もっと臨床がうまくなりたい──ふつうの精神科医がシステムズアプローチとソリューションを学ぶ

もっと臨床がうまくなりたい
──ふつうの精神科医がシステムズアプローチとソリューションを学ぶ

(宋こどものこころ醫院・児童精神科医)宋 大光・(龍谷大学教授・心理療法家)東 豊・(目白大学教授・心理療法家)黒沢幸子著

本体2,800円(+税) 四六判並製 350頁 ISBN978-4-86616-118-1 C3011




「このままじゃ先細りだ……」クリニックを開いたものの,うまく行かない日々が続く。
精神科医は2人の名臨床家のスーパービジョンを受けることにした。

夢だったクリニックを開業した児童精神科医は,気がつくと,1,2回受診して,そのまま来なくなる患者さんが目につくようになった。やばい……。理由はわかっていた。面接がうまく行かないからだ! 患者さんが満足してないからだ!
精神療法のスキルをあげるべく宋医師は,あちこちの勉強会に出かけ右往左往の末,心理療法家・東豊に出会い,スーパービジョンを受けることになった。その出会いからもう1人の心理療法家・黒沢幸子にも教えを請うことに。宋医師は,はたして面接がうまくなるのか? 治せる医師になれるのか?
心理療法の達人2人のセラピーの考え方とスーパービジョンの紙上ライブ,多くのケース検討を通して,面接のコツがわかる! 臨床がうまくなりたいすべての人への探求の書(クエスト)。

本書は2021年3月下旬ころの刊行になります。


目 次
はじめに

第1部 東豊先生にシステムズアプローチを学ぶ
第1章 自分の枠組みから自由になる
第2章 人の枠組みからも自由になる
第3章 目の前のすべての現象を肯定的に見る
第4章 目の前の人たちの関係性を見る
第5章 目の前の人とその人の枠組みも関係性で見る
第6章 自分と目の前の人の関係性(治療システム)を見て、それを使う
第7章 介入は焦らない
第8章 介入は変化か不変化かで考える
第9章 どっちでもいいというスタンス
第10章 労う、褒める、肯定するだけで良くなったからって安心しない
第11章 いろんな切り口がある
第12章 自分の形を作れ

第2部 黒沢幸子先生にソリューションを学ぶ 
第1章 ソリューションは一緒に作り上げるもの
第2章 問題と解決は関係ない
第3章 どういう時にうまくいってる?
第4章 先生は心理士じゃなくて、医者なんだよ
第5章 僕の中にソリューションが入ってきた
第6章 ソリューションを学ぶ前と学んだ後の僕の変化
第7章 相手の枠組みを把握し、それを対話の中で一緒に明確にしていく
第8章 プロブレムトークをソリューショントークに切り替えていく
第9章 ソリューショントークを広げて、それを維持していく

・若い人の教育について
・人が人にできることを磨くために
・二人の師に学んで

おわりに


著者紹介
宋 大光(そう・だいこう)
児童精神科医,宋こどものこころ醫院院長。2002年,関西医科大学医学部医学科卒業,2015年,獨協医科大学大学院医学研究科(博士課程)修了。医学博士,精神保健指定医,日本精神神経学会専門医・指導医,日本児童青年精神医学会認定医,日本小児科学会専門医,子どものこころ専門医。

東 豊(ひがし・ゆたか)
龍谷大学文学部臨床心理学科教授。1979年,関西学院大学文学部心理学科卒。公認心理師/臨床心理士,医学博士(鳥取大学)。専門はシステムズアプローチ・家族療法。

黒沢幸子(くろさわ・さちこ)
目白大学大学院心理学研究科特任教授。KIDSカウンセリング・システム チーフコンサルタント。1983年,上智大学大学院文学研究科教育学専攻心理学コース博士前期課程修了。公認心理師/臨床心理士。専門は学校臨床,思春期臨床,解決志向ブリーフセラピー。


はじめに

 

本当に憂鬱な診察

「またか」

患者さんとその家族が診察室から出ていったのを確認すると、僕はいつの間にか一人つぶやいていました。その瞬間全身から疲れがどっと出て、力が抜けて座り込むように椅子に腰を下ろしました。診察中からその人たちは口にはしないまでも、その表情、態度、言葉の端々から、僕の診察に満足していないことは十二分に伝わってきていました。それを痛いほど感じながらも、自分がどこからどう話を聴けばいいのか、何をどうすればいいのかわからない。そんな情けない自分に嫌気がさして、頭がぼーっとして遠くを見てしまう。でもすぐ現実に戻されます。スタッフが次の患者さんを案内していいのか僕の顔色をうかがっているのです。当然待たせるわけにもいかず、「どうぞ」と言うしかない。そんな毎日が続きました。そうなると朝出勤するときから憂鬱で足取りは重くなります。

「今日もまた不満そうな顔をされるのかな」
「相手を怒らせたらどうしよう」

これまでの嫌な記憶がよみがえって、始まる前から診察が怖くなることさえありました。

自己紹介とこの本について
この本を開いていただいている読者の先生方、はじめまして。大阪で開業している精神科医の宋大光と申します。前述したのはスーパービジョン(以下、SVとします)を受ける前の僕のごく普通の日常です。精神科医や心理士の先生方の中には臨床がうまくなりたいと考えている方が多いと思います。僕もその一人です。そんな僕がSVを通して、東豊先生からシステズアプローチを、黒沢幸子先生から解決志向ブリーフセラピーを学んできました。解決志向ブリーセラピーは、ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー、あるいはソリューション・フォーカスト・アプローチとも呼ばれています。そこで本書ではソリューションと通称して述べます。

この本は東先生から「SVを受ける中での先生の成長を本にしてみないか」という提案をいただいて書き始めました。システムズアプローチやソリューションを解説する本ではありません。決して理解が早いわけでもなく、センスがあるわけでもなく、器用でもない僕がシステムズアプローチとソリューションを全く知らない状態からある程度身に着ける(無論、今も勉強中です)までに悩んだこと、苦しかったこと、気づいたこと、うれしかったことを書いたエッセイです。

できるだけリアルにお伝えしたいと考え、SV中にメモとして書き留めたノート、SVを録音したものをもとに、当時の記憶をたどりながら書きました。ケースについてはできるだけ簡潔にするために、挨拶の場面や同じことの繰り返しになる部分は割愛し、当時の僕の診察の様子がそのまま伝わる部分を中心に書きました。プライバシーに関わる部分は、個人が特定されないように加筆・修正してあります。

システムズアプローチもソリューションも、理解の仕方や実際のやり方は人によってさまざまです。この本にあるシステムズアプローチとソリューションに関する記述は、あくまで東豊先生のシステムズアプローチ、黒沢幸子先生のソリューションを宋大光が解釈したものです。文中に出てくる用語の定義も同様です。また、この本は二〇一五年六月の最初の東先生のSVから二〇二〇年五月の最後の黒沢先生のSVまでの5年間の僕の軌跡を書いています。その間に僕の考えや臨床は変遷しています。時期によって書いていることに開きがあるかもしれません。ご容赦ください。

SVは「できない自分をできる他人に見られる行為」と言えます。でも実際の臨床で患者さんが良くならず、できない自分を患者さんに見られるよりはましだと、医者を続ける中で考えるようになりました。臨床において、患者さんが良くなるかならないかの結果は白昼にさらされます。その傾向は患者さんの状況が切迫していればいるほど強まります。切迫している患者さんは今よりも楽になりたいと必死だからです。当たり前ですが臨床は真剣な場です。逆に言えば、真剣な場で少し臨床が見えてきたとき、少し結果が出たときのうれしさは医者としてこの上ないものです。わからないことも多いですが、時々そんなうれしいことがある臨床の途上に今僕はいます。決して背伸びをせず、今の等身大の自分で書きました。どうぞお付き合いください。

宋 大光 

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