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プレイセラピー入門──未来へと希望をつなぐアプローチ

丹 明彦 著

2,400円(+税) 四六判 並製 236頁 C3011 ISBN978-4-86616-093-1

「子どもの心理療法に関わる人には,必ず手に取って読んで欲しい」
(こころとそだちのクリニック むすびめ・児童精神科医)田中康雄先生,絶賛!

プレイセラピーは効果があるのでしょうか? プレイセラピーの目標や理念は,本来はどこにあるべきなのでしょうか? 子どもと遊ぶことだけを主眼に置いていないでしょうか?

この本は,有効な心理療法と子どもの遊びを求め,実践してきた著者による新しいプレイセラピーの入門のための1冊です。プレイセラピーの考え方や,セラピーを効果的なものにする注意点,子どもとの心理療法を行うときに大切なポイントなど,盛沢山のことが描かれています。
プレイセラピーについて知りたい初学者や,自分がやっていることに自信がない臨床家,新しい知見を求めるベテランたちなど,多くの人に読んでもらいたい1冊です。


目次

第1章 プレイセラピー再考
第2章 なぜ,今,あえてプレイセラピーなのか? ──現代社会とプレイセラピー──
第3章 プレイセラピーの本質──出会いと別れ,そして成長──
第4章 プレイセラピーの時空間をめぐって
第5章 プレイセラピーの「遊び」の意味を捉えなおす
第6章 プレイセラピーにおける体験の共有とことば以前の心のつながり
第7章 子どもを遊びに導く「何か」とは何か
第8章 効果的な心理療法としてのプレイセラピーの実践(1)―─場面緘黙児に対する治療的アプローチ──
第9章 効果的な心理療法としてのプレイセラピーの実践(2)―─発達障害児に対する「構造化プレイセラピー」―─
第10章 発達障害児へのグループセラピーの実践
最終章 プレイセラピーにおける「家」表現──事例研究──
付章 子どもの心理療法における初回面接(インテーク)の進め方とコツ


著者
丹 明彦(たん・あきひこ)
目白大学人間学部心理カウンセリング学科・大学院心理学研究科・准教授
東京学芸大学教育学部障害児教育学科卒業・東京学芸大学大学院教育学研究科修了。公認心理師・臨床心理士。ほっとカウンセリングサポート代表。
主な著訳書に『場面緘黙の子どものアセスメントと支援─心理師・教師・保護者のためのハンドブック』(監訳,遠見書房,2019)等がある。


