職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践――精神障害・発達障害のある人の就労を支える

職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践――精神障害・発達障害のある人の就労を支える

池田浩之・谷口敏淳 編著
2,600円(+税) A5判 並製 168頁
C3011 ISBN978-4-86616-169-3
2023年4月発行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書は,職業リハビリテーションにおいて,認知行動療法をどのように実践的に活用していくのかを紹介したものです。精神障害や発達障害のある人への就労支援は福祉だけでなく医療や産業などの領域をまたいで展開されます。本書では,それぞれの領域の第一線で実践・研究をされている方たちが,職業リハビリテーションの歴史や成り立ちから,各領域における認知行動療法の導入や支援モデルの構築,当事者の職場定着や支援従事者の育成まで幅広く論じています。
認知行動療法に基づくソーシャル・スキル・トレーニングやストレスマネジメント,当事者と環境の相互作用のアセスメントや当事者の継続的なセルフモニタリングなどの技法を効果的に組み込むことで,就労支援のパフォーマンスを高めてゆくことができるでしょう。障害のある人たちの「働きたい思い」の実現のために日々奮闘している援助職の方たちにぜひ読んでほしい一冊です。


目次
第1章 職業リハビリテーションの成り立ち
第1節 職業リハビリテーションの支援ゴールから見た認知行動療法(CBT)の位置―CBTを組み合わせた効果的な就労支援モデル構築に向けて:精神保健福祉領域を中心に(大島 巌)
第2節 発達障害(知的障害有・無)への支援(就労支援)を通じて(加藤美朗)
コラム 認知行動療法とは 内田 空
第2章 職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践―福祉領域(池田浩之)
コラム 福祉領域における認知行動療法のコンピテンス 山本 彩
第3章 職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践―産業領域
第1節 産業領域における心理支援の実際とCBTの可能性(谷口敏淳)
第2節 復職支援における認知行動療法の実践と有効性(渡邊明寿香・伊藤大輔)
コラム 産業領域における認知行動療法のトレーニング 松永美希
第4章 職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践―医療領域
第1節 ADHDのある方への実践を通じて(金澤潤一郎)
第2節 包括的な取り組みを通じて(千田若菜)
第5章 職場への定着を考える(池田浩之)
第6章 職業リハビリテーション従事者の育成
第1節 就労移行支援事業所のスタッフに向けた応用行動分析に基づく人材育成(陶 貴行)
第2節 コンサルタント的介入から従事者の育成を考える(池田浩之)
第3節 地域の課題解決への取り組みから考える人材育成(谷口敏淳)

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編著者紹介
池田浩之(いけだ ひろゆき)
1982年生,鹿児島県出身。博士(学校教育学)。公認心理師,臨床心理士,認知行動療法スーパーバイザー。NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワークを経て,兵庫教育大学大学院臨床心理学コースの教員となる。専門は精神障害・発達障害のある成人への就労支援を中心とした職業リハビリテーションおよび認知行動療法。関西圏域における就労支援を通じて,発達障害のある成人への認知行動療法を用いた就労支援プログラムの開発研究やWebシステムを用いた定着支援手法の開発を行う。近年は発達障害的特性の高い大学生の就職支援や職場定着に影響を与える雇用環境の調査研究を行っている。趣味は剣道。
編著書に『認知行動療法を生かした発達障害児・者への支援』(ジアース教育新社,2016)など。

谷口敏淳(たにぐち としあつ)
1981年生,大阪府出身。博士(医学)。公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士,専門行動療法士,認知行動療法スーパーバイザー。大学院修了後,総合病院精神科の常勤心理士として医療現場の心理支援に従事。その中で,精神障害者の就労支援や勤務病院の職員の心理支援などに取り組む。2016年からは鳥取労働局発達障害者専門指導監を委嘱され,地域全体の研修等にも関わる。その後,福山大学人間文化学部心理学科准教授を経て,2019年4月より一般社団法人Psychoroの活動に専念。“安全に対話できる社会”を目指し,臨床実践,研究,講演活動等をしている。
『代替行動の臨床実践ガイド』(北大路書房,2022),『テレワークで困ったときに読む本』(中央経済社,2020)などを分担執筆。


