ダウン症神話から自由になれば子育てをもっと楽しめる

ダウン症神話から自由になれば
子育てをもっと楽しめる

(臨床遺伝専門医) 長谷川知子 著
本体2,000円(+税) ISBN978-4-86616-125-9 C0011 46判並製 208頁

 

 

 

 

 

 

「ダウン症の子を育てるのは大変」「ダウン症の子は体が弱い」「ダウン症の人は不器用」「ダウン症の人は老化が非常に早い」「ダウン症の人は退行することが多い」……そんなふうに言われることがあります。
でも,ほんとうはそんなことはありません。それは科学的な根拠のない思いこみ(=ダウン症神話)にすぎないのです。
この本は,ダウン症神話を信じて子育ての自信をなくしたり,悩んだりしている親ごさんや,彼らを支えたい人たちに向けて書かれています。ダウン症についての正しい知識を知り,「障がい」や「違い」よりも私たちと「同じ」ところに目を向ければ,もっと自信をもって子育てを楽しむことができるでしょう。
そして,こうした思いこみや偏見をなくすことは,私たちの誰もが差別も排除もされずありのままに暮らせるインクルージョン社会を実現する第一歩ともなるのです。
約50年にわたり1万人近いダウン症のある人たちと向きあってきた臨床遺伝専門医が伝えたい,ほんとうのダウン症のすがた。


目次
NG神話 ❶ ダウン症の子は天使で無垢、悪いことはしない
NG神話 ❷ ダウン症があると永遠に子ども、いくつになってもかわいい
NG神話 ❸ ダウン症の子を育てるのは大変
NG神話 ❹ ダウン症の子は体が弱い
NG神話 ❺ ダウン症の子には早期療育が必要、ふつうに近づけられる
NG神話 ❻ ダウン症の人にこれは難しい、やっても無理
NG神話 ❼ ダウン症の人は不器用
NG神話 ❽ ダウン症の人は素直で従順
NG神話 ❾ ダウン症の人はガンコ
NG神話 ❿ ダウン症の人は悩みがなく、ストレスもなく、いつも幸せ
NG神話 ⓫ ダウン症の人は考えていない
NG神話 ⓬ ダウン症の人には芸術的才能がある
NG神話 ⓭ ダウン症の人はオンチ、歌をうまく歌うことはできない
NG神話 ⓮ ダウン症の人は成人になると太る
NG神話 ⓯ ダウン症の合併症は特殊で専門医師でないと治療できない
NG神話 ⓰ ダウン症の人には特別な食べもの飲みものやサプリが必要
NG神話 ⓱ ダウン症の人は老化が非常に早い
NG神話 ⓲ ダウン症の成人は退行することが多い
NG神話 ⓳ ダウン症を改善する薬ができそう、正常に近づけられる
NG神話 ⓴ ダウン症は遺伝ではなくてよかった


著者紹介
長谷川知子(はせがわ ともこ)
臨床遺伝専門医。1970年慶応義塾大学医学部卒業。ドイツミュンスター大学人類遺伝学研究所で助手として勤め,1974年帰国し,国立国際医療センター(当時)遺伝疫学研究室員,静岡県立こども病院遺伝染色体科医長を経て,現在は心身障害児総合医療療育センターと静岡済生会総合病院で遺伝外来を担当。さまざまな大学で臨床遺伝を教え,多くの親の会と関わってきました。今も,ご本人と親ごさんの個別相談にのっています。ひといちばい敏感な人間(HSP)。加えてときどき頭に羽が生えるADHD(エース・ダイアモンド族)のもち主でもあります。慶應義塾には18年在学し,福沢精神は耳タコになっていましたが,新型コロナでのステイホームで改めて著書を読み,現在もまったく古びていない思想に驚きました。それどころか,あの時代,すでに批判精神と議論の大切さを認識していたというのに,わが国では未だに程遠い状況です。とくに広く知ってほしい名言は,「独立自尊(自分で考えろという意味らしい)」「ペンには剣に勝る力あり」「権理の平等」です。


ダウン症神話って?

みなさんは「神話」からどんなイメージがうかびますか。日本やギリシャの神話など、おもしろくてふしぎな、ワクワクするお話でしょうか。でも神話には、ほかの意味もあるのです。
たとえば「神経神話」。これはOECD(経済協力開発機構)が名づけ、日本神経科学学会でも警鐘を鳴らしている右脳左脳論のような、「科学を装った根拠のない思いこみ(固定観念)」を言います。
それにならって、ダウン症をめぐる根拠のない思いこみを「ダウン症神話」と呼んでみました。
「ダウン症は障がいだ」と言われますが、ダウン症のあるご当人は、だれかに教えられなければ、自分が障がい者で特別だなんて思っていないのです。知りあいのお嬢さんは「私は障がい者なんかじゃない。ただ、できないことがあるだけ」と言っていました。生まれつきですから、それが「ふつう」なのです。生まれつき目の見えない人も、耳が聞こえない人も、手指の数が異なる人も同じです。ドイツの支援団体がつくったダウン症について本人たちが解説するDVDでは、ダウン症のある青年が「ほかの人たちは21番染色体を一本少なくもっています」と語っていました。私は「なるほど。私たちはたしかに一本足りない」と、いたく感心しました。
私は半世紀近く、ダウン症のある人たちと一万人近くおつきあいしてきました。さまざまな場所で、生まれる前から高年齢まで。広く深くつきあうことで、「ダウン症だからという根拠のない思いこみが蔓延して、ご本人が苦しんでいる」ことに気づきました。これが「ダウン症神話」なのです。

わが子にダウン症の診断がなされると、ダウン症のことで頭が一杯になるでしょう。これは、関心あることだけに注目する「人間特有の考え方の癖」なのです。障がいだけに目が行ってしまうと、外に広い世界があることが頭から抜けてしまいます。親ごさんは、わが子が自分と同じ人間であることを忘れ、立派な子を産んだことを忘れてしまう。そうすると、親ごさんの自尊心はおとしめられ、悪影響が多方面におよぼされます。こうして差別が社会のなかでつくられていくのです。
どうやら人は「違い」のほうに目がいくようです。しかし違いだけに目をやったら、違いだけが育つので、人間から離れた「障がい児」になってしまうでしょう。

この本で基本としている言葉を二つあげます。これらの言葉を念頭において、いつも思い出してください。この基本さえ身につけていれば、あとはご自分らしく考えればいいのです。
一、私たちと同じ人間―一部にダウン症があるだけ。だから家庭の中心ではなく一員。
二、家族はサポーター(応援団)、選手は本人。サポーターは選手の代わりになれない。
なお、この本はダウン症だけについて書きましたが、ほかの特性がある方にも、さらには障がいをもっていない方々にも、共通のメッセージとしてお送りします。

(はじめにより)


 

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