ブリーフセラピー入門──柔軟で効果的なアプローチに向けて

ブリーフセラピー入門
──柔軟で効果的なアプローチに向けて

日本ブリーフサイコセラピー学会 著

2,800円(+税) A5判 並製 228頁 C3011 ISBN978-4-86616-113-6
2020年11月20日ごろ刊行予定

ちゃんと治るセラピーをはじめよう!

本書『ブリーフセラピー入門』は,多様なアプローチからなるブリーフセラピーの基本と各種手法,現場ごとでの利用方法を詳しく解説したものです。医療・心理・福祉・教育など多くの現場で利用されているブリーフセラピーを知る最初の1冊としても,ベテランが新しい臨床を始めるときの手がかりとしても使える本となりました。
無知の姿勢や解決志向,円環的因果論など,現在の対人支援の土台ともなっている考え方の多くは,ブリーフセラピーから生まれてきました。多くの援助者が利用でき,短期間に集結し,高い効果があることを目的にしたブリーフセラピーは,対人支援の当たり前の技術として世界で広まっています。このブリーフセラピーを知る最初の1冊として,この本は最適なものになっています。


主な目次

序文 菊池安希子

第1部 ブリーフセラピーの基本
第1章 ブリーフセラピーとは?
坂本真佐哉
第2章 ブリーフセラピーの歴史──背景としてのエリクソンと社会
吉川 悟

第2部 ブリーフサイコセラピーの各アプローチ
第3章 エリクソニアン・アプローチ
津川秀夫
第4章 システムズアプローチ
田中 究
第5章 解決志向アプローチ
田中ひな子
第6章 ナラティヴ・アプローチ
市橋香代
第7章 オープンダイアローグ
長沼葉月
第8章 認知行動療法
大野裕史
第9章 エリクソン催眠
中島 央
第10章 NLP(神経言語プログラミング)
上地明彦
第11章 条件反射制御法
長谷川直実・平井愼二
第12章 EMDR
市井雅哉
第13章 動作療法
大多和二郎
第14章 TFTとEFT
富田敏也

第3部 臨床現場におけるブリーフサイコセラピーの使い方
第15章 病院におけるブリーフセラピーの使い方
植村太郎
第16章 クリニックにおけるブリーフセラピーの使い方
山田秀世
第17章 教育におけるブリーフセラピーの使い方 172
相模健人
第18章 産業メンタルヘルスにおけるブリーフセラピーの使い方
松浦真澄
第19章 司法におけるブリーフセラピーの使い方
菊池安希子
第20章 福祉(行政サービス)におけるブリーフセラピーの使い方
野坂達志
第21章 子ども家庭福祉領域におけるブリーフセラピーの使い方
衣斐哲臣
第22章 コミュニティ支援におけるブリーフセラピーの使い方──訪問が支援になるために
田崎みどり
第23章 開業臨床におけるブリーフセラピーの使い方
金丸慣美
第24章 研究とブリーフセラピー
伊藤 拓

「まとめ」に代えて
児島達美


編者・執筆者一覧(50音順)

編者 日本ブリーフサイコセラピー学会

同学会出版ワーキングチーム
中島  央(なかしまひさし:有明メンタルクリニック)
遠山 宜哉(とおやまのぶや:岩手県立大学)
津川 秀夫(つがわひでお:吉備国際大学心理学部心理学科)
児島 達美(こじまたつみ:KPCL)
菊池安希子(きくちあきこ:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部)
久持  修(ひさもちおさむ:やまき心理臨床オフィス)
松浦 真澄(まつうらますみ:東京理科大学工学部教養/医療法人社団こころとからだの元氣プラザ産業保健部)

著者一覧(50音順)
市井 雅哉(いちいまさや:兵庫教育大学大学院学校教育研究科発達心理臨床研究センター トラウマ回復支援研究分野)
市橋 香代(いちはしかよ:東京大学医学部附属病院精神神経科)
伊藤  拓(いとうたく:明治学院大学心理学部心理学科)
衣斐 哲臣(いびてつおみ:和歌山大学教職大学院)
上地 明彦(うえちあきひこ:関西外国語大学)
植村 太郎(うえむらたろう:神戸労災病院精神科)
大多和二郎(おおたわじろう:サンテコンサル横浜)
大野 裕史(おおのひろし:兵庫教育大学大学院学校教育研究科)
金丸 慣美(かねまるなるみ:広島ファミリールーム)
菊池安希子(きくちあきこ:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部)
児島 達美(こじまたつみ:KPCL)
相模 健人(さがみたけひと:愛媛大学教育学部)
坂本真佐哉(さかもとまさや:神戸松蔭女子学院大学人間科学部心理学科)
田崎みどり(たさきみどり:長崎純心大学人文学部地域包括支援学科/大学院人間文化研究科)
田中  究(たなかきわむ:関内カウンセリングオフィス)
田中ひな子(たなかひなこ:原宿カウンセリングセンター)
津川 秀夫(つがわひでお:吉備国際大学心理学部心理学科)
富田 敏也(とみたとしや:(株)アクシスリマインド)
中島  央(なかしまひさし:有明メンタルクリニック)
長沼 葉月(ながぬまはづき:東京都立大学人文社会学部人間社会学科)
野坂 達志(のさかたつし:広島県府中市役所人事課)
長谷川直実(はせがわなおみ:医療法人社団ほっとステーション)
松浦 真澄(まつうらますみ:東京理科大学工学部教養/医療法人社団こころとからだの元氣プラザ産業保健部)
山田 秀世(やまだひでよ:大通公園メンタルクリニック)
吉川  悟(よしかわさとる:龍谷大学文学部)


序   文

本書『ブリーフセラピー入門──柔軟で効果的なアプローチに向けて』は,日本ブリーフサイコセラピー学会の創立30周年記念として刊行された。
ブリーフセラピーの初学者にはブリーフセラピーへの入り口を,中堅には今いちど基礎を,そしてベテランには最近の発展を再確認していただくことを意図している。
ん? 日本ブリーフサイコセラピー学会がブリーフセラピーについての本を刊行するということは,もしかして「ブリーフサイコセラピー=ブリーフセラピー」なのか? と思う方もおられるかもしれない。本書を読むと,この2つの言葉を同じ意味として使っている著者もいれば,分けて説明している著者もいる。混乱を招いてもいけないので,この序文の中で少々の説明をしつつ,本書の構成を紹介しよう。
ブリーフサイコセラピーとブリーフセラピー
まず,ブリーフサイコセラピーとブリーフセラピーの2つの用語の臨床心理学領域における来歴や定義については,各章(特に第1章)に説明があるのでご参照願いたい。
一方で,1991年に研究会としてスタートし,1995年より学術団体として活動を始めた日本ブリーフサイコセラピー学会が,あえて日本ブリーフセラピー学会と名乗らなかったのは,創立者(初代会長)故宮田敬一をはじめとする設立者たちの思いを反映してのことであった。「個別の治療的アプローチの枠組みを越えて効率的な援助方法の発展を目指す研究団体」(日本ブリーフサイコセラピー学会,1995)として進化し続けるために,いわゆる狭義の「ブリーフセラピー(「ミルトン・エリクソンの治療に関する考え方や技法から発展したセラピー」(宮田,1994))以外のアプローチをも取り込む余地を名称の中に残したのである。かくして学会は,短期間かつ効率的な援助を探求するアプローチの総称として「ブリーフサイコセラピー」の名称をかかげることになった。
なぜそんなややこしいことをしたのだろうか? 思うに,学会の設立趣旨の根幹にあったのが,「問い直し」の精神だったからではないか。いつかは,エリクソン由来のセラピーの枠組みをも問い直し,その時代の要請に合った他のアプローチをも内包する日が来ることを見通していたからではないかと思う。そうなったときにそのアプローチをブリーフセラピーという名でくくれるのか,わからなかったのかもしれない。
1994年に出版された最初の『ブリーフセラピー入門』(宮田敬一編,金剛出版)に載っていたのは「エリクソン(ゼイク)モデル」「ストラジック(ヘイリー・マダネス)モデル」「NLPモデル」「MRIモデル」「BFTC・ミルウォーキー・アプローチ」「オハンロン・モデル」「ホワイト/エプストンの物語モデル」であった。いずれもミルトン・エリクソンErickson, M. H.との何らかの関わりをその出自に持ち,カリスマとされるセラピストたちが牽引するアプローチであった。
それから四半世紀が過ぎた2020年現在,心理療法の動向は今もなお,短期で効果的なブリーフセラピーを求めていることに変わりはない。しかし,従来手法は進化し,新しい手法も生まれ,日本独自のアプローチも発展した。

本書の構成
本書では今日の日本ブリーフサイコセラピー学会がとらえる広義のブリーフセラピーを紹介する。具体的には,2016年の会員動向調査(菊池ら,2017)の結果も参考にしつつ,①会員が採用している主要アプローチを含み,②会員が考えるブリーフサイコセラピーの特徴(「短期」「効率」「ポジティビティ」)を反映していること,③時代の要請に合った新たな視点や手法を提供してくれること,などを重視して本書の企画委員会で紹介するアプローチを選択した。その結果,1994年当時のテキストで採用されたアプローチの一部は掲載を見送り,一部を追加することになった。
第1章では,臨床心理学領域におけるいわゆる「ブリーフセラピー」の位置づけが説明される。臨床心理学史に関心がある方や,公認心理師や臨床心理士の試験対策のためにこの本を手に取った方には,特に関心をもっていただけるであろう。
第2章では,さまざまなブリーフセラピー(広義)が並ぶ。ミルトン・エリクソンとの関わりを出自に持つアプローチ(「エリクソニアン・アプローチ」「エリクソン催眠」「ソリューション・フォーカスト・アプローチ」「システムズアプローチ」「NLP」),ポストモダン・アプローチの「ナラティヴ・アプローチ」や「オープンダイアローグ」,日本で生まれて独自の発展を続けている「動作法」や「条件反射制御法」,ブリーフで効率的であることをエビデンスとして世に示してきた「認知行動療法」や,ユニークな手法を用いたセラピーとして「EMDR」「TFTとEFT」が概説される。より深く理解したくなった場合には,参考文献にあたってみたり,各アプローチを専門的に扱っている学会や研究会等もあるので,さらなる探求をするのも良いだろう。
第3章では,臨床現場におけるブリーフサイコセラピーの使い方が示される。多様な現場の多様な文脈の中で展開するブリーフセラピーは,時にアプローチの総合格闘技(折衷と呼ぶ人もいる)のような様相を呈している。しかし,第2章を通読した後に読むと,構成要素が浮き上がって見えてくるだろう。

本書の使い方
本書は,それぞれが独自の「ものの見方」をさせてくれるメガネが並ぶ店のようなイメージかもしれない。異なるメガネをかけてみた後にどうするかは,読者諸氏の臨床家としての成長スタイルによるだろう。筆者の独断と偏見に基づき,臨床家によく見られる成長スタイルに適当な名前をつけて,いくつか挙げてみる。もちろん,混合型も無数にある。

・ 「○○療法専心型」:新しく出会う手法,ものの見方は全て,○○療法の枠に合う形で理解され,取り込まれる。「私はコレしかやりません」タイプ。
・ 「主菜副菜固定型」:メイン療法(1つまたは少数)は不動の位置を占めつつも,行き詰まり打破のために,あくまで控えめに他のアプローチを添えるタイプ。
・ 「メイン療法乗り換え型」:その時々のマイブームが定まっており,その時期はそればかりに取り組む。次のマイブームがくれば,過去のアプローチから飛び石を渡るがごとくに乗り換えながら進んでいく。
・ 「カメレオン型」:クライエントを見て,瞬時にアプローチを切り替えるタイプ。アプローチ間を器用にスイッチするタイプもいれば,もはや何のアプローチをやっているのかわからなくなるほどに手法を混ぜあわせて使うタイプまでいる。

どの成長スタイルが良いとは一概に言えない。有用かどうかは,臨床家とクライエントと現場のニーズに合致し,効果的かどうかにかかっている。ただし,クライエントへのサービスであるという観点からすれば,自分のとっているアプローチに対する説明責任は果たせるようでありたいものだ。

ダンゴムシは,進行方向で障害物にぶつかる度に,曲がる方向を右,左,右,左と変えるらしい。「なんのためにそんなことをするの?」と尋ねる私に,中学生くらいの生物オタクくんが考えながら教えてくれた。「同じ方向ばかり向いていると,動ける範囲が狭まって,滅びるからじゃないでしょうか?」 多様性のないところに変化は生まれない。
世界が新型コロナ禍に揺れる現在,対人援助の在り方も変化を余儀なくされている。激動の2020年に上梓される本書が,読者の対人アプローチのスタイルにいくばくかでも多様性をもたらすきっかけとなれば幸いである。

令和2年9月21日
日本ブリーフサイコセラピー学会
第8期(平成30年4月~令和2年3月)会長
菊池安希子

文  献
菊池安希子・北村文昭(2017)ブリーフサイコセラピーの特徴とは?─第4回会員動向調査(2016).ブリーフサイコセラピー研究,25(1-2); 35-42.
宮田敬一編(1994)ブリーフセラピー入門.金剛出版.
日本ブリーフサイコセラピー学会(1995)設立趣意書.https://www.jabp.jp/pr_aboutus(2020年9月21日参照)

 

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