はじめに

プレイセラピーとは何なのか。疑うことなく信じ続けてきたこのアプローチに疑問を持ち始めたのはいつのことだろう。もしかすると始めたばかりの頃からなのかもしれない。今でも,根本的な問題意識は解決することなく現在に至っている。
時は令和。気が付けば,臨床を初めて24年目を迎えた(2019年5月現在)。この24年間,臨床から離れたことは1度もない。これまで多少の増減はあったものの,現在,毎週平均20セッションを行っている。大学教員でありながら,研究よりもクリニカルな心理相談室での臨床実践,支援実践そのものに関心をもってきた。否,臨床のことばかり考えて生きてきた。今は大人のカウンセリング・心理療法,スーパーヴィジョンも増えたが,やはり多くの子どもたちと出会い,プレイセラピーを続けてきた経験が,私の臨床の血となり肉となっている。
最近,これまで出会わなかったような難しい子どもたちと出会うことが増えたと思うのは気のせいだろうか。歳を重ねたせいだけだろうか。時代とともに子どもたちが明らかに変わっていることを実感する。大人のカウンセリング・心理療法は,時代の変化や援助ニーズの多様化に応える形で大きく変容を遂げているのに対して,子どものカウンセリング・心理療法といえば,プレイセラピーがメインである,というよりプレイセラピー一辺倒である。子どもへの認知行動療法などの取り組みもなされていることだろうが,現場では相も変わらずプレイセラピーを行っているという現実が存在している。
そもそもプレイセラピーって何なの? 遊んでいるだけで子どもが学校に行けるようになるの? 発達障害の子どもがプレイセラピーで変化するの? という声が,保護者や学校の先生だけではなく,スクールカウンセラーなどからも聞かれる時代になった。真っ当な疑問である。その質問に対して,私たち子どもの心理療法家はちゃんと答えられているだろうか。おそらく十分答えられていないのではなかろうか。
だから改めて子どもの心理療法について考えてみようと思った。今の時代におけるプレイセラピーの意義,なぜ「遊ぶ」のか,について考えてみようと思った。何を手がかりに? 自身の実践経験をもとにである。従来の枠組みや,先達の考えにとらわれない自由なスタンスで,初心者のような真っ新な気持ちで,自分の臨床経験を頼りにして,この課題に取り組んだのが本書である。
筆者は,これまでプレイセラピーを通して驚くような変化を遂げていく子どもたちをたくさん垣間見てきた。だから,プレイセラピーの持つ無限の可能性と,「遊び」を通したプリミティブなかかわりに秘められたそのパワーを心から信じている。このアプローチこそが,困難な問題を抱えている子どもを変化させていく原動力になり,彼らを必ずや明るい未来へと導いてくれると心から信じている。だから,あえて,今,プレイセラピーと子どもという魅力的な世界と存在を広い視野からあらためて探究したいのである。
かつて,昭和の時代,中島みゆきが「時代」の中で,斉藤哲夫が「悩み多き者よ」の中で,生々流転の宿命を歌った。
令和になった今でも何も変わりはしない。悩みは尽きない,しかし確実に時だけは流れていく。今あるその苦しみも絶望も,いつかは時が流れ移り変わっていく。そしてまた悩み,時代は流れ。そんなことの繰り返しが人生だ。
現在,大人中心社会の中で,超少子高齢化社会の中で,残念ながら子どもたちを取り巻く社会経済文化的環境は,決して良い方向に進んでいない。変わりゆく時代に翻弄される子どもたちの声にならない声をどのようにすくい上げたらよいのか。子どもたちの希望を支えるためにも,子どもの心理療法のあり方を点検することは,私たち,子どもの心理臨床家に突き付けられた未来への宿題の一つだといえよう。
心理学の世界も大きな転換期を迎えている。2018年「公認心理師」という国家資格が誕生した。その責任の重さだけではなく,面接室やプレイルームという閉鎖された狭い空間から広い世界へと飛び出し,他職種と連携しながら,これまで触れることのなかった法的知識や福祉的制度などを理解し,社会と真正面から向き合わなくてはならない時代が到来したのである。
本書は,そのような社会的変化を意識しながら,新しい時代におけるプレイセラピーの必要性や意義について,説得力をもって説明ができるような役割を果たすべく執筆したつもりである。カウンセリング・心理療法において,決して変わってはいけない大切なものがあることは確かである。しかし,時代と共に変わっていかなくてはいけないことがあるのも確かな事実である。保守的な人にとっても,変化を望む革新的に進む人にとっても。
本書は,『子どもの心と学校臨床』(遠見書房)において,2014年から2018年の間に連載した「人間と遊び」全10回の論考に付章を加え,大幅に加筆訂正したものである。入門の名にふさわしく註をたくさんつけた。註は註でも辞書的な註ではないことをあらかじめお断りしておく。そして読後に気づくことであろう。入門という名を冠した応用であるということに。そもそもプレイセラピーには教科書のような入門などというものは存在しえない。だから「プレイセラピー入門」という書籍もまた,ありそうでなかったのである。あるのは,カウンセリング・心理療法の実践すべてがそうであるように,羅針盤のない旅をゆくような応用編だけである。だからプレイセラピーはいつも新鮮で面白い。そして,その面白さが少しでも伝わったならば,十分に入門としての役割を果たしてくれるに違いない。
また,面識もなく一方的に私淑している田中康雄先生に帯書きをして頂きました。発達障害を抱える子どもたちとその保護者たちの支援を行う中で,迷い苦しみ,なんだか自分の臨床のあり方が間違っているのではないかと思ったとき,そのままでいい,といつも肯定し,支えになってくれたのが,田中先生のご著書『軽度発達障害のある子のライフサイクルに合わせた理解と対応』(学習研究社)であり,雑誌『教育と医学』(慶應義塾大学出版会)における連載でした。障害という側面に惑わされることなく,その子どもをありのままに受け入れていく,今まで通りの心理臨床をより丁寧に,そして慈愛に満ちた優しさと思いやりを持って続けていくことが何よりも大切だということを伝えて下さいました。何度救われた思いをしたことでしょう。それは私だけではなく,発達障害ブーム以前から臨床を続けている,多くのプレイセラピストや心理士たちの思いでもあると確信しています。心より感謝申し上げます。
最後に。研究実績も名もない臨床ばかりしている筆者に,連載の機会を与えて頂き,企画段階から書籍化まで適切なご助言賜りました同年齢の山内俊介社長に心より感謝申し上げます。

