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やさしいトランス療法

(有明メンタルクリニック院長,精神科医)中島 央 著

2,200円(+税) 四六判 並製 140頁  C3011 ISBN978-4-86616-049-8

トランスを活用すれば,臨床はうまくなる!

著者は,精神保健福祉センターや精神科病院などで治療を続けてきた精神科医で,催眠療法を専門とする日本で有数のセラピストです。
その長年のノウハウを余すことなく開陳しました。

中島が書いた本→松木繁編著『催眠トランス空間論と心理療法――セラピストの職人技を学ぶ』


はじめに

この本の企画を考えたのは,もうかれこれ5年以上前になります。当初は,催眠の本をとも思ったのですが,もうすでに催眠誘導を使った催眠は臨床でも研修でもほとんどやっておらず,「催眠をつかわないトランスの本」という企画で書き始めたのを覚えています。
僕は筆不精ですので,また,自分がやっていることの芯のようなところをうまく言語化できていなかったせいか,作業はとても難航しました。「あーでもない,こーでもない」の連続で,うまくまとまらず,少し書いては書き直す,ということの繰り返しでした。今回の本は本当にベーシックなところで,今まで感覚的にすませていたところも多く,そのあたりのところを言語化するのは骨の折れる作業でした。
そのようなとき,昨年はじめと,今年の春に2回も大病をして入院するという事態に見舞われました。大病とはいえ,回復期は実にヒマなもので,この本の第1章は,今年の入院中に書き上げたものです。怪我の功名とはよくいったもので,それから苦労しながらも全体を一気に書き上げることができました(とはいっても数カ月かかりましたが)。まあなんと言っていいのか。
しかしながら書き上げてみると,我ながら気持ちのいいもので,執筆中の苦悩はどこへやらという感じで,なかなかな気分で原稿を眺めています。
僕は自他共に認める大のミルトン・エリクソン(以下,エリクソンと記します)好きで,もうエリクソンがフェニックスで開業した年齢を5歳も超えてしまって,大病で入院もしたし,やっぱり田舎で開業だ,と今,九州の地元で,クリニック開設の準備をしているほどです。平均寿命がエリクソンの当時より伸びているので5歳くらい開業が遅れてしまってもいいか,とか,やっぱりエリクソン+10歳以上は生きたいなとか,他愛もないことを考えています。
そんな僕が書いた本ですから,エリクソンの解説本になったかというと,そうではありません。エリクソンの影響を強くうけつつ,この15年僕が僕なりの考え方で臨床を組み立ててきた,その基礎となるところをまとめたものになっています。
僕がずっと意識していたのは「日本語」で臨床をやっているということです。サイコセラピーや催眠は,主として英語圏で組み立てられたもので,エリクソンの臨床も例外ではありません。この本で登場する,ユーティライゼーション,アナロジー,暗示などの手法(僕は「技法」という言葉自体外来語的だと思いますので使いません)も,そのなりたちや根本から考え直す必要がありました。例えば,暗示の構文にしたって,暗示を含む言葉が「最初にくる」英語と,「最後にくる」日本語は,全く違うでしょう?   同じ構文でも,英語では暗示,日本語では教示というふうになってしまうのでたいへんでした。そのようなことで,エリクソンのやっていることの「結果」ではなく,「意図」を想像(妄想)することが,僕のトレーニングになりました。
幸い僕は,英語は文盲に近いので,日本語を深めて考えることしかできませんでした。僕らが使う日本語は,とても多義的で,曖昧で,僕から言わせるとサイコセラピーにもってこいの言語です。ただ,言葉を強く定義するには英語の方が向いていると思います。ですから,この本ではキーワードには英単語を,表現,特に動詞の部分ではひらがなを多用しています。このあたりの多義性を感じとっていただけたら幸いです。
そんな形でまとまった「やさしいトランス療法」ですが,あんまり「やさしく」ないかもですね。ただ「やさしい」には,易しい,優しい,と2つの意味があります。このタイトルをアナロジーでみると,僕の意図としては後者です。それはそのまま,エリクソンがセラピーをしたケースに対する僕の印象ですね。彼はいろんなことをしていますが,結局クライエントには「優しい」のです。
そのところを意識しながらの「やさしい」ですが,サイコセラピーを結構積んできた方にとっては,「易しい」の方がしっくりくる方もいらっしゃるでしょう。それはそれで,御自分の臨床の糧としていただければ幸いです。
そうそう,セラピストにも「優しい」という意味も含んでいますよ。
こんな感じで臨床やワークショップをやっているのが僕の日常です。ワークショップの部分で,長年僕のやっていることを支援し,場を与えてくださっている,福岡催眠研修会の松原慎先生,東日本催眠研究会の高岡美智子先生には感謝です。
あと,ひとつだけ皆さんにお伝えしておこうと思うことがあります。
それは,僕がこの本を執筆中に,けっこうな「イップス」に悩まされたことです。臨床の中で,「自分が書いたことに縛られて」,うまくセッションをできなかった(思い通りにという意味です,結果はちゃんとでています)ことが続いたことがありました。
僕は感覚的に物事を処理するタイプで,自分の感覚とか姿勢を言葉にすると,何か窮屈な感じがして臨床がうまくいかなくなる,というのはわかっていたことなのですが,「やってもうた」という感じでした。
トランス療法をまとめて,その通りになぞろうとするとしっくりいかない。これはエリクソンが自分の臨床から何かの法則を取りだして,理論化するのを嫌ったということにも繋がるかもしれません。彼のいう「硬直したセラピスト」になってしまいそうでした。
エリクソンの呪いかも(笑)。そのことを考えてからなぜか気分は楽になり,いつも通りのことができるようになりました。
ですから結果的にこの本の構成も,ほとんどすべて全て,ヒントを羅列したようなものになってしまいました。これをどう読んでいくかは皆さん次第です。
こうなると「コツをちょっと教えて」みたいにアプローチしてくる人がいると思いますし,実際にもワークショップのときなどにそういったことに見舞われますが,それには答えないようにしていきたいと思います。コツはあくまで教える側の人だけのもので,それを「教えてもらう」ことは,セラピーが上手になる妨げになります。すべては自分でつかんでいただきたいのです。
こういった情報を得て,やってみて,試行錯誤して自分のものに,またクライエントのためになるようにする,これがエリクソンの実験精神ですが,これこそが,僕が彼の考え方で最も重要な部分で,大事にしていきたいところだと思っています。

