 編(京都大学名誉教授・京都ヘルメス研究所)

定価3,000円(+税)、240頁、A5版、並製
C3011 ISBN978-4-904536-32-2

臨床のエッセンスが満載

本書は,ユング心理学から認知行動療法まで,現代に生きる臨床家のための臨床エッセンスを満載した16章のテキスト・ブックである。編集には,子どもから高齢者まで,幅広い臨床経験をもつ山中康裕があたった。
心理臨床家になるために重要なテーマを3部に分け,それぞれ,「心理臨床家のコア」と「心理臨床の思想」「臨床のリアルのなかで」と題し,まさに視野の広さと深みのある内容になっている。
この本は,多くの心理臨床家をめざすものにとって大切な本になるだろう。多くの初学者にお勧めしたい一冊である。

なお,山中先生の本は,『深奥なる心理臨床のために』もございます。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 心理臨床家のコア
第1章 心理臨床の最前線 ■ 山中康裕
第2章 心理療法の「仕事」 ■ 中島登代子
第3章 心理療法家の覚悟 ■ 古谷 学
第4章 心理臨床とリアリティ ■ 長岡由紀子

第2部 心理臨床の思想
第1章 こころに耳を傾けるために ■ 名取琢自
第2章 心理臨床と宗教 ■ 前田 正
第3章 空間象徴の理論的基礎 ■ 後藤慎吾
第4章 心理臨床と剣道 ■ 中島郁子
第5章 バウムテスト第三版ドイツ語原著を翻訳して ■ 岸本寛史

第3部 臨床のリアルのなかで
第1章 児童虐待における親支援 ■ 柴田俊一
第2章 「重ね」の意味 ■ 三海幸代
第3章 新生児医療と心理臨床 ■ 竹内里和
第4章 心理臨床からみた身体 ■ 田口多恵
第5章 箱庭療法における境界性の生成 ■ 新村信幸
第6章 心理臨床と高齢者臨床 ■ 森上克彦
第7章 精神科領域における認知行動療法 ■ 河合正好


ここに,『心理臨床の広がりと深まり』なる一書を編んだ。それは,私のここ数年の,主に,浜松における仲間との仕事が中心であるが,その他にも,京 都ヘルメス研究所や東京ヘルメス研究会,その他の場における経験も加わって,一層の広がりと深まりを多々経験しているからである。当初,私は,この本の書 名を「心理臨床の最前線」という名にしようと思っていた。それは,当に,この領域の最前線での幾つかの仕事を垣間見ていたので,勢い込んでのことだった が,本書肆・遠見書房社長の山内さんに,「先生,戦争でもあるまいし,最前線というよりも,『広がりと深まり』にした方がいいんじゃないですか?」とやん わりと言われてしまったのである。確かに,最前線というタームは戦場のものであり,言われてみれば,確かに私は,日本臨床心理士資格認定協会や日本心理臨 床学会や日本臨床心理士会等で,とくに国家資格問題などで,「みんな近視眼的にしか考えてなくて,本来国家資格にする必要があるのは,臨床心理士その人の 権利を守ることよりも,そもそも国民の心の健康を真に守るため,という視点が欠けていることこそ問題なのだ。心理一般と同調などしなくて,まず,臨床心理 士そのものを国家資格にするべきだ。そのあとで,必要なら,それらの人たちが頑張ってとればよいのだ,といったふうに,激論を戦わせていたので,ついつ い,このような戦闘的な言葉になっていたのだった。しかし,山内社長にそう言われて冷静に考えてみれば,「広がりと深まり」の方が遥かに含蓄があり,深み があることに気付き,そうしたのだった。
事実,かくして論文を募ってみると,ここに見られるように実にいい論文が目白押しである。どれをとっても,心理臨床の広がりと深まりがひしひしと伝わって くる。殊に,中島,古谷,長岡,名取,前田,岸本,柴田と粒ぞろいの各論文を読み進んでいくと,どれもこれも深い考察と鋭い眼と,優しいまなざしに溢れて いて,かつ,厳しい。ああ,本当にこの本を編んでよかったな,と思うのである。何人かのはじめての修士論文から抜擢したものも含まれていて,微笑ましいも のも見られるのがご愛嬌である。しかも,普通なら,通常の私の論考の範疇には入ってこないと思われている,認知行動療法についても,河合によって実に適切 に纏められており,文字通り,現今の心理臨床のほぼ全域を射程に置きながら,かつ,その広がりと深まりを目論んだわけで,文字どおりタイトル通りの本に なった。ここにおける「文字通り」は名取によって深く論考されているリテラリズムのことではなく,名と実との深い一致の意味である。とにかく,読者はご関 心のあるどの部分からでも読んでいただいて構わない。心理臨床領域に励む全国の同僚たちや若い志を持つ人々に迎えられることを期待してこの序文を閉じた い。

山中康裕,拝


あとがき

この本に載せたモノはいずれも,いい論文だが,ここでは初書きの中島郁子論文と,異色の岸本論文にだけ触れておく。
前者は,本書にはまさに「広がり」の端っこに位置する,「剣道と臨床」という一風変わったタイトルだが,読んでみると,これがなかなか面白く,流石,阿蘇 高校や筑波大学という剣道では超一流のキャリアの場を通っているだけあって,ホンモノの剣士からの言であった。あの若さで,すでに5段なのである。そし て,浜松大学の私らの下で,臨床もしごいたから,これは将来,頼もしい女剣士兼臨床家になってくれるに違いない。ちょうど先日,函館での,私が会長をして いる臨床心理身体運動学会で,グラスゴーの世界選手権で剣道世界一になった栄花直輝君(北海道警察剣道指南)という,当に,世界一の剣士と対談をしたの だったが,彼は,きわめて礼儀正しくかつ,実にさっぱりとした,まさに気持ちのいい青年であった。
さて,後者の,岸本君の論文は,Kochの「バウムテスト第3版」のドイツ語からの,本邦初訳を出してくれた人なのだが,それまでドイツ語など全くしたこ とのない人が,本当に,アー・ベー・ツェーからはじめて,まさに苦労して邦訳してくれたおかげで,これまでの,英訳からの重訳で,コッホの本質を全く伝え ていなかった,この道の40年間を,まさに一掃してくれるような満塁ホームラン,かつ,きめ細かく周到かつ緻密なバントをきめる類の,まさに「深まり」の ある論文なので,これまた,斯界に新風を巻き起こしてくれるであろう,好論文である。とまれ,本書が斯界に船出したら,恐らく,これまでとはひと味もふた 味も違った臨床を浸透させるであろうと,こころおどりつつ,期待して筆を擱く。

2012年初頭,初恵比寿の日に 山中康裕識


編者略歴

山中康裕(やまなか・やすひろ)

医学博士,臨床心理士
1992年 京都大学教育学部教授
2005年 京都大学を退職。京都大学名誉教授,京都ヘルメス研究所を設立
2009年 浜松大学大学院教授。同付属臨床心理教育実践センター長
2012年 浜松大学大学院退職。

主な著書に,『少年期の心』(中公新書),『絵本と童話のユング心理学』『老いの魂学(ソウロロギー)』(ともにちくま学芸文庫),『臨床ユング心 理学』(PHP新書),『心理臨床と表現療法』『こころに添う―セラピスト原論』『こころと精神のはざまで』(ともに金剛出版),『深奥なる心理臨床のた めに』(遠見書房),『風景構成法』『風景構成法―その後の発展』(ともに岩崎学術出版社・編著),『ユング心理学辞典』『エセンシャル・ユング』『魂と 心の知の探求』(監修)『コッホの「バウムテスト第3版」を読む』(共編)(ともに創元社)。翻訳に『カルフ箱庭療法新版』(誠信書房,監訳),『ケルト の探求』(人文書院,監訳),『プレイセラピー』(日本評論社,監訳),『児童精神医学の基礎』(金剛出版,監訳),『世界の箱庭療法』(新曜社,編 著),『天使と話す子』(絵本,BL出版,訳)などが多数ある。また,『山中康裕著作集〈第1巻~第6巻〉』(岩崎学術出版社)が出ている。

執筆者一覧
第1部第1章 山中康裕(京都ヘルメス研究所長・京都大学名誉教授)
第1部第2章 中島登代子(浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)
第1部第3章 古谷 学(浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)
第1部第4章 長岡由紀子(浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)
第2部第1章 名取琢自(京都文教大学)
第2部第2章 前田 正(ユング派分析家・浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)
第2部第3章 後藤慎吾(浜松大学健康プロデュース学部心身マネジメント学科)
第2部第4章 中島郁子(筑波大学大学院)
第2部第5章 岸本寛史(京都大学医学部附属病院)
第3部第1章 柴田俊一(浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)
第3部第2章 三海幸代(浜松大学臨床心理教育実践センター)
第3部第3章 竹内里和(浜松大学臨床心理教育実践センター,小児科医)
第3部第4章 田口多恵(浜松大学臨床心理教育実践センター)
第3部第5章 新村信幸(浜松学芸中学校・高等学校)
第3部第6章 森上克彦(敬愛会介護支援センター)
第3部第7章 河合正好(浜松大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻)

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