令和元年。初夏。

おわりに

プレイセラピーという営みは,道端にひっそりと咲く,名もなき野花のようである。
これまで,20年以上に渡り,プレイセラピーを続けてきた筆者の実感である。

AI社会の到来などと浮かれ,科学的で効果的でかっこいいものがもてはやされる現代において,ただの「遊び」という曖昧なかかわりを用いた心理療法のアプローチが注目を浴びることは少ない。
しかし,よく見渡してみれば,日本中,いや世界中で実にたくさんのセラピストと子どもたちが,今この時間もどこかで,二人きりで寄り添いながら,かけがえのない輝きに満ちた時間を,ひっそりと遊んで過ごしているのである。時に激しく,時に切なく,心と心を通わせ合いながら。
効率と目に見える成果ばかりが求められる時代にあって,時間と手間と細やかな配慮が求められる地道な作業の割には,成果がはっきりとは分かりにくい。この歯がゆさは,来談する子どもたちが日々の生活の中で体験している歯がゆさとも重なっているかもしれない。
しかし,日々,プレイセラピーに没頭しているセラピストと子どもたちは,みんな分かっている。たとえ,ゆっくりでも目には見えなくても,その確かな感触と成果,そしてその意義を。流行廃りの激しいカウンセリング・心理療法の技法の中で,日本のみならず世界中で,長きに渡り,消え去ることなく,プレイセラピーというアプローチが存在し続けている理由はきっとそこにあるのだろう。

花瓶の中のいつかは枯れる美しく香り高い花としてではなく,大地に根を張り,踏まれても,摘まれてもなお,毎年芽を出し,誰にも気づかれることなく咲き続ける野花のように…

だから,私はこれまで通り,迷うことなく,流されず,時代は変わってもなお,地道に子どもの心に寄り添う野花のような支援の道を選びたいと思う。プレイセラピストとしての誇りを持って。

敬愛する恩師 真仁田昭先生。ようやくプレイセラピーの本を書き上げることができました。心理臨床家としての私が今いられるのも,大学教員としての私が今いられるのも,そして私が今私としていられるのも,私の全てをありのままに受け入れ何があってもいつでも味方でいて下さった先生のおかげです。
子ども支援は失望の連続である。しかし,たとえ今その子どもがどんなに苦しい境遇の中にあろうとも,私たちカウンセラーは,その子どもの未来の明るさを信じて,決して焦ることなく,見捨てることなく関わり続けることが大切である。そして,たとえその子どもが今どんなに荒んだ状態にあろうとも,子どもの心の中に潜む,今よりもより良く生きたい,変わりたいと願う「成長欲求」と「変身欲求」の心が必ず存在することを確信し,彼らが自ら立ち上がり変わろうとする姿を見守り,信じて待ち続けることこそが,子どもに向き合うカウンセラーの役割である。という先生の教えが,「未来へと希望をつなぐアプローチ」という本書の副タイトルへと結実しました。先生から教えて頂いたことすべてが私の臨床実践の礎になっています。天国にいる先生にこの本を捧げます。

丹 明彦