事例で学ぶ 生徒指導・進路指導・教育相談 中学校・高等学校編 [第3版]

事例で学ぶ 生徒指導・進路指導・教育相談 中学校・高等学校編 [第3版]

長谷川啓三・佐藤宏平・花田里欧子 編

2,800円(+税) B5判 並製 216頁 C3011 ISBN978-4-86616-098-6

問題探しから解決志向の学校のために
この本は,学校教員にとって授業や学級経営とともに重要な仕事である「生徒指導」「進路指導」「教育相談」の基本と実践をまとめた一冊です。
いじめ,不登校,発達障害,こころの問題,学級崩壊など,子どもたちの周りにある問題が多様になっている現在,生徒指導・進路指導・教育相談には,教育学だけでなく,心理学的・福祉学的な知識が必要になっています。また子どもたちへの個別支援でもあることから,解決志向をベースにした臨床心理の技法も有用です。
本書は,学際的な知識や現代社会における家庭の状況など幅広い視点をまとめた上で,解決に至ったさまざまな事例を検討し,生きた生徒指導・進路指導・教育相談を学べるようになっています。
出来うる限りの生きた知恵を詰めた必読の一冊です。(本書は中学校・高等学校向けになります。種々の統計データをアップデートした第3版です。)

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主な目次
第1章 生徒指導・進路指導・教育相談とは──意義と役割
長谷川啓三・佐藤宏平・花田里欧子
第2章 生徒理解の基礎
奥野誠一
第3章 思春期・青年期の発達課題
神谷哲司・渡部敦子
第4章 不登校・ひきこもり
佐藤宏平・花田里欧子・若島孔文・横谷謙次・上西 創
第5章 いじめ
若島孔文・兪 幜蘭・狐塚貴博
第6章 思春期・青年期の非行の問題
久保順也・三澤文紀
第7章 思春期・青年期における発達障害の理解と対応
宮崎 昭
第8章 思春期・青年期における精神医学的問題
田上恭子・山中 亮
第9章 学校における緊急支援
若島孔文・森川夏乃
第10章 学校組織と関係機関・家庭との連携
三谷聖也・奥野雅子・生田倫子
第11章 カウンセリングの理論と技法
石井宏祐・石井佳世・松本宏明
第12章 進路指導の理論と方法──思春期,青年期における進路指導
中村 修・高綱睦美・吉中 淳
第13章 学級経営
岩本脩平・香月佳容子

コラム
言葉のチカラ──言葉はもともと魔術だった!?….Words were originally magic. ◆ 佐藤宏平
中高生の自己形成プロセスと進路選択 ◆ 高橋恵子・三道なぎさ
不安定な自己―自己愛パーソナリティ ◆ ⻲倉⼤地
中学生・高校生の社会形成・社会参加支援 ◆ 古澤あや
中学生・高校生の恋愛について ◆ 小林大介
中学生の健康と安心の確保――性教育 ◆ 宮崎 昭
若者の就労等支援のあり方 ◆ 板倉憲政・浅井継悟
困難な状況ごとの取り組み──ニート,ひきこもり ◆ 古澤雄太
SNS上のいじめへの対応 ◆ 小岩広平
外国人中学生・高校生への支援──日本語支援から心のケアまで ◆ 兪 幜蘭・張 新荷
デス・エデュケーション ◆ 三上貴宏
中学生・高校生の被害防止,保護──「自分の身は自分で守る」意識を植えつけるには ◆ 松田喜弘
支援を要する生徒とその家庭への支援がうまく進まない時に振り返るポイント──5つの支援阻害要因 ◆ 河合陽子・花田里欧子
放課後の居場所づくり ◆ 岩本脩平・花田里欧子
多様な主体による取り組みの推進──治療的家庭教師とMCR活動 ◆ 小林 智・赤木麻衣
統合失調症の就学支援と薬物治療 ◆ 伊東 優・花田里欧子
中高生の携帯電話とインターネットに関する問題と対応 ◆ 加藤高弘
ひとり親家庭の現状と支援の手立て ◆ 萩臺美紀
子どもと貧困―現状と支援の実際 ◆ 二本松直人
非行少年の家族支援と就労支援 ◆ 板倉憲政・小林 智
介護者としての子ども―ヤングケアラーとは ◆ 奥山滋樹