最後になりましたが,この本を書くにあたって,スーパーバイズという形でさまざまな影響と支援を与えてくださった増井武士先生,そしてさまざまな助言を与えてくださった蒲生裕司先生に,この場を借りて深く感謝いたします。
そうそう,この本の完成を気長に待っていただいた,遠見書房の山内俊介社長にも,ひとこと。

おまたせいたしました!

2017年11月15日 夜明け前の自宅にて
中島 央



主な目次

第1章 トランス療法の概要── OASIS モデル
第2章 観   察
第3章 連   想
第4章 混   乱
第5章 間接的であること
第6章 トランス療法の帰結


著者略歴

中島 央(なかしま・ひさし)

精神科医・臨床心理士,有明メンタルクリニック院長
1965 年熊本県人吉市生まれ。1997 年熊本大学大学院医学研究科卒。医学博士。熊本大学医学部助手,熊本県精神保健福祉センター所長,医療法人横田会向陽台病院院長等を歴任後,2018 年6月より有明メンタルクリニックを開院。ミルトン・エリクソンに影響を受けたサイコセラピーの実践・研究を専門とする。2011 年日本ブリーフサイコセラピー学会学会賞受賞。主な著書に「心理療法がうまくいくための工夫」(金剛出版,2009,共著),「催眠トランス空間論と心理療法─セラピストの職人技を学ぶ」(遠見書房,2017,共著)などがある。