臨床心理検査バッテリーの実際 改訂版

臨床心理検査バッテリーの実際 改訂版

高橋依子・津川律子編著

定価3,000円(+税) 256頁 A5判 並製
C3011 ISBN978-4-86616-177-8

2023年9月発行

〈改訂しました〉

適切なテストバッテリーを多彩な事例を挙げて解説
現場感覚に即した臨床心理テストバッテリーの理論と実践

本書は,多くの臨床心理検査と,さまざまな対象年齢,臨床現場に即したテストバッテリーの考え方とその実践を,多彩な事例を通してわかりやすく描いたものです。執筆には,それぞれの臨床領域で心理検査を活用している第一人者に依頼しました。
いろいろな臨床場面があるなかで,実際にどのような検査バッテリーが組まれ,活用されているのか,それを知ることはあまりありません。ですが,この本では,心理検査の理論と職人技とが織り成す高度な専門性の世界をさまざまな面からひも解いていきます。
初学者だけでなく最前線で活躍する臨床家までの,あらゆるレベルの読者それぞれにとって,多くのヒントが散りばめられた1冊になりました。
刊行から8年,好評につき,改訂版を刊行しました。

関連本,『投映法研究の基礎講座』(津川律子編)

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 臨床心理検査バッテリー論

第1章 臨床心理検査とは
高橋依子・津川律子

第2章 臨床心理検査バッテリーに関する考え方
高橋依子

第2部 発達に沿った検査バッテリー

第3章 乳幼児期
大島 剛

第4章 児童期(教育場面)
明翫光宜

第5章 児童期(医療場面)
石田喜子・久野節子・田中千代・前田志壽代

第6章 思春期(教育場面)
小山充道

第7章 思春期(医療場面)
神谷栄治

第8章 青年期(私設心理相談場面)
寺沢英理子

第9章 青年期(医療場面)
篠竹利和

第10章 矯正領域
渡邉 悟

第11章 成人期
藤本千春

第12章 高齢期
松田 修

第3部 臨床心理検査結果のフィードバック

第13章 検査結果のフィードバックに関する考え方
津川律子

第14章 医療場面における検査結果のフィードバック
糸井岳史

第15章 私設心理相談場面における検査結果のフィードバック
宮木ゆり子

ほか


はじめに

臨床心理検査は,対象者の心理支援において極めて有用であり,いくつかの心理検査を組み合わせて得た多角的・多層的な検査結果から,対象者が生きる世界が立体的に浮き彫りになり,それが心理支援に直接的につながっていく一連の過程は,臨床心理検査の真骨頂である。
しかし,いろいろな臨床場面があるなかで,実際にどのような検査バッテリーが組まれ,活用されているのかに関する書籍はあまり見かけない。長く医療現場を中心に臨床心理アセスメントとサイコセラピーの実践と教育に携わってきた津川は,臨床現場で役に立つ,検査バッテリーの本を著したいと考えた。そして,多くの場面における心理検査活用の実際に広げたいと思い,かねてよりロールシャッハ関係の学会を通じて親しくしている高橋を誘った。高橋も臨床の現場は広く,また津川と同様に,大学院生と修了生の教育を行ってきている。二人はともに,医療場面や教育場面だけでなく,私設心理相談施設を開いて,アセスメントとそれに基づくサイコセラピーを実践してきたので,二人でカバーできる領域は広いが,それ以上に多岐にわたる臨床現場の最前線における最新の心理検査実施の実際に触れたいと思った。そこで多くの臨床家に協力を求めることにした。
心理検査を中心に総合的なアセスメントがどのように行われ,それぞれの臨床場面でどのような臨床心理検査バッテリーが組まれ,実際にどのように活用されて支援につながっているのかを,幅広く,そして深く,具体的にまとめていくことで,実際の臨床実践に役立つものにしたいと考えて,本書を企画した。
臨床心理検査の種類は多く,用いられている臨床現場も多様である。臨床の場面が医療場面であるか教育場面であるか,福祉の領域か産業か矯正かによって,バッテリーの組み方は異なるし,対象者が幼児か青年か,または高齢者かによっても,用いられる心理検査は全く違ってくる。そこで,これらの場面で,異なる対象者に対して,どのような心理テストがバッテリーとして組まれ実施されているのかを紹介したいと思った。そして単なる例示でなく,実際に実施された心理検査の結果を元に,どのようなことが明らかになり,心理支援にどのように繋がっていくかまでも明示したいと考えた。
さまざまな臨床場面における幅広い対象者を想定したいので,それぞれの臨床領域で心理検査を活用している第一人者に依頼した。二人でお願いした著者の方々は,すべて臨床家であり,全員の方々に本書の趣旨をご理解いただき,執筆を快諾していただいた。
読者対象としては,臨床現場に出て10年目ほどをイメージして編集したが,刊行直前のいまは,臨床経験が浅い読者でもベテランでも役立つのではないかと感じている。それぞれの章で,実際の心理テストが明示され,丁寧に解説がなされているので,若い読者にも理解しやすく,また,ベテランにとっても,ほかの臨床家がどのようなバッテリーを組んで,その結果をどのように活用し,フィードバックしているのかは興味のあるところであろう。
本書が,多くの心理臨床家に読まれ,より密度が濃くきめ細やかな心理支援へと還元されることを切望している。
本書の出版に際しては,遠見書房社長の山内俊介氏に大変お世話になった。心から謝意を表したい。

2015年5月
高橋依子・津川律子

改訂にあたって
本書が発刊されてから8年が経とうとしている。その間に本書は増刷され,多くの心理士に読んでいただけた。この8年の間に,わが国の心理臨床の世界では大きな出来事があった。心理臨床の専門家の資格として,公認心理師という国家資格が誕生したのである。これまでにも心理臨床の専門家の資格として臨床心理士があったが,国家資格ができたことで,専門家を標榜する人数は飛躍的に増え,2023年3月現在で約7万人となっている。心理臨床の現場では,心理アセスメントやサイコセラピーへの期待がさらに高まっている。
そしてこの間に,新版や改訂版が発行されたり再標準化がなされたりした臨床心理検査がいくつもみられる。心理検査が改訂されるにはそれぞれ理由がある。発達検査や知能検査は,人を取り巻く文化的環境の変化,教育状況,心身の発達の加速度現象等の影響を受ける。1984年のニュージーランドのフリンの研究では,同一検査であれば流動性知能の上昇がみられており,再標準化の必要性が述べられている。それ以前にもウェクスラーが知能検査は10年に一度は改訂したいと述べて実行した。パーソナリティ検査は,新たな研究により,パーソナリティ特性の捉え方の増加が見られている。
改訂されたそれぞれの心理検査の目的や実施法を確認するだけでなく,実際にどのように実施され,サイコセラピーに活かされているかを知る必要がある。心理臨床の現場では,ただ一つの検査を実施することは少なく,複数の心理検査をテスト・バッテリーとして組み合わせて実施している。本書は臨床心理検査のバッテリーに焦点を当てたものである。テスト・バッテリーについての考え方を記すとともに,年代別,臨床領域別に,第一線の心理士が実際に行っている状況を紹介している。そして,心理検査の手引き書には挙げられることが少ない検査結果のフィードバックについては,各々の事例で触れるだけでなく,第3部でフィードバックについての考え方と事例を挙げている。
今回の本書の改訂では,新たに作成された心理検査や改訂された心理検査を紹介している。そして,乳幼児期の発達検査や児童期の知能検査については,初版での事例ではなく,改訂された検査での事例を挙げている。また,それ以後の年代や領域においても,改訂された心理検査をどのようにして臨床心理検査バッテリーに組み込んでいくかについて述べている。さらに,近年,診断が重要となっている発達障害の心理検査や,症状の影に見られるトラウマの問題,矯正領域での地域援助などについては,大幅な補足を行った。
それぞれの領域で年齢に応じた臨床心理検査バッテリーを組んで,対象者の支援につなげていただきたい。
改訂版出版にあたっては,遠見書房編集部の原口進之介氏に大変お世話になった。心から謝意を表したい。

2023年8月
高橋依子・津川律子


編著者略歴

高橋依子(たかはし・よりこ)
専攻:臨床心理学
現在:大阪樟蔭女子大学名誉教授,京都大学博士(文学),臨床心理士,公認心理師,心理アセスメント関係の学会では,一般社団法人日本心理臨床学会代議員,日本描画テスト・描画療法学会常任理事
主著書:心理アセスメント関係では,『描画テスト』(北大路書房,2011/単著),『ロールシャッハ・テストによるパーソナリティの理解』(金剛出版,2009/単著),『スクールカウンセリングに活かす描画法』(金子書房,2009/監修),『人物画テスト』(文教書院・北大路書房,1991/共著),『樹木画テスト』(文教書院・北大路書房,1986/共著),『ロールシャッハ診断法Ⅰ・Ⅱ』(サイエンス社,1981/共著)など。

津川律子(つがわ・りつこ)
専攻:臨床心理学,精神保健学
現在:日本大学大学院文学研究科心理学専攻臨床心理学コース教授・専攻主任,日本大学文理学部心理臨床センター長,公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士,心理アセスメント関係の学会では,包括システムによる日本ロールシャッハ学会副会長,一般社団法人日本心理臨床学会常任理事
主著書:心理アセスメント関係では,『これからの現場で役立つ臨床心理検査』【解説編】【事例編】(金子書房,2023/共編著),『心理療法におけるケース・フォーミュレーション』(福村出版,2021/共監訳),『改訂増補 精神科臨床における心理アセスメント入門』(金剛出版,2020/単著),『心理的アセスメント 公認心理師の基礎と実践⑭』(遠見書房,2019/共編著)など。

著者一覧(執筆順)
高橋 依子(たかはし・よりこ)上記参照
津川 律子(つがわ・りつこ)上記参照
大島  剛(おおしま・つよし)神戸親和大学大学院文学研究科心理臨床学専攻
明翫 光宜(みょうがん・みつのり)中京大学心理学部心理学科
石田 喜子(いしだ・よしこ)大阪市民病院機構地方独立行政法人 大阪市立総合医療センター
久野 節子(くの・せつこ)大阪公立大学カウンセリングルーム
田中 千代(たなか・ちよ)心理相談室「空」
前田志壽代(まえだ・しずよ)医療法人博友会 藤谷クリニック
小山 充道(こやま・みつと)北海道千歳リハビリテーション大学
神谷 栄治(かみや・えいじ)中京大学心理学部
寺沢英理子(てらさわ・えりこ)田園調布学園大学人間科学部心理学科・大学院人間学研究科
篠竹 利和(しのたけ・としかず)横浜市立大学附属市民総合医療センター
渡邉  悟(わたなべ・さとる)徳島文理大学人間生活学部心理学科
藤本 千春(ふじもと・ちはる)一般社団法人おおさかメンタルヘルスケア研究所
松田  修(まつだ・おさむ)上智大学総合人間科学部心理学科
糸井 岳史(いとい・たけし)路地裏発達支援オフィス
宮木ゆり子(みやき・ゆりこ)カウンセリングルームさいのみや

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