動作訓練の技術とこころ――障害のある人の生活に寄りそう心理リハビリテイション

動作訓練の技術とこころ
――障害のある人の生活に寄りそう心理リハビリテイション

(静岡大学教育学部教授)香野 毅 著

2,200円(+税) 四六判 並製 224頁 C3011 ISBN978-4-86616-144-0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳性まひ者への心理学的リハビリテイションとして動作訓練が誕生してから半世紀。著者は30年にわたり,障害児者への動作訓練の実践を行ってきました。本書はその経験から最新の知見や研究成果を盛り込み,動作訓練の理論と技法論をまとめたものです。
姿勢や動作,リラクセーション,タテ系をどう理解したらよいか。発達障害のある人への訓練はどのようにしたらよいか。セッションの導入から訓練中の着目点,動作課題の選択と実施まで,クライアントの力を引き出すために支援者はどんなサポートをすればよいのかを具体的に丁寧に伝授。実際の訓練の様子も写真入りで解説しています。
プロフェッショナルが次世代に伝える動作訓練の技術とこころ。より良いサポートを模索している動作訓練中級者はもちろん,これから支援者を目指す人,身体不自由な人を支えるご家族や援助職の方にも必読の一冊です。

クライアントとその家族が望む生活を送れるように
長くつきあう身体のメンテナンスをお手伝い――
身体・知的・発達障害のある人の生活に寄りそう動作訓練をプロフェッショナルが伝授します!


目 次
1.動作訓練とは
2.動作訓練の理論
3.動作訓練の各論
_3-1 姿勢についての理解
_3-2 動作を理解する
_3-3 リラクセーションを理解する
_3-4 タテ系を理解する
4.動作訓練の技術
5.「発達障害」のある者への動作訓練
_5-1 自閉症スペクトラム(ASD)のある者への動作訓練
_5-2 注意欠如・多動性障害(ADHD)のある者への動作訓練
_5-3 学習障害(LD)児への動作訓練
6.動作訓練の進め方の実際 その1
_6-1 インテーク(予診)
_6-2 訓練開始
_6-3 訓練中
_6-4 訓練の後,評価,振りかえり
7.導入という技術
8.動作訓練の訓練会・キャンプ
_8-1 動作訓練の訓練会・キャンプの紹介
_8-2 訓練会やキャンプの三つの機能
_8-3 動作訓練の哲学
9.動作訓練の進め方の実際 その2
_9-1 ある福祉施設(X)での動作訓練
_9-2 ある訓練会(Y)での動作訓練
_9-3 訪問相談での動作訓練の活用
_9-4 あるトレーニーとのセッション~ASDと知的障害のある小学生~
_9-5 あるトレーニーとのセッション~脳性まひのある高校生~
10.動作訓練のこれからへ


推薦の辞
鶴 光代(東京福祉大学大学院心理学研究科教授)

久しぶりに,「動作訓練」についての読み応えのある本が出版された。香野毅氏によって著わされた『動作訓練の技術とこころ』という表題のこの本には,氏が成瀬悟策先生の下で動作訓練に携わった学生時代以来の30年間に渡る実践とその論考が凝縮されている。つまり,本著の特徴は,全編を通じて,単なる解説書ではなく,氏の動作訓練経験に基づいた“自分なり”の技術と論考に依っていることである。
前段の章では,動作訓練の理論および技術について,著者の経験を通した具体的な理論展開と技法上の工夫が著わされている。どこをとっても意義深い内容となっているが,例えば,「援助を減らす技術」の項では,「トレーナーが援助を減らしていくことは,トレーニーが自力で自律的に動作することと表裏一体を成している」とあり,大いに共感した。
半ばの章では,「『発達障害』のある者への動作訓練」を行う時の「コツと配慮」が丁寧に述べられている。そして,自閉症スペクトラム(ASD)のある者,「ADHD」のある者,「LD」児のそれぞれへの動作訓練によるアプローチの仕方が,著者ならではの視点のもとで展開していて新鮮である。
後段は,「動作訓練の進め方の実際」が載っているが,そこでは著者が実際に動作訓練を行っている様子が写真入りで解説されており圧巻である。課題選択の理由や根拠,展開の判断理由,セッションのもち方,終わり方が,ライブ感満載で表されていて,香野氏の高度な手の内を観ている感がある。
大学教員である氏が,動作訓練キャンプや訓練会,動作訓練講習会等の現場にて活発に活動し今回の出版に至ったのは,この先の動作訓練をどう展開し発展させていくかの自分への問い,そして我々読者への問いを根底に有していたからではないかと思う。本著は,各章・項の見出しからして,具体的でオリジナルである。全編を通じて分かりやすいので,興味深く読み進めることができる。是非一読をお勧めしたい。


まえがき

成瀬悟策先生による「脳性マヒ者の心理学的リハビリテイション」という論文が出されたのが1967年,この頃を動作訓練のはじまりとするならば,すでに半世紀の歴史が経過している。
私が動作訓練に初めて出会ったのが1990年,大学2年生のときであった。そこから約30年にわたり,障害児者を対象とする動作訓練の実践に取り組んできた。
この間,諸先輩から教えを受けた時期を経て,今も一貫してトレーニー(クライエント)との実践を通して学びを得てきた。立場が変わり,指導者としてトレーナーや学生に教える側になり,保護者や地域と協働して実践を展開するなかで得た学びも多く,その経験知を蓄えてきた。この経験知の中核には,動作訓練の理論と技法がある程度のまとまりをもって存在している。
ここ数年,自分なりの動作訓練の理論と技法論を持ちつつあるという実感がある。これは成瀬先生たちが構築されてきた理論や技法論と「異なる,新しい」という意味ではなく,自分の体験や実践を通してそれらを吟味検討し,自分の一部になっている,言葉になっているという意味での“自分なり”である。
この自分なりはたいそうなものではなく,半世紀の歴史をかけて構築されてきた「動作法」の内側をウロウロして,見聞きしたものをまとめているに過ぎないのだと思う。ただもしかすると,この自分なりを書くことで,これまで十分に整理されてこなかったことに焦点をあてられる可能性もあるかもしれない。あるいはこれまでの体系化の歩みに,自分も加わることができるかもしれない。そう思うことで本を書くという動機を作ることにした。
実践の場や人との関わりにおいては,さまざまな気づきがもたらされ,アイデアが沸き立つ。自分のなかにある不確かなものが言葉に置きかわることもある。それを忘れないように,今の時点で,できるだけ書き残しておきたいという動機もある。
本書は,動作訓練の理論と技法論を中心に,そこにまつわる実践方法や考え方について,自分というフィルターを通して,言語化,文章化したものである。そこではいくつかの試みを行っている。ひとつには事例報告ではなく,ある一回の実践の様子を記述するようにした。またいわゆる文献等の引用を行っていない。自分というフィルターを通して動作訓練を書くには,この方がベターと考えた。正直にいえば,先人たちの記述を引用すると自分の動作訓練が書けなくなると恐れた。
さて本書は,動作訓練を学んでいる人に向けた打診のようなものである。「自分はいまこんな風に考えています」と打ってみた。何が返ってくるのか,返ってこないのか。できればやりとりにしていきたい。そのやりとりを通して,これからも学んでいければと願っている。
香野 毅


著者紹介
香野 毅(こうの たけし)
1970年,佐賀県武雄市生まれ。現在,静岡大学教育学部教授。博士(心理学)。専門は障害児心理学,臨床心理学。九州大学教育学部卒業。同大学院を経て,九州大学発達臨床心理センター主任,2000年より静岡大学教育学部講師,同准教授を経て現職。
大学の教育・研究に加え,幼保こども園の巡回相談,様々な学校の相談や研究助言,研修講師を引き受ける。また障害児者の療育訓練会,発達障害児の親の会,静岡特別支援教育勉強会などを催す。NPO法人しずおか福祉の街づくりの理事など,社会的活動多数。
著書に,『KIDSこころの救急箱―気づけば大人も育ってる』(静岡新聞社,2013),『肢体不自由者を中心とした障害者臨床・療育におけるアセスメント』(静岡学術出版,2020),『支援が困難な事例に向き合う発達臨床』(共編著,ミネルヴァ書房,2018),『基礎から学ぶ動作法―心理リハビリテイション・ガイドブック』(共著,ナカニシヤ出版,2015),『インクルーシブ教育時代の教員をめざすための特別支援教育入門』(共著,萌文書林,2015)『公認心理師の基礎と実践⑬障害者・障害児心理学』(共著,遠見書房,2020)など。


 

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