事例でわかる  子どもと思春期への協働心理臨床

事例でわかる 子どもと思春期への協働心理臨床

(立命館大学心理・教育相談センター)竹内健児 編

定価3,000円(+税)、212頁、A5版、並製
C3011 ISBN978-4-904536-30-8

協働は難しい!
でも,愚痴をこぼしているだけでは解決にはならない

心理臨床の世界が広がりを見せる中,他職と協働する機会は以前に比べて格段に増えています。
本書は,子どもに関連する心理臨床の領域を中心に,協働を進める上で出合う困難をどのように乗り越えていけばよいかを7つの事例を通して明らかにしたものです。
スクールカウンセリングで教員と関わる,病院で作業療法士や看護師や音楽療法士と関わる,療育教室で保育士と関わるなど,協働すること自体が仕事となって いる現場は多い。いかに協働の難しさを乗り越えていくか,その配慮や工夫の仕方が現場で働く者にとって最も知りたいことであるでしょう。
本書は,こうしたニーズをすくいあげるべく企画された実践の一冊です。事例と,それへのコメントからなり,協働のコツがつかみとれるでしょう。すべての臨床家に必読の書です。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 協働の実際

第1章 協働の心理臨床 (竹内健児)
I.協働の心理臨床とは
II.協働の語義
III.協働の心理臨床を分類するための9つの観点
IV.協働の心理臨床を事例を通して検討する意義

第2章 担任とスクールカウンセラーのコミュニケーションのズレ――学校現場でカウンセリングを行うということ (宮川順子)
I.はじめに
II.事例の概要
III.事例の経過と協働の実際
IV.考察
V.終わりに
*質疑応答*
*コメント*

第3章 児童養護施設におけるケアワーカーとの協働――信頼関係と担当者の交代 (内苑まどか)
I.はじめに
II.事例の概要
1期 小学生ユニット時代(X年4月~X+1年11月)
2期 小規模ユニット時代(X+1年11月~X+3年3月)
3期 ファミリーソーシャルワーカー時代(X+3年4月~X+4年3月)
III.事例を振り返って
IV.終わりに
*質疑応答*
*コメント*

第4章 公立中学校における不登校生徒の心理的援助と協働体制作り――担任の思いと面接構造 (松尾将作)
I.はじめに
II.事例の概要
III.事例の経過と協働の実際
IV.この事例における協働について
V.協働について思うこと
*質疑応答*
*コメント*

第5章 交通事故で搬送された女子中学生の事例――総合病院における医療スタッフへのコンサルテーション (厚坊浩史)
I.はじめに
II.事例の概要
III.事例の経過と協働の実際
IV.考察
V.終わりに
*質疑応答*
*コメント*

第6章 不登校の女児への関わりにおける児童家庭支援センターと小学校との協働 (渡 昌代)
I.はじめに
II.事例の概要
III.事例の経過と協働の実際
IV.事例を振り返って
V.心理臨床における協働について
*質疑応答*
*コメント*

第7章 非行傾向の中学生男子へのチーム支援 (近森 聡)
I.はじめに
II.事例の概要
III.事例の経過と協働の実際
IV.考察
*質疑応答*
*コメント*

第8章 母子に必要な発達支援体制を地域につくる保健センターでの取り組み (竹田伸子)
I.保健センターでの職務
II.事例の経過と協働の実際
III.考察
*質疑応答*
*コメント*
第2部 協働を生かすために

第9章 協働が揺れるとき──留意点と工夫 (竹内健児)
I.職場の人間関係への適応――「上手く溶け込めないんです」
II.他職から心理の仕事について理解を得る――「わかってもらえない」
III.他職への理解と配慮が足りないのでは
IV.場やパートナーの個性を査定していないのでは
V.協働を持ちかける際の配慮が足りないのでは――「何で動いてくれないんだろう」
VI.協働を持ちかけるか否かの判断
VII.情報の共有と守秘――「私たちには教えてもらえないんですか」

第10章 コンサルテーションの実際問題 (竹内健児)
I.コンサルテーションとは
II.コンサルテーションにおいて行う作業
III.事例検討会の持ち方


はじめに──本書の趣旨

本書を手に取った人は,普段,自分の心理臨床活動の中で協働を体験し,その難しさを前にしてヒントを求めている人かもしれない。自ら必要性を感じて 協働に取り組む場合にせよ,職務上協働を求められる職に就いた場合にせよ,協働を進めようとすると,実際にはなかなかうまくいかないと感じる人は多いだろ うし,その難しさを嘆きたくなることもあるだろう。
心理臨床の世界が広がりを見せる中,現場において他職と協働する機会は以前に比べて格段に増えている。スクールカウンセリングで教員と関わる,適応指導教 室で元教員や地域の相談員と関わる,病院のデイケアで作業療法士や看護師や音楽療法士と関わる,療育教室で保育士と関わる,警察の少年サポートセンターで 警官と関わるなど,協働すること自体が仕事と言える。
このような難しさを覚えるとき,時と場所と相手を選んで愚痴をこぼすことは精神衛生上あってもよいが,愚痴をこぼしているだけでは解決にはならない。どう やって協働の難しさを乗り越えていくか,その配慮や工夫の仕方が現場で働く者にとって最も知りたいことであるだろう。協働を進める上で出合う困難をどのよ うに乗り越えていけばよいかを7つの事例を通して明らかにすることがこの本の趣旨である。


あとがき

「心理臨床において協働は大切だ」と言われると,「ごもっとも」と思うのだが,実際にやってみるとなかなかに難しい。ズレ,溝,壁,食い違い,平行線,対 立,ぶつかり合い,膠着状態,物別れ,不信感,無力感……。本書の事例に出てきた言葉を拾い上げていくと,こんな言葉が並ぶ。立派なことを言うのは実はた やすいこと。本書を編んだのは,協働における難しい局面を実際どのように乗り越えればよいかを事例を通して明らかにしていきたいと思ったからである。そこ で,本書の事例執筆者には,こんな風に協働がうまくいきましたとか,こうすればうまくいくはずです,という書き方はせず,困難な局面を具体的に書いても らった。幾分強調してもらってさえいるので,あそこが駄目,ここが駄目,と粗探しをすることはそれほど難しくはないだろう。だが,そのような読み方をして も得られるものはおそらく少ない。事例の中の難しさは,執筆者だけのものではなく,私のものでもあるし,読者のものでもある。そのつもりで読んでいただけ るとこれらの事例から学べることは多いはずである。
今回,新たな試みとして,事例とコメントの間に質疑応答を入れた。事例執筆者と編者とのやり取りを通して,事例について,協働についての理解が深まることを意図してのことである。

事例報告の書き方に関しては,前著(『事例でわかる心理検査の伝え方・活かし方』金剛出版刊)と同様に,臨場感を大切に,起きたことを起きた順に書 く,必ず対話形式を入れる,自分自身の心の動きについても触れることをお願いしてある。文体に関しては,記号化されたような情報の羅列とならないように, 通読できる文章の形で書いてもらっている。言い換えれば,これは自分の担当した事例を,自身の関与に触れ,自身の思いを乗せながら物語るということであ る。対話部分の方言をそのままにしているのも,その場の臨場感を伝えるために他ならない。
守秘に関してだが,本書の趣旨はクライエントについて検討することよりも,協働の実際を伝えることにあるので,クライエントに関する事実関係については多 くの点で変更を加えるとともに,すべての事例について,各職場の責任者の方に了解をいただいている。また,執筆者の所属を明示していないのは,どこの機関 での事例であるかが判らないようにとの配慮からである。
本書の出版にあっては,前著に引き続き,山内俊介さんに大変お世話になりました。本の企画を出版社の方と対話しながら練り上げていくことの愉しさを今回も味わわせていただきました。ありがとうございました。

2011年9月1日
竹内健児


編者略歴

竹内 健児(たけうち・けんじ)
 立命館大学心理・教育相談センターカウンセラー,臨床心理士。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程学修認定退学。トゥレーヌ甲南学園カウンセラー(在仏),奈良産業大学,京都光華女子大学,徳島大学准教授を経て,現職。
主な著訳書:『事例でわかる 心理検査の伝え方・活かし方』(編著,金剛出版,2009),『ドルトの精神分析入門』(誠信書房,2004),『スクールカウンセラーが答える   教師の悩み相談室』(ミネルヴァ書房,2000),『生活の中に学ぶ心理学』(共編,培風館,1997),バーガー『臨床的共感の実際』(共訳,人文書 院,1999),他

執筆者一覧(執筆順)
竹内 健児 編者紹介を参照 1,9,10章,2~8章の質問とコメント
宮川 順子 スクールカウンセラー,上智大学大学院修了,臨床心理士 2章
内苑まどか スイス在住,甲子園大学大学院修了,臨床心理士 3章
松尾 将作 スクールカウンセラー,甲子園大学大学院修了,臨床心理士 4章
厚坊 浩史 総合病院心理士,東京医科歯科大学大学院博士課程在学中,臨床心理士     5章
渡  昌代 元児童家庭支援センター心理士,愛知学院大学大学院修了,臨床心理士 6章
近森  聡 スクールカウンセラー,京都大学大学院修了,臨床心理士 7章
竹田 伸子 個人開業,奈良女子大学大学院修了,臨床心理士 8章

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