編者略歴
長谷川啓三(はせがわ・けいぞう)
東北大学名誉教授,日本家族カウンセリング協会理事長,ITC家族心理研究センター代表,日本ブリーフセラピー協会代表。教育学博士,臨床心理士。
主な著訳書:「ソリューション・バンク」(金子書房,単著),「震災心理社会支援ガイドブック」(金子書房,共編),「解決 志向介護コミュニケーション」(誠信書房,編著),ワツラウィック他「変化の原理」(法政大学出版局,単訳),ド・シェイザー著「解決志向の言語学」(法政大学出版会,監訳)ほか多数。

佐藤宏平(さとう・こうへい)
山形大学地域教育文化学部准教授,日本家族心理学会理事(事務局長),日本カウンセリング学会編集委員。教育学博士,公認心理師,臨床心理士。
主な著訳書:「事例で学ぶ家族療法・短期療法・物語療法」(金子書房,共著),「学校臨床ヒント集」(金剛出版,共著),「社会構成主義のプラグマティズム」(金子書房・共著),日本家族心理学会編「家族心理学ハンドブック」(金子書房,共著),フランクリンら編「解決志向ブリーフセラピーハンドブック」(金剛出版,共訳),ソバーン&セクストン著「家族心理学―理論・研究・実践」(遠見書房・共訳)ほか多数。

花田里欧子(はなだ・りょうこ)
東京女子大学現代教養学部准教授,日本家族心理学会理事,日本ブリーフセラピー協会理事ならびに京都支部長。教育学博士,公認心理師,臨床心理士。
主な著訳書:「パターンの臨床心理学―G.ベイトソンによるコミュニケーション理論の実証的研究」(風間書房,単著),「ナラティヴからコミュニケーションへ」(弘文堂,共著),「学校臨床―子ども・学校をめぐる教育課題への理解と対応」(金子書房,共著),「心理療法の交差点―精神分析・認知行動療法・家族療法・ナラティヴセラピー」(新曜社,共著),日本家族心理学会編「家族心理学ハンドブック」(金子書房,共著),ソバーン&セクストン著「家族心理学―理論・研究・実践」(遠見書房・共訳)ほか多数。


はじめに

本書は大学で「教育相談」を学ぶ際に使用されることを念頭に置いて企画された。それはまず,晴れて「先生」と呼ばれる資格を得られた方々が,現場での,その実践に役立つものにしたいということである。今一つは,教科書として,生徒指導・進路指導・教育相談の基礎的な知識を獲得していただくのに役立つものにしたいということである。
この2つは矛盾するものではないが,往々にして「乖離」した教科書も目にする。
そうはしたくないと決意した私たちは,いわば「実践に役立つ基礎知識」を目指して本書を執筆している。そのために読者への具体的な発問,問いかけと,実際の実践事例を各章全体に配置した。各章の後半にそれを置いてあるので,何よりも,教育相談の実際から学びたいという読者は,この発問から入るのも近道だと思う。
さらに本書の企画意図を満たすために執筆者を共通に貫くものがある。それは「解決志向」と呼ばれるスタンスである。それが「生徒指導・進路指導・教育相談」の対象になる多くの問題にアプローチするのに有効であることを,私たちは1986年以来,我が国で検証してきた。生徒指導・進路指導・教育相談が対象とする問題に「どう向かうのか」。その向かい方如何で,解決は近くもなるし,遠いものにもなってしまう。重要なのは,問題へどう向かうのかというスタンスの問題であり,方法論である。解決志向というあり方は,その「メソドロジー/方法論」の一つと言っていい。
どの学問にも特有の問題と方法がある。私たちは「生徒指導・進路指導・教育相談」という分野に「解決志向」という「方法」が有効なものの大きな一つであることを,これまでの実践の積み重ねから,主張したいのである。
その詳細と具体事例は全章を挙げて検討を加えているが,それは,問題の原因を,事細かに摘出して取り除く──という直線的な発想を大いに補うものである。
対人関係の問題で,その原因を「過去の,より小さな,より単純なもの」に求めようとし,そのこと自体が困難であることが体験される。生徒指導・進路指導・教育相談が対象とする問題の多くが同様である。例えば「いじめ」という問題があって,その原因をいじめっこ側かいじめられっこ側か? と考えて,例えば今度は,いじめっこ側の「性格」のせいに帰して,さらにその性格の生みだされたと推測される生育歴へと,一見,「理解」は進む。が,仮に,いじめっこの生育歴が「正しく」分かったところで,いじめが停止するまでの予想される経緯は,とても実際からは遠くなってしまう。
反対に「解決志向」でアプローチして成功した事例で,教頭がいじめっこと目された子どもを1日,授業を休ませて,話をした。彼の興味,進路,家庭のことなど話せることは,全てである。子どもの良いこと,良いところは大いに評価した。いじめの話は一切しない。これでいじめが止まった。何が効いたのか? それは,いじめの原因を特定する方向では全くない。
また同様に,いじめられたと,担任に訴えて来た女子がいる。「クラスのみんなに無視される」という。ある担任は,まず受容したうえで,クラス名簿を渡し,無視されていない子どもに赤鉛筆で印をつけさせた。それだけで子どもはクラスに戻った。いったい何が良かったのか?
本書は,教育相談における,基礎的な知識に加えて,このような事例の問題因ではなく,成功を促進した,いわば「成功因」の側を,今日的な問題を出来る限り取り上げて検討している。
生徒指導・進路指導・教育相談においては,教育学や心理学,社会学などの幅広い学際的な知識が必要になる。子どもたちや親たち,大人たちの置かれている状況も多様になっており,さまざまな知恵が必要になる。本書にも出来うる限り,生きた知恵を詰めたつもりである。ぜひとも,我々の成果を読み進めていただきたい。

改訂にあたって
今回の改訂にあたっては,第13章として学級経営の章を新たに設けた。学級は子どもたちの大切な舞台であり,子どもたちの問題行動の予防はもとより,子どもたちのよりよい成長のためには,より良い舞台としての学級づくりは欠かせない。この他,種々の統計データの一部を最新のものにアップデートするとともに,適宜内容の追加,修正を行った。

改訂にあたって(第3版)
前回の改訂において「学級経営(第13章)」を設けたのに続き,今回の改訂では,昨今の教育事情に鑑み,「ヤングケアラー(介護者としての子ども)」,「SNS上のいじめ」「ひとり親家庭の現状と支援」等,新たに6つのコラムを追加した。
この他,種々の統計データの一部を最新のものにアップデートするとともに,適宜内容の加筆,修正を行った。

編者を代表して
東北大学名誉教授 長谷川 啓三


著者一覧(50音順) *は編者

赤木麻衣((独)国立病院機構仙台医療センター)
浅井継悟(北海道教育大学釧路校)
生田倫子(神奈川県立保健福祉大学)
石井佳世(熊本県立大学文学部)
石井宏祐(佐賀大学教育学部附属教育実践総合センター)
板倉憲政(岐阜大学教育学部)
伊東 優(栄仁会宇治おうばく病院/栄仁会カウンセリングセンター)
岩本脩平(ファミリーカウンセリングルーム松ヶ崎 ふくらむ)
上西 創(仙台城南高等学校)
奥野誠一(立正大学心理学部)
奥野雅子(岩手大学人文社会科学部)
奥山滋樹(東北大学大学院教育学研究科)
香月佳容子(同志社中学校・高等学校)
加藤高弘(米沢市立病院)
神谷哲司(東北大学大学院教育学研究科)
⻲倉⼤地(東北大学大学院教育学研究科)
河合陽子(滋賀県彦根市立東中学校)
久保順也(宮城教育大学教職大学院)
小岩広平(東北大学大学院教育学研究科)
狐塚貴博(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
小林大介(東北大学大学院教育学研究科)
小林 智(新潟青陵大学福祉心理学部)
佐藤宏平(山形大学地域教育文化学部)*
三道なぎさ(東北女子大学家政学部)
高綱睦美(愛知教育大学)
高橋恵子(みやぎ県南中核病院がん診療相談支援室/尚絅学院大学非常勤講師)
田上恭子(愛知県立大学看護学部)
張 新荷([中国]西南大学心理学部講師)
中村 修(東北福祉大学総合福祉学部)
二本松直人(東北大学大学院教育学研究科)
萩臺美紀(東北大学大学院教育学研究科)
長谷川啓三(東北大学名誉教授)*
花田里欧子(東京女子大学現代教養学部)*
古澤あや(公立学校共済組合東北中央病院)
古澤雄太(山形県福祉相談センター)
松田喜弘(山形県南陽市立宮内小学校)
松本宏明(志學館大学人間関係学部)
三上貴宏(山形県立こころの医療センター)
三澤文紀(福島県立医科大学総合科学教育研究センター)
三谷聖也(東北福祉大学総合福祉学部)
宮﨑 昭(立正大学心理学部)
森川夏乃(愛知教育大学)
山中 亮(名古屋市立大学大学院人間文化研究科)
兪 幜蘭(作新学院大学人間文化学部)
横谷謙次(徳島大学大学院社会産業理工学研究部)
吉中 淳(弘前大学教育学部)
若島孔文(東北大学大学院教育学研究科)
渡部敦子(尚絅学院大学心理・教育学群心理学類)

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