スクールカウンセリングの新しいパラダイム ――パーソンセンタード・アプローチ,PCAGIP,オープンダイアローグ

ブックレット:子どもの心と学校臨床(1)
スクールカウンセリングの新しいパラダイム
――パーソンセンタード・アプローチ,PCAGIP,オープンダイアローグ

(九州大学名誉教授・東亜大学大学院教授) 村山 正治 著

1,600円(+税) A5判 並製 140頁 C3011 ISBN978-4-86616-101-3

1995年のスクールカウンセリング事業のスタートから学校臨床を牽引してきたミスタースクールカウンセラー村山先生の1冊。80歳をすぎた今でも飽くなき好奇心で学校臨床,オープンダイアローグ,PCAGIP法の開発とアグレッシブに活躍されています。この本は,そんな著者の学校臨床とその周辺の心理的支援についての新しい考え方をまとめたもので,学校臨床にかかわった50年の経験から生み出された新しい学校臨床のパラダイムを語っています。


主な目次
第1章 スクールカウンセリングのパラダイム論
第2章 パーソンセンタード・アプローチとオープンダイアローグの出会いから生まれてきたもの―─21世紀のあたらしい心理臨床のパラダイムを求めて
第3章 学校におけるPCAグループの実践と展開
第4章 グループワークとしての新しい事例検討:PCAGIP法入門
第5章 心理臨床家養成における実践家-科学者モデルはうまく機能しているか
第6章 連携をキーワードにみるSC事業の新しい展開への序曲的メモ
第7章 いじめの予防:ポシティブフィードバックの意義──PCAグループからのアプローチ
第8章 新しいスクールカウンセラー:チーム学校をめぐって
第9章 スクールカウンセラーの創成期から未来に向けて


著者略歴
村山 正治(むらやま・しょうじ)

1934年,東京都生まれ。1963年,京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。臨床心理士(00034号)。
1963年,京都市教育委員会指導部カウンセリングセンター専任カウンセラー。1967年,九州大学教養部助教授。1972~1973年,Center for the Studies of the Person(ロジャース研究所)研究員となり,ロジャース博士に学ぶ。1985~1986年,英国Sussex 大学,米国UCLA訪問教授。1990年,九州大学教育学部長・研究科長。1997年,九州大学定年退職,九州大学名誉教授。
以後,久留米大学大学院,東亜大学大学院,九州産業大学大学院教授を歴任。現在は東亜大学大学院特任教授・臨床心理学専攻主任。
九州大学教養部時代に学生相談,大学紛争を体験した。紛争中,学生たちとロジャース人間論を輪読し私を含め一人一人の生き方を話す「合宿」を重ねた。その結果,個人の尊重・多様性・異質性の共存を目指す新しいコミュニティモデルとなる「福岡人間関係研究会」を創設した。以後50年以上も出会いと対話の「エンカウンターグループ活動」を展開している。その活動の一環である九重エンカンターグループは日本のエンカンターグループのメッカになった。1972年のロジャース研究所では世界の最先端の動向に触れ,異文化に学ぶ機会に恵まれた。この機会にフォーカシングのユージン・ジェンドリン博士夫妻や英国のパーソンセンタード・アプローチのリーダーのデイブ・メアンズ夫妻と親交を深めた。両夫妻を日本に招待し,フォーカシングを日本への導入する役割,「深い心理療法」の紹介の役割を果たした。パーソンセンタード・アプローチとフォーカシングの研究,実践の功績で日本心理臨床学会と日本人間性心理学会賞を受賞。
現在はパーソンセンタード・アプローチの理論と実践,大学院院生養成,SC事業の展開と教育改革などに関心を持っている。特に21世紀の新しい科学論・人間論・社会論などを探索するパラダイム論の構築を楽しんでいる。何かが生まれてきそうなワクワク感がある。

主な著書:「ロジャースをめぐって─臨床を生きる発想と方法」(金剛出版,2005),「新しい事例検討法―PCAGIP入門」(共編著,創元社,2014),「PCAグループ入門(編著,創元社,2014),「私とパーソンセンタードアプローチ」(飯長・園田編著,新曜社,2019)ほか多数


はしがき


Ⅰ 本書の成り立ち
本書は私が23年にわたって務めさせていただいた「学校臨床心理士ワーキンググループ」の代表を退任するにあたり行った講演「スクールカウンセラーのこれまでとこれから──学校臨床心理士WGから見た視点」(第24回学校臨床心理士全国研修会,2019年8月26日,国立京都国際会館)が大変な好評をいただいたことに端を発している。そもそも学校臨床心理士ワーキンググループとは,日本臨床心理士資格認定協会,日本臨床心理士会,日本心理臨床学会の3団体が共同で立ち上げたスクールカウンセリングの実践と研究,そして政策提言のための委員会である。そして毎年夏の時期に全国大会と銘打って,日本各地からスクールカウンセラーをしている臨床心理士たちが研修を受け,情報交換を行うのである。スクールカウンセラーたちにとっての研鑽の場である。学校臨床心理士ワーキンググループは,その企画運営も行っている。
その代表退任にあたっての講演には,2,000人の参加者が集まり,さまざまなコメントをいただいた。私なりにまとめると,「WG活動の背景にある哲学を初めて聞いた」「これからの方向の面白さと挑戦する元気が出た」「学校臨床心理士一人ひとりが主役であることがわかった」「連携という言葉には信頼関係がないといけない」などありがたいものであった。
この評判を聞きつけた敏腕編集者の遠見書房 山内社長から講演録を出版したいとの申し出があった。もちろん,それだけでは本にするにはページ数が足りないので,山内社長の大車輪の編集力で以前に書き溜めた論文を合わせ全9章とし,「スクールカウンセリングの新しいパラダイム」としてまとめ,出版することになった。そして,これは同社の新シリーズである「ブックレット:子どもの心と学校臨床」の創刊の記念号ともしたいという申し出であった。ありがたいことです。


Ⅱ パラダイム論からみたSC事業の展開
①臨床事例研究実践を重視したパラダイム
河合隼雄先生,成瀬悟策先生を中心に,当時の日本心理学会の研究中心主義に対して,「臨床実践も事例研究も研究」とする主張を掲げて,日本心理臨床学会が設立された。この学会は研究発表を1セッション2時間の事例検討を中心にし,学会発表をリサーチだけでなく,「心理臨床事例の発表とそのSVの場」に大転換したのである。つまり,事例研究も研究であることを公に宣言した「学会革命」と呼ぶべき大変革であった。臨床心理士の養成パラダイムは世界的潮流では「科学者-実践家」モデルである。つまり科学者として心理学の科学的方法と技術の学習を優先し,臨床実践がないがしろにされる傾向を生んでいた。このモデルは臨床実践の訓練が不十分な臨床心理学者を輩出しかねない。
SC事業で教育現場が求めたことは,困難な事例に対応できる実践家であった。学校臨床心理士はこの学会で「個人臨床の実力」が鍛えられた。また3団体に要請して私どもが創設した毎年の学校臨床心理士全国研修会,各都道府県臨床心理士会の学校臨床心理士担当理事・コーディネーター開催の事例中心の研修でも鍛えられた。こうして事例研究・実践を中心とした学会・臨床心理士会で実践力を鍛えられた学校臨床心理士が生み出されてきた。この「実践家-科学者」の採用でSC事業は学校現場に「黒船の来襲」どころか,「役立つ助っ人」となったのである。2年目から学校臨床心理士は現場から引っ張りだこであった(付表4参照)。
(…後略…)

村山正治

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