〈フィールドワーク〉小児がん病棟の子どもたち――医療人類学とナラティヴの視点から

〈フィールドワーク〉小児がん病棟の子どもたち
――医療人類学とナラティヴの視点から

田代 順 著 (山梨英和大学人間文化学部・大学院教授)

本体2200円(+税) 46判並製 240頁 ISBN978-4-86616-114-3 C0011



子どもたちが最大限幸せに過ごせるように,病棟コミュニティはどのように作られていくのか

本書は,小児がん病棟における患児らの言動・行動を中心に,小児がん病棟世界に関わる人々の語りと行動を記録したフィールドワークをまとめたものである。子ども同士,親,医師,ナースらのやりとりが,どのように小児がん病棟というコミュニティを構成してゆくのか。著者はナース・ステーションを基地として参与観察を行い,子どもらとの遊びとおしゃべり,親や医療者との会話を通して,その成り立ちを明らかにしてゆく。子どもたちが幸せに過ごすために見えてきたものは?
「小児がん病棟の子どもたち」(青弓社,2003)に,新たにナラティヴをキーワードにした考察と,リメンバリング技法を用いた心理的支援(グリーフワーク)の章を加えた新訂増補版。(カバー:奈良美智)


目次
第0章  新版に際して
第1章  はじまりの語り
第2章  フィールドに向かって
第3章  病棟社会の構成
第4章  自分の病気を知ること/知らないでいること
第5章  終末期、そして子どもの死
第6章  「ふり」をする母親
第7章  タブーを排除すること、あるいは不安と恐怖について
第8章  「社会的な死」を招来しないための関係構造
第9章  ナラティヴ・コミュニティとしての病棟社会―言語と知覚、そして認識、それによる体験の内在化と排除―
第10章  心理的支援への視座―小児がんの病棟社会の「状況・位相」から心理的支援とグリーフワークのありようを考える―
おわりに  断ち切られた者、終わらない歌を歌う


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著者紹介
田代 順(たしろ じゅん)
国際基督教大学大学院・教育学研究科(教育心理学専修)・博士前期課程修了(臨床心理学専攻)。
成城大学大学院・文学研究科(コミュニケーション専攻)・博士後期課程所定単位取得後退学(臨床コミュニケーション専攻)。
文教大学女子短期大学部,岩手大学等を経て,現在,山梨英和大学人間文化学部・大学院教授。
公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士。
現専攻: 1)臨床ナラティヴ・アプローチ(リフレクティング,リメンバリング,解決志向リフレクティング)
2)臨床人類学-精神誌作成


第0章  新版に際して

小児がん病棟で「生きる」人々は、彼らが住まなくてはいけなくなってしまった(小児がん病棟という)世界をどのようにとらえ、どのようにそこで生きて、かつ死んでいくのであろうか? とりわけ、死に至る可能性も高い「がん」とともに、患児として生きる子どもたちは、自分が新たに「投企」された小児がん病棟という世界を、どのように体験・認識し、そこに「適応」していくのであろうか?
この本は、小児がん病棟という、がん(この本の場合、血液のがんである白血病児を中心とした)に罹患した子どもら=患児らの言動・行動を中心に、小児がん病棟世界に関わる人々の語りと行動を記録したフィールドワークの記録、すなわち、小児がん病棟についてのエスノグラフィである。
エスノグラフィとして、この本は、患児を軸として、この小児がん病棟に語りと行動でもって不断に病棟世界を構成し続けている人々の様相を描き出すことになる。また、同病の子ども同士とその親(同士)、医師・ナースなどの医療職がさまざまな位相で織りなす病棟での語りに着目する。いわば、「(血液のがんをベースとする)小児がん」の病棟世界を構成する成員によって織りなされる、その「世界」での語り「合い」に深く関心を払う。それは、その語りが、その社会をどのように描き、また、不断に(語りによって)その社会を更新・改訂・編集しつつ、できるだけ秩序だった形で「病棟社会」が成立するように、個々人のナラティヴとその「やり取り」が、それに対してどのように機能するかをも見ていくことにもなる。
「ナラティヴ」がその社会と、それに伴う関係をいかに構成し、そこの「成員」にどのような社会的行動、コミュニケーションの様相を産出するかを考察する視点として、ナラティヴなアプローチの観点、すなわち、社会構成主義の視座からその社会の構成のされ方と病棟社会における子どもの「社会化」にも言及する。
新たに加筆した9章では、言語が社会を産出するという「社会構成主義」のスタンスにもとづいて、言語が「知覚と感情」に強烈に作用することについて述べ、それが病棟社会での言葉のやり取りとどのようにリンクするのかをみていく試論を提示する。10章では、小児がん病棟における「心理的支援」について述べる。それも、フィールドワークの結果から構想した、小児がん病棟社会の文脈に徹底的に即しての「心理的支援」の形を構想する。これに加えて、とりわけ死別した子どもの家族≒夫婦への「後治療‐後介入」の必要性について述べる。そこでは「リメンバリング」という、ナラティヴセラピー由来の「グリーフ」へのアプローチが、子どもと「死別」した家族≒夫婦に効果的に適用できるであろうことを論じる。


 

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