まえがき
この本は,職業リハビリテーション領域において,どのように認知行動療法を活用・適応していくのか,実践的な内容を紹介しています。すでに就労支援を行って数年経過しているけれど,より専門的な心理的技術を活かして就労支援の効果を高めたい方や,就労支援をこれから行う方・始めて間もない方を想定した内容にしています。
精神障害や発達障害のある者に対する就労支援が就労系福祉サービスとして展開されるようになって15年が経ちました。制度化されたことでより多くの支援者がこの領域に携わるようになり,たくさんのサービス受給者に対する実践結果をもって,支援技術が発展してきました。この本の執筆者の多くがその最先端の現場に身を投じながら実践や研究をされてきた方々であり,これまでの経験によって培われた【臨床の知】をふんだんに含んだ内容に仕上がっています。就労支援を受ける対象者ごとにたくさんの条件・変数が複雑に絡み合って展開されていく就労支援の奥深さ,その中で認知行動療法という要素がどのように機能していくのか,ぜひ体感していただけたらと思います。
この本は,日本認知・行動療法学会で2021年までに実施した6回の自主シンポジウムや大会企画シンポジウム,2回のワークショップが基となって構成されています。この本を企画した中で大事にしたことは現場の経験・事例を含めた内容にするということでした。(略)就労支援に認知行動療法を用いるという内容はどちらかというとテクニカルな内容におさまることでしょう。しかし,就労支援はその部分だけ修めれば完結するというものではありません。なぜ就労支援が必要なのか,支援を受ける精神障害・発達障害のある方々はどんな思いを抱いているか,支援者としてもたないといけない理念は何か,といったマインドの醸成や,それらマインドやテクニックを用いる自分自身の特徴(長所・短所)は何なのか,パフォーマンスを発揮する上で自身はどのような傾向があるか(発揮しやすい,発揮しづらい状況・状態は何か)といった自分のフィジカル面を知る・整えることを三位一体としてバランスよく高めていくことが必要であると考えています。どれも大事で,どれか欠けていても不十分なのです。
そのような就労支援のパフォーマンスという観点においても,本書の執筆者はとてもバランスの良い実践家であると考えております。テクニカルな内容の中にマインド的要素が多く含まれた内容が記載されていることと思います。第1章では,大島先生,加藤先生がそれぞれ精神障害のある者の支援,発達障害のある者の支援という文脈から職業リハビリテーションの成り立ちと,認知行動療法の適応可能性について触れられております。特に大島先生は認知行動療法が就労支援における効果的援助要素となりうる可能性を示唆されており,今後職業リハビリテーションにおける認知行動療法の発展が期待されます。読者のみなさまも大いに参考にできる点が多いかと思います。第2章~第4章では,福祉・医療・産業領域での認知行動療法の実践や背景理論が記載されています。就労支援は領域横断的に展開されています。それぞれ違った立場の先生方からそれぞれのキャリアを踏まえた報告がなされています。内容はさまざまですが,読んでいただくと実は共通点の多い支援・認知行動療法の適応となっていることがはっきりとわかると思います。支援環境に応じた意義・限界はあるものの,就労支援全体としての方向性を感じとれることと思います。合間に挟まれているコラムでは,読み手のみなさまがこの本の内容を理解するうえで必要なエッセンスが,筆者の先生方のウィットに富んだ切り口で書かれています。最後に第5章では職場定着のための実践,第6章では職業リハビリテーション従事者の育成という,今後の就労支援技術の発展・領域の発展を視野に入れた先進的な内容を掲載しております。現在就労支援に携わり,キャリア年数が増えた方々や管理職に携わられている方々には特に読んでいただきたい内容となっております。本書をぜひ日々の就労支援実践へ活かしていただけたらと思います。
終わりにこの本は,筆者にとっては2008年から歩んだ就労支援のキャリアそのものを記した思い入れのある一冊であります。ここまでの道のりは筆者にとっては大変つらく険しい道でしたが,たくさんの方々に支えていただいてようやくたどり着いた一つのPassing pointになります。お世話になった方々へ少しでもご恩をお返しできたらという思いでいっぱいです。精一杯の感謝の思いを込めまして,はじめのご挨拶とさせていただきます。

2023年3月吉日
池田浩之